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卒業後
226 星暦553年 紫の月 29日 船探し(9)
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途中からアレクに視点が移ります
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岸につきヴァナールに別れを告げた後、今晩のうちにやっておくべき事を相談した。
「俺とシャルロで引き揚げ屋協会に行って船の名前を探して積荷目録を書き写してくるから、アレクはその間にセビウス氏と相談して船を明日持ち込めるか確認しておいてくれよ。
あと、時間がありそうだったら学院長にでもこういう場合の魔道具の研究って魔術院に持ち込むべきか、それとも魔術学院の魔道具の先生にでも話を持って行く方がいいのか相談してみてくれないか?」
暫し考えてからアレクが頷く。
「そうだな。船のサイズはアルタルト号より一回り半小さいと言うところかな?
極端にサイズに違いはないから前回の倉庫と同じぐらいという心づもりで準備すれば良いだろうし」
「あ、その前にそこら辺の屋台で軽く食べていこうよ。こんなにお腹空いてたら、調べ事にも集中できないよ」
シャルロが近くの屋台を指して提案した。
うむ。ぶれない。
まあ、確かに調べ事はそれなりに時間が掛るだろうから、軽く空腹感を紛らわせておく方が良いだろう。
串焼きを囓りながら引き揚げ屋《サルベージャー》協会へ向かう。
シャルロも大分俺に影響されてお行儀が悪くなってきたよなぁ。
うむ。子供の成長を見るようで嬉しいぞ、シャルロよ。
「こんばんは~」
シャルロがノンビリと受付嬢へ声を掛ける。
「オレファーニ侯爵家のシャルロ・オレファーニだけど、船首像を調べたいんで、台帳を見せてくれる?」
おや?
親の爵位を振りかざすなんて珍しい。
どうしたんだろ?
ありがたいことに効き目は覿面だった。
ぴっと受付嬢の背筋が伸びる。
「早速とって参ります。あちらの机にお持ちしますのでお待ち下さいませ」
机に向かいながらシャルロを見下ろす。
「どうしたの?親のこと言うなんて珍しいね」
シャルロが肩を竦めた
「アレクが、もしも何か見つかった場合は爵位を言っておくと変なことを企む人間が減って時間の節約になるよって前言っていたんだ。
別に襲われたって僕たちならどうとでもなるけど、現実的に言って侯爵の息子が襲われたりしたらこの街の代官が目の色を変えて犯人を罰するだろうから最初からそんなこと考えないように警告してあげる方が親切だって言われてね」
なるほど。
誰かが大怪我したならまだしも、単に襲われて撃退しただけだったら代官まで話がいかないと思うが、面倒な思いはしないで済むならその方が良い。
相手に可哀想だからというアレクの説得は効き目があったようだ。
「お待たせいたしました。こちらの2冊になります。閲覧が終わりましたら受付までお返し下さい」
受付嬢がファイルを2冊持ってきた。
おや。
去年来たときは分厚いファイル1冊だったが、2冊に分けたのか。
量も増えたのだろうか?
今時沈む船がそうそうあるとは思えないが。
どちらにせよ、2冊の方が手分けして探しやすいから助かるけど。
「じゃあ、僕こっちをみるからウィルはそっちのお願いね」
スケッチを二人の間に立てて、シャルロがファイルの1つを手に取った。
俺ももう一冊を手に取り、シャルロのスケッチをもう一度見直してからページをめくり始めた。
◆◆◆◆
>>サイド アレク
「セビウス兄さん?」
通信機が繋がって声を掛けたら、向こうで一瞬の沈黙の後に、爆笑が聞こえてきた。
『お前ら、また沈没船を見つけたのか?!』
「おや。よく分かりましたね?
アドリアーナ号のことの報告だと思わなかったのですか?」
何も言う前から爆笑されるほど自分が分かりやすかったとは思わなかったが。
名前しか言っていないのだから、分かりやすいも何もあったものでは無いぞ。
『アドレアーナ号が見つかったならフェルダンの方に報告しているだろう?
俺に態々連絡する必要などないから、聞くとしたらフェルダン経由だと思っていたからな。
俺に対してウキウキした声で連絡を取るとしたら、沈没船が見つかったからしか考えられないじゃないか!
しっかしお前ら、本当に運が良いな!!』
幸運と言うか、腕が良いと言うか。
まあ、両方かな?
いくらシャルロとウィルのお陰で効率的に捜索できると言っても、これだけ広い海底で価値のある沈没船を探している範囲内にある確率というのはそれ程高くはないだろうかな。
「船名は今、シャルロとウィルが調べているところですがサイズとしてはアルタルト号より一回り半ぐらい小さい感じですね。
客船ではなく、貨物船です。貨物室が小さく分かれていて、少なくとも5室には磁器と魔道具と思われる物が入っていました」
『磁器か!良いな!!
・・・魔道具はどうなのか知らんが。
海に浸かっていても使える物なのか?』
「私もそこまでは詳しくないので、魔術学院の教師にでもちょっと相談してみます。
それはともかく、取り敢えず今回は他にも船のことを知る人間が発生してしまうのでさっさと王都に動かしておきたいのですが、倉庫は既に確保してあるのですか?」
『おう、準備万端だ。
西側のウエテルン通り沿いの倉庫を確保してある』
ウエテルン通りか。魔術学院からも通いやすい場所だから、丁度良いかもしれない。
「分かりました、明日がちょうど休養日なので明日、そちらに運び込みますね。
警備の手配をお願いします」
何点か兄と話し合った後、魔術学院のニルキーニ教師へ通信機を繋ぐ為の。魔石を取り出す。
ウィルは学院長に相談すればいいと言っていたが、何故かあの方と親しくしているウィルならともかく、普通の魔術師は特級魔術師であるハートネット師に気軽に通信機で相談など出来ない。
何か礼の品を持って事前に約束をとってお伺いするというのならまだしも。
幸い、ニルキーニ教師なら通信機を売りつけた時にも「何か面白いことがあったら教えろ」と連絡先を貰っているし、この時間に通信機で連絡しても構わないだろう。
アルタルト号を見つけた時の話を聞いた際にももの凄く興味を持っていたし、魔道具らしき物があったと聞いたら、誰かを紹介どころか、授業を放り出して自分が出てきそうだ。
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岸につきヴァナールに別れを告げた後、今晩のうちにやっておくべき事を相談した。
「俺とシャルロで引き揚げ屋協会に行って船の名前を探して積荷目録を書き写してくるから、アレクはその間にセビウス氏と相談して船を明日持ち込めるか確認しておいてくれよ。
あと、時間がありそうだったら学院長にでもこういう場合の魔道具の研究って魔術院に持ち込むべきか、それとも魔術学院の魔道具の先生にでも話を持って行く方がいいのか相談してみてくれないか?」
暫し考えてからアレクが頷く。
「そうだな。船のサイズはアルタルト号より一回り半小さいと言うところかな?
極端にサイズに違いはないから前回の倉庫と同じぐらいという心づもりで準備すれば良いだろうし」
「あ、その前にそこら辺の屋台で軽く食べていこうよ。こんなにお腹空いてたら、調べ事にも集中できないよ」
シャルロが近くの屋台を指して提案した。
うむ。ぶれない。
まあ、確かに調べ事はそれなりに時間が掛るだろうから、軽く空腹感を紛らわせておく方が良いだろう。
串焼きを囓りながら引き揚げ屋《サルベージャー》協会へ向かう。
シャルロも大分俺に影響されてお行儀が悪くなってきたよなぁ。
うむ。子供の成長を見るようで嬉しいぞ、シャルロよ。
「こんばんは~」
シャルロがノンビリと受付嬢へ声を掛ける。
「オレファーニ侯爵家のシャルロ・オレファーニだけど、船首像を調べたいんで、台帳を見せてくれる?」
おや?
親の爵位を振りかざすなんて珍しい。
どうしたんだろ?
ありがたいことに効き目は覿面だった。
ぴっと受付嬢の背筋が伸びる。
「早速とって参ります。あちらの机にお持ちしますのでお待ち下さいませ」
机に向かいながらシャルロを見下ろす。
「どうしたの?親のこと言うなんて珍しいね」
シャルロが肩を竦めた
「アレクが、もしも何か見つかった場合は爵位を言っておくと変なことを企む人間が減って時間の節約になるよって前言っていたんだ。
別に襲われたって僕たちならどうとでもなるけど、現実的に言って侯爵の息子が襲われたりしたらこの街の代官が目の色を変えて犯人を罰するだろうから最初からそんなこと考えないように警告してあげる方が親切だって言われてね」
なるほど。
誰かが大怪我したならまだしも、単に襲われて撃退しただけだったら代官まで話がいかないと思うが、面倒な思いはしないで済むならその方が良い。
相手に可哀想だからというアレクの説得は効き目があったようだ。
「お待たせいたしました。こちらの2冊になります。閲覧が終わりましたら受付までお返し下さい」
受付嬢がファイルを2冊持ってきた。
おや。
去年来たときは分厚いファイル1冊だったが、2冊に分けたのか。
量も増えたのだろうか?
今時沈む船がそうそうあるとは思えないが。
どちらにせよ、2冊の方が手分けして探しやすいから助かるけど。
「じゃあ、僕こっちをみるからウィルはそっちのお願いね」
スケッチを二人の間に立てて、シャルロがファイルの1つを手に取った。
俺ももう一冊を手に取り、シャルロのスケッチをもう一度見直してからページをめくり始めた。
◆◆◆◆
>>サイド アレク
「セビウス兄さん?」
通信機が繋がって声を掛けたら、向こうで一瞬の沈黙の後に、爆笑が聞こえてきた。
『お前ら、また沈没船を見つけたのか?!』
「おや。よく分かりましたね?
アドリアーナ号のことの報告だと思わなかったのですか?」
何も言う前から爆笑されるほど自分が分かりやすかったとは思わなかったが。
名前しか言っていないのだから、分かりやすいも何もあったものでは無いぞ。
『アドレアーナ号が見つかったならフェルダンの方に報告しているだろう?
俺に態々連絡する必要などないから、聞くとしたらフェルダン経由だと思っていたからな。
俺に対してウキウキした声で連絡を取るとしたら、沈没船が見つかったからしか考えられないじゃないか!
しっかしお前ら、本当に運が良いな!!』
幸運と言うか、腕が良いと言うか。
まあ、両方かな?
いくらシャルロとウィルのお陰で効率的に捜索できると言っても、これだけ広い海底で価値のある沈没船を探している範囲内にある確率というのはそれ程高くはないだろうかな。
「船名は今、シャルロとウィルが調べているところですがサイズとしてはアルタルト号より一回り半ぐらい小さい感じですね。
客船ではなく、貨物船です。貨物室が小さく分かれていて、少なくとも5室には磁器と魔道具と思われる物が入っていました」
『磁器か!良いな!!
・・・魔道具はどうなのか知らんが。
海に浸かっていても使える物なのか?』
「私もそこまでは詳しくないので、魔術学院の教師にでもちょっと相談してみます。
それはともかく、取り敢えず今回は他にも船のことを知る人間が発生してしまうのでさっさと王都に動かしておきたいのですが、倉庫は既に確保してあるのですか?」
『おう、準備万端だ。
西側のウエテルン通り沿いの倉庫を確保してある』
ウエテルン通りか。魔術学院からも通いやすい場所だから、丁度良いかもしれない。
「分かりました、明日がちょうど休養日なので明日、そちらに運び込みますね。
警備の手配をお願いします」
何点か兄と話し合った後、魔術学院のニルキーニ教師へ通信機を繋ぐ為の。魔石を取り出す。
ウィルは学院長に相談すればいいと言っていたが、何故かあの方と親しくしているウィルならともかく、普通の魔術師は特級魔術師であるハートネット師に気軽に通信機で相談など出来ない。
何か礼の品を持って事前に約束をとってお伺いするというのならまだしも。
幸い、ニルキーニ教師なら通信機を売りつけた時にも「何か面白いことがあったら教えろ」と連絡先を貰っているし、この時間に通信機で連絡しても構わないだろう。
アルタルト号を見つけた時の話を聞いた際にももの凄く興味を持っていたし、魔道具らしき物があったと聞いたら、誰かを紹介どころか、授業を放り出して自分が出てきそうだ。
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