シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

542 星暦555年 紫の月 23日 更新できる記録(4)

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(1イクチ=2センチです)

魔術院で記録用魔道具に関する魔術回路の特許を見て回ったところ、中々凄かった。
完璧と思う映像をしっかり撮るために、一体奥様方はどれだけ開発資金を出したんだろう?
たった2年前に売り出された技術だとは思えないほど色々と魔術回路の特許が登録されていた。

0.1イクチ単位で映像を切る機能があったので、これで問題はない。
これを魔道具に組み込んだら、俺の担当範囲の開発は完了ということになりそうだ。

そうなったら、ウォレン氏との話で課題として挙がってきた読み取りを制限する機能について考えるとするか。
まあ、一応先に皆と相談しておく必要があるが。

ということで、帰宅したら2人にウォレン氏との会話について話した。

「なるほどね~。
確かに帳簿だって鍵のかかった部屋に置いてあったりして誰でも読めるようにはしていないし、魔石の方が帳簿よりもずっと盗みやすいから盗まれても相手が読めないようにしたほうが良いよね」
シャルロがお茶を飲みながら呟いた。

「人に読まれたら困る記録は金庫に入れておくのが当然の予防策だと思うが。魔石も金庫に入れればいいのではないか?」
アレクは微妙に納得していないっぽい。

「金庫なんて簡単に開けられるからなぁ。
帳簿を大量に持って出ることは難しいから、例え金庫を開けらたとしても一定量しか盗めないが、魔石になれば根こそぎ持って行こうとしても小さ目の鞄1つで全部入ってしまうからなぁ。
『金庫に入れれば良い』という策だけでは怖い気がするんだよね。
それこそ、競争相手に買収された会計係が金庫から全ての魔石を持ち出して行ったってすぐには気づかれないだろう?
魔石をなくしたら困るから、金庫に入れるよりも魔道具から魔石を取り出すために鍵が必要な構造にしてはどうかとは思っているが、それにしたってその魔道具についた鍵を開けるのはそれほど難しくはない。
それに直近の情報が入っている魔石はまだしも、金庫にしまわれるであろう過去の記録を盗むのがお手軽になるという問題点は変わらないし」
金庫についての問題点を指摘する。

「ふむ。
魔石を鍵で魔道具から取り出せないようにするのだったら、ついでにその鍵が無ければ魔道具を起動できないようにすれば承認プロセスに関する問題は解決ではないか?
後は魔石を盗まれた場合、それを他の魔道具で読めてしまうのが問題か・・・」
アレクが俺の言葉に別の提案をした。

確かに、どうせ魔道具に鍵をつけるのだったら魔石を出すのも起動するのも同じ鍵でやれば鍵がやたらと沢山あって面倒なんてことにならなくて済むな。
『追加機能』として別売りしたほうが金になるとは思うのでちょっと残念だが。

「魔道具の魔道鍵ってあるじゃない?
あれの鍵の機能を魔石に持たせたら、その魔石とペアになった魔道具しか使えない形になって盗まれても内容を読めなくなって良いんじゃないかなぁ」
シャルロがもう一つの問題についてアイディアを出した。

確かに、魔道鍵というのは1対1の対になるので、鍵の機能そのものを魔石に持たせて鍵が解錠された状態じゃないと魔石の中身を読み取れないように作ったらいいかもしれない。
でもなぁ。
魔石は1個でかなりの情報が記録できるとは言え、それでも中くらいので本1冊分程度だ。
それなりに高額な魔道具を買って本1冊程度の情報しか記録できないのでは話にならないだろう。

「何らかの形で、魔道具に個別認識できる情報を記録しておいて、それを最初に魔石を使う際に鍵として登録して使うという感じにしないと魔石の数を増やせなくなるな。
まあ、魔道具としての鍵がどういう形に機能しているのかを確認しないと新しい魔石を使い始める時にそれを鍵として設定するのが現実的か分からないし、その鍵を偽造するのがどのくらい簡単かも調べた方が良いな。
もう一度魔術院に戻って、魔道鍵の魔術回路を確認してくるか・・・」

つうか、魔道鍵ってあまり見たことがないんだよなぁ。
貴族の家でも普通の固定化した金庫を使っていることが多いというのは、作成に物凄く金がかかるんじゃないのか?

「魔道鍵は機能としては抜群なんだが、鍵をなくしたら盗賊《シーフ》ギルドに頼んでも解錠できなくなるから最近はあまり使われなくなったと聞く。
でも古くからある技術だから、特許切れした魔術回路はそこそこあると思うぞ」

魔道鍵の製作費に関して思いをはせていたら、アレクが答えを提供してくれた。
お~。
開けられなくなるのか。
鍵をなくしたら金庫そのものを壊さなければならないというのは困るよな。
・・・とは言え、普通の金庫だって鍵をなくしたら開けるのは盗賊《シーフ》ギルドに頼めばいいが、一度開けた後は使えなくなるのだから金庫そのものを壊すのとあまり変わらないような気もするが。

鍵をなくした後に静かに周りに知られることなく中身を出せるか否かが重要なのかね?

「取り敢えず、また魔術院に行ってくるわ」
魔道鍵って魔術師ならちょっと訓練をすれば開けられるはずなんだけどね。
でも確かに解錠の訓練なんぞしている魔術師ってあまりいないから、記録用魔道具を疑似魔道鍵にしてしまえば、それなりに安全性を高められそうだ。


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