シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

554 星暦555年 青の月 6日 台所用魔道具(2)

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「ねえ、台所で使うような魔道具を開発したいとシャルロ達が言っているんだけど、お菓子を作るのにどんな魔道具があったら便利?」
シャルロ達の新居(予定)に行って料理長に聞き取りを行うことになったのだが、何故かケレナも一緒に話し合いに参加していた。
まあ、台所は奥さんの監督下にあるという話だからケレナを通すのが筋ってものなんだろうが、多分自分が食べたいものを作らせるのに何があるか便利かを聞きたいだけなんだろうな。

俺達としては別にお菓子を作るために便利な魔道具を作りたいわけじゃあないんだが・・・まあ、取り敢えずケレナが欲しい物に向けて開発を進めて、その間に料理長と親しくなってもっと話を聞けば良いんだし。

「魔道具ですか?
既にオーブンも火器《コンロ》も保存庫《フリッジ》も凍結庫《フリザー》もありますよ?」
シャルロ(というかケレナ)の料理長が首をかしげながら聞き返してきた。

ちなみに、シャルロ達の料理長はデルブ夫人という40代ぐらいの女性だ。
なんでも、ケレナの実家の副料理長だった人らしい。
菓子作りが得意でケレナが幼いころからお菓子作りに関してケレナの要求に基づいて色々研究開発してきたらしく、ケレナがどうしてもと頼み込んで引き抜いてきたそうだ。

お菓子が研究開発するものだというのは驚きだったが。
まあ、新しい魔道具だって工夫次第で色々と今までになかった機能が付与できるんだ。
お菓子だって材料や作り方のコンビネーションを変えれば新しくより美味しい物がつくれるんだろう。
多分。

「う~ん。
取り敢えず、日ごろ台所で色々作業をしていて、不便に思うことってない?
魔道具で解決できなくても動線を変えたりしたら改善できるかもしれないから、何でも言って」
シャルロが提案した。

そうなんだよな。
基本的に新しい魔道具っていうのは『あ~、これ不便だ!!!』という苛立ちから『こういう機能が欲しい』というアイディアに繋がる。
そうなるとやはり、台所で不便だと思うことを聞くのが一番正しい道だろう。

「不便なことですか?
そうですねぇ、やはり天候が悪くて収穫がうまくいかなかった場合に野菜や果物の値段があがったり、品質が下がるのが一番困りますね。
季節によって買いたい物が手に入らないのも残念ですし。
あとは・・・まあ、切ったり混ぜたりする作業がもっと早くできたら準備にかかる時間が短くできて、急ぐ時には良いでしょうね」
デルブ夫人が答えた。

「それって一般的な話じゃない。
お菓子作りの効率を上げるような何か、ない?」
ケレナが突っ込みを入れる。

いや、別にお菓子作りの効率向上でなく、一般的な調理全般での不便を聞きたいんで、今のでも良いんだけど?
とは言え、流石に天候と農作物の収穫に関してはどうしようもない。
いつか農家の人と協力して季節外れな農作物の収穫を可能にする魔道具を開発しても良いが、取り敢えずそれはちょっとスケールが大きすぎるので後回しだ。
しっかし、ある意味ケレナとシャルロってお似合い夫婦だね。
二人とも、お菓子にかける情熱が凄い。

そう思っていたらデルブ夫人が肩を竦めながら続けた。
「他には・・・そうですね、オーブンの中の温度が外から見て取れたら便利だと思いますね。
後はオーブンが直ぐに温まってくれたら予熱の手間が省けて時間が節約できるから便利でしょう。
まあ、この家には火器《コンロ》も保存庫《フリッジ》も凍結庫《フリザー》も最新式でそこそこ容量が大きい物がそろっているので、文句を言ったら罰が当たりますよ」

ははは。
流石シャルロ。
そこら辺には金を惜しまなかったようだ。

「あ~そうか、オーブンって中の鉄を温めて放射熱で調理するから、鉄を熱するのに時間がかかるのか。
直接魔道具で食材に熱を投射出来ないか、ちょっと試してみるね。
そうなった場合に普通のオーブンと温度の違いを確認する為にも、オーブンの中の熱を測れる装置があったら便利そうかも」
シャルロが頷きながら言った。

温度測定ねぇ。
どうするんだろう・・・。

そういえば。
「ちなみに、保存庫《フリッジ》の機能と固定化の術の効果って重ね掛けできるのか?
固定化の術を保存庫《フリッジ》の機能に重ね掛け出来るんだったら保存期間を延期出来ないか?」
ふと思ったことを提案した。

確か、保存庫《フリッジ》だと2日でダメになる食材が20日程度は持つようになると聞いたことがある。
便利な機能だが、旬の食物を別の季節に食べられるだけの効能はない。
固定化の術をかけることで何百年も前の建物やその他の物が現在まで形を保てるんだったら、食物だって強力に固定化の術をかけたらもっと保つようにならないか?

まあ、固定化の術を直接食物にかけた場合、料理する際にそれがどう作用するのか確認したほうが良いだろうが。

「ふむ。
意外とアイディアが出たね。
まずは保存期間の長期化、オーブンの加熱を早めることと温度確認の方法、後は食材の準備にかかる時間の短縮だっけ。
取り敢えず、どれか何とかできないか色々試してみようか」
アレクが手元のメモに目をやりながら話を纏めた。

意外とあっさり色々とアイディアが出てきたな。
まあ、そのうちのどれかを実用化できるかはまた別問題だけど。


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