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卒業後
585 星暦555年 緑の月 23日 虫除け(5)
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「虫除けと結界展開の形に相性があるなんて、意外だったな」
色々と試行錯誤し、防御結界の魔術回路を細かく分解して膜の形を生成する仕組みを苦労して解明した俺たちは、アレクの知人がテストしてくれた結果の上位3つの虫除けを結界の形に変えて再度テストを依頼した。
俺たちとしては結界の膜状にした際の魔力消費の効率が魔術回路によって多少は違う可能性もあると思って態々三つほど試したのだが、結果として分かったのは展開の形は魔力消費の効率だけでなく、肝心の虫を近付けない効果にまで影響が出るという意外な事実だった。
結界型にした3つの魔具をテストしてもらったところ、なんと壁の形では一番効果が高かった魔術回路が結界の膜状にすると最下位に下落し、2番目に良かった物が一位に上がったのだ。
「だが、百足が時折中に入ってくるのは困るな」
結界型虫除けは意外にも勢い良く飛んでいる蝿や蚊は寄せ付けないのに、ゴキブリは『ごく稀に』、そして百足は『時折』通過させてしまうのだ。
魔術回路によってその頻度にもある程度違いが出るものの、一番虫除け効果が高いのでも1日1回は百足が入るとの報告だった。
いくら百足が多い場所でのテストとは言え、ちょっとこれは許容できないだろう。
どうも結界型の虫除けは地面を這うタイプの虫と相性が悪いようだ。
「できる対応策としては、虫除け結界の膜をもっと厚くするか、もしくはサイズ指定して防御結界も一緒に展開するか、かな?」
ため息を吐きながら結果を書き上げた紙を机の上に放り出したシャルロが言った。
「実際に試してみて、魔力消費量と効果を確認してみるしか無いな。
百足とゴキブリがほぼ絶対に入ってこないレベルを合格ラインとして、まずどの程度の厚さの虫除け結界だったら大丈夫なのかを確認。
その後に百足やゴキブリといったサイズが大きい虫を排除する防御結界を蠅・蚊なら大丈夫な強度の虫除け結界と併せて展開してみて、両者を比べてどちらがより経済的で現実的か試してみよう」
アレクがため息を吐きながら言った。
「ついでに、結界を完全に球形にして地中にも展開したらどうなるか、実験してみないか?
接地面の虫除け効果が弱いんだったら、地表から結界を展開するのが悪いのかも知れないだろ?
半球の結界の厚さを倍にするなら、厚さを変えずに球形にしても必要な魔力量は同じぐらいだろうし」
通常、結界は地面の下には展開しない。
地表に蓋をするような半球形で結界を展開するのだが、飛んでくる虫は排除できるのに地面を這う虫に効果が落ちるのだとしたら、もしかしたらこの形が効果を落としている可能性もあるのかも、と思ったのだ。
「・・・地表沿いの平らな部分の結界形成の魔術回路を半球形の部分を反転させたので差し替えれば良いかな?
魔力消費量が本当に厚さを倍にした時と同レベルになるのかとか、効果が変化するのかとか、確かに確認してみる価値はありそうだな」
アレクが頷きながら合意した。
「地下室はあまり僕もケレナも行かないけど、そっちの虫除けも万全にしておくのは悪くない考えだね」
シャルロも異論は無いらしい。
建物の壁を突き抜ける形で結界を展開してもそれ程魔力消費量に影響は無いのだ。
地面の中にがっつり展開しても想定外な魔力消費量がの増加がないと期待しよう。
とは言え、態々地中まで展開しても虫除け効果が上がらなかったら意味がないが。
◆◆◆
「虫除けの魔術回路って効果はどれもほぼ同じなのに何かが全然違うんだね」
完全に球形にして建物の地下まで結界の形で展開した虫除け結界の魔力消費量を確認したシャルロが、半ば呆れたように呟いた。
「マジでな。
ここまで違いが出るなんて・・・一体どうしてなのか、知りたいぜ。ニルキーニ師辺りにこの数値を見せたら自発的に研究してくれないかな?」
結局、球形の虫除け結界を展開すると言うアイディアは虫サイズの物の排除を指定した防御結界を同時展開するよりも魔力消費が多かった為、ボツとなった。
それは良いのだが、俺たちを驚かせたのはその魔力消費量の違いだった。
地上に展開した半球部分の虫に対する効果と魔力消費量は三通りの魔術回路の間で1、2割程度しか違いが無かったのに、地下に展開させた際の魔力消費量が数倍もの違いが出たのだ。
不思議すぎる。
魔力消費量がやたらと増えた虫除け結界の場合は何かが土か岩と反発しているのだろうか?
建物の壁はそれ程大きな影響を与えないのに・・・摩訶不思議だ。
「今回は使わないにしても、今後の参考の為だ。
虫除け結界で魔力消費が多いのと少ないの、それに追加して普通の防御結界を何種類かの地質の地面の上で球形で展開させて、何がこんなに大きな魔力消費の違いに繋がっているのか確認しよう」
結果のメモを色々と見比べていたアレクが書類を揃えて箱に入れながら提案した。
一番虫除けの効果に対して魔力消費の効率が良かった防御結界を使う事にしたんだから調べても直接的に得るものは無いが、確かにこんな顕著な違いは原因を知っておいて損はないだろう。
「そうだな。
今後の参考の為にも調べようぜ」
とは言え、サイズはもっとスケールダウンしてテストしたいところだが。
色々と試行錯誤し、防御結界の魔術回路を細かく分解して膜の形を生成する仕組みを苦労して解明した俺たちは、アレクの知人がテストしてくれた結果の上位3つの虫除けを結界の形に変えて再度テストを依頼した。
俺たちとしては結界の膜状にした際の魔力消費の効率が魔術回路によって多少は違う可能性もあると思って態々三つほど試したのだが、結果として分かったのは展開の形は魔力消費の効率だけでなく、肝心の虫を近付けない効果にまで影響が出るという意外な事実だった。
結界型にした3つの魔具をテストしてもらったところ、なんと壁の形では一番効果が高かった魔術回路が結界の膜状にすると最下位に下落し、2番目に良かった物が一位に上がったのだ。
「だが、百足が時折中に入ってくるのは困るな」
結界型虫除けは意外にも勢い良く飛んでいる蝿や蚊は寄せ付けないのに、ゴキブリは『ごく稀に』、そして百足は『時折』通過させてしまうのだ。
魔術回路によってその頻度にもある程度違いが出るものの、一番虫除け効果が高いのでも1日1回は百足が入るとの報告だった。
いくら百足が多い場所でのテストとは言え、ちょっとこれは許容できないだろう。
どうも結界型の虫除けは地面を這うタイプの虫と相性が悪いようだ。
「できる対応策としては、虫除け結界の膜をもっと厚くするか、もしくはサイズ指定して防御結界も一緒に展開するか、かな?」
ため息を吐きながら結果を書き上げた紙を机の上に放り出したシャルロが言った。
「実際に試してみて、魔力消費量と効果を確認してみるしか無いな。
百足とゴキブリがほぼ絶対に入ってこないレベルを合格ラインとして、まずどの程度の厚さの虫除け結界だったら大丈夫なのかを確認。
その後に百足やゴキブリといったサイズが大きい虫を排除する防御結界を蠅・蚊なら大丈夫な強度の虫除け結界と併せて展開してみて、両者を比べてどちらがより経済的で現実的か試してみよう」
アレクがため息を吐きながら言った。
「ついでに、結界を完全に球形にして地中にも展開したらどうなるか、実験してみないか?
接地面の虫除け効果が弱いんだったら、地表から結界を展開するのが悪いのかも知れないだろ?
半球の結界の厚さを倍にするなら、厚さを変えずに球形にしても必要な魔力量は同じぐらいだろうし」
通常、結界は地面の下には展開しない。
地表に蓋をするような半球形で結界を展開するのだが、飛んでくる虫は排除できるのに地面を這う虫に効果が落ちるのだとしたら、もしかしたらこの形が効果を落としている可能性もあるのかも、と思ったのだ。
「・・・地表沿いの平らな部分の結界形成の魔術回路を半球形の部分を反転させたので差し替えれば良いかな?
魔力消費量が本当に厚さを倍にした時と同レベルになるのかとか、効果が変化するのかとか、確かに確認してみる価値はありそうだな」
アレクが頷きながら合意した。
「地下室はあまり僕もケレナも行かないけど、そっちの虫除けも万全にしておくのは悪くない考えだね」
シャルロも異論は無いらしい。
建物の壁を突き抜ける形で結界を展開してもそれ程魔力消費量に影響は無いのだ。
地面の中にがっつり展開しても想定外な魔力消費量がの増加がないと期待しよう。
とは言え、態々地中まで展開しても虫除け効果が上がらなかったら意味がないが。
◆◆◆
「虫除けの魔術回路って効果はどれもほぼ同じなのに何かが全然違うんだね」
完全に球形にして建物の地下まで結界の形で展開した虫除け結界の魔力消費量を確認したシャルロが、半ば呆れたように呟いた。
「マジでな。
ここまで違いが出るなんて・・・一体どうしてなのか、知りたいぜ。ニルキーニ師辺りにこの数値を見せたら自発的に研究してくれないかな?」
結局、球形の虫除け結界を展開すると言うアイディアは虫サイズの物の排除を指定した防御結界を同時展開するよりも魔力消費が多かった為、ボツとなった。
それは良いのだが、俺たちを驚かせたのはその魔力消費量の違いだった。
地上に展開した半球部分の虫に対する効果と魔力消費量は三通りの魔術回路の間で1、2割程度しか違いが無かったのに、地下に展開させた際の魔力消費量が数倍もの違いが出たのだ。
不思議すぎる。
魔力消費量がやたらと増えた虫除け結界の場合は何かが土か岩と反発しているのだろうか?
建物の壁はそれ程大きな影響を与えないのに・・・摩訶不思議だ。
「今回は使わないにしても、今後の参考の為だ。
虫除け結界で魔力消費が多いのと少ないの、それに追加して普通の防御結界を何種類かの地質の地面の上で球形で展開させて、何がこんなに大きな魔力消費の違いに繋がっているのか確認しよう」
結果のメモを色々と見比べていたアレクが書類を揃えて箱に入れながら提案した。
一番虫除けの効果に対して魔力消費の効率が良かった防御結界を使う事にしたんだから調べても直接的に得るものは無いが、確かにこんな顕著な違いは原因を知っておいて損はないだろう。
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