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卒業後
582 星暦555年 緑の月 7日 虫除け(2)
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「今の虫除けは香が主流だけど、意外と魔具でも色々あるんだね」
シャルロの提案の後、魔術院に行って虫除けと殺虫関連の魔術回路に関する特許情報を漁りに行ったところ、思っていた以上に色々と出てきた。
「これを全部試すのは嫌だぞ・・・」
思わずげっそりしながら机の上に積み上がった資料を眺める。
虫除けなのだ。
魔具を作るだけでなく、試さねばならない。
その為には虫がいる場所に行って、魔具無しの状態での虫の密度を確認した上で魔具の試作品を使った際との違いから効果を調べる必要がある。
「虫除けのテストは取り敢えずまずは裏の牧場に依頼しないか?
幸い今は家畜の出産時期も終わって比較的作業が落ち着いているはずだから、虫が多そうな家畜小屋を一つ使って見習いにでも寄ってきた虫の数を数える仕事を頼めば良いだろう。
私たちが虫の多そうな場所を探して自分でやるより、ずっと現実的だ」
パラパラと資料に目を通していたアレクが顔を上げて提案した。
「いいな、それ!
ちなみに、ハエとか蚊に関してはそれでテストできそうだけど、百足や蜘蛛も家畜小屋に出没するのかな?」
自分でテストしないで済むなら大歓迎だ。
これからも面倒なテストはどんどん外注してしまおう。
時間は有限なんだ。効率的にやっていかないと。
「・・・ちょっと生物学会の知り合いにでも確認してみるよ」
流石アレク。
生物学会なんて所にも知り合いがいるのか。
是非とも百足とゴキブリ避けのテストを外注できそうな相手を見つけてくれると期待しよう。
家に紛れ込んだ一匹や二匹の百足を潰すのは気にならないが、流石に百足がひっきりなしに現れる様な所には行きたく無い。
ゴキブリが出没する場所は更に嫌だ。
「パディン夫人やウチの家政婦の人が虫除けの香を買ってきていたからあまり意識しないで香を使っていたけど、こんなに色々あるのに虫除けの魔具が廃れたのってなんでかな?」
想定以上に多かった虫除け魔具の魔術回路を手に取りながらシャルロが呟いた。
「香の方が臨機応変にピンポイントに虫除けできるので好まれるのではないか?
香の匂いがついたら困る様な商品の倉庫や、料理に影響しそうな台所なんかは今でも魔具を使っている。
最近の虫除けの香はかなり研究されて、人間にとっては落ち着く良い香りの物が増えたし。
魔具では使っているのかいないのか分からないが、高級な虫除けの香だったらその上品な匂いで使っていることをさりげなく知らしめる事が出来るのも金のある層にとっては好ましく思われる理由の一つらしい」
アレクが魔術回路を書き出した紙を整理しながら虫除けの関する実情をバラしてくれた。
流石アレク。
魔具に関係なさそうなこともよく知っている。
と言うか、シャルロが昨日言いだしてから調べたんだろうけど、相変わらず情報取集が早い。
「まあ、それに魔具だと使用範囲の指定を部屋を変えるたびにしないと正確に起動しないからねぇ。
確かに面倒くさいよね、あれ」
シャルロが付け加えた。
魔具は、『起点から定義した範囲』もしくは『あらかじめ定義した区域』で起動する。
防寒・防御結界は本人の周囲に発生すればいいので問題ないが、虫除けとなると本人の側に寄ってこなくても部屋の壁を百足が走り回っていては精神的苦痛が大きすぎる。
そこで確実に部屋に虫が来ない様にしたい場合・・・部屋の半径よりも有効範囲が大きい魔具を展開させるか、部屋の範囲を魔具に定義する必要がある。
家の中で使う部屋全てに専用の魔具を買うのでない限り、日々の営みの流れで部屋を移動するたびに魔具の有効範囲を定義し直すハメになり、かなり面倒だ。
その点、虫除け香ならば扉を閉めれば大体のサイズで虫の嫌う香りを充填させて虫を排除するし、予め香を焚いておけば3刻程度は効果が残るのでお手軽なのだ。
とは言え。
虫除けの香が全ての虫に効くわけではないし、たまに鈍感な虫が迷い込むこともある。
魔具の方がちゃんと起動させておけばそう言う間違いが起きにくい。
もっとも、指定していない種類の虫に対しては効きが弱いらしいが。
「つまり、俺たちが考える必要があるのは必ずしも効果を上げたり魔力消費量を減らすことではなく、有効範囲をがっつり広げるか、範囲定義をもっと楽にするかと言うことか」
まあ、有効範囲をがっつり広げるために魔力消費量を多くしすぎたら稼働費が高くつきすぎて売れないだろうが。
アレクが肩を竦める。
「まあ、そうだが。
まずは入手した魔術回路を試作して効果の程を確かめないことにはな。
香と同じ程度には虫除けが出来ないと話にもならん」
そうなんだよなぁ。
そして効果を確かめるには、虫が寄ってくる場所に設置してみる必要がある。
・・・アレクの知り合いが、百足に詳しい上にテストもやってくれる人材である事を祈ろう。
シャルロの提案の後、魔術院に行って虫除けと殺虫関連の魔術回路に関する特許情報を漁りに行ったところ、思っていた以上に色々と出てきた。
「これを全部試すのは嫌だぞ・・・」
思わずげっそりしながら机の上に積み上がった資料を眺める。
虫除けなのだ。
魔具を作るだけでなく、試さねばならない。
その為には虫がいる場所に行って、魔具無しの状態での虫の密度を確認した上で魔具の試作品を使った際との違いから効果を調べる必要がある。
「虫除けのテストは取り敢えずまずは裏の牧場に依頼しないか?
幸い今は家畜の出産時期も終わって比較的作業が落ち着いているはずだから、虫が多そうな家畜小屋を一つ使って見習いにでも寄ってきた虫の数を数える仕事を頼めば良いだろう。
私たちが虫の多そうな場所を探して自分でやるより、ずっと現実的だ」
パラパラと資料に目を通していたアレクが顔を上げて提案した。
「いいな、それ!
ちなみに、ハエとか蚊に関してはそれでテストできそうだけど、百足や蜘蛛も家畜小屋に出没するのかな?」
自分でテストしないで済むなら大歓迎だ。
これからも面倒なテストはどんどん外注してしまおう。
時間は有限なんだ。効率的にやっていかないと。
「・・・ちょっと生物学会の知り合いにでも確認してみるよ」
流石アレク。
生物学会なんて所にも知り合いがいるのか。
是非とも百足とゴキブリ避けのテストを外注できそうな相手を見つけてくれると期待しよう。
家に紛れ込んだ一匹や二匹の百足を潰すのは気にならないが、流石に百足がひっきりなしに現れる様な所には行きたく無い。
ゴキブリが出没する場所は更に嫌だ。
「パディン夫人やウチの家政婦の人が虫除けの香を買ってきていたからあまり意識しないで香を使っていたけど、こんなに色々あるのに虫除けの魔具が廃れたのってなんでかな?」
想定以上に多かった虫除け魔具の魔術回路を手に取りながらシャルロが呟いた。
「香の方が臨機応変にピンポイントに虫除けできるので好まれるのではないか?
香の匂いがついたら困る様な商品の倉庫や、料理に影響しそうな台所なんかは今でも魔具を使っている。
最近の虫除けの香はかなり研究されて、人間にとっては落ち着く良い香りの物が増えたし。
魔具では使っているのかいないのか分からないが、高級な虫除けの香だったらその上品な匂いで使っていることをさりげなく知らしめる事が出来るのも金のある層にとっては好ましく思われる理由の一つらしい」
アレクが魔術回路を書き出した紙を整理しながら虫除けの関する実情をバラしてくれた。
流石アレク。
魔具に関係なさそうなこともよく知っている。
と言うか、シャルロが昨日言いだしてから調べたんだろうけど、相変わらず情報取集が早い。
「まあ、それに魔具だと使用範囲の指定を部屋を変えるたびにしないと正確に起動しないからねぇ。
確かに面倒くさいよね、あれ」
シャルロが付け加えた。
魔具は、『起点から定義した範囲』もしくは『あらかじめ定義した区域』で起動する。
防寒・防御結界は本人の周囲に発生すればいいので問題ないが、虫除けとなると本人の側に寄ってこなくても部屋の壁を百足が走り回っていては精神的苦痛が大きすぎる。
そこで確実に部屋に虫が来ない様にしたい場合・・・部屋の半径よりも有効範囲が大きい魔具を展開させるか、部屋の範囲を魔具に定義する必要がある。
家の中で使う部屋全てに専用の魔具を買うのでない限り、日々の営みの流れで部屋を移動するたびに魔具の有効範囲を定義し直すハメになり、かなり面倒だ。
その点、虫除け香ならば扉を閉めれば大体のサイズで虫の嫌う香りを充填させて虫を排除するし、予め香を焚いておけば3刻程度は効果が残るのでお手軽なのだ。
とは言え。
虫除けの香が全ての虫に効くわけではないし、たまに鈍感な虫が迷い込むこともある。
魔具の方がちゃんと起動させておけばそう言う間違いが起きにくい。
もっとも、指定していない種類の虫に対しては効きが弱いらしいが。
「つまり、俺たちが考える必要があるのは必ずしも効果を上げたり魔力消費量を減らすことではなく、有効範囲をがっつり広げるか、範囲定義をもっと楽にするかと言うことか」
まあ、有効範囲をがっつり広げるために魔力消費量を多くしすぎたら稼働費が高くつきすぎて売れないだろうが。
アレクが肩を竦める。
「まあ、そうだが。
まずは入手した魔術回路を試作して効果の程を確かめないことにはな。
香と同じ程度には虫除けが出来ないと話にもならん」
そうなんだよなぁ。
そして効果を確かめるには、虫が寄ってくる場所に設置してみる必要がある。
・・・アレクの知り合いが、百足に詳しい上にテストもやってくれる人材である事を祈ろう。
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