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卒業後
548 星暦555年 紺の月 23日 総動員(5)
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ちょっとした公園を見つけたのでそこへアスカに迎えに来てもらい、家に戻ってからアンディに連絡したら・・・文句を言われた。
「裏切ったな~」
やっぱりあのまま魔術院に帰っていたら夜の確認作業が始まるまでこき使うつもりだったな。
「探知網の設置が全部終わってからの確認作業以外は俺がやらなきゃいけないことは無いんだろ?
夜になるっぽいから適当に家で軽く夕食を食べてから魔術院に行くよ。
食事に関しては、明日の昼に『デザルフォー』でフルコースをよろしくな。
もしも確認作業のスタートがもっと早くなりそうだったら通信機で連絡してくれ。
一応家にはいるようにするから、そうなったらサンドイッチでも持参して行くから」
「ずっと1日働きづめの上に夜までお前に付き合うことになる哀れな友人の手助けをしようと思わないのか、お前は。
そんな薄情な人間に育てた覚えはないぞ!」
アンディのふざけたコメントが通信機から返ってきた。
「お前に育てられた覚えはないっつうの。
それに、夜まで『俺に付き合う』ではなく『俺をこき使う』だろ?
第一、お前は王太子の結婚式対応でがっつり働くことで後からボーナスでももらえるんだろ?」
それに、日中の作業の手伝いとなったら『誰がどこを終わったか』を記録するような細かい事務作業になりそうだ。
冗談じゃない。
「友達甲斐の無い野郎だ。
じゃあまあ、15刻ぐらいに来てくれ。
それよりも早くなりそうだったら連絡するから絶対に連絡が取れるようにしておいてくれよ。
ちなみに空滑機《グライダー》は軍が貸してくれると言われたが、それでいいか?」
俺を巻き添えにするのを諦めたのか、アンディの声が普通に戻った。
う~ん。
空滑機《グライダー》ねぇ。
自分のを使う方が使い勝手が良さそうだよな。
水筒置き場とかも設置してあるし。
「ウチから自分の空滑機《グライダー》で行くから、王都に入って魔術院の庭に着地しても怒られないように軍や警備隊に話を通しておいてくれ」
「了解~」
◆◆◆◆
結局探知網の設置作業は予定よりも遅れたらしく、15刻に魔術院に行ったものの俺は1刻ぐらい待たされる羽目になった。
まあ、その時間を使って魔術回路の登録所に行ってそこの職員に新しい記録用魔道具を使って目録だけでも最新版の一覧を作って更新していけば魔術院側の管理も楽になるぞ~と唆すことが出来たけど。
「ほい」
アンディに渡された袋は思ったよりも重かった。
おい。
一体どれだけ位置追跡用の魔石が必要になると思っているんだよ???
一人前の王都で働くような魔術師がやった作業なんだろ?
もう少し自分たちの仲間の能力に信頼を置けよ・・・。
と思ったのだが。
空滑機《グライダー》に乗って宙にあがり、王都の周りを心眼《サイト》で視回してあっけにとられた。
ぶつぶつに切れてんじゃん!!!
あれだけ脅されたのに、皆何やってるんだよ????
俺の家から来た時はそれほど目立って探知網が切れているように視えなかったが、王都全体を見回すとかなり切れている箇所が視える。
うげ~。
これじゃあ帰るのがいつになることやら・・・。
「清早。風の精霊にちょっと西の方へこの空滑機《グライダー》を動かすのを手伝ってもらえる?」
ため息をつきながら空滑機《グライダー》に乗り込み、清早に助力を求めた。
この調子じゃあ自分の魔力で飛んでいたら途中で何度も休憩を入れる羽目になる。
最初から精霊の助けを求めてしまおう。
『良いわよ~。
何をやってるの?』
ふわっと風が空滑機《グライダー》を押し上げると共に、風精霊の声が聞こえた。
お。
清早以外の精霊は必ずしも直接俺に話しかけないことも多いのだが、今日は話好きな精霊が来てくれたようだ。
「ちょっと俺たちの国のお偉いさんが結婚するんで邪魔をされないように探知網を王都全体に張ったんだが、それがちゃんとつながっているかを確認して切れている場所を仲間に知らせるんだ」
精霊に答えながら西へ空滑機《グライダー》を動かす。
風精霊が協力してくれているので殆ど魔力を費やす必要が無くて楽だ。
『・・・あら。
あの変な魔力の囲いって繋がっていないといけなかったの?
ちょっと邪魔だったから何箇所か切っちゃった。
他の仲間も切っていると思うわ~』
風精霊の言葉に思わずため息が漏れた。
マジかよ。
どうりでぶつぶつに切れている訳だ。
精霊に嫌われる魔道具なんて、今までどうやって使っていたんだ???
『今までは人の営みで嫌なことが起きたらそのまま別の場所に行っていたのだけど、こないだ態々水のお方が愛し子に頼まれてここを清浄していたでしょう?
だから嫌な感じになっていたら戻した方が良いんだろうと思って』
風の精霊がちょっと言い訳がましく説明してくれた。
いやいやいや。
暗黒界の汚染と探知網を一緒にしないでくれよ~。
つうか、探知網が『嫌な感じ』なのか??
「この探知網は危険なものが王都に運び込まれたら分かるようにする道具なんだが・・・精霊にとっては嫌な物なのか?」
『風の流れはちょっと阻害するわね~。
まあ、吹き飛ばしちゃえばそれまでなんだけど』
あっさりと精霊が答えた。
つまり、風の流れを阻害するから吹き飛ばしたのか。
う~ん。
夏に風の流れが止まるっていうのはかなりきつくないか??
「ちょっとこの探知網が切れちまうのは困るんだが、風が流れないのも困るな。
探知網を切らない程度に風を流せないのか?」
『まあ、ちょっと躓く程度だから貴方たちが歩く時にちょっと足を高めに上げる感じでいけば大丈夫なんだけどね。
無いほうが気持ちよく動けるのよ。
でもまあ、必要なら我慢しておいてあげるわ』
風の精霊が肩を竦めながら答えた。
風が躓く、ねぇ。
イマイチ想像がつかないが、後でアンディに風精霊の加護持ちと一緒にこの探知網をもう少し精霊に嫌われない形に出来ないか、研究したらどうかと言っておこう。
「ありがとな。
他の精霊にも、この探知網を壊さないようお願いを伝えてくれるか?
お偉いさんの結婚式が終わったらすぐにどけるから、それ程長い間のことじゃあないし」
まあ、精霊の時間間隔は独特だからなぁ。
下手をしたら、『他の精霊に伝える』のが終わったころには結婚式が終わっているんじゃないかという気もするが。
『伝えたわ。
終わったら出来るだけ早くどけてね。
気持ちよく流れている時に引っかかるとついイラっとしちゃうのよね~』
風精霊の答えを聞いて、思わずため息をつきたくなった。
この様子だと、今年は風の少ない蒸し暑い夏になりそうだ・・・。
「裏切ったな~」
やっぱりあのまま魔術院に帰っていたら夜の確認作業が始まるまでこき使うつもりだったな。
「探知網の設置が全部終わってからの確認作業以外は俺がやらなきゃいけないことは無いんだろ?
夜になるっぽいから適当に家で軽く夕食を食べてから魔術院に行くよ。
食事に関しては、明日の昼に『デザルフォー』でフルコースをよろしくな。
もしも確認作業のスタートがもっと早くなりそうだったら通信機で連絡してくれ。
一応家にはいるようにするから、そうなったらサンドイッチでも持参して行くから」
「ずっと1日働きづめの上に夜までお前に付き合うことになる哀れな友人の手助けをしようと思わないのか、お前は。
そんな薄情な人間に育てた覚えはないぞ!」
アンディのふざけたコメントが通信機から返ってきた。
「お前に育てられた覚えはないっつうの。
それに、夜まで『俺に付き合う』ではなく『俺をこき使う』だろ?
第一、お前は王太子の結婚式対応でがっつり働くことで後からボーナスでももらえるんだろ?」
それに、日中の作業の手伝いとなったら『誰がどこを終わったか』を記録するような細かい事務作業になりそうだ。
冗談じゃない。
「友達甲斐の無い野郎だ。
じゃあまあ、15刻ぐらいに来てくれ。
それよりも早くなりそうだったら連絡するから絶対に連絡が取れるようにしておいてくれよ。
ちなみに空滑機《グライダー》は軍が貸してくれると言われたが、それでいいか?」
俺を巻き添えにするのを諦めたのか、アンディの声が普通に戻った。
う~ん。
空滑機《グライダー》ねぇ。
自分のを使う方が使い勝手が良さそうだよな。
水筒置き場とかも設置してあるし。
「ウチから自分の空滑機《グライダー》で行くから、王都に入って魔術院の庭に着地しても怒られないように軍や警備隊に話を通しておいてくれ」
「了解~」
◆◆◆◆
結局探知網の設置作業は予定よりも遅れたらしく、15刻に魔術院に行ったものの俺は1刻ぐらい待たされる羽目になった。
まあ、その時間を使って魔術回路の登録所に行ってそこの職員に新しい記録用魔道具を使って目録だけでも最新版の一覧を作って更新していけば魔術院側の管理も楽になるぞ~と唆すことが出来たけど。
「ほい」
アンディに渡された袋は思ったよりも重かった。
おい。
一体どれだけ位置追跡用の魔石が必要になると思っているんだよ???
一人前の王都で働くような魔術師がやった作業なんだろ?
もう少し自分たちの仲間の能力に信頼を置けよ・・・。
と思ったのだが。
空滑機《グライダー》に乗って宙にあがり、王都の周りを心眼《サイト》で視回してあっけにとられた。
ぶつぶつに切れてんじゃん!!!
あれだけ脅されたのに、皆何やってるんだよ????
俺の家から来た時はそれほど目立って探知網が切れているように視えなかったが、王都全体を見回すとかなり切れている箇所が視える。
うげ~。
これじゃあ帰るのがいつになることやら・・・。
「清早。風の精霊にちょっと西の方へこの空滑機《グライダー》を動かすのを手伝ってもらえる?」
ため息をつきながら空滑機《グライダー》に乗り込み、清早に助力を求めた。
この調子じゃあ自分の魔力で飛んでいたら途中で何度も休憩を入れる羽目になる。
最初から精霊の助けを求めてしまおう。
『良いわよ~。
何をやってるの?』
ふわっと風が空滑機《グライダー》を押し上げると共に、風精霊の声が聞こえた。
お。
清早以外の精霊は必ずしも直接俺に話しかけないことも多いのだが、今日は話好きな精霊が来てくれたようだ。
「ちょっと俺たちの国のお偉いさんが結婚するんで邪魔をされないように探知網を王都全体に張ったんだが、それがちゃんとつながっているかを確認して切れている場所を仲間に知らせるんだ」
精霊に答えながら西へ空滑機《グライダー》を動かす。
風精霊が協力してくれているので殆ど魔力を費やす必要が無くて楽だ。
『・・・あら。
あの変な魔力の囲いって繋がっていないといけなかったの?
ちょっと邪魔だったから何箇所か切っちゃった。
他の仲間も切っていると思うわ~』
風精霊の言葉に思わずため息が漏れた。
マジかよ。
どうりでぶつぶつに切れている訳だ。
精霊に嫌われる魔道具なんて、今までどうやって使っていたんだ???
『今までは人の営みで嫌なことが起きたらそのまま別の場所に行っていたのだけど、こないだ態々水のお方が愛し子に頼まれてここを清浄していたでしょう?
だから嫌な感じになっていたら戻した方が良いんだろうと思って』
風の精霊がちょっと言い訳がましく説明してくれた。
いやいやいや。
暗黒界の汚染と探知網を一緒にしないでくれよ~。
つうか、探知網が『嫌な感じ』なのか??
「この探知網は危険なものが王都に運び込まれたら分かるようにする道具なんだが・・・精霊にとっては嫌な物なのか?」
『風の流れはちょっと阻害するわね~。
まあ、吹き飛ばしちゃえばそれまでなんだけど』
あっさりと精霊が答えた。
つまり、風の流れを阻害するから吹き飛ばしたのか。
う~ん。
夏に風の流れが止まるっていうのはかなりきつくないか??
「ちょっとこの探知網が切れちまうのは困るんだが、風が流れないのも困るな。
探知網を切らない程度に風を流せないのか?」
『まあ、ちょっと躓く程度だから貴方たちが歩く時にちょっと足を高めに上げる感じでいけば大丈夫なんだけどね。
無いほうが気持ちよく動けるのよ。
でもまあ、必要なら我慢しておいてあげるわ』
風の精霊が肩を竦めながら答えた。
風が躓く、ねぇ。
イマイチ想像がつかないが、後でアンディに風精霊の加護持ちと一緒にこの探知網をもう少し精霊に嫌われない形に出来ないか、研究したらどうかと言っておこう。
「ありがとな。
他の精霊にも、この探知網を壊さないようお願いを伝えてくれるか?
お偉いさんの結婚式が終わったらすぐにどけるから、それ程長い間のことじゃあないし」
まあ、精霊の時間間隔は独特だからなぁ。
下手をしたら、『他の精霊に伝える』のが終わったころには結婚式が終わっているんじゃないかという気もするが。
『伝えたわ。
終わったら出来るだけ早くどけてね。
気持ちよく流れている時に引っかかるとついイラっとしちゃうのよね~』
風精霊の答えを聞いて、思わずため息をつきたくなった。
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