637 / 1,038
卒業後
636 星暦556年 赤の月 28日 清掃は重要(7)
しおりを挟む
埃を除去する結界は『何とも繋がっていない』という定義が『何にも触れていない』だと空気中に浮いている埃しか取り去らず、かといって何かに付着している状態も含めるとそれこそ糊や塗装まで剥すので、試作品の作成でそのバランスに中々難航していた。
取り敢えず絨毯掃除用なのだから、ブラシで絨毯の毛をかき上げてその際に絨毯から持ち上がった埃を除去しようとしたのだが、すべての埃をブラシで一度にかき上げるのも難しく、今度はどんなブラシの形態だったら上手くいくのか試行錯誤に時間を掛けることになった。
そんな中、家具を動かす方の魔具に関する感想を聞きに実家に戻っていたアレクが、戻って来た途端に工房へ直行して声をかけてきた。
「家具を持ち上げる用の魔具を使って台車と、上に乗って滑るオモチャを至急造って欲しいそうだ」
「台車??」
シャルロが驚いたように声をあげた。
なるほど。
考えてみたら、重い家具を持ち上げて動かせるのだ。
商家の商品なんかも上に乗せて動かせるか。
その場合、机である必要は無いのだ。
普通に板一枚に魔術回路をつければ簡単に台車になりそうだ。
「まあ、元はと言えば兄の子供があの試作品をこっそり持ち出して、ひっくり返したローテーブルにつなげて庭で滑り回っていたのが切っ掛けなんだ。
それを見て他の子どもたちも同じオモチャが欲しいと大騒ぎ。
騒ぎを聞きつけた本店の職員が子供を乗せて動き回っているテーブルを見て、台車に使えると閃いてちょうど棚卸中だった倉庫に持って行ったのが第二弾らしい」
呆れたように髪をかき上げながらアレクが言った。
中々面白い行動連鎖だな。
「ある意味、空滑機《グライダー》の簡易地上版みたいなものかな?
早く滑るだけならあまり危険は無いだろうが・・・ブレーキをつけるのと、何かにぶつかった時に一時的に保護結界でも発生するようにした方が良いかもな」
道に飛び出したりして馬車や人にぶつかったりしたら危ない。
保護結界を全体を覆う形にしたら、馬車の前に突然飛び出してしまって馬に蹴られたり踏まれたりしても何とかなるかも知れない。
元々、馬車に似た様な乗り物を造れないかという話はしていたのだ。
先に子供のオモチャになっただけだが・・・子供やせいぜい大人一人を乗せる程度の負荷で動かすオモチャを先に作って改善点を洗い出しておく方が、馬車モドキな乗り物を造る際にも役に立つだろう。
「確かに。
小さな子を乗せて押して遊んでも面白そうだから、前に棒をつけて乗る子供が捕まるようにして、後ろにも棒を付けられるようにして大人が押せるようにしようか。
フェリスちゃんが喜ぶかも。
ジャルナルクがもう少し大きくなったら絶対に乗りたがるだろうし。
・・・考えてみたら、小さな子が乗っている場合は大人が後ろの棒を握っていないと動かないようにした方が良いね」
シャルロが声をあげた。
「まあ、オモチャは色々工夫が必要だとして、先に台車を造ろう。
こちらは単に押して動かすだけ、ある程度以上の速度で動かないようにして即座に出力を切れる様にしたらブレーキは無くても良いだろう」
アレクが提案した。
「台車って後ろから押して動かすんだろ?
だったらその押して動かすところを握ったら魔力が通るようにして、手を離したら魔力が切れて地面に落ちるようにしたらそれで良いんじゃないか?」
速度制限なんて機能をつけるのは中々面倒だぞ?
「まず、斜めな地面の上で何かを持ち上げた際に勝手に自重でどんどん動いていくか、確認してみた方が良いと思わない?
倉庫の中で床が斜めになっている所なんて殆ど無いだろうけど、便利だったら近所の店への配達にも使いそうだよね」
シャルロが口を挟む。
確かに。
家具を動かすという想定だったから斜めな床というのは全く考慮してこなかったが、台車として使うとなったら外で動かすこともあるだろうし、そうなると坂を上ったり下りたりする状況だって十分あるだろう。
というか、動かすのが楽になるんだったら坂を登る届け先には優先的に使うことになりそうだ。
「ついでに階段みたいな段差で使おうとするとどうなるかも確認した方がいいだろうな」
絨毯の掃除用が当初の開発目的だったので、家具を持ち上げたまま階段を上り下りするという事は考えていなかった。
まあ、引っ越し用に使うとなったらそこら辺も考える必要はあったけど、取り敢えず後回しで良いと思っていたのだが・・・先に台車として売り出すなら、階段も避けて通れないだろう。
「坂をちゃんと問題なく上り下りできるんだったら階段に板を置いてその上を動かすというのも可能かもしれないが・・・そこまで角度を急にしたら上に乗せた荷物が落ちそうだな」
アレクが呟く。
「でも、普通の台車を坂で使って中身が零れてもそれって自己責任じゃないか?
台車を大きな箱をひっくり返した形にして、中身が落ちないようにしたら良いかもだけど」
魔具だからと言って、何も全ての状況に完璧に対応できるようにする必要は無い。
そんなことをしていたら高い魔具がますます高くなる。
だがまあ、形をちょっと工夫する程度ならやっても良いだろう。
斜めにずれて潰れたりしたら困る荷物は、今まで通り階段では自分で持って上がれば良い
【後書き】
掃除機からちょっと脱線。
便利な台車とキックボードか三輪車モドキが出来そう?
取り敢えず絨毯掃除用なのだから、ブラシで絨毯の毛をかき上げてその際に絨毯から持ち上がった埃を除去しようとしたのだが、すべての埃をブラシで一度にかき上げるのも難しく、今度はどんなブラシの形態だったら上手くいくのか試行錯誤に時間を掛けることになった。
そんな中、家具を動かす方の魔具に関する感想を聞きに実家に戻っていたアレクが、戻って来た途端に工房へ直行して声をかけてきた。
「家具を持ち上げる用の魔具を使って台車と、上に乗って滑るオモチャを至急造って欲しいそうだ」
「台車??」
シャルロが驚いたように声をあげた。
なるほど。
考えてみたら、重い家具を持ち上げて動かせるのだ。
商家の商品なんかも上に乗せて動かせるか。
その場合、机である必要は無いのだ。
普通に板一枚に魔術回路をつければ簡単に台車になりそうだ。
「まあ、元はと言えば兄の子供があの試作品をこっそり持ち出して、ひっくり返したローテーブルにつなげて庭で滑り回っていたのが切っ掛けなんだ。
それを見て他の子どもたちも同じオモチャが欲しいと大騒ぎ。
騒ぎを聞きつけた本店の職員が子供を乗せて動き回っているテーブルを見て、台車に使えると閃いてちょうど棚卸中だった倉庫に持って行ったのが第二弾らしい」
呆れたように髪をかき上げながらアレクが言った。
中々面白い行動連鎖だな。
「ある意味、空滑機《グライダー》の簡易地上版みたいなものかな?
早く滑るだけならあまり危険は無いだろうが・・・ブレーキをつけるのと、何かにぶつかった時に一時的に保護結界でも発生するようにした方が良いかもな」
道に飛び出したりして馬車や人にぶつかったりしたら危ない。
保護結界を全体を覆う形にしたら、馬車の前に突然飛び出してしまって馬に蹴られたり踏まれたりしても何とかなるかも知れない。
元々、馬車に似た様な乗り物を造れないかという話はしていたのだ。
先に子供のオモチャになっただけだが・・・子供やせいぜい大人一人を乗せる程度の負荷で動かすオモチャを先に作って改善点を洗い出しておく方が、馬車モドキな乗り物を造る際にも役に立つだろう。
「確かに。
小さな子を乗せて押して遊んでも面白そうだから、前に棒をつけて乗る子供が捕まるようにして、後ろにも棒を付けられるようにして大人が押せるようにしようか。
フェリスちゃんが喜ぶかも。
ジャルナルクがもう少し大きくなったら絶対に乗りたがるだろうし。
・・・考えてみたら、小さな子が乗っている場合は大人が後ろの棒を握っていないと動かないようにした方が良いね」
シャルロが声をあげた。
「まあ、オモチャは色々工夫が必要だとして、先に台車を造ろう。
こちらは単に押して動かすだけ、ある程度以上の速度で動かないようにして即座に出力を切れる様にしたらブレーキは無くても良いだろう」
アレクが提案した。
「台車って後ろから押して動かすんだろ?
だったらその押して動かすところを握ったら魔力が通るようにして、手を離したら魔力が切れて地面に落ちるようにしたらそれで良いんじゃないか?」
速度制限なんて機能をつけるのは中々面倒だぞ?
「まず、斜めな地面の上で何かを持ち上げた際に勝手に自重でどんどん動いていくか、確認してみた方が良いと思わない?
倉庫の中で床が斜めになっている所なんて殆ど無いだろうけど、便利だったら近所の店への配達にも使いそうだよね」
シャルロが口を挟む。
確かに。
家具を動かすという想定だったから斜めな床というのは全く考慮してこなかったが、台車として使うとなったら外で動かすこともあるだろうし、そうなると坂を上ったり下りたりする状況だって十分あるだろう。
というか、動かすのが楽になるんだったら坂を登る届け先には優先的に使うことになりそうだ。
「ついでに階段みたいな段差で使おうとするとどうなるかも確認した方がいいだろうな」
絨毯の掃除用が当初の開発目的だったので、家具を持ち上げたまま階段を上り下りするという事は考えていなかった。
まあ、引っ越し用に使うとなったらそこら辺も考える必要はあったけど、取り敢えず後回しで良いと思っていたのだが・・・先に台車として売り出すなら、階段も避けて通れないだろう。
「坂をちゃんと問題なく上り下りできるんだったら階段に板を置いてその上を動かすというのも可能かもしれないが・・・そこまで角度を急にしたら上に乗せた荷物が落ちそうだな」
アレクが呟く。
「でも、普通の台車を坂で使って中身が零れてもそれって自己責任じゃないか?
台車を大きな箱をひっくり返した形にして、中身が落ちないようにしたら良いかもだけど」
魔具だからと言って、何も全ての状況に完璧に対応できるようにする必要は無い。
そんなことをしていたら高い魔具がますます高くなる。
だがまあ、形をちょっと工夫する程度ならやっても良いだろう。
斜めにずれて潰れたりしたら困る荷物は、今まで通り階段では自分で持って上がれば良い
【後書き】
掃除機からちょっと脱線。
便利な台車とキックボードか三輪車モドキが出来そう?
0
お気に入りに追加
503
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です
岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」
私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。
しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。
しかも私を年増呼ばわり。
はあ?
あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!
などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。
その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる