シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
上 下
706 / 1,038
卒業後

705 星暦556年 緑の月 30日 久しぶりに船探し(17)

しおりを挟む
「ほう、これはファセール神殿の神具に近い様式だな!」
神殿の奥にあった宝物庫(多分)に案内された途端、ツァレスはささっと手に現れた刷毛で砂をどけながら最初に目についた金属を調べ始めた。

遺跡では人の手で触れることで塩分や脂分が付いたら劣化が進むので薄い皮手袋や絹手袋を嵌めて触るという話を以前聞いたが、ここでもちゃんと絹(多分)手袋をしている。

海にずっと沈んでいたんだから今さら塩分はどうでも良い気はするが、脂分がダメなのかな?
初日に見て回った際に幾つか手に取って触った気がするが・・・まあ、第一発見者の権利として許して貰おう。

「こちらはちょっとフォレスタ文明の文様にも近い感じがしますね。
多少は影響を受けていたのでしょうか?
時期的には大分と違うと思いますが」
別の棚にあった壺っぽいのを砂から掘り出したシェイラも何やら学者っぽい事を熱心に言っている。

お互い夢中になっているけど、相手が言っていることに耳を傾けているんかね?
幸い、地下室の扉はそれなりに頑丈だった上にちゃんと海に飲まれる前に鍵を閉めていたのか、浸水の勢いはゆっくりだったらしく中の物はあまり破損していない。

とは言え、ネコババされまくった後なせいか、棚の数に比べてかなり物は少ない気がするが。
まあ、もしかしたら木製の物が多かったのかも知れない。

いや、神殿長の地下室はもっと色々と金属製の物があったな。
やはり神殿長に盗まれまくった上に最後の嵐の前に神殿長か神官が重要な神具は持ち出したんじゃないかなぁ。

「ちなみに、奥にある神殿長の館っぽいとこの隠れ地下室にはもっと色々とあるぞ。
どうも神殿長が金を横領して貴金属製の物を買いまくっていたか、神具をネコババしていたっぽい」
色々盗まれている(多分)とは言え、神殿の宝物を一つ一つ丁寧に分類しながら取り出していたらそれだけで数日かかるだろう。

効率的に見て回る為にも、先にこの島の全貌を見せてからこれからの予定を話し合った方が無難だ。

・・・数日でツァレス達をここから引き剝がせるのか、かなり心配だが。

「ふむ。
まずはどのくらいの遺物があるのか、確認するべきだな。
見せて貰えるか?」
意外と理性的にツァレスが応じて立ち上がった。

シェイラの方が未練がましく壺の周りの砂をどけている。

まあ、シェイラだけだったらデート代わりに休みにここまで連れて来ても良いけど、売れる物は先に持ち出して売っちまう可能性が高いからなぁ。
柱とか壁だけ調べるのでも、楽しいかな?

神殿長の屋敷に連れて行き、まずは粉々になった何かがあったリビングとか食堂っぽい所を見せる。

「こちらの破片は流石に売れないと思うから、ここに残していくつもりだが・・・もしも回収して調べたいというのだったら協力する」
アレクがさらっと説明した。
まあ、こんだけ粉々だったら適当に清早や蒼流に箱に突っ込んで船に積んでくれって頼んでも大丈夫だろうから、回収して持ち出すのは大して手間じゃあないしな。

「うう~ん。
これだけの破片を組み立てるとしたらどれだけ時間が掛かる事か・・・。
凄く魅力的だが、予算が厳しいかなぁ」
ツァレスが床一面に散らばる砂に半ば埋まった破片を見ながらため息をついた。

「学生用の実習素材として回収しては?
いい練習になるでしょうし、本当の遺物に触れられるというのは学生にとってもいい刺激になりそう」
シェイラが提案した。

なるほど。
発掘現場で色々な破片をどうやって研究するかの実習に良いかもな。
実際に遺跡から出てきた物で、しかもただで入手できるんだし。

「それは良いね!!!
何か面白い研究結果がいつの日か発表されるかもしれない!!!
年始の休みの時なんかに僕もちょっと研究しに行こうかな」
ツァレスが嬉し気に同意した。

なんか、学生じゃなくって学者の方が年始とかの休みの時に集まって破片を組み立てる遊びを家族そっちのけでやりそうな気がする。

知らんぞ~。
せめて年に一度ぐらいはちゃんと家に帰って家族サービスをした方が良いんじゃないかと思うけどね。

学生の実習素材の使い道に関して楽し気に話し合うツァレスとシェイラを連れて、今度は書斎の方へ行く。

「多分元書斎だった場所だが・・・書類や書籍関係は全滅だな。
ここの金庫にちょっと真珠がバラで入っていたが・・・」
と言って板を外す。

「あれ?」
前回は一応まともに見えた真珠だが、今回は罅が入ってボロボロになっていた。

「前回見た時は普通に粒真珠だったよな??」
振り返ってアレクとシャルロに尋ねる。
折角シェイラに見せようと思ってそのままにしてあったのに。

「あ~。
真珠って元々何百年ももつような物じゃないからねぇ。
海水に浸かっていたお蔭でなんとか形を保っていたのかも?」
シャルロが覗き込んでボロボロになった真珠の残骸を見て言った。

おやま。
海水から出したのがダメだったのか?

「もう寿命だったんだろう。
海水に浸けたままだとしても動かしたら水の流れで外側が剥がれ落ちた可能性が高いし、どうしようもないだろう」
そっと指先で真珠だった物をつついてそれが崩れるのを確認したアレクもシャルロに同意した。

「ふうん。
ってことは、地下室にある宝物系も真珠を使っているのは全滅か」
そこまで良くは見ていなかったが、海神さまの神具なのだ。
確実に海の宝石である真珠を使っているだろう。

「構わないよ!!
金属の細工だけでも十分に研究価値があるからね!!!」
ツァレスが元気いっぱいに答えた。

嵌っていた真珠が駄目になっていても、金だったら換金価値は十分あるから研究用に提供するのは極一部になる予定だぞ?


【後書き】
学者は強しw

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。

夢草 蝶
恋愛
 侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。  そのため、当然婚約者もいない。  なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。  差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。  すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?

底辺動画主、配信を切り忘れてスライムを育成していたらバズった

椎名 富比路
ファンタジー
ダンジョンが世界じゅうに存在する世界。ダンジョン配信業が世間でさかんに行われている。 底辺冒険者であり配信者のツヨシは、あるとき弱っていたスライムを持ち帰る。 ワラビと名付けられたスライムは、元気に成長した。 だがツヨシは、うっかり配信を切り忘れて眠りについてしまう。 翌朝目覚めると、めっちゃバズっていた。

【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語

ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ…… リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。 ⭐︎2023.4.24完結⭐︎ ※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。  →2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

処理中です...