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卒業後
575 星暦555年 翠の月 29日 映像魔道具の進歩形?(2)
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「ぼんやりした記憶だとぼんやりした映像になるんだねぇ」
特許関連で見つかった回路と、最初に記録用映像魔道具を造ったメルタル師が残した資料を元に取り敢えず自分の記憶から魔石に映像を記録して他の人間にも見えるようにする魔道具を造ってみたのだが・・・。
試しにシャルロの結婚式の時の映像を使ってやってみたところ、かなりぼんやりとした映像になった。
しかも、俺とアレクでは作った映像に出てくる対象の鮮明さも違う。
「見た人間の興味によってこうも記憶された映像が違ってくるとは思わなかったな」
アレクが俺の映像と自分の映像を見比べながら興味深げにつぶやいた。
そう。
アレクの映像ではシャルロやケレナの服についているレースや装飾品、周りの貴族とかの顔がそこそこはっきり映っているのに対し、俺の映像では顔や服装はぼんやりとしか映っていない代わりに宝石と武器関係がはっきりと映っている。
う~ん。
これって同じ映像をシャルロが第三者の立場から見ていたら、何が記憶に残っていたのか興味があるところだなぁ。
「しかも20日近く経つと大分記憶が薄れるんだな。
思い出の風景を映像に残しましょうという売り文句はちょっと厳しいかもなぁ・・・」
記憶を魔石に記録して誰にでも見れる映像として保存できる魔道具は最初に思い立ったのはシャナを探している時に話を聞いて回った際のことだったが、現実的な話として誘拐事件はそうそうしょっちゅう起きる訳ではないし、起きたとしてもその調査をする警備隊なり審議官なりに魔道具を買いまくるほどの予算がある訳ではない。
まあ、軍の情報部ぐらいなら欲しがるかもしれないし、遠出していた社員や船乗りからでも他国の情報を得たい商会なんかも興味があるかもしれないが・・・現実的に数が捌けそうなのは金持ちの老人相手にでも若い時の思い出のシーンを見えるようにしないかと提案するつもりだったのだ。
だが。
20日程度でこれだけ記憶が劣化するとなると、年より連中に『若い頃の思い出をもう一度見ませんか?』として売り込むには難がある。
「催眠術みたいな過去の記憶を鮮明にする魔術ってあったっけ?」
シャルロが首をかしげながら尋ねた。
「あ~。
以前、どこかの学会で発表された記録を見た気がするが・・・確か、記憶を呼び覚ます為に色々話しかける段階で記憶そのものが誘導されやすいという問題があった気がする」
アレクが眉をひそめながら考えこみ、やがて答えた。
「誘導されやすいって記憶をちょっと変えちゃうってことか?」
まあ、確かに記憶なんてそれなりにいい加減なものだ。
裏業界の仕事をして居た頃だって、標的の屋敷での日々の人の流れや警備について情報を調べるにしても、『どうなっていたのか、言ってくれ』と尋ねた場合と、『XXなっていたか?』とこちらの予想に基づいた質問をしてしまった場合とで驚くほど答えが違っていたものだ。
最初の頃は自分の集めた情報の正確さを確認する為に『XXなっていたか?』という聞き方をしたせいで相手に合意されて危ない思いをしたことが多々あったものだ。
文句を言ったら『言われたらそんな感じだったかな~と思ったんだよ』と答えられることが何度もあり、『どうなっているのか言ってくれ』方式に変えたら『はっきり覚えていない』と言われることは増えたものの間違えた答えを教えられる回数は減った。
「まあ、昔の思い出だとしたら勝手に頭の中で美化しちゃった映像を記録してくれても構わないけど・・・事件とかの調査に使う場合に警備兵や審議官の思い込みで誘導できちゃうようじゃあ困るな」
それこそ、警備兵や審議官に都合が良い様に誘導した記憶を映像化できてしまうようになったら裏社会の人間を嵌める為に俺たちの魔道具が使われかねない。
「どのくらい記憶を誘導して捏造できちゃうか、試してみようか?」
シャルロが立ち上がりながら提案した。
そうだな。
比較的直近の記憶と、かなり昔の記憶とでそれぞれ実験してみるか。
特許関連で見つかった回路と、最初に記録用映像魔道具を造ったメルタル師が残した資料を元に取り敢えず自分の記憶から魔石に映像を記録して他の人間にも見えるようにする魔道具を造ってみたのだが・・・。
試しにシャルロの結婚式の時の映像を使ってやってみたところ、かなりぼんやりとした映像になった。
しかも、俺とアレクでは作った映像に出てくる対象の鮮明さも違う。
「見た人間の興味によってこうも記憶された映像が違ってくるとは思わなかったな」
アレクが俺の映像と自分の映像を見比べながら興味深げにつぶやいた。
そう。
アレクの映像ではシャルロやケレナの服についているレースや装飾品、周りの貴族とかの顔がそこそこはっきり映っているのに対し、俺の映像では顔や服装はぼんやりとしか映っていない代わりに宝石と武器関係がはっきりと映っている。
う~ん。
これって同じ映像をシャルロが第三者の立場から見ていたら、何が記憶に残っていたのか興味があるところだなぁ。
「しかも20日近く経つと大分記憶が薄れるんだな。
思い出の風景を映像に残しましょうという売り文句はちょっと厳しいかもなぁ・・・」
記憶を魔石に記録して誰にでも見れる映像として保存できる魔道具は最初に思い立ったのはシャナを探している時に話を聞いて回った際のことだったが、現実的な話として誘拐事件はそうそうしょっちゅう起きる訳ではないし、起きたとしてもその調査をする警備隊なり審議官なりに魔道具を買いまくるほどの予算がある訳ではない。
まあ、軍の情報部ぐらいなら欲しがるかもしれないし、遠出していた社員や船乗りからでも他国の情報を得たい商会なんかも興味があるかもしれないが・・・現実的に数が捌けそうなのは金持ちの老人相手にでも若い時の思い出のシーンを見えるようにしないかと提案するつもりだったのだ。
だが。
20日程度でこれだけ記憶が劣化するとなると、年より連中に『若い頃の思い出をもう一度見ませんか?』として売り込むには難がある。
「催眠術みたいな過去の記憶を鮮明にする魔術ってあったっけ?」
シャルロが首をかしげながら尋ねた。
「あ~。
以前、どこかの学会で発表された記録を見た気がするが・・・確か、記憶を呼び覚ます為に色々話しかける段階で記憶そのものが誘導されやすいという問題があった気がする」
アレクが眉をひそめながら考えこみ、やがて答えた。
「誘導されやすいって記憶をちょっと変えちゃうってことか?」
まあ、確かに記憶なんてそれなりにいい加減なものだ。
裏業界の仕事をして居た頃だって、標的の屋敷での日々の人の流れや警備について情報を調べるにしても、『どうなっていたのか、言ってくれ』と尋ねた場合と、『XXなっていたか?』とこちらの予想に基づいた質問をしてしまった場合とで驚くほど答えが違っていたものだ。
最初の頃は自分の集めた情報の正確さを確認する為に『XXなっていたか?』という聞き方をしたせいで相手に合意されて危ない思いをしたことが多々あったものだ。
文句を言ったら『言われたらそんな感じだったかな~と思ったんだよ』と答えられることが何度もあり、『どうなっているのか言ってくれ』方式に変えたら『はっきり覚えていない』と言われることは増えたものの間違えた答えを教えられる回数は減った。
「まあ、昔の思い出だとしたら勝手に頭の中で美化しちゃった映像を記録してくれても構わないけど・・・事件とかの調査に使う場合に警備兵や審議官の思い込みで誘導できちゃうようじゃあ困るな」
それこそ、警備兵や審議官に都合が良い様に誘導した記憶を映像化できてしまうようになったら裏社会の人間を嵌める為に俺たちの魔道具が使われかねない。
「どのくらい記憶を誘導して捏造できちゃうか、試してみようか?」
シャルロが立ち上がりながら提案した。
そうだな。
比較的直近の記憶と、かなり昔の記憶とでそれぞれ実験してみるか。
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