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卒業後
711 星暦556年 黄の月 6日 久しぶりに船探し(23)
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「ちょっと島部分を歩いてみないか?」
屋敷船に乗ったシャルロとアレクを見送った後、神殿へ戻って神殿長がため込んでいた宝物を熱心に調べていたシェイラに声をかける。
どうしても機会がある間にこれらをここで調べたいって言うなら無理に地下室から引き剥すつもりは無いが、ブツそのものは王都に戻ってからも調べられるのだ。(王都に残るつもりがあれば、だが)
どうせだったら神殿周囲を見て回ってもいいのではないだろうか?
二人きりで散策っていうのも良いと思うし。
いくらツァレスが遺物を調べるのに夢中とは言え、ぶつぶつ独り言が多い彼がいるとちょっと二人きりの気分を楽しむのには邪魔だ。
「・・・そうね、それも良いかも」
ボウルに壺が嵌ったような不思議な形の陶器を調べていたシェイラが顔をあげて、数拍ぼ~っとした後に部屋を見回し、ツァレスに目を向けて頷いた。
地下室から上がり、台所の横の裏口から外に出て、ふらふらと歩き始める。
砂しかないし、多少生臭い感じであまりロマンチックな感じではないが、二人きりで歩き回るのは久しぶりだ。
「500年前じゃあ遺跡としてはそれ程古くないって話だったけど、どう?」
それなりに夢中になって楽しんでいるっぽかったが。
「割れても欠けてもいない遺物を直に手に取って調べられるというのは珍しい経験だからね。
楽しいわ。
普段は最初の飾り棚の部屋にあったような破片を組み立てて元がどんな感じか推測する作業が多いから、物凄く時間が掛かるし、最終的に作業が終わっても元の形を正確に復元できたかは確証がないからねぇ」
嬉し気にシェイラが言った。
「とは言え、そういう破片を組み立てて考えていくのも楽しいんだろ?」
楽しくなかったらあんな根気のいる作業を最低な賃金レベルでずっと続ける訳がないだろう。
シェイラだったら他に幾らでも生活する術はあるのだし。
「勿論!
だけど、歴史の教科書で読んだような古い装備品や神具を元の形のまま見て手に取れる経験っていうのも楽しいわね。
美術館にも同じようなものがあるけど、殆ど触らせてもらえないし」
シェイラがわきわきと指を動かしながら答える。
美術館のも忍び込んで触りまくるのは可能だが・・・まあ、シェイラがそう言う事がしたい訳ではないのは提案するまでもなく分かる。
「折角色々残っているんだから、よさげなのを歴史学会で買い取るようツァレス経由でそそのかしたらどうだ?
オークション業者の見積価格と大して違わない金額を提示したら、直に手数料なしで買い取れる可能性も高いぞ?」
オークションに出したらもっと高く売れる可能性もあるが、手数料を取られるのだから手数料なしでオークションの値段で買い取ると言えば歴史学会へ直接売りつけることも数個だったら皆も文句を言わないだろう。
それこそ、売値差額の3割分を現物で貰うのも可能だろうし。
とは言え、現物で貰っちゃったらシェイラや他の学者たちの発掘資金にはならないが。
「そうねぇ。
是非とも歴史学会の展示場に置くべきと主張できるような歴史的意義の大きくてしかもオークションで目玉にならないような地味めな逸品があったら提案しておくわ」
シェイラが地面に落ちていた何かの破片を拾い上げながら言った。
確かに、歴史的意義が大きかったらオークションで値が吊り上がりそうだからセビウス氏がそのまま歴史学会に譲るのを嫌がるかもだが、地味っぽい見た目だったらオークションで値が吊り上がったりしない可能性が高いかもしれない。
まあ、そこら辺はセビウス氏と歴史学会(かシェイラ)の交渉次第だな。
「この島の周りの海底にも色々と落ちていそうだから、歩いて回れたらいいのに」
またもやしゃがみ込んで何かを拾いながらシェイラが嘆いた。
「まあ、歩き回りたいならそっちも可能だが・・・砂に埋まっているから普通に歩く程度じゃあそれ程見つからないんじゃないか?」
この島が沈没した原因の海流は海底と海面の真ん中程度の所を流れるらしいので海底に散らばった破片が果てしなく海底に散らばっている訳ではないと思うが、流石にこのサイズの島が沈んだ時の水の動きで建物から流出したブツはかなり遠方まで流された可能性が高い。
その流された末に沈んだ後に島の上にあったであろう土砂が落ち着き、更に500年間かけてゆっくりと海の中のどこかから出てくる砂が沈殿しているのだ。
この島の表面だって1ハドちょっとの砂が溜まっていたことを考えると、基本的に神殿から流出した物は全部それよりも深い砂や土砂の中に埋まっているだろう。
「そうよねぇ。
砂を退けて貰ったら一緒に破片も流されそうだし。
まあ、折角破損されていない遺物が沢山あるんだもの、あまり贅沢を言っちゃあいけないわね」
シェイラがそう言いながら右の方へ進んだ。
神殿の正面扉の方向に正式な船着き場っぽい場所があったが、こちらにも裏口っぽい船着き場があったのか何やら階段のようなでこぼこがある。
海面にあった時代にへばりついていた甲殻類の残骸の様な物が重なり合っている。
「海の生き物なのに、海底では死んじまうんだな?」
「餌が無いのか、空気が必要なのか、どちらなのかしらね?
浅い海底だったらしき場所が地中に埋まっている遺跡を見たことはあったけど、地上にあった場所が海底に沈んでいるのを見たのはこれが初めてかも」
しげしげと階段と甲殻類の残骸を見つめ、そっと指でつつきながらシェイラが言った。
まあ、海に沈んだ島とか都市とかってあまりないだろうし、あっても調べるのは大変だろうからなぁ。
浅い場所にあったら波に削られてそうだし。
考えてみたら、今まで引き上げた沈没船の船底とかにも甲殻類の残骸とかってついていたのかも?
船の残骸を歴史学会に売りつけても良かったかもなぁ。
・・・昔見つけた沈没船の残骸はどうなったのかな?
屋敷船に乗ったシャルロとアレクを見送った後、神殿へ戻って神殿長がため込んでいた宝物を熱心に調べていたシェイラに声をかける。
どうしても機会がある間にこれらをここで調べたいって言うなら無理に地下室から引き剥すつもりは無いが、ブツそのものは王都に戻ってからも調べられるのだ。(王都に残るつもりがあれば、だが)
どうせだったら神殿周囲を見て回ってもいいのではないだろうか?
二人きりで散策っていうのも良いと思うし。
いくらツァレスが遺物を調べるのに夢中とは言え、ぶつぶつ独り言が多い彼がいるとちょっと二人きりの気分を楽しむのには邪魔だ。
「・・・そうね、それも良いかも」
ボウルに壺が嵌ったような不思議な形の陶器を調べていたシェイラが顔をあげて、数拍ぼ~っとした後に部屋を見回し、ツァレスに目を向けて頷いた。
地下室から上がり、台所の横の裏口から外に出て、ふらふらと歩き始める。
砂しかないし、多少生臭い感じであまりロマンチックな感じではないが、二人きりで歩き回るのは久しぶりだ。
「500年前じゃあ遺跡としてはそれ程古くないって話だったけど、どう?」
それなりに夢中になって楽しんでいるっぽかったが。
「割れても欠けてもいない遺物を直に手に取って調べられるというのは珍しい経験だからね。
楽しいわ。
普段は最初の飾り棚の部屋にあったような破片を組み立てて元がどんな感じか推測する作業が多いから、物凄く時間が掛かるし、最終的に作業が終わっても元の形を正確に復元できたかは確証がないからねぇ」
嬉し気にシェイラが言った。
「とは言え、そういう破片を組み立てて考えていくのも楽しいんだろ?」
楽しくなかったらあんな根気のいる作業を最低な賃金レベルでずっと続ける訳がないだろう。
シェイラだったら他に幾らでも生活する術はあるのだし。
「勿論!
だけど、歴史の教科書で読んだような古い装備品や神具を元の形のまま見て手に取れる経験っていうのも楽しいわね。
美術館にも同じようなものがあるけど、殆ど触らせてもらえないし」
シェイラがわきわきと指を動かしながら答える。
美術館のも忍び込んで触りまくるのは可能だが・・・まあ、シェイラがそう言う事がしたい訳ではないのは提案するまでもなく分かる。
「折角色々残っているんだから、よさげなのを歴史学会で買い取るようツァレス経由でそそのかしたらどうだ?
オークション業者の見積価格と大して違わない金額を提示したら、直に手数料なしで買い取れる可能性も高いぞ?」
オークションに出したらもっと高く売れる可能性もあるが、手数料を取られるのだから手数料なしでオークションの値段で買い取ると言えば歴史学会へ直接売りつけることも数個だったら皆も文句を言わないだろう。
それこそ、売値差額の3割分を現物で貰うのも可能だろうし。
とは言え、現物で貰っちゃったらシェイラや他の学者たちの発掘資金にはならないが。
「そうねぇ。
是非とも歴史学会の展示場に置くべきと主張できるような歴史的意義の大きくてしかもオークションで目玉にならないような地味めな逸品があったら提案しておくわ」
シェイラが地面に落ちていた何かの破片を拾い上げながら言った。
確かに、歴史的意義が大きかったらオークションで値が吊り上がりそうだからセビウス氏がそのまま歴史学会に譲るのを嫌がるかもだが、地味っぽい見た目だったらオークションで値が吊り上がったりしない可能性が高いかもしれない。
まあ、そこら辺はセビウス氏と歴史学会(かシェイラ)の交渉次第だな。
「この島の周りの海底にも色々と落ちていそうだから、歩いて回れたらいいのに」
またもやしゃがみ込んで何かを拾いながらシェイラが嘆いた。
「まあ、歩き回りたいならそっちも可能だが・・・砂に埋まっているから普通に歩く程度じゃあそれ程見つからないんじゃないか?」
この島が沈没した原因の海流は海底と海面の真ん中程度の所を流れるらしいので海底に散らばった破片が果てしなく海底に散らばっている訳ではないと思うが、流石にこのサイズの島が沈んだ時の水の動きで建物から流出したブツはかなり遠方まで流された可能性が高い。
その流された末に沈んだ後に島の上にあったであろう土砂が落ち着き、更に500年間かけてゆっくりと海の中のどこかから出てくる砂が沈殿しているのだ。
この島の表面だって1ハドちょっとの砂が溜まっていたことを考えると、基本的に神殿から流出した物は全部それよりも深い砂や土砂の中に埋まっているだろう。
「そうよねぇ。
砂を退けて貰ったら一緒に破片も流されそうだし。
まあ、折角破損されていない遺物が沢山あるんだもの、あまり贅沢を言っちゃあいけないわね」
シェイラがそう言いながら右の方へ進んだ。
神殿の正面扉の方向に正式な船着き場っぽい場所があったが、こちらにも裏口っぽい船着き場があったのか何やら階段のようなでこぼこがある。
海面にあった時代にへばりついていた甲殻類の残骸の様な物が重なり合っている。
「海の生き物なのに、海底では死んじまうんだな?」
「餌が無いのか、空気が必要なのか、どちらなのかしらね?
浅い海底だったらしき場所が地中に埋まっている遺跡を見たことはあったけど、地上にあった場所が海底に沈んでいるのを見たのはこれが初めてかも」
しげしげと階段と甲殻類の残骸を見つめ、そっと指でつつきながらシェイラが言った。
まあ、海に沈んだ島とか都市とかってあまりないだろうし、あっても調べるのは大変だろうからなぁ。
浅い場所にあったら波に削られてそうだし。
考えてみたら、今まで引き上げた沈没船の船底とかにも甲殻類の残骸とかってついていたのかも?
船の残骸を歴史学会に売りつけても良かったかもなぁ。
・・・昔見つけた沈没船の残骸はどうなったのかな?
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