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卒業後
569 星暦555年 翠の月 4日 人探し(5)
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「マジかよ。
子供がいる」
シェフィート商会に所在を確認したドルゲダナ伯爵本邸に来てみた俺たちだったが・・・誰一人として、流石にアファル王国の財務長官の本邸に誘拐された子供がいるとは思っていなかった。
いやだってさぁ。
幾ら貴族と平民と言ったって、誘拐は立派な重犯罪なんだぜ??
例え裏社会の人間でも自分に簡単につながるような場所には誘拐した子供を連れて行かない。体面が何よりも重要な貴族にとって貴族街にある本邸なんて問題外だろう。
それこそさりげなく使用人でもドルゲダナ伯爵夫人の居場所を確認出来たら・・・という思いで来てみたのだが、なんとドルゲダナ伯爵家の王都の本邸で子供の存在が心眼《サイト》で確認できてしまった。
「・・・伯爵夫人はちょっと精神的におかしいのかもしれないな。
何か気に入らないことが有った時の言動が異常なほどに苛烈だという噂は商会の中でも聞いたことはあったが・・・基本的に伯爵があとから損害額以上に補償してくれていたのであまり商業ギルドでは問題になってはいなかったのだが、状況が悪化しているのかもしれない」
アレクがため息をつきながら呟いた。
すれ違っただけの赤の他人の子供を攫って自分の家に連れ込んだんだ。
確かに伯爵夫人の頭がおかしい可能性は高い。
「で、どうする?
今晩忍び込んでシャナちゃんを連れだしても良いが・・・連れ出すだけだったらまたシャナちゃんを狙う可能性があるよな?」
もしくは他の子供を攫うか。
どういう目的でシャナちゃんを誘拐しているのか不明だが、いい加減に伯爵夫人の行動を制限してもらわないと周りにとって危険極まりないだろう。
とは言え、相手は財務長官の妻だからなぁ・・・。
財務長官の政敵にでも垂れ込めば一気に夫もろとも失脚させてくれるかもしれないが、財務長官を失脚させることがプラスになるかは分からない。
他国との争いやら王太子の結婚式やらでここ数年は色々国による出費がかさんでいるはずなのに、増税の話とかは特に出て来ていないのだ。
つまり、それなりに財務長官の腕がいいのではないかと思われる。
まあ、もしかしたら国王が有能で財務長官は単に言われたことを執行しているだけの誰でも代替できる文官である可能性もあるが。
「う~ん、下手に父上や兄上に話を持っていくと政治的な影響が大きくなりすぎる可能性があるから・・・学院長にでも頼んでみない?」
シャルロが暫し考えてから、提案した
ふ~ん。
何かおっとりしていてあまり政治的活動をしている印象がないシャルロの家族でも、財務長官の弱みを握っちまうと不味いのか。
良く分からんが、面倒なこった。
「分かった。
取り敢えず子供の顔を確認してから、魔術学院まで行こうか」
学院長に協力を頼んで踏み込んだのに、実は本邸に居るのはドルゲダナ伯爵家ゆかりの子供だったなんてことが判明したら目も当てられない。
取り敢えず、アレクに否視《ハイド》の術を俺へ掛けてもらい、俺は浮遊《レヴィア》の術を使って体を動かさずにそっと子供の姿が心眼《サイト》に視える部屋へと向かった。
とは言え、カーテンが閉めてあるので外からでは中は見えないんだけどね。
傍の窓から家の中に入り込み、否視《ハイド》を維持したまま部屋の外で天井に張り付いて待っていたら、暫くしたら何やらメイドっぽい人間が階段を上がってきて部屋の扉を開いた。
「昼ご飯です」
子供が逃げないようにか、手をつないでメイドが出てくる。
記録用魔道具でそっと子供の顔を記録してから、また傍の部屋の窓から外へ出た。
シャナちゃんに会ったことは無いが、養護所で泣いていたゼリアちゃんにそっくりだったから、誘拐されたゼナの子供であることはほぼ確実であるだろう。
まあ、ドルゲダナ伯爵夫人が何らかの理由であのタイプの顔に物凄く執着してそっくりな子を誘拐した可能性も皆無ではないだろうが、可能性としては限りなく低いと思う。
どちらにせよ、魔道具の映像をゼナに見せればすぐに分かることだ。
それがすんだら学院長に相談だな。
子供がいる」
シェフィート商会に所在を確認したドルゲダナ伯爵本邸に来てみた俺たちだったが・・・誰一人として、流石にアファル王国の財務長官の本邸に誘拐された子供がいるとは思っていなかった。
いやだってさぁ。
幾ら貴族と平民と言ったって、誘拐は立派な重犯罪なんだぜ??
例え裏社会の人間でも自分に簡単につながるような場所には誘拐した子供を連れて行かない。体面が何よりも重要な貴族にとって貴族街にある本邸なんて問題外だろう。
それこそさりげなく使用人でもドルゲダナ伯爵夫人の居場所を確認出来たら・・・という思いで来てみたのだが、なんとドルゲダナ伯爵家の王都の本邸で子供の存在が心眼《サイト》で確認できてしまった。
「・・・伯爵夫人はちょっと精神的におかしいのかもしれないな。
何か気に入らないことが有った時の言動が異常なほどに苛烈だという噂は商会の中でも聞いたことはあったが・・・基本的に伯爵があとから損害額以上に補償してくれていたのであまり商業ギルドでは問題になってはいなかったのだが、状況が悪化しているのかもしれない」
アレクがため息をつきながら呟いた。
すれ違っただけの赤の他人の子供を攫って自分の家に連れ込んだんだ。
確かに伯爵夫人の頭がおかしい可能性は高い。
「で、どうする?
今晩忍び込んでシャナちゃんを連れだしても良いが・・・連れ出すだけだったらまたシャナちゃんを狙う可能性があるよな?」
もしくは他の子供を攫うか。
どういう目的でシャナちゃんを誘拐しているのか不明だが、いい加減に伯爵夫人の行動を制限してもらわないと周りにとって危険極まりないだろう。
とは言え、相手は財務長官の妻だからなぁ・・・。
財務長官の政敵にでも垂れ込めば一気に夫もろとも失脚させてくれるかもしれないが、財務長官を失脚させることがプラスになるかは分からない。
他国との争いやら王太子の結婚式やらでここ数年は色々国による出費がかさんでいるはずなのに、増税の話とかは特に出て来ていないのだ。
つまり、それなりに財務長官の腕がいいのではないかと思われる。
まあ、もしかしたら国王が有能で財務長官は単に言われたことを執行しているだけの誰でも代替できる文官である可能性もあるが。
「う~ん、下手に父上や兄上に話を持っていくと政治的な影響が大きくなりすぎる可能性があるから・・・学院長にでも頼んでみない?」
シャルロが暫し考えてから、提案した
ふ~ん。
何かおっとりしていてあまり政治的活動をしている印象がないシャルロの家族でも、財務長官の弱みを握っちまうと不味いのか。
良く分からんが、面倒なこった。
「分かった。
取り敢えず子供の顔を確認してから、魔術学院まで行こうか」
学院長に協力を頼んで踏み込んだのに、実は本邸に居るのはドルゲダナ伯爵家ゆかりの子供だったなんてことが判明したら目も当てられない。
取り敢えず、アレクに否視《ハイド》の術を俺へ掛けてもらい、俺は浮遊《レヴィア》の術を使って体を動かさずにそっと子供の姿が心眼《サイト》に視える部屋へと向かった。
とは言え、カーテンが閉めてあるので外からでは中は見えないんだけどね。
傍の窓から家の中に入り込み、否視《ハイド》を維持したまま部屋の外で天井に張り付いて待っていたら、暫くしたら何やらメイドっぽい人間が階段を上がってきて部屋の扉を開いた。
「昼ご飯です」
子供が逃げないようにか、手をつないでメイドが出てくる。
記録用魔道具でそっと子供の顔を記録してから、また傍の部屋の窓から外へ出た。
シャナちゃんに会ったことは無いが、養護所で泣いていたゼリアちゃんにそっくりだったから、誘拐されたゼナの子供であることはほぼ確実であるだろう。
まあ、ドルゲダナ伯爵夫人が何らかの理由であのタイプの顔に物凄く執着してそっくりな子を誘拐した可能性も皆無ではないだろうが、可能性としては限りなく低いと思う。
どちらにせよ、魔道具の映像をゼナに見せればすぐに分かることだ。
それがすんだら学院長に相談だな。
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