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卒業後
633 星暦556年 赤の月 25日 清掃は重要(4)
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試作品の魔具をごちゃごちゃと色々な物の上に半ば埋もれるような形で乗せたローテーブルの脚につなぎ、起動してから持ち上げてみる。
ちゃんとローテーブルだけが持ち上がり、下にあったラグやタオル、砂利や糸くずはどれも一緒に持ち上がらない。
「長かった・・・」
思わずちゃんと成功したことに安堵のため息が漏れた。
「いやぁ、床って実は真っすぐ平らじゃないって初めて知ったよ。
しかも平らな床でも家具の重さで絨毯にめり込んでいるし!」
取り敢えず第一段階をクリアできたお祝いなのか、フェイタールの缶に入った焼き菓子をシャルロが取り出してきた。
先日わざわざ並んで買ったって言っていたのに、俺たちにも食べさせちゃっていいんだ?
「考えてみたら、まっすぐに表面を削り取る魔力の消費量を抑えられたら、板や石を平らにする職人に売れるかもしれないな」
アレクが焼き菓子を受け取りながら付け加える。
結界で家具を動かそうというアイディアは、まず周りの物を全く含まない結界をどう展開するかという点で躓いた。
最初に適当に工房に置いてあったソファを使って下部からまっすぐな表面でやってみたら・・・床の一部が結界の範囲に含まれてしまったらしく、やたらと重くて動かないと文句を言いつつなんとか3人がかりでソファを結界ごと動かしてみたら、床のワックスの一部が削り取られていた。
慌ててまっ平な金属板を持って来て床に置いて確認してみたところ・・・実は、床というのは完全にまっ平な部分は少ない事が判明。
しかも、重い家具は確実に絨毯に埋もれているので絨毯の上に置いてある重い家具の下面を基点として水平に結界を展開すると、脚と脚の間にある部分の絨毯の毛が刈り取られてしまう。
幸い、『もしかしたら・・・?』と思って絨毯ではなくどうでも良い古いタオルを作業机の下に敷いて試してみたのだが、タオルは見事に剃りあがったかのように作業机の脚の間の部分が薄くなり、一部では穴が開いていた。
この時点で結界で家具を動かすのは無謀か??と単に家具に質量軽減と浮遊の術を付与する方向で頑張ってみたのだが、やはり重い家具を動かすのに滅茶苦茶大量の魔力を必要とした。
結界で動かすのだって家具を持ち上げるという労力は変わらない筈なのだが・・・何故か結界の反発力というのは質量軽減と浮遊の術よりも魔力効率がいいらしく、少なくとも拳一個分ぐらいの距離だったら魔具として現実的な魔力量で家具を持ち上げられたのだ。
この結界の反発力を使い、滑って移動する馬車みたいなのを魔具で造ってはどうだろうという案がその時点で出たのだが・・・取り敢えずこれも後回し。
やはり思い立ったのだから掃除用魔具を完成させてから派生商品にも手を出していく。
そう合意したのだが・・・周囲の物を巻き込まない結界の作成は難しかった。
ウールや床板を除外対象として登録してみても、床板の表面に塗られているワックスが除外対象にされなくてワックスががっつり剝がれてしまったり。
絨毯を排除するつもりで材料であるウールを除外対象にしたら絹糸とか綿糸も混じっていることが判明して実験用に敷いていた古い絨毯がボロボロになったり。
木材を結界の対象と定義したらニスが剥がれてしまったり。
結界を動かす時に起きる周囲の床や絨毯への破壊力というのは想像以上に大きかった。
これって一種の魔力攻撃扱いになっているのだろうか?
「なんかさぁ、うっかり結界で色々削った今回の実験で思わず魔力の怖さっていうのを実感した気がする。
これって設置を間違えて使用者の指がスパって切れたりしたら、ヤバくない?」
ふと、気になった事を口にする。
「いや、タオルや床板といった魔力の籠っていない対象だからこそ結界の魔力の干渉がああも一方的に効果を生じさせていただけだ。
人間には生来の魔力があるからそれが外部からの魔力による働き掛けに反発する。だから普通の結界程度でそう簡単には人体を傷つけられないはずだぞ?」
お茶の準備をしながらアレクが答える。
「授業でやったじゃ~ん」
シャルロが付け加える。
あれ?
「やったっけ??」
「人間に対する術は相手の魔力による反発を打ち消すだけの強さが最初から組まれているから、赤子や体調の弱っている病人、高齢者を対象にする場合や、そう言った人間が巻き込まれるような状況で魔術を使う時は細心の注意を払う必要があるって。
基本中の基本ってことで初日に学院長直々に教えていたじゃん」
シャルロがマグをアレクから受け取りながら思い出させるように言う。
「あ~。
俺、遅れて入学したから魔術学院の最初の二週間分の授業は出てないよ。
一応補習みたいのは受けたんだが、一般常識的な部分はスキップされたんだな、きっと」
もしくは状況の変化に対応しきれなくて聞いていなかったか。
考えてみたら、魔術学院にテスト用紙を盗みに入って掴まってから人生が変わったよなぁ・・・。
ちゃんとローテーブルだけが持ち上がり、下にあったラグやタオル、砂利や糸くずはどれも一緒に持ち上がらない。
「長かった・・・」
思わずちゃんと成功したことに安堵のため息が漏れた。
「いやぁ、床って実は真っすぐ平らじゃないって初めて知ったよ。
しかも平らな床でも家具の重さで絨毯にめり込んでいるし!」
取り敢えず第一段階をクリアできたお祝いなのか、フェイタールの缶に入った焼き菓子をシャルロが取り出してきた。
先日わざわざ並んで買ったって言っていたのに、俺たちにも食べさせちゃっていいんだ?
「考えてみたら、まっすぐに表面を削り取る魔力の消費量を抑えられたら、板や石を平らにする職人に売れるかもしれないな」
アレクが焼き菓子を受け取りながら付け加える。
結界で家具を動かそうというアイディアは、まず周りの物を全く含まない結界をどう展開するかという点で躓いた。
最初に適当に工房に置いてあったソファを使って下部からまっすぐな表面でやってみたら・・・床の一部が結界の範囲に含まれてしまったらしく、やたらと重くて動かないと文句を言いつつなんとか3人がかりでソファを結界ごと動かしてみたら、床のワックスの一部が削り取られていた。
慌ててまっ平な金属板を持って来て床に置いて確認してみたところ・・・実は、床というのは完全にまっ平な部分は少ない事が判明。
しかも、重い家具は確実に絨毯に埋もれているので絨毯の上に置いてある重い家具の下面を基点として水平に結界を展開すると、脚と脚の間にある部分の絨毯の毛が刈り取られてしまう。
幸い、『もしかしたら・・・?』と思って絨毯ではなくどうでも良い古いタオルを作業机の下に敷いて試してみたのだが、タオルは見事に剃りあがったかのように作業机の脚の間の部分が薄くなり、一部では穴が開いていた。
この時点で結界で家具を動かすのは無謀か??と単に家具に質量軽減と浮遊の術を付与する方向で頑張ってみたのだが、やはり重い家具を動かすのに滅茶苦茶大量の魔力を必要とした。
結界で動かすのだって家具を持ち上げるという労力は変わらない筈なのだが・・・何故か結界の反発力というのは質量軽減と浮遊の術よりも魔力効率がいいらしく、少なくとも拳一個分ぐらいの距離だったら魔具として現実的な魔力量で家具を持ち上げられたのだ。
この結界の反発力を使い、滑って移動する馬車みたいなのを魔具で造ってはどうだろうという案がその時点で出たのだが・・・取り敢えずこれも後回し。
やはり思い立ったのだから掃除用魔具を完成させてから派生商品にも手を出していく。
そう合意したのだが・・・周囲の物を巻き込まない結界の作成は難しかった。
ウールや床板を除外対象として登録してみても、床板の表面に塗られているワックスが除外対象にされなくてワックスががっつり剝がれてしまったり。
絨毯を排除するつもりで材料であるウールを除外対象にしたら絹糸とか綿糸も混じっていることが判明して実験用に敷いていた古い絨毯がボロボロになったり。
木材を結界の対象と定義したらニスが剥がれてしまったり。
結界を動かす時に起きる周囲の床や絨毯への破壊力というのは想像以上に大きかった。
これって一種の魔力攻撃扱いになっているのだろうか?
「なんかさぁ、うっかり結界で色々削った今回の実験で思わず魔力の怖さっていうのを実感した気がする。
これって設置を間違えて使用者の指がスパって切れたりしたら、ヤバくない?」
ふと、気になった事を口にする。
「いや、タオルや床板といった魔力の籠っていない対象だからこそ結界の魔力の干渉がああも一方的に効果を生じさせていただけだ。
人間には生来の魔力があるからそれが外部からの魔力による働き掛けに反発する。だから普通の結界程度でそう簡単には人体を傷つけられないはずだぞ?」
お茶の準備をしながらアレクが答える。
「授業でやったじゃ~ん」
シャルロが付け加える。
あれ?
「やったっけ??」
「人間に対する術は相手の魔力による反発を打ち消すだけの強さが最初から組まれているから、赤子や体調の弱っている病人、高齢者を対象にする場合や、そう言った人間が巻き込まれるような状況で魔術を使う時は細心の注意を払う必要があるって。
基本中の基本ってことで初日に学院長直々に教えていたじゃん」
シャルロがマグをアレクから受け取りながら思い出させるように言う。
「あ~。
俺、遅れて入学したから魔術学院の最初の二週間分の授業は出てないよ。
一応補習みたいのは受けたんだが、一般常識的な部分はスキップされたんだな、きっと」
もしくは状況の変化に対応しきれなくて聞いていなかったか。
考えてみたら、魔術学院にテスト用紙を盗みに入って掴まってから人生が変わったよなぁ・・・。
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