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卒業後
170 星暦552年 萌葱の月 14日 通信機(2)
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「だ~~~!」
山積みされた紙の山にクッキーを投げつけながら俺は雄叫びを上げた。
「なんだってこんなに複雑なんだ!!」
言いだしっぺだから諦める訳にはいかないが、いい加減この複雑さには頭が痛くなってきた。
固定式の通信機ですら驚くほど複雑なのに、これを携帯出来るほど小さく、しかも複数相手との通信が可能な物を作ろうなんて言うと可能よりも不可能の方に近い気がする。
「・・・固定式と同じだけの機能プラス通話相手の可変性と小さなサイズなんて無謀過ぎたな」
ため息をつきながらアレクが呟いた。
「僕たちなら出来ると思ったんだけど・・・今はまだ無理かもね」
シャルロが紙の上からクッキーを拾い上げながらこちらを向いた。
「とりあえず、空滑機で通信に使える物を作ろうよ。空滑機での使用以外で使いたい人がいたらそれはそれで別売りしたらいいし」
ま、そうだな。
とりあえず空滑機で移動する時の不便が解決できればいいんだ。開発費は別に取り返せなくてもいいや。
「いつの日か、欲しいだけの機能を持った通信機を作ろう。けど、今はとりあえず空滑機で使えりゃいいとするか」
「空滑機で使うだけなら、相手が見えなくても通話機能があればいい。通信相手の可変性はどうする?」
アレクもクッキーをつまみながら尋ねる。
「結局、通信機って波動の合わせた魔石との間での共鳴を利用した魔具だよね?使う時に違う魔石と波動を合わせやすいように取り外し可能に作ればいいんじゃない?」
確かに。だが。
「空を飛んでいる間にぽろっと取れたりしたら笑えんから、取り外し可能と言っても絶対に落ちないようにしないとだけどね」
「画像が必要ないとなったら共鳴の程度が小さくてもいいかもしれないな。固定式の術回路のそれなりの部分は共鳴の程度を高める為の物だろう。だとしたらこれをある程度削れるはずだし、なんだったら魔石の出力を上げれば更に小さな術回路でも会話は出来るかもしれない。どれだけ術回路を削れるか、試してみよう」
アレクの言葉に俺たちは頷いた。
「そういえば、あの遺跡で買い取られた術回路にはどんなのがあったの?」
シャルロが更にクッキーを手に取りながら尋ねる。
おい、あんまり食べ過ぎると後でパディン夫人に怒られちゃうぞ。
「保存とか固定化系のが殆どだったな。それ以外のだと魔石が尽きていて、見つけにくかったのかもしれないのかな?まあ、もしかしたら保存とか固定化系のしか術回路を開発しなかった文明なのかもしれないけど」
アレクとシャルロは集めるのを協力してくれたものの、『内容の確認はどうせ遺跡で探すウィルがやるべきでしょ?』というセリフとともに確認作業は俺に残されていた。
しっかし。
本当にあそこの術回路は驚くほど偏っていた。
「オーパスタ神殿の遺跡で見つかる術回路って基本的にそっち系に偏っているものなのかな?随分と今回の買い取り内容が極端なんだけど」
「遺跡で見つかる術回路に関しては特にリサーチしたことが無いから、知らないな。他の遺跡での買い取り結果を調べてみたらどうだ?」
アレクが肩をすくめながら答えた。
冷たいぞ。
「あ~・・・。面倒だからいいや。ちょっとこれ以上は暫く頭を使いたくない気分だ。とりあえず、保存・固定化系以外の術回路だったら特許申請されていないとみなして良いと思うから、適当に片っぱしから取って来て魔力を通してみることにする。そういえば、次はいつ行く?」
「え~っとねぇ、ケレナはあと2月ぐらいしたら行くって言っていたかな?」
いや別に、ケレナ嬢に合わせなくってもいいんだけどさ。
「・・・ケレナ嬢はそんな定期的にあそこに何をしに行っているんだ?」
アレクが興味を持ったらしい。
そっか、知り合いの家にふらふら定期的に遊びに行くのって上流階級の女性の通常の行動パターンじゃないのか。
てっきりそう言うモノなのかと思っていたよ。
「お小遣い稼ぎ。
あそこの鷹匠と一緒に鷹を育てて訓練して、売っているの」
「貴族のお嬢様ってそういうことで小遣いを稼ぐんだ。知らなかった・・・。」
なんか大分貴族の女性に対するイメージが変わった気がする。
「いやいやいや、それって一般的な小遣い稼ぎの手法じゃないから!」
アレクが苦笑しながら口を挟む。
「ケレナは特に動物や鳥といるのが好きなんだ。ラズバリーの伯爵領では馬の訓練の手伝いとかもしているし」
流石シャルロの幼馴染兼友人以上恋人未満。中々個性的だ。
・・・それとももう恋人なったんかな、あの二人。
仲が良さげだが、単にじゃれているのか恋人としていちゃついているのか、判断しにくいんだよなぁ。
「とりあえず、この通信機の開発が終わったら遺跡へ遊びに戻る前に、普通の商業的な開発を一つか二つはこなした方がいい。まだ我々の名前をちゃんと売り広めていないからな。遊ぶのはもう少し後にしよう」
話が脱線する前にアレクが釘を刺した。
ちぇ。
ま、確かにあまり遊んでばかりいちゃあ不味いよな。
遺跡でそれなりに使える術回路を見つけるにしても、一生食っていける程のものはそう簡単には見つからないだろう。だとしたらちゃんと本業の方もそれなりに頑張らないとね。
山積みされた紙の山にクッキーを投げつけながら俺は雄叫びを上げた。
「なんだってこんなに複雑なんだ!!」
言いだしっぺだから諦める訳にはいかないが、いい加減この複雑さには頭が痛くなってきた。
固定式の通信機ですら驚くほど複雑なのに、これを携帯出来るほど小さく、しかも複数相手との通信が可能な物を作ろうなんて言うと可能よりも不可能の方に近い気がする。
「・・・固定式と同じだけの機能プラス通話相手の可変性と小さなサイズなんて無謀過ぎたな」
ため息をつきながらアレクが呟いた。
「僕たちなら出来ると思ったんだけど・・・今はまだ無理かもね」
シャルロが紙の上からクッキーを拾い上げながらこちらを向いた。
「とりあえず、空滑機で通信に使える物を作ろうよ。空滑機での使用以外で使いたい人がいたらそれはそれで別売りしたらいいし」
ま、そうだな。
とりあえず空滑機で移動する時の不便が解決できればいいんだ。開発費は別に取り返せなくてもいいや。
「いつの日か、欲しいだけの機能を持った通信機を作ろう。けど、今はとりあえず空滑機で使えりゃいいとするか」
「空滑機で使うだけなら、相手が見えなくても通話機能があればいい。通信相手の可変性はどうする?」
アレクもクッキーをつまみながら尋ねる。
「結局、通信機って波動の合わせた魔石との間での共鳴を利用した魔具だよね?使う時に違う魔石と波動を合わせやすいように取り外し可能に作ればいいんじゃない?」
確かに。だが。
「空を飛んでいる間にぽろっと取れたりしたら笑えんから、取り外し可能と言っても絶対に落ちないようにしないとだけどね」
「画像が必要ないとなったら共鳴の程度が小さくてもいいかもしれないな。固定式の術回路のそれなりの部分は共鳴の程度を高める為の物だろう。だとしたらこれをある程度削れるはずだし、なんだったら魔石の出力を上げれば更に小さな術回路でも会話は出来るかもしれない。どれだけ術回路を削れるか、試してみよう」
アレクの言葉に俺たちは頷いた。
「そういえば、あの遺跡で買い取られた術回路にはどんなのがあったの?」
シャルロが更にクッキーを手に取りながら尋ねる。
おい、あんまり食べ過ぎると後でパディン夫人に怒られちゃうぞ。
「保存とか固定化系のが殆どだったな。それ以外のだと魔石が尽きていて、見つけにくかったのかもしれないのかな?まあ、もしかしたら保存とか固定化系のしか術回路を開発しなかった文明なのかもしれないけど」
アレクとシャルロは集めるのを協力してくれたものの、『内容の確認はどうせ遺跡で探すウィルがやるべきでしょ?』というセリフとともに確認作業は俺に残されていた。
しっかし。
本当にあそこの術回路は驚くほど偏っていた。
「オーパスタ神殿の遺跡で見つかる術回路って基本的にそっち系に偏っているものなのかな?随分と今回の買い取り内容が極端なんだけど」
「遺跡で見つかる術回路に関しては特にリサーチしたことが無いから、知らないな。他の遺跡での買い取り結果を調べてみたらどうだ?」
アレクが肩をすくめながら答えた。
冷たいぞ。
「あ~・・・。面倒だからいいや。ちょっとこれ以上は暫く頭を使いたくない気分だ。とりあえず、保存・固定化系以外の術回路だったら特許申請されていないとみなして良いと思うから、適当に片っぱしから取って来て魔力を通してみることにする。そういえば、次はいつ行く?」
「え~っとねぇ、ケレナはあと2月ぐらいしたら行くって言っていたかな?」
いや別に、ケレナ嬢に合わせなくってもいいんだけどさ。
「・・・ケレナ嬢はそんな定期的にあそこに何をしに行っているんだ?」
アレクが興味を持ったらしい。
そっか、知り合いの家にふらふら定期的に遊びに行くのって上流階級の女性の通常の行動パターンじゃないのか。
てっきりそう言うモノなのかと思っていたよ。
「お小遣い稼ぎ。
あそこの鷹匠と一緒に鷹を育てて訓練して、売っているの」
「貴族のお嬢様ってそういうことで小遣いを稼ぐんだ。知らなかった・・・。」
なんか大分貴族の女性に対するイメージが変わった気がする。
「いやいやいや、それって一般的な小遣い稼ぎの手法じゃないから!」
アレクが苦笑しながら口を挟む。
「ケレナは特に動物や鳥といるのが好きなんだ。ラズバリーの伯爵領では馬の訓練の手伝いとかもしているし」
流石シャルロの幼馴染兼友人以上恋人未満。中々個性的だ。
・・・それとももう恋人なったんかな、あの二人。
仲が良さげだが、単にじゃれているのか恋人としていちゃついているのか、判断しにくいんだよなぁ。
「とりあえず、この通信機の開発が終わったら遺跡へ遊びに戻る前に、普通の商業的な開発を一つか二つはこなした方がいい。まだ我々の名前をちゃんと売り広めていないからな。遊ぶのはもう少し後にしよう」
話が脱線する前にアレクが釘を刺した。
ちぇ。
ま、確かにあまり遊んでばかりいちゃあ不味いよな。
遺跡でそれなりに使える術回路を見つけるにしても、一生食っていける程のものはそう簡単には見つからないだろう。だとしたらちゃんと本業の方もそれなりに頑張らないとね。
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