シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
上 下
674 / 1,038
卒業後

673 星暦556年 萌黄の月 18日 空滑機改(18)

しおりを挟む
「ちょっと・・・禍々しい感じがしないか?」
漆黒の防風結界を前に、思わず感想が漏れた。

アレクがざっと調べたところ本当に軽い布はかなり高額だったため、結界を不可視にする魔術回路を探して組み込んでみたのだが・・・。

一番簡単なのは光を完全に吸収する黒一色の魔術回路だった。
工房で1メタメートル程度の初期の試作品に使った枠を再利用して黒い防風結界を展開した時はそれ程でもなかったのだが、20メタメートルの巨大結界が真っ黒だと圧迫感があって『禍々しい』という印象になってしまった。

「光を吸収させて黒くしているから、ただの黒塗りな壁や布と違って本当になんか禍々しい感じがするねぇ」
シャルロも顔をしかめながら合意する。

「かといって光を反射させるようにすると眩しいからあれも問題だ」
アレクがため息を吐いた。

光を吸収することで黒になるなら光を全部反射させれば白になるのでは?と試してみたら実質鏡のようになり、外で日が出ている時間帯に展開すると角度によってはかなり眩しくなったのだ。

「しょうがない。
模様を写して見せる魔術回路を使うか。
カーテンでも広げて写したらどうかな?」
壁の一部に隙間があって入れる場所があるのを隠すために結界で壁を模す魔術回路もあったのだが・・・これは残念ながらまだ特許が生きているので特許料を払う必要がある。

勿体ないので既に特許が切れた黒いのを試したのだが・・・流石にあの禍々しさは駄目だろう。

「どうせだったらこないだの熱気球みたいに明るい色にしたらどうかな?」
シャルロが楽しそうに提案した。

「お前の家に明るい色のカーテンがあるならそれでいいけど?
明日にでも持って来てくれよ」

ウチのカーテンはアレクが入手してくれたかなり地味なベージュで統一されている。

シャルロの家だったらそれなりに華やかな可能性は高い。
貴族の家のカーテンって重厚そうなダークレッドとかが多かった気がするが、まだ若いんだしケレナが基本的に家の装飾に関しては主導権を握ったらしいから、女性らしい明るい色のカーテンだってあるだろう。
多分。

「・・・ピンクなんだよねぇ。
ベージュで良いや」
シャルロが微妙な顔をして先ほどの提案を撤回した。
明るい色は好きでも、ピンクは流石にちょっと嫌だったらしい。

「1日程度生地を借りるだけだったら実家の倉庫から持ち出しても問題ないだろう。
何色が良いんだ?」
アレクが軽く笑いながら口を挟んだ。
そうか、シェフィート商会の倉庫の在庫を借りるという手もあったか。
カーテンなんぞ店に置いているのは見たことは無かったが、考えてみたらカーテンは受注制だ。
色のサンプルしか店には出しておく必要がないのだろう。

「取り敢えず赤、黄色、緑、水色を借りられるかな?
ベージュも併せて実験してみて、どれが一番無難か確認してみよう」
シャルロが気を取り直してアレクに頼み込んだ。

色なんてどうでも良いと思うんだけど、まあ何色でも結界に要する魔力は変わらないのだ。
良い印象を与える色の方がお得だろう。
多分。

「離陸するまでに4ミル5分程度はかかるじゃん?
それなりに注目を集めるだろうし、『買い物はシェフィート商会で!』とでも文字を写しこむか?」
笑いながら提案する。

既存の模様を写し込む結界だったら文字も写し込める。
まあ、文字を書いてしまったら生地が再利用できなくなるかもしれないが・・・広告文字を書いた白地の帯でも上に乗せて写せば良いだろう。

「流石に露骨な広告文句では品が無い。
それよりも、『近日中に西門のグライド・レジャーより貸出予定』とでも書いておいたら客寄せになるかも知れないな」
アレクが軽く笑った後に修正案を挙げた。

グライド・レジャーは俺たちが起業した空滑機《グライダー》の貸し出し事業だ。
運営は人任せにして今ではそれ程関与していないが、少なくともあっちに連絡をすれば俺たちに話が来るから空滑機《グライダー》改を買いたい人がいたら連絡も出来て丁度いいかも知れない。

商業ギルドに売るようになったら『ビジネスは商業ギルドへ!』なんて文言にしてくれって言われそうな気もしないでもないが・・・そうなったら広告料を取るようにしよう。

・・・つうか、ウチで飛ばすのは『西門のグライド・レジャーより貸出』ってしといて、商業ギルドで売る方を好きな文言にすりゃあいいか。

離陸中だけと言えども、あんまり露骨に売り込む文言は遠慮したいところだし、色々要望を聞くのも面倒だ。

「こう言う広告を魔術で宙に浮かせる手法って特許を取れたりしないのかな?
このままだったら結界に模様を写し込む魔術回路の方に全部金がいく気がする」
『魔術回路』じゃなくって『手法』の特許ってあるんだっけ?


【後書き】
アドバルーンの始まり?
そのうちあまり露骨で王都の品性に関わるのは駄目って規制が入ったりw
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です

岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」  私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。  しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。  しかも私を年増呼ばわり。  はあ?  あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!  などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。  その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

処理中です...