シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

587 星暦555年 緑の月 30日 虫除け(7)

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「虫除け結界?!
いいわね、それ!!
持ち歩けるの?!」

試作品をテストさせている間にシェイラに会いに行こうというアイディアが結局実現しなかったので、休息日にヴァルージャに遊びに来て適当に森の中を散歩(シェイラは遺跡の痕跡を探索)しながら最近の開発について話したら、物凄い勢いで食いつかれた。

「あ~。
持ち歩くことはあまり考えてなかったが・・・確かに、人がそれ程いない森の中の遺跡だったら、全体をカバーするよりも虫が苦手な人が個人的に持ち歩く方が良いか」
設置型しか考えていなかったが、考えてみたら考古学者だけで無く業種を問わず外で作業する人間全てにとって携帯型の虫除け魔具はあったら便利そうだ。

「そうよ。
別に、ゴキブリや百足だったら出てきたら退治すれば良いんだけど、蠅がぶんぶん寄ってきたらウザいし、蚊に刺されると何日も痒いし、その上フォレスタ文明の遺跡の場合は下手をするとうっかり蜂の巣の傍に寄っちゃったりすることもあるから『苦手』なんてレベルの話じゃないのよ」

流石暗くて湿気ていることも多い遺跡で働くシェイラだ。
どうやらゴキブリも百足も大丈夫らしい。

ある意味、俺よりも強いかも。

だが、確かに働いている最中に蚊に集られるのは困るし、蜂の巣は王都内では滅多に問題にならないだろうが森の中の遺跡だとちょくちょく遭遇しそうだ。

俺も人の家に忍び込むような仕事をしていた時代には外で待っている間に蚊や蠅に集られてうんざりすることは多々あった。
音を立てずに蚊を叩き潰すのは中々難しいのだ。

蚊が寄らなくなる、ある臭いの強い草と脂を混ぜた物を塗りたくるという手もあるのだが、あれは強烈な臭いが服に残る上に見た目も薄汚れるのでシェイラ達が使うのには厳しいだろう。

俺だって家の中で使用人に紛れ込む必要がある場合なんかは使えなくて、只管痒いのを我慢する羽目になったものだ。

取り敢えず、ゴキブリや百足を排除しなくて良いのだったら比較的薄い虫除け結界で大丈夫な可能性は高い。

蜂に対しても蠅と同じぐらい効果があるかを試すのも兼ねて、個人用(半径1メタ程度で良いか?)の携帯用虫除け結界の魔具を造って試用して貰うと良いかも知れない。

蜂の場合は巣に近づいてきた場合と普通に歩いていて遭遇しただけの場合とで必要な結界の強度が違うかもしれないが。
そうなったら、非常時用の防御結界を別付けで展開できるようにした方が良いか?

流石に学者バカなツァレスとかでも、蜂に刺されれば巣に近づいたことが分かって防御結界を起動させる位のことは出来るだろう。

まあ、パニックしていても使えるようにむぎゅっと掴んだら起動する程度の簡単な動作にした方が良いだろうが。

「何人かでまとまって仕事をするなら大きめなのを纏めてその周辺で展開した方が、個人ごとに魔具を起動させるよりも経済的だと思うが、ここでの働き方ってどんな感じになってるんだ?」

オーパスタ神殿の遺跡などだったら比較的まとまって仕事をしていたので、個人が虫除け結界を持ち歩くよりもその作業場所に部屋サイズ程度の結界を展開した方が経済的だと思われる。

まあ、地下にあるあの遺跡には蚊や蠅は殆どいなかったが。
ゴキブリや百足は無造作に学者たちに叩き殺されていたし。
どうやら、ゴキブリごときに悲鳴を上げるようでは考古学者にはなれないらしいというのが俺が今まで見て来た感想だ。

俺はゴキブリとかは大嫌いなのだが、女性が無造作にそこら辺にあった刷毛でゴキブリを撃退して死骸を気にもせずに放り投げてそのまま作業を続けているのを見ると、びっくりした際に悲鳴を上げることすら遠慮する羽目になって、ある意味良い自己制御の訓練になった。

まあ、どこかの屋敷に忍び込むために潜んでいる時なんかも自分の手の上をゴキブリや百足が走っていっても悲鳴を上げられなかったので、心の準備が出来ていれば何でも耐えられるのだが。
流石に半分遊び気分で手伝っている時はすぐ傍にぼとぼとッとゴキブリや百足が落ちてくると思わず声を上げたくなるのが人間だと思う。

それはさておき。
「試しに簡易版を適当に造って渡しておくから、使い勝手とか問題点を通信機で話す際に教えてくれ。
巣を守る為に襲ってくる蜂に対しては効果が無い可能性も高いから、そこは気を付けてね」
取り敢えず、蠅と蚊に効果があった虫除け結界を魔具にして渡しておこう。
半径1メタ程度の個人用だったらちゃちゃっと造る簡易版でそれなりに効果があるのではないかと思うから、ある意味現実的な試運転になって良いだろう。

魔石の使用量の確認とか、使用感を確認する為に暫くは毎晩シェイラに連絡を取る必要がありそうだ。






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