シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

559 星暦555年 青の月 16日 結婚式の映像記録(3)

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ウィルの視点に戻ります

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「よし、その調子で敷地を一周だ」
今回の件の担当になった軍部のアウヴァーン少佐とやらが馬車の御者とその周りを馬で進む近衛兵に声をかけた。

シェフィート商会経由で伝手のある軍部に結婚式の映像の記録と画像集の販売の可否を打診したところ、映像そのものの魔石を王太子に献上せよと言われ、利益も3割は王家のものとなったが、取り敢えず映像を記録すること自体には許可が下りた。

ただし、やはり小型にしても空滑機《グライダー》を場所の後ろに浮かべて動くのはみっともないので近衛兵の飾り旗の上に像に偽造して魔道具を設置せよと言われたのでその改造を必死で行い、やっと今日が試運転ということになったのだが・・・。

「・・・旗が段々斜めになってきてない?」
シャルロが遠ざかっていく近衛兵を見ながら呟いた。

「なってるな」
やはり普通の飾り旗の上に飾る像よりも重い上に、屋根のない豪華な馬車に座る王太子を映す為に魔道具を斜めに設置している為、重心がずれているようだ。

それでも兵士なのだ。
筋力で支えろよ!と思っていたのだが・・・馬に乗り、周囲を警戒しつつ更に普段と重心の違う旗を支えるのは中々難しいらしい。

途中で近衛兵も旗がずれていることに気づいて力づくで旗の角度を修正していたが・・・敷地を一周して戻ってきた時にはすっかり汗だくになっていた。

「・・・旗の固定方法を見直そう」
アウヴァーン少佐も旗の問題には気づいていたのか、帰ってきた近衛兵にそう声をかけた。

「あ、その間に映像を確認するので先に魔石を外させてください」
魔道具をつけておかなければ旗の固定方法の修正は出来ないが、中の魔石を外しても大して重さに違いは無いはず。

取り敢えず、今回固定した場所でちゃんと王太子が映っているのかをまず確認しなければ意味がない。

ということで魔石を外し、別の魔道具で映像を確認したのだが・・・。
「王太子から焦点がずれまくってるね」
「しかもガタガタ揺れてるし」
「王太子が映っている場面も暫くしたら飽きてくるし」

かなり問題ありまくりな感じだ。

飾り旗の握りの辺に印をつけて、それを王太子に向けるように努力してくれとお願いしてあったのだが・・・旗が傾き始めてからはそんなことに気を配る余裕もなかったのか、かなり関係ないところの映像が記録されている部分も多い。

また、ちゃんと王太子役の人間に焦点があたっている部分でも・・・ずっと同じ人間の顔を見ていても暫くしたら飽きが来る。

更に、馬の歩みに合わせて魔道具が動いていたので映像を見るとガクンガクンとなっているし。

まあ、俺たちはこの映像を元に一瞬の画像を取り出して画像集にするだけだから、揺れ動いていても構わないのだが・・・王太子ががっかりするかもしれない。

「どうせなら、周りの人とか綺麗に飾った街並みとかも映すように、魔道具を動かす?」
シャルロが提案した。

「撹拌機《ブレダー》の試作品で作った魔術回路を刻んだ回転する丸い板にこの記録用魔道具を設置したら周りも映せそうだな」
アレクが合意する。

ということで、至急材料をそろえて飾り旗の上に刺す動く円盤みたいのを作ってみた。

「ゆっくりと回るので、取り敢えずこの旗をまっすぐに固定しておいてもらえれば大丈夫なはずです」
と近衛兵に伝え、再度挑戦。

今度は飾り旗の固定もうまくいったのか、特に問題なく一周してきた。

「うまくいきそうですか?」
撮れた映像を確認していた俺たちに、アウヴァーン少佐が声をかけてきた。

「う~ん、パレードの時って王太子の馬車は道の真ん中を動くんですよね?」
シャルロが訊ねた。

そう。
近衛兵と王太子の距離と、近衛兵と道の間隔が同じでなければ、王太子を記録するように角度を設定された魔道具を回して映像を記録しても、面白そうな周りの様子は映らないのだ。

道路の表面や見物人の足元の映像なんぞを見るぐらいだったら、王太子の映像をずっと記録したほうがまだ意味がありそうだ。

「そうですな。
時折後ろから押されて道に飛び出してくる見物客もいますから、道の幅は多めにとっています」
アウヴァーン少佐が俺たちが見ていた魔道具の映像を覗き込みながら答えた。

「この映像ですが、水平に回るのではなく、斜めに回れませんか?
建物の窓から見物している人間も多いので、その様子も知ることが出来たらありがたいのですが」
アウヴァーン少佐の提案に、俺たちはまた魔道具を修正することになった。
これだったら動いている最中に沿道の見物客の様子も映る・・・はず。
水平でなく斜めに回るようにしたところ、また旗が倒れてきてしまったので重心を更に調整することになったが。

「う~ん、これでまあ良さそうだけどさ、王太子妃が殆ど映ってないけど良いのかな?」

何度も敷地の中を回りまくり、修正に修正を重ねて最終的に俺達もアウヴァーン少佐もそこそこ満足できる映像が出来て、さあ終わりとなった段階でふと気になったことを口にしたところ、全員が沈黙して俺を見つめてきた。

なんだよ。
ちょっとした素朴な疑問なだけじゃないか。

どうもシェイラは王太子よりも王太子妃の服とか髪型に興味があったみたいだったから、どうせならあちらの映像もあった方が評価が高いかなと思ったのだが・・・王太子の映像を記録する際に他の人間にも焦点をあてようと提案するのは不敬なのか??

「記録の角度が増えるのはこちらにとってはありがたいので、魔道具をもう一組準備していただけるのでしたら王太子の馬車を挟んで反対側の近衛兵にも同じような飾り旗を持たせましょう」
アウヴァーン少佐があっさりと答えた。

「結婚式って新婦の為のイベントだって言うしね」
「確かに、王太子の顔にも興味はあるだろうが、少なくとも女性陣は王太子妃に対する興味の方が大きいかもしれないな」
アウヴァーン少佐に続き、シャルロとアレクが俺の言葉に合意してくれた。

なんだよ。
合意するんだったら、さっきの変な沈黙は何だったんだ??



【後書き】
シャルロとアレクが沈黙したのは、唐変木のウィルが女性の興味に視点をおいた鋭い指摘をしたのに驚いていたから。
アウヴァーン少佐は、単にもう一つ映像用の魔道具を持たせる近衛兵を増やした場合のメリットとデメリットを考えていたから一瞬黙っていただけですw

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