シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

688 星暦556年 緑の月 11日 人(+盗品)探し(12)

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>>>サイド ウォルダ・ダルヌ・シベアウス・アファル (王太子)

ウォレン・ガスラートに渡された紙を見て思わずため息が零れた。
「こんなにあったとはな」

先日、王宮の通信室が襲撃され、暗号用魔術回路が盗まれた。
通信室への複数人数の襲撃が可能だったこと自体、内通者の存在を示唆しており、しかも暗号用魔術回路を持ち去ることを優先して数名が命を張って兵の足を止めている間に襲撃者の一人が魔術回路と共に姿を消した為、王宮を閉鎖して徹底的な探索をする羽目になった。

姿を消した襲撃者は初日に捕縛できたものの誓約魔術等のせいで中々情報が抜き取れず、暗号用魔術回路も持っていなかったせいで5日間ほど王宮全てから人を締め出して探索させる羽目になり、王宮での業務が大幅に遅延した。

今となってはこの遅延が目的だったのではないかと影響を調べているところだが・・・更に追加で情報部の長老的存在で相談役として残って貰っているガスラート卿から気になる話も出てきた。

王族や、王宮の警備担当が把握していない隠し通路があるのではないかというのだ。

何故そんな話が出たかというと、南棟には地下に王宮外部へ繋がる隠し通路(これのことは私は知っていた)があり、そこの1階に申請関係の部署があることが問題だと言うのだ。
1階で書類の提出受付と承認を待っている顔をして彷徨けば、それなりに心眼《サイト》とやらのスキルに優れている魔術師だったら地下の通路の場所を把握できるらしい。
つまり、王族が隠し通路の存在を忘れたか、もしくは忘れていなかったにしてもすぐ傍に一般市民が好きに長時間滞在できる部署を設置することを承認したのは失敗だったという事だ。

なるほど。
各部署の配置なぞ、報告に上がってくるがざっとしか目を通していない。
流石に王宮中心部へ入れる隠し通路の入り口がある部屋には一応注意を払っていたが、通路そのもののそばにどんな部署が配置されているかまでは注意を払って居なかった。

歴史の中で失われた隠し通路の存在について、王族に聞いても失われているのだから分かりようがない。
今回は魔術回路の捜索を依頼した魔術師についでに隠し部屋と隠し通路の情報を集計してもらい、私の方に確認に提出することになったのだが・・・。

思っていたよりも隠し通路が多い。
元々、隠し通路というのは秘された存在である。
下手に一覧表などを作って盗まれたら目も当てられないのでどこに何があるかを意識していなかった。

襲撃の後始末や対応策の手配で忙殺されている国王《父》に代わって私が情報の確認と危険性について評価・対処することになったのだが・・・。

実際に一覧表にして見ると呆れる程多くあり・・・いくつか私も知らない物があったのだ。

今回の確認の為に父から国王が王位を継承する際に知らされる隠し通路の存在まで特別に教わったのだが、それも一覧表に入っており、またそれを合わせても我々が知らない通路や部屋がこれだけあるというのは想定外だった。

「危険すぎるな。
幾つかは潰すし、外からの人の出入りが多い部署の位置を見直す必要もあるが・・・この情報を集めた魔術師からの情報漏洩の心配はないのか?」
ガスラート卿に確認する。

王族の住む離宮など、隠し通路だらけなのだ。
この情報があれば、王族を短時間で一掃することも可能だろう。

「権力には全く関係のない下町出身で人質に取られる様な家族もいない魔術師ですから、下手に高貴な血筋の魔術師よりも権力争いに関与する可能性が低く、大丈夫だと思われます。
精霊の加護持ちですから本人の性根は言動に反して意外に清廉でしょうし。
甥のシャルロと一緒に魔具開発事業をしているのですが、2年前の新規航路開拓にも関わったので収入もそれなりにあります」
ガスラート卿があっさり答えた。

ガスラート卿の甥と言えば、私の婚礼の前に王都を丸洗いして頂いた高位精霊から加護を与えられたオレファーニ侯爵家の三男か。

確かに下町出身ならば王子妃や王子を暗殺して王位継承に関与しようとすることも無いか。
しかもオレファーニ侯爵家とそれなりに繋がりがあるならば貴族による権力でのごり押しにも大ごとになる前に対応できる可能性が高い。

「信頼できる人間なのだな?」

「でなければ今回の探索を依頼いたしませぬ」
あっさりガスラート卿が頷いた。

それもそうか。
となったら。

魔術師の方は良いとして、まずはどの隠し通路を潰させるかだな。
王宮の作業を頼むいつもの業者に頼むのも危険かも知れぬ。
誰に頼むか・・・。


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