654 / 1,038
卒業後
653 星暦556年 青の月 13日 渡河用魔具(7)
しおりを挟む
またもやウォレン爺の視点です。
【本文】
>>>サイド ウォレン・ガズラート
「今日は嵐って蒼流に聞いたから、ちょっと波を高くしても良いだろうという事で最終確認をしようと思って。軍部で使うなら一応見たいかも?ということでついでに誘ったんだ~」
大雨の中、傘をさしてないのに全く濡れずに元気なシャルロが歩きながら振り返って声をかけてきた。
水たまりも踏んでいるのにズボンだけでなく靴にも全く水滴も泥も付いていない。
流石上級水精霊の加護持ちじゃ。
羨ましい限りじゃの。
まあ、良く見たら一緒に歩いているウィルも全く濡れていないので、水精霊の協力があればいいのかもという気がしないでもないが・・・。
ウィルは目立ちたくないのか傘を手に持ってさしているが、良く見たら傘から水が垂れていない。
あれはあれで気になるぞい。
今日は、以前話題にのぼった渡河用魔具が出来上がったので試運転の様子を見ないかいう事で呼ばれた。
流石に儂一人で軍部の購入決断なぞ出来ないので、購入部門の主任も連れて来ている。
どうせ購入が決まったとしても少数をまず買って試してから契約に関する話が動くので、一人連れてくれば良いだろうと思っていたのだが何故か3人も付いてきた。
ついでにシェフィート家の人間も来ている。
ただの渡河だけだったらいつでもできるが、増水気味の川を渡れるかの実験もする為らしい。
増水時に橋が流された時でも食糧や医療品、怪我人などを運べるとなったらかなり利用価値が高い。
ただし、本当に危険な時に使う用のはかなり高額になるとシャルロは言っていたが。
「じゃあ、まず普通の渡河用魔具で渡りま~す」
ご機嫌なシャルロが声をかけて、荷馬車から何やら板っぽい魔具を取り出して3人で広げ、その上に荷馬車を載せた。
「戻ってきてもう一度載せれば馬も運べるけど、それは別に見せなくても良いだろうという事で今回は荷馬車だけ載せて渡って帰ってくるから」
シャルロがそう説明して、魔具の正面の方に回って起動させた。
ヴン。
低い音と共に魔具の台が1.5ハド程度浮き上がった。
ほう。
一応小麦と飼料の袋をそれなりに積み込んだ荷馬車が宙に浮くか。
魔具とはやはり凄い。
まあ、その運用費用もそれなりに凄い事になると聞いているが。
浮き上がった魔具が前に進み、川岸の堤防を乗り越えて川辺に辿り着く。
ほう。
勾配を上がり下りする際に機体を水平に保つ機能もあるのか。
山や谷越えに使える荷馬車モドキな魔具の需要と許容できる運用費用がどの位?とシャルロが聞いていたのはこの機能に関してなのか。
兵站部門の人間に投げたが、そいつも連れてくるべきだったかもしれない。
まあ、増水しつつある川で実験する必要は無いのだ。
いつでも試作機を見せられるだろう。
そんなことを考えている間に、魔具とシャルロが川にさしかかり、そのまま渡河し始めた。
「ほう。
全く地上と動きは変わらないのじゃな」
横に来たアレク・シェフィートに声をかける。
「そうですね。
この程度の波でしたら反応しないので、特に問題は無いと思います。
ただ、土石流や山津波が起きる場合は上流から障害物が水面から突き出した状態で流されてくる可能性があるので、この魔具で渡河することは勧めません。
まあ、それに関しては後で実際にどうなるかお見せします」
アレクが落ち着いて答える。
そうこうしている間はシャルロは向こう岸に着き、対岸の川辺でぐるっと反転して戻って来た。
「これから増水した川に時折ある山津波が起きた状態を再現して見せます。
あれに乗っているシャルロは水精霊の加護持ちなので水に飲まれても安全ですので何を見ても心配しないで下さい」
アレクが見物している人間に声をかける。
ふむ?
一体何をするのかと思って見ていたら、突然川の水位が2メタ《メートル》ほど盛り上がり・・・魔具が荷馬車とシャルロごと横転して河水に飲まれた。
「え?!」
「シャルロ君?!」
「まさか!!」
川岸の目撃者から悲痛な叫びがあがる。
が、次の瞬間にはポコン!と気の抜ける音と共にシャルロと荷馬車ごと魔具が水面に現れた。
「今のは搭乗者が水精霊の加護持ちだから起きた現象です。
標準型ですと転覆してそのまま浮き上がって来ないと思われるので、そこはしっかり理解して増水時の渡河に利用するなら自己責任でお願いします」
さらりとアレクが説明する。
皆、心配しなくて良いと言われたのに、鍛錬が足りんの。
まあ儂も一瞬心臓が止まるかと思ったが。
視覚的要素も含めて中々効果的な説明だ。
【後書き】
老人相手にやるべきじゃないプレゼンだったかもw
【本文】
>>>サイド ウォレン・ガズラート
「今日は嵐って蒼流に聞いたから、ちょっと波を高くしても良いだろうという事で最終確認をしようと思って。軍部で使うなら一応見たいかも?ということでついでに誘ったんだ~」
大雨の中、傘をさしてないのに全く濡れずに元気なシャルロが歩きながら振り返って声をかけてきた。
水たまりも踏んでいるのにズボンだけでなく靴にも全く水滴も泥も付いていない。
流石上級水精霊の加護持ちじゃ。
羨ましい限りじゃの。
まあ、良く見たら一緒に歩いているウィルも全く濡れていないので、水精霊の協力があればいいのかもという気がしないでもないが・・・。
ウィルは目立ちたくないのか傘を手に持ってさしているが、良く見たら傘から水が垂れていない。
あれはあれで気になるぞい。
今日は、以前話題にのぼった渡河用魔具が出来上がったので試運転の様子を見ないかいう事で呼ばれた。
流石に儂一人で軍部の購入決断なぞ出来ないので、購入部門の主任も連れて来ている。
どうせ購入が決まったとしても少数をまず買って試してから契約に関する話が動くので、一人連れてくれば良いだろうと思っていたのだが何故か3人も付いてきた。
ついでにシェフィート家の人間も来ている。
ただの渡河だけだったらいつでもできるが、増水気味の川を渡れるかの実験もする為らしい。
増水時に橋が流された時でも食糧や医療品、怪我人などを運べるとなったらかなり利用価値が高い。
ただし、本当に危険な時に使う用のはかなり高額になるとシャルロは言っていたが。
「じゃあ、まず普通の渡河用魔具で渡りま~す」
ご機嫌なシャルロが声をかけて、荷馬車から何やら板っぽい魔具を取り出して3人で広げ、その上に荷馬車を載せた。
「戻ってきてもう一度載せれば馬も運べるけど、それは別に見せなくても良いだろうという事で今回は荷馬車だけ載せて渡って帰ってくるから」
シャルロがそう説明して、魔具の正面の方に回って起動させた。
ヴン。
低い音と共に魔具の台が1.5ハド程度浮き上がった。
ほう。
一応小麦と飼料の袋をそれなりに積み込んだ荷馬車が宙に浮くか。
魔具とはやはり凄い。
まあ、その運用費用もそれなりに凄い事になると聞いているが。
浮き上がった魔具が前に進み、川岸の堤防を乗り越えて川辺に辿り着く。
ほう。
勾配を上がり下りする際に機体を水平に保つ機能もあるのか。
山や谷越えに使える荷馬車モドキな魔具の需要と許容できる運用費用がどの位?とシャルロが聞いていたのはこの機能に関してなのか。
兵站部門の人間に投げたが、そいつも連れてくるべきだったかもしれない。
まあ、増水しつつある川で実験する必要は無いのだ。
いつでも試作機を見せられるだろう。
そんなことを考えている間に、魔具とシャルロが川にさしかかり、そのまま渡河し始めた。
「ほう。
全く地上と動きは変わらないのじゃな」
横に来たアレク・シェフィートに声をかける。
「そうですね。
この程度の波でしたら反応しないので、特に問題は無いと思います。
ただ、土石流や山津波が起きる場合は上流から障害物が水面から突き出した状態で流されてくる可能性があるので、この魔具で渡河することは勧めません。
まあ、それに関しては後で実際にどうなるかお見せします」
アレクが落ち着いて答える。
そうこうしている間はシャルロは向こう岸に着き、対岸の川辺でぐるっと反転して戻って来た。
「これから増水した川に時折ある山津波が起きた状態を再現して見せます。
あれに乗っているシャルロは水精霊の加護持ちなので水に飲まれても安全ですので何を見ても心配しないで下さい」
アレクが見物している人間に声をかける。
ふむ?
一体何をするのかと思って見ていたら、突然川の水位が2メタ《メートル》ほど盛り上がり・・・魔具が荷馬車とシャルロごと横転して河水に飲まれた。
「え?!」
「シャルロ君?!」
「まさか!!」
川岸の目撃者から悲痛な叫びがあがる。
が、次の瞬間にはポコン!と気の抜ける音と共にシャルロと荷馬車ごと魔具が水面に現れた。
「今のは搭乗者が水精霊の加護持ちだから起きた現象です。
標準型ですと転覆してそのまま浮き上がって来ないと思われるので、そこはしっかり理解して増水時の渡河に利用するなら自己責任でお願いします」
さらりとアレクが説明する。
皆、心配しなくて良いと言われたのに、鍛錬が足りんの。
まあ儂も一瞬心臓が止まるかと思ったが。
視覚的要素も含めて中々効果的な説明だ。
【後書き】
老人相手にやるべきじゃないプレゼンだったかもw
0
お気に入りに追加
503
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です
岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」
私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。
しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。
しかも私を年増呼ばわり。
はあ?
あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!
などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。
その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加
幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話
島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。
俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる