シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

555 星暦555年 青の月 6日 台所用魔道具(3)

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「ねえデルブ夫人、お菓子を作る時に一番大変で技術が要らない体力勝負的な作業って何かな?」
シャルロが料理長に尋ねた。

別にお菓子を作る時に限らなくても良い気がするが、協力を求めるのがシャルロの料理人なのだ。
シャルロが好きなものから集中しても良いだろう。
・・・ついでにパディン夫人にも試作品の使い勝手を試してもらうために色々お菓子を焼いてもらっても良い事だし。

「大変で技術が要らなくて体力勝負的な作業、ねぇ・・・」
デルブ夫人が様々な作業工程を目に浮かべているのかのように目をすがめて台所を見回しながら呟いた。

「粉を混ぜて種にする過程かしら。
とは言え、体力がいるけどそれなりに技術も必要ですけどね」

あぁ、あの材料を色々と混ぜ込んでねとっとした液体に変える過程か。
考えてみたら、パディン夫人も家でケーキを作る際にちょっと大変だというようなことを言っていたかも。
つうか、シャルロはちょくちょく台所で甘いものを作っているパディン夫人と話をしているのだからそう言うことぐらい知っているだろうに。

「ああ、やっぱりそう?
あれって今住んでいる家の家政婦のパディン夫人がやっているのを見ていたら、こんな感じに腕を動かしていたと思うけど、そういう風な動きがずっと続くので大丈夫?
それとも混ぜている段階によって腕の動きを変える方が美味しくなるの?」
シャルロが腕を動かして見せながら尋ねた。

何だ、やっぱりちゃんと知っていたんじゃん。
しかも腕の動きまで覚えているとは、流石シャルロ。
甘いものにかける情熱は誰にも負けないな。

デルブ夫人も何やら宙で腕を動かし始めた。
「考えてみたら、一言で『混ぜる』と言っても、ケーキと生クリームでは元の状態が全然違うし、ケーキだって種類によって微妙に違いがありますね。
まあ、動きが違うというよりも速度が違うという方が大きい気がしますが」

へぇ~。
人が料理している場面なんて特に注意して見ていなかったが、同じ『混ぜる』にも違いがあるのか。

速度を変えるだけだったら動力となる魔力の強さの調整で何とかなりそうだが、動きのパターンそのものが違うとなったらちょっと難しいな。
というか、どうやって腕の動きを魔道具で再現するかをまず考えないとだが。
まずは一番使い道の多そうなパターンを何とか再現できないか実験する必要がありそうだ。

回転する動きだったら小さなファンみたいなので良いと思うが、あの腕の動きはファンの動きとはちょっと違う。
上にファンを設置してそれに棒でもつけて動かさせるか?
下手をしたら遠心力に加えて混ぜる物の負荷がかかるからかなり強い素材を使わないと壊れそうだが・・・。

あまり強い素材が必要だったら製造費が高くなりすぎて商品価値が下がるが、どうなんだろう?
粉を混ぜるのにかかる負荷ってどの程度なんだ?

取り敢えず、保存庫《フリッジ》に固定化の術を更に重ね掛けして中の食材の持ち具合がどう変わるかを確認している間に、色々試行錯誤してみるか。

つうか、ただでさえ保存庫《フリッジ》に入れれば食材が長く保存できるから、固定化の術で保存期間が更に長くなるかを確認するのにやたらと時間がかかりそうだな・・・。

まあ、考えてみたらやることが山ほどあるんのだ。取り敢えず食材に固定化の術をかけるとどうなるか試しておいて、結果を待っている間に他のことを先にやるか。

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