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卒業後
616 星暦555年 桃の月 13日 とばっちり(3)
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「また?
随分とこの街は被害者が多いわね・・・」
朝から精神汚染された住民をマーキングしていたのだが、なんかこの街はずば抜けて被害者が多い。
ファルナもそう考えたのか、俺がまたもや通りがかりの人間をマーキングしたのを見て眉をひそめて考え込んだと思ったら、何やら誰かに指示を出しに部屋の奥に戻っていった。
海沿いでもなく、周囲は森や山と畑に囲まれた比較的平和な街っぽい場所だ。
歴史はあるらしいものの、侯爵領なのがある意味不思議な位地味な街なのだが・・・やたらと精神汚染を受けている人間が多い。
しかも、かなり重度に影響を受けている奴が多く、さっきのなんて精神異常を起こす一歩手前という感じだった。
俺が知らないだけで、この街は東大陸の連中が特に興味を感じるような特産品でもあるのか?
だが、海沿いでもないここまで来るのにそれなりに時間が掛かるだろうに、こうも街の住民に浸透しているとなるとかなり大掛かりに大人数でやる必要がありそうだが・・・よっぽど熱心に働き回ったロクデナシでもいたのかね?
そんなことを考えていたら、ファルナが戻って来た。
「追加で金貨5枚出すから、今日は日が暮れた後も何か所かのギルドを回るのに協力して欲しい」
金貨5枚。
1日分の報酬より大きいじゃないか。
一体どれだけギルドを回らせるつもりなんだ??
まあ、明日行く街は比較的近いから、少し寝坊してから移動しても問題無い筈だ。
「・・・なんだってこの街はこんなに被害者が多いんだ?
しかもかなり重度に影響を受けているのがちらほらいるぜ?」
報酬も出るんだし、これだけ集中的に狙われているのってヤバげなので追加労働は吝かではないのだが、それを口にする前についでにこの街の特異要因も教えて貰いたい。
単なる好奇心だが、夜更かしする羽目になるんだし、下手をしたら黒幕に逆恨みされるかも知れないのだ。
軍人っていうのはやたらと何でもかんでも秘密にしたがるが、契約外の仕事もするんだし、ギルドを回るって言う事は俺が軍人と動き回っているのが街の住民の目に触れることになる。
多少の融通は利かせてくれても良いだろう。
『教えてくれんと協力しないぞ』という頑固そうな顔を作ってファルナを見つめたら、深くため息をつかれた。
うっし。
勝ったな!
「ここはアファル王国で唯一白磁の焼き物を作っている産地なのよ。
アファル王国で唯一というか、ここ以外で白磁の焼き物を生産しているのはバラーンの東部にある町だけなの。
作り方の秘密を盗み出そうとしている可能性は高いわね」
焼き物かぁ。
はっきり言って、俺は色が何であれ、落としたら割れそうな陶磁系の食器類や花瓶なんぞはあまり好きではない。
わざと割って破片を武器にするという緊急時の活用法的には悪くは無いんだが、日常生活では食器は木を作ったのを時々買い替えれば良いし、花瓶だって安物で良いと思う。
とは言え、白磁の焼き物がとんでもなく高値が付くのは盗賊《シーフ》時代の知識として知っているから、それの製造法を盗もうとする動機は分からないでもない。
とは言え。
「作り方を盗んだって、陶器や磁器って合った土が取れなきゃどうしようもないんじゃないのか?」
製法を盗んだところで必要な材料が採れる地域でない限りそれを購入する必要があり、白磁の生産地は絶対にその素材をライバル地域に売ったりしないだろうに。
それとも、白磁の素材って人に知られていないだけで実はありふれたものなのか?
それだったらもっと早くに秘密が漏れていそうなものだが。
「さあね。
私も詳しい事は知らないけど、世界に2か所しか素材が出てこないなんて考えにくいんじゃない?
となったら利用法が知られていないから放置されている素材だってあるでしょうから、情報を盗む価値は十分にあるでしょうね」
ふうん。
まあ、素材と知識が無ければ物は作れない。
知識がないから無駄になっている素材がどこかにあっても不思議は無いか。
とは言え、世界で2か所しか作られていないとなったら、情報漏洩を防ぐために知っている人間を誓約魔術とかでぎちぎちに縛っているんじゃないか?
今回出て来たショボい呪具で誓約魔術を破れるとは思えないが。
誓約魔術っていうのは心臓に直接かける術なのだ。
呪具で破棄できるような類いのものではないから、呪具で精神汚染しようと情報を漏らそうとしたら死んじまうぞ?
「・・・なあ、そんな大切な特産品の機密に関わっている人間なんて、数が限られているんじゃないか?
下手に呪具に掛かって情報漏洩しようとしたら、心臓に負担が掛かって死んじまうぜ?」
ぽこぽこ熟練職人が死んだりしたら、街の産業そのものに悪影響がありそうだ。
元々、今回一番よく出回っている忠誠心を植え付ける呪具は、本人の信念に反する行動をとらせようとすると解呪が早まる。
それを何度も繰り返しかけると精神異常を起こすんだが・・・もしかして、ヤバ気な見た目の奴らってそう言う被害者なのか?
それにしても、精神汚染を受けている被害者が多い。
ファルナと交渉している間にも汚染されている人間が下の広場に現れるのでさっきからマーキングを付けまくっている。
朝に作業を始めて比較的すぐに慌てて増員の手配をしていたが、これだけの被害者を捕まえて拘束しておく場所と人員があるのかね?
それこそ陶工ギルドの人間だけじゃなくて手当たり次第に呪具を試している感じだが・・・こんなに使っていたら仕掛けている側も情報収集の手が足りなくなりそうだ。
ある意味、精神汚染を受けていない人間も拘束して調べた方が良いんじゃないかという気がしないでもないが、流石に人数が多すぎるか。
「制約魔術からの負荷に関しては、急いで命の神神殿の方に助っ人を頼んでいるわ。
夜までにはそれなりに人数が集まっていると思うから、協力してね?」
「おう。
だが、流石に夕食まで1日三食サンドイッチは遠慮したいから、日が暮れたら一度ちゃんと食事を食べさせてくれ」
人の命に係わるし、報酬も悪くないから協力するが、その前にちゃんとした食事を摂る時間ぐらいは融通をきかせてくれ。
随分とこの街は被害者が多いわね・・・」
朝から精神汚染された住民をマーキングしていたのだが、なんかこの街はずば抜けて被害者が多い。
ファルナもそう考えたのか、俺がまたもや通りがかりの人間をマーキングしたのを見て眉をひそめて考え込んだと思ったら、何やら誰かに指示を出しに部屋の奥に戻っていった。
海沿いでもなく、周囲は森や山と畑に囲まれた比較的平和な街っぽい場所だ。
歴史はあるらしいものの、侯爵領なのがある意味不思議な位地味な街なのだが・・・やたらと精神汚染を受けている人間が多い。
しかも、かなり重度に影響を受けている奴が多く、さっきのなんて精神異常を起こす一歩手前という感じだった。
俺が知らないだけで、この街は東大陸の連中が特に興味を感じるような特産品でもあるのか?
だが、海沿いでもないここまで来るのにそれなりに時間が掛かるだろうに、こうも街の住民に浸透しているとなるとかなり大掛かりに大人数でやる必要がありそうだが・・・よっぽど熱心に働き回ったロクデナシでもいたのかね?
そんなことを考えていたら、ファルナが戻って来た。
「追加で金貨5枚出すから、今日は日が暮れた後も何か所かのギルドを回るのに協力して欲しい」
金貨5枚。
1日分の報酬より大きいじゃないか。
一体どれだけギルドを回らせるつもりなんだ??
まあ、明日行く街は比較的近いから、少し寝坊してから移動しても問題無い筈だ。
「・・・なんだってこの街はこんなに被害者が多いんだ?
しかもかなり重度に影響を受けているのがちらほらいるぜ?」
報酬も出るんだし、これだけ集中的に狙われているのってヤバげなので追加労働は吝かではないのだが、それを口にする前についでにこの街の特異要因も教えて貰いたい。
単なる好奇心だが、夜更かしする羽目になるんだし、下手をしたら黒幕に逆恨みされるかも知れないのだ。
軍人っていうのはやたらと何でもかんでも秘密にしたがるが、契約外の仕事もするんだし、ギルドを回るって言う事は俺が軍人と動き回っているのが街の住民の目に触れることになる。
多少の融通は利かせてくれても良いだろう。
『教えてくれんと協力しないぞ』という頑固そうな顔を作ってファルナを見つめたら、深くため息をつかれた。
うっし。
勝ったな!
「ここはアファル王国で唯一白磁の焼き物を作っている産地なのよ。
アファル王国で唯一というか、ここ以外で白磁の焼き物を生産しているのはバラーンの東部にある町だけなの。
作り方の秘密を盗み出そうとしている可能性は高いわね」
焼き物かぁ。
はっきり言って、俺は色が何であれ、落としたら割れそうな陶磁系の食器類や花瓶なんぞはあまり好きではない。
わざと割って破片を武器にするという緊急時の活用法的には悪くは無いんだが、日常生活では食器は木を作ったのを時々買い替えれば良いし、花瓶だって安物で良いと思う。
とは言え、白磁の焼き物がとんでもなく高値が付くのは盗賊《シーフ》時代の知識として知っているから、それの製造法を盗もうとする動機は分からないでもない。
とは言え。
「作り方を盗んだって、陶器や磁器って合った土が取れなきゃどうしようもないんじゃないのか?」
製法を盗んだところで必要な材料が採れる地域でない限りそれを購入する必要があり、白磁の生産地は絶対にその素材をライバル地域に売ったりしないだろうに。
それとも、白磁の素材って人に知られていないだけで実はありふれたものなのか?
それだったらもっと早くに秘密が漏れていそうなものだが。
「さあね。
私も詳しい事は知らないけど、世界に2か所しか素材が出てこないなんて考えにくいんじゃない?
となったら利用法が知られていないから放置されている素材だってあるでしょうから、情報を盗む価値は十分にあるでしょうね」
ふうん。
まあ、素材と知識が無ければ物は作れない。
知識がないから無駄になっている素材がどこかにあっても不思議は無いか。
とは言え、世界で2か所しか作られていないとなったら、情報漏洩を防ぐために知っている人間を誓約魔術とかでぎちぎちに縛っているんじゃないか?
今回出て来たショボい呪具で誓約魔術を破れるとは思えないが。
誓約魔術っていうのは心臓に直接かける術なのだ。
呪具で破棄できるような類いのものではないから、呪具で精神汚染しようと情報を漏らそうとしたら死んじまうぞ?
「・・・なあ、そんな大切な特産品の機密に関わっている人間なんて、数が限られているんじゃないか?
下手に呪具に掛かって情報漏洩しようとしたら、心臓に負担が掛かって死んじまうぜ?」
ぽこぽこ熟練職人が死んだりしたら、街の産業そのものに悪影響がありそうだ。
元々、今回一番よく出回っている忠誠心を植え付ける呪具は、本人の信念に反する行動をとらせようとすると解呪が早まる。
それを何度も繰り返しかけると精神異常を起こすんだが・・・もしかして、ヤバ気な見た目の奴らってそう言う被害者なのか?
それにしても、精神汚染を受けている被害者が多い。
ファルナと交渉している間にも汚染されている人間が下の広場に現れるのでさっきからマーキングを付けまくっている。
朝に作業を始めて比較的すぐに慌てて増員の手配をしていたが、これだけの被害者を捕まえて拘束しておく場所と人員があるのかね?
それこそ陶工ギルドの人間だけじゃなくて手当たり次第に呪具を試している感じだが・・・こんなに使っていたら仕掛けている側も情報収集の手が足りなくなりそうだ。
ある意味、精神汚染を受けていない人間も拘束して調べた方が良いんじゃないかという気がしないでもないが、流石に人数が多すぎるか。
「制約魔術からの負荷に関しては、急いで命の神神殿の方に助っ人を頼んでいるわ。
夜までにはそれなりに人数が集まっていると思うから、協力してね?」
「おう。
だが、流石に夕食まで1日三食サンドイッチは遠慮したいから、日が暮れたら一度ちゃんと食事を食べさせてくれ」
人の命に係わるし、報酬も悪くないから協力するが、その前にちゃんとした食事を摂る時間ぐらいは融通をきかせてくれ。
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