653 / 1,061
卒業後
652 星暦556年 紺の月 28日 渡河用魔具(6)
しおりを挟む
「じゃあ、改めて山津波で実験だ!」
先日渡河の実験をした川岸で、シャルロが張り切って声を上げた。
とは言え今回は勢いのある山津波に対しての実験をするので、シャルロも試作機には乗らない。
清早が動かしてくれると手を上げてくれたので今回はそれに甘えることにした。
例え試作機が大破して破片がぶつかろうと、精霊である清早に害は及ばないからね。
自動で動くための仕組みを作るよりずっと手軽なので清早の提案を受け入れることにしたのだ。
という事で。
左手が川上。
川岸からのんびりと清早が試作機を進めていたら、突然川の水面が持ち上がり、試作機が右に傾いた。
「お!」
右に傾いた瞬間に川下側の結界の出力が上がり、本体の傾きが元に戻るかに見えたが・・・。
「げ!!」
膨らんだ山津波の水面は左手から右手へと川を下り、ちょうど立て直し始めた試作機の右側を勢いよく持ち上げ・・・機体が綺麗に一回転して水しぶきと共に水面に着水した。
「ひゃっほ~~~~!!
楽しいぜ、これ!!」
清早がご機嫌に叫ぶ。
「楽しいかも知れないが・・・これはちょっと想定外だし荷馬車を運ぶ装置としては失格だな」
アレクがため息をついた。
「なんかこう、却って水面の変化に対応しようとしたことで動きが倍増した感じ?
水面の動きによる傾きを補正しようとしない方が良いかも」
シャルロも呟く。
まあなぁ。
転覆されるのと、一回転されるのと、どちらかまだマシか・・・微妙なところだ。
考えてみたらどっちもダメだけど。
「ある程度以上傾いたら非常事態という事で浮遊《レヴィア》の術で上昇して、下に関係なく水平になるよう魔術回路を使ってバランスを取らせる方が良いかもだな」
浮遊《レヴィア》の術は魔術回路にするとかなり魔力を喰うので効率性から言うとイマイチなのだが、下の勾配がどうなっていようが関係なく宙に浮くので、山津波とかで突然川面の勾配が変動した状況に対応するのには向いているだろう。
起動その物もそれなりに早いし。
しかも術の対象を水平に持ち上げるので真ん中に大きく魔術回路を設置すればバランスを取ることも考えなくて済む。
「山津波や土石流が流れ続ける時間ってどの位なのかな?
浮遊《レヴィア》ですっと上がって、すぐに降りてきても安全なのか、それともそれなりに時間を取るべきなのか。
それこそ非常事態で乗っている人間が意識もうろうとしていたり、周りが暗くて水面が見えない場合なんかだと浮遊《レヴィア》をいつ切るかをどう判断するか、難しそう」
シャルロが少し難しい顔をして言った。
確かに。
浮遊《レヴィア》は魔力を喰うので出来るだけ早く切って元の反発力を利用する結界に戻したいが、戻すタイミングを間違えると危険だ。
「まあ、機体の角度がある程度以上傾いたら浮遊《レヴィア》の魔術回路が起動するようにしておいたら浮遊《レヴィア》を切るのが早すぎても再起動するだけだろうが・・・それこそ再起動する前に横から倒木の枝や本体が突っ込んできたりしたら危ないか」
水面が斜めになっていると言う事はまだ土石流や山津波の中にいると言う事で、押し流されて来た土石や枝などに激突されかねない。
「倒木が突っ込んでくるような危険事態だったら命は金に換えられないと考えて、魔石をケチらずに使って防御結界を張るべきだろう。
そう考えると・・・浮遊《レヴィア》が起動したら防御結界も展開されるようにした方が良いかも知れない」
アレクが提案した。
確かに、増水した川を渡るなんて無茶をする状況なんだ。
非常事態で意図的に命を賭けているにしても、魔石をケチって死んでは意味がない。
そう考えたら非常事態には魔石はガンガン使っても良いんだよね?という前提条件の下で設計してしまうのも一つの手か。
「俺たちが作っているのは渡河用の普段使いの魔具なんだ。
増水中で山津波や土石流がいつ起きるか分からないような川を渡るなんて危険なことをする為の魔具ではない。
だからそう言う非常事態用に使うならふんだんに魔石を準備しておかないと使えないという事にして、そういう緊急装置付きのは高額モデルにしないか?
下手にお手軽価格で危険なことも出来ちゃう設計で造って、誰かが無茶をして死んだらお互い不幸だ」
非常時に増水した川を越えて誰かを助けるなんて事だって、増水した川を超えられる魔具がなければ最初から出来ないことなのだ。
それが可能な機種と、可能ではない機種とではっきり分けておかないと、下手に安い機種にも無茶出来そうな機能を付けて無茶をやって死なれても困る。
アレクが頷いた。
「そうだな。
誤解を招かない方が無難か」
そうそう。
不幸な誤解は避けなきゃ。
【後書き】
安易にヒーローになろうとするなって事ですね。
ヒーローになるにはそれを成し遂げるだけの資金力が必要w
先日渡河の実験をした川岸で、シャルロが張り切って声を上げた。
とは言え今回は勢いのある山津波に対しての実験をするので、シャルロも試作機には乗らない。
清早が動かしてくれると手を上げてくれたので今回はそれに甘えることにした。
例え試作機が大破して破片がぶつかろうと、精霊である清早に害は及ばないからね。
自動で動くための仕組みを作るよりずっと手軽なので清早の提案を受け入れることにしたのだ。
という事で。
左手が川上。
川岸からのんびりと清早が試作機を進めていたら、突然川の水面が持ち上がり、試作機が右に傾いた。
「お!」
右に傾いた瞬間に川下側の結界の出力が上がり、本体の傾きが元に戻るかに見えたが・・・。
「げ!!」
膨らんだ山津波の水面は左手から右手へと川を下り、ちょうど立て直し始めた試作機の右側を勢いよく持ち上げ・・・機体が綺麗に一回転して水しぶきと共に水面に着水した。
「ひゃっほ~~~~!!
楽しいぜ、これ!!」
清早がご機嫌に叫ぶ。
「楽しいかも知れないが・・・これはちょっと想定外だし荷馬車を運ぶ装置としては失格だな」
アレクがため息をついた。
「なんかこう、却って水面の変化に対応しようとしたことで動きが倍増した感じ?
水面の動きによる傾きを補正しようとしない方が良いかも」
シャルロも呟く。
まあなぁ。
転覆されるのと、一回転されるのと、どちらかまだマシか・・・微妙なところだ。
考えてみたらどっちもダメだけど。
「ある程度以上傾いたら非常事態という事で浮遊《レヴィア》の術で上昇して、下に関係なく水平になるよう魔術回路を使ってバランスを取らせる方が良いかもだな」
浮遊《レヴィア》の術は魔術回路にするとかなり魔力を喰うので効率性から言うとイマイチなのだが、下の勾配がどうなっていようが関係なく宙に浮くので、山津波とかで突然川面の勾配が変動した状況に対応するのには向いているだろう。
起動その物もそれなりに早いし。
しかも術の対象を水平に持ち上げるので真ん中に大きく魔術回路を設置すればバランスを取ることも考えなくて済む。
「山津波や土石流が流れ続ける時間ってどの位なのかな?
浮遊《レヴィア》ですっと上がって、すぐに降りてきても安全なのか、それともそれなりに時間を取るべきなのか。
それこそ非常事態で乗っている人間が意識もうろうとしていたり、周りが暗くて水面が見えない場合なんかだと浮遊《レヴィア》をいつ切るかをどう判断するか、難しそう」
シャルロが少し難しい顔をして言った。
確かに。
浮遊《レヴィア》は魔力を喰うので出来るだけ早く切って元の反発力を利用する結界に戻したいが、戻すタイミングを間違えると危険だ。
「まあ、機体の角度がある程度以上傾いたら浮遊《レヴィア》の魔術回路が起動するようにしておいたら浮遊《レヴィア》を切るのが早すぎても再起動するだけだろうが・・・それこそ再起動する前に横から倒木の枝や本体が突っ込んできたりしたら危ないか」
水面が斜めになっていると言う事はまだ土石流や山津波の中にいると言う事で、押し流されて来た土石や枝などに激突されかねない。
「倒木が突っ込んでくるような危険事態だったら命は金に換えられないと考えて、魔石をケチらずに使って防御結界を張るべきだろう。
そう考えると・・・浮遊《レヴィア》が起動したら防御結界も展開されるようにした方が良いかも知れない」
アレクが提案した。
確かに、増水した川を渡るなんて無茶をする状況なんだ。
非常事態で意図的に命を賭けているにしても、魔石をケチって死んでは意味がない。
そう考えたら非常事態には魔石はガンガン使っても良いんだよね?という前提条件の下で設計してしまうのも一つの手か。
「俺たちが作っているのは渡河用の普段使いの魔具なんだ。
増水中で山津波や土石流がいつ起きるか分からないような川を渡るなんて危険なことをする為の魔具ではない。
だからそう言う非常事態用に使うならふんだんに魔石を準備しておかないと使えないという事にして、そういう緊急装置付きのは高額モデルにしないか?
下手にお手軽価格で危険なことも出来ちゃう設計で造って、誰かが無茶をして死んだらお互い不幸だ」
非常時に増水した川を越えて誰かを助けるなんて事だって、増水した川を超えられる魔具がなければ最初から出来ないことなのだ。
それが可能な機種と、可能ではない機種とではっきり分けておかないと、下手に安い機種にも無茶出来そうな機能を付けて無茶をやって死なれても困る。
アレクが頷いた。
「そうだな。
誤解を招かない方が無難か」
そうそう。
不幸な誤解は避けなきゃ。
【後書き】
安易にヒーローになろうとするなって事ですね。
ヒーローになるにはそれを成し遂げるだけの資金力が必要w
1
お気に入りに追加
501
あなたにおすすめの小説
もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
婚約破棄されて勝利宣言する令嬢の話
Ryo-k
ファンタジー
「セレスティーナ・ルーベンブルク! 貴様との婚約を破棄する!!」
「よっしゃー!! ありがとうございます!!」
婚約破棄されたセレスティーナは国王との賭けに勝利した。
果たして国王との賭けの内容とは――
婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました
ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。
王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。
しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。
公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。
姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました
饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。
わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。
しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。
末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。
そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。
それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は――
n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。
全15話。
※カクヨムでも公開しています
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
【完結24万pt感謝】子息の廃嫡? そんなことは家でやれ! 国には関係ないぞ!
宇水涼麻
ファンタジー
貴族達が会する場で、四人の青年が高らかに婚約解消を宣った。
そこに国王陛下が登場し、有無を言わさずそれを認めた。
慌てて否定した青年たちの親に、国王陛下は騒ぎを起こした責任として罰金を課した。その金額があまりに高額で、親たちは青年たちの廃嫡することで免れようとする。
貴族家として、これまで後継者として育ててきた者を廃嫡するのは大変な決断である。
しかし、国王陛下はそれを意味なしと袖にした。それは今回の集会に理由がある。
〰️ 〰️ 〰️
中世ヨーロッパ風の婚約破棄物語です。
完結しました。いつもありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる