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卒業後
563 星暦555年 翠の月 1日 台所用魔道具(6)
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ドリアーナの料理長の視点の話です。
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>>>サイド ドリアス・ホンフィール (ドリアーナ料理長)
「下準備用の魔道具?」
時間を欲しいと言っていた副料理長のゼナと話すために少し早めに料理場に行ったら、何やら細切れにした野菜や混ぜ合わせた焼き菓子のベース、泡立てた生クリーム等が何やら魔道具らしき物と一緒に調理台の上に置いてあった。
「ええ、先日の公爵家での祝賀会の手伝いに来ていたデルブ夫人から声をかけられたのですが、彼女の新しい雇い主になったオレファーニ侯爵の三男が魔道具の開発をやっているそうで。
最近は料理の下準備などに使える魔道具を開発しているので、使い心地を確認して共同開発みたいな形で何か改善して欲しい点が無いか教えてくれないかと」
魔道具で料理が作れるとは思わないが・・・まあ、下準備では技術よりも筋肉を要する単純作業もある程度はある。
だが・・・。
「ウチとの共同開発として魔道具を売り出すのか?」
折角王宮を辞めて、自分の城として店を開いたのだ。
変な貴族の商品の売り出しなんぞにウチの名前を関わらせたくない。
ゼナが首を横に振った。
「こちらが共同開発として名前を売りたいとか、利益の一部が欲しいというのならそれも構わないという話ですが、主な目的な魔道具の改造中にこちらに来て賄い食にありつく権利が欲しいのだとか」
「・・・オレファーニ侯爵の三男がか?」
高位貴族の息子にしては妙な要望だ。
侯爵の息子だったら父親に頼めば普通に店に予約を入れて食べられるだろうに。
魔道具の開発なんていうことをやっていること自体は貴族の暇つぶしとしてありえなくはないし、貴族のバカ息子が勝手にこちらに対して『XXをしてやるからただで食事させろ』と要求してくることもちょくちょくある。
だが、賄い食を要求されたのは初めてだ。
「元々、オレファーニ家はおっとりしている家系で権力をかさに着て無理な要求を通そうとするような貴族ではありませんよ。
あそこの三男は魔術学院時代の平民の学友二人と魔道具開発で生計を立てているそうです。
今回の料理関連の魔道具を作る話というのも、3人組のうちの平民の魔術師の青年がドリアーナに来て感激したのが始まりだということです」
くつくつと笑いながらゼナが説明した。
ドリアーナに来て感激したのが始まりって・・・。
「ウチに来て感激して、料理をしようと思いたったのか?」
「いえ、感激したものの、ドリアーナに普通に来店できるようになるのには時間がかかりすぎるから、ウチに役に立つような魔道具を開発して改善する為の話し合いに来るついでに賄い食にありつこうという計画らしいです」
まあ、魔術師が料理を学ぶよりは魔道具を作る方が正しいような気もしないでもないが・・・。
賄い食にありつくために新しく魔道具を開発するか、普通??
「・・・3人で組んでいるのに、誰も反対しなかったのか?」
「ウチの料理は美味しいですから」
ゼナが胸を張って答えた。
ふむ。
特に変な仕込みがある訳ではないのか。
「で、その魔道具というのはどうなのだ?
役に立ちそうか?」
「こちらが使って下準備してみた食材です。
舌触りとかちょっと気になる部分もありますが、ある意味幾らでも改善するのに時間をかけても構わないとあちらが言っているので、研究させてみるのも悪くないかもしれません」
調理台の上に出してあった食材を示しながらゼナが答えた。
まあ、賄い食を食わせることで入ったばかりの下働きの者でも素早くこちらが満足できる品質で下準備が出来るようになる魔道具が開発できるんだったら悪くはないかもしれないな。
「分かった。
会ってみよう」
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>>>サイド ドリアス・ホンフィール (ドリアーナ料理長)
「下準備用の魔道具?」
時間を欲しいと言っていた副料理長のゼナと話すために少し早めに料理場に行ったら、何やら細切れにした野菜や混ぜ合わせた焼き菓子のベース、泡立てた生クリーム等が何やら魔道具らしき物と一緒に調理台の上に置いてあった。
「ええ、先日の公爵家での祝賀会の手伝いに来ていたデルブ夫人から声をかけられたのですが、彼女の新しい雇い主になったオレファーニ侯爵の三男が魔道具の開発をやっているそうで。
最近は料理の下準備などに使える魔道具を開発しているので、使い心地を確認して共同開発みたいな形で何か改善して欲しい点が無いか教えてくれないかと」
魔道具で料理が作れるとは思わないが・・・まあ、下準備では技術よりも筋肉を要する単純作業もある程度はある。
だが・・・。
「ウチとの共同開発として魔道具を売り出すのか?」
折角王宮を辞めて、自分の城として店を開いたのだ。
変な貴族の商品の売り出しなんぞにウチの名前を関わらせたくない。
ゼナが首を横に振った。
「こちらが共同開発として名前を売りたいとか、利益の一部が欲しいというのならそれも構わないという話ですが、主な目的な魔道具の改造中にこちらに来て賄い食にありつく権利が欲しいのだとか」
「・・・オレファーニ侯爵の三男がか?」
高位貴族の息子にしては妙な要望だ。
侯爵の息子だったら父親に頼めば普通に店に予約を入れて食べられるだろうに。
魔道具の開発なんていうことをやっていること自体は貴族の暇つぶしとしてありえなくはないし、貴族のバカ息子が勝手にこちらに対して『XXをしてやるからただで食事させろ』と要求してくることもちょくちょくある。
だが、賄い食を要求されたのは初めてだ。
「元々、オレファーニ家はおっとりしている家系で権力をかさに着て無理な要求を通そうとするような貴族ではありませんよ。
あそこの三男は魔術学院時代の平民の学友二人と魔道具開発で生計を立てているそうです。
今回の料理関連の魔道具を作る話というのも、3人組のうちの平民の魔術師の青年がドリアーナに来て感激したのが始まりだということです」
くつくつと笑いながらゼナが説明した。
ドリアーナに来て感激したのが始まりって・・・。
「ウチに来て感激して、料理をしようと思いたったのか?」
「いえ、感激したものの、ドリアーナに普通に来店できるようになるのには時間がかかりすぎるから、ウチに役に立つような魔道具を開発して改善する為の話し合いに来るついでに賄い食にありつこうという計画らしいです」
まあ、魔術師が料理を学ぶよりは魔道具を作る方が正しいような気もしないでもないが・・・。
賄い食にありつくために新しく魔道具を開発するか、普通??
「・・・3人で組んでいるのに、誰も反対しなかったのか?」
「ウチの料理は美味しいですから」
ゼナが胸を張って答えた。
ふむ。
特に変な仕込みがある訳ではないのか。
「で、その魔道具というのはどうなのだ?
役に立ちそうか?」
「こちらが使って下準備してみた食材です。
舌触りとかちょっと気になる部分もありますが、ある意味幾らでも改善するのに時間をかけても構わないとあちらが言っているので、研究させてみるのも悪くないかもしれません」
調理台の上に出してあった食材を示しながらゼナが答えた。
まあ、賄い食を食わせることで入ったばかりの下働きの者でも素早くこちらが満足できる品質で下準備が出来るようになる魔道具が開発できるんだったら悪くはないかもしれないな。
「分かった。
会ってみよう」
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