シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
上 下
559 / 1,038
卒業後

558 星暦555年 青の月 13日 結婚式の映像記録(2)

しおりを挟む
王太子の視点です。

-----------------------------------------------------------------------------------------------
>>>サイド ウォルダ・ダルヌ・シベアウス・アファル

「殿下。
軍部より、とある商会が殿下の結婚式の様子を記録して画像集を発行してもよろしいかの伺いが来ております。
また、記録の為に小型の空滑機《グライダー》を馬車の後方に浮かべる必要があるとのことです」

筆頭秘書官のザブルグが仕事前の茶を飲んでいたら声をかけてきた。
「画像集?
何やら新しい魔道具を使って劇場の俳優の姿絵の写しが売りに出しているのは聞いたことがあるが・・・何故にそれが軍部経由で話が来るのだ??」

ザブルグが手元の書類を捲りながら答えた。
「件の商会が軍部に空滑機《グライダー》を販売しているところのようですな。
また、警備の問題点の検証の為に後で結婚式の映像が軍部に提供されることになっているそうです。
画像集に関しては勿論求められるだけの部数を王家にも献上いたしますとのことです」

ふむ。
結婚式においては花嫁との姿を宮廷画家に描かせることになっているが・・・確かにあの劇場で見かけた姿絵を簡単に作れるのだらそれも面白いかもしれない。
格式の問題があるから宮廷画家による肖像画も当然のことながら必要だが。
考えてみたら、滅多にない王家のイベントなのだ。
画像集をつくるというのは悪くない。むしろ、王家の報道官の方が考え付くべきだったな。

だが、結婚式の映像か・・・。
どの様なものになるのだ?
「その浮かべる小型の空滑機《グライダー》とやらと、結婚式の映像と画像集とやらのサンプルはあるのか?」

流石に言葉だけで言われても想像がつかない。
王家の画像集なのだ。
それなりの品質でなければ王家の権威に関わる。

「空滑機《グライダー》はこちらの形になるそうです。
当日は精霊と契約して動かすことになるとのことなので現時点では浮いていませんが」
ザブルグが中型犬程度の小さな空滑機《グライダー》モドキを部屋の入り口付近で待機していた部下に持ってこさせて示した。

ふむ。
空滑機《グライダー》ならば試作品が軍部に提供された時点で試してみたし、今も時折利用している。
あれを馬車の後ろに浮かべるなんて邪魔すぎるだろうと思っていたが、確かにこのサイズだったらばまあ馬車の後ろに浮かんでいてもそれほど違和感はないかもしれない。
「映像はこちらが試作品だそうです」
ザブルグが魔道具を机の上に置いて弄っていたと思ったら声をかけてきた。

突然目の前に何やら庭の周りを歩き回る若い男の映像が現れた。
映像は歩いている青年の周りをゆっくりと回りながらついていっているようで、小ぶりな家と素朴な庭が映像の中に現れては消えていく。

「・・・どうも見覚えがある気がするが。
誰だ、これは?」

「・・・魔術学院に行ったという、オレファーニ侯爵家の三男では?
若い頃の次期侯爵殿とよく似ておられます。
あそこの三男は確か水の上級精霊の愛し子だとの話ですし」
映像を暫く眺めていたザブルグが答えた。

ああ。
先日の王都汚染問題で働いてもらったオレファーニ家の三男か。
確かにあそこの家系の特徴が良く出ている。

疑問が解消されたことに満足して、映像を今一度眺める。
そこそこはっきりと対象となっている男も周囲の風景も見て取れる。
「中々面白そうだが・・・何故この映像その物を売り出さぬのだ?」

「魔石に記録される映像の写しは作れないそうです。
画像は魔石から専用の紙に出力してこの様な形で複写できるとのことですが」
売れっ子俳優の画像集を机の上に置きながらザブルグが答えた。

なるほど。

だが・・・王家が保持せぬ己の映像を臣下の者が持ち続けるというのもあまり気分が良くない。
第一、どうせなら将来子供とでも見てみるのも良いかも知れない。
ふむ。
「映像を記録した魔石その物も献上させよ。
代わりに、神殿の中での結婚の儀式も記録することを許す。
画像集は販売を許可するが、利益の3割は王家へ提供すること。また販売前に選んだ画像はこちらで確認する。
小型空滑機《グライダー》に関しては、魔道具を飾り旗にでも偽装して近衛兵に持たせられぬか、検討させよ」

幾ら通常の空滑機《グライダー》より小さいとは言え、これが馬車の後ろに浮かんでついてくるのはやはり興ざめだ。
この魔道具のサイズならば、飾り旗の上の像の代わりに刺しておいてもそれほど目立たないだろう。

それをパレードの間ずっと支えている近衛兵は大変だろうが。
まあ、どうせ飾り旗その物が馬に固定されているのだ。
大変なのは近衛兵ではなく馬かも知れぬな。


【後書き】
商業ギルド経由で話を持っていくとどこかに利権を奪われるかもとの危惧感から、空滑機《グライダー》の販売等でシェフィート商会が伝手のある軍部経由で話を持って行きました。
軍部にしても今後の参考のために結婚式の動画を事後であっても研究できるのならば得るものがあると、協力することに。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です

岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」  私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。  しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。  しかも私を年増呼ばわり。  はあ?  あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!  などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。  その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

処理中です...