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卒業後
516 星暦555年 藤の月 30日 汚染(4)
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「何だこれは?!
何処かの魔術師の違法実験の産物か??」
アンディが近所の食堂から借りてきたねずみ取り用の籠に入れられた魔獣化したネズミ(と比較用の普通のドブネズミ)を見て、バズール師が目を丸くした。
アンディの上司の上司の上司で総務課の長老っぽい人らしいが、去年の会計問題とかで案外とアンディのことを気に入ってくれたとのことで、幸いにも直接面会出来た。
「見て下さい。
この爪先から垂れてるの、毒なんです。
精霊が言うには、魔獣化しているそうです」
アンディが棒でネズミの前足を突きながら説明する。
下水道から引っ張り出されたネズミモドキなので元々汚れていたのだが、気が付いたら爪先からずっと黒っぽい液体が垂れてくるんだよね、これ。
清早に確認した所、毒だとのこと。
人間が引っかかれたらちょっと炎症を起こして熱が出る程度だが、これが集団で襲いかかれば犬や猫を殺せるだろう、とのこと。
・・・つうか、行き倒れの人間なんかも集団で襲いかかられたらヤバいんじゃないのか?
元々体力が無いところに、毒のある爪で攻撃されたら動けなくなって殺されてもおかしくない気がするが・・・。
まあ、数が集まれば行き倒れて半分餓死しているような浮浪者は普通のネズミでも殺せるんだろうけど。
普通のネズミは流石に自分達よりも明らかに大きな人間に襲いかかったりしないが、魔獣化した生き物は凶暴になると言うから、危険かも知れない。
「魔獣化??」
バズール師が目を丸くして聞き返した。
「心眼《サイト》でここら辺や下町の方の空気を視て、王宮近辺や郊外の空気を比べてみると分かるのですが、王都の商業地域や下町の空気が汚染されていて、濁っています。
精霊に聞いてみたところ、何やら悪魔に汚染された燃料を燃やしているせいでその灰とかが空気を汚染している、と。
長期的にこれが続けば王都の住人の健康にも悪いですし、最悪の場合は魔獣が自然発生するような状況になりかねません。
商業ギルドから、どこか新しい仕入先から大量の薪か木炭を入手していないかを探し出し、それを直ぐさま回収するよう手配する必要があります」
本当はこういう説明は全部アンディに任せたいのだが、実際に空気の汚染を確認したのは俺だ。
魔術院の前だけを確認したアンディでは説明しにくいと言われ、俺が問題の説明を請け負うことになってしまったのだ。
「魔獣化??
空気の汚染とは・・・一体どういうことだ?」
バズール師が眉をひそめて聞き返してきた。
まあ、突然若手が部屋に押しかけてきてドブネズミを見せて変な事を言い始めたら頭が痛くなるよなぁ・・・。
「悪魔を長期的に召喚した現場や、魔獣の召喚に失敗して返還出来ずにその場で殺すことになった場合は、神殿に浄化を頼まなければならないと授業で習いました。
その浄化を怠った現場で育った木材が燃料として大量に王都に流入しているのではないかと思われます」
アンディが付け加えた。
・・・そう言えば、そんなことも魔術学院で習ったっけ?
あの禁呪をやっていた貴族の屋敷も、後で神殿の人達が何やら儀式をしたら赤黒く濁っていた空気が綺麗になったよなぁ。
・・・つうか、神殿の人達は今の王都の状態、気が付いてないのかよ??
浄化出来るんだったら、問題だって認識できるんじゃないのか??
魔獣化したネズミと、普通のドブネズミを何やら見比べながら色々とアンディに質問していたバズール師がため息をついて立ち上がった。
「分かった。
商業ギルドに行こう。
出来れば漠然と『最近になって大量に入手するようになった新しい産地からの燃料』というよりも、『どこそこの店で使っている燃料』と特定して、そこで使っている薪なり木炭なりの仕入先を調べる方が早いが・・・出来ないのか?」
外を見たら、既にもう夕方だ。
もうそろそろ店舗や家でも暖炉に火を入れているだろう。
「商業ギルドに行く途中の建物で煙突から汚染された煙が出ている所が在れば直ぐ分かりますから、探しながら行きましょう」
・・・と言うことで外を出たのだが、思わず唖然とした。
殆どの建物から出ている煙が汚染されている。
マジかよ???
一気にこれだけ新しい燃料を売り込めるなんてあり得るのか??
「どうした?」
アンディが足が止った俺に気が付いて、声を掛けてきた。
「・・・ここら辺の建物の煙突から出てきている煙が殆ど全部、汚染されてるんだけど」
アンディが魔術院の前の建物の煙突を見上げ、目を細めた。
横でバズール師も同じように心眼《サイト》を使っているっぽく集中していた。
「ふむ。
確かに煙が心眼《サイト》で視ると妙に黒ずんでいるな」
納得いただけて良かったよ・・・。
だけど、一体どうやったら商業地域一帯の燃料を独占できたんだ??
あちこちの仕入先や取引との付き合いとかがあって、どう考えても一つの商会が独占的に扱えるような物では無いだろうに・・・。
-------------------------------------------------------------------
ウィルは先にどこから仕入れた燃料に問題があるのかを特定するつもりだったのですが、まずは商業ギルドに根回しが必要とアンディに説得されて長老に先に会っていました。
夕方になって寒くなってきたからあちこちで暖房を付けたらどこもかしこも汚染されている煙が出てきていて、びっくりしてます。
少なくとも汚染源の燃料を特定するのは簡単そう。
何処かの魔術師の違法実験の産物か??」
アンディが近所の食堂から借りてきたねずみ取り用の籠に入れられた魔獣化したネズミ(と比較用の普通のドブネズミ)を見て、バズール師が目を丸くした。
アンディの上司の上司の上司で総務課の長老っぽい人らしいが、去年の会計問題とかで案外とアンディのことを気に入ってくれたとのことで、幸いにも直接面会出来た。
「見て下さい。
この爪先から垂れてるの、毒なんです。
精霊が言うには、魔獣化しているそうです」
アンディが棒でネズミの前足を突きながら説明する。
下水道から引っ張り出されたネズミモドキなので元々汚れていたのだが、気が付いたら爪先からずっと黒っぽい液体が垂れてくるんだよね、これ。
清早に確認した所、毒だとのこと。
人間が引っかかれたらちょっと炎症を起こして熱が出る程度だが、これが集団で襲いかかれば犬や猫を殺せるだろう、とのこと。
・・・つうか、行き倒れの人間なんかも集団で襲いかかられたらヤバいんじゃないのか?
元々体力が無いところに、毒のある爪で攻撃されたら動けなくなって殺されてもおかしくない気がするが・・・。
まあ、数が集まれば行き倒れて半分餓死しているような浮浪者は普通のネズミでも殺せるんだろうけど。
普通のネズミは流石に自分達よりも明らかに大きな人間に襲いかかったりしないが、魔獣化した生き物は凶暴になると言うから、危険かも知れない。
「魔獣化??」
バズール師が目を丸くして聞き返した。
「心眼《サイト》でここら辺や下町の方の空気を視て、王宮近辺や郊外の空気を比べてみると分かるのですが、王都の商業地域や下町の空気が汚染されていて、濁っています。
精霊に聞いてみたところ、何やら悪魔に汚染された燃料を燃やしているせいでその灰とかが空気を汚染している、と。
長期的にこれが続けば王都の住人の健康にも悪いですし、最悪の場合は魔獣が自然発生するような状況になりかねません。
商業ギルドから、どこか新しい仕入先から大量の薪か木炭を入手していないかを探し出し、それを直ぐさま回収するよう手配する必要があります」
本当はこういう説明は全部アンディに任せたいのだが、実際に空気の汚染を確認したのは俺だ。
魔術院の前だけを確認したアンディでは説明しにくいと言われ、俺が問題の説明を請け負うことになってしまったのだ。
「魔獣化??
空気の汚染とは・・・一体どういうことだ?」
バズール師が眉をひそめて聞き返してきた。
まあ、突然若手が部屋に押しかけてきてドブネズミを見せて変な事を言い始めたら頭が痛くなるよなぁ・・・。
「悪魔を長期的に召喚した現場や、魔獣の召喚に失敗して返還出来ずにその場で殺すことになった場合は、神殿に浄化を頼まなければならないと授業で習いました。
その浄化を怠った現場で育った木材が燃料として大量に王都に流入しているのではないかと思われます」
アンディが付け加えた。
・・・そう言えば、そんなことも魔術学院で習ったっけ?
あの禁呪をやっていた貴族の屋敷も、後で神殿の人達が何やら儀式をしたら赤黒く濁っていた空気が綺麗になったよなぁ。
・・・つうか、神殿の人達は今の王都の状態、気が付いてないのかよ??
浄化出来るんだったら、問題だって認識できるんじゃないのか??
魔獣化したネズミと、普通のドブネズミを何やら見比べながら色々とアンディに質問していたバズール師がため息をついて立ち上がった。
「分かった。
商業ギルドに行こう。
出来れば漠然と『最近になって大量に入手するようになった新しい産地からの燃料』というよりも、『どこそこの店で使っている燃料』と特定して、そこで使っている薪なり木炭なりの仕入先を調べる方が早いが・・・出来ないのか?」
外を見たら、既にもう夕方だ。
もうそろそろ店舗や家でも暖炉に火を入れているだろう。
「商業ギルドに行く途中の建物で煙突から汚染された煙が出ている所が在れば直ぐ分かりますから、探しながら行きましょう」
・・・と言うことで外を出たのだが、思わず唖然とした。
殆どの建物から出ている煙が汚染されている。
マジかよ???
一気にこれだけ新しい燃料を売り込めるなんてあり得るのか??
「どうした?」
アンディが足が止った俺に気が付いて、声を掛けてきた。
「・・・ここら辺の建物の煙突から出てきている煙が殆ど全部、汚染されてるんだけど」
アンディが魔術院の前の建物の煙突を見上げ、目を細めた。
横でバズール師も同じように心眼《サイト》を使っているっぽく集中していた。
「ふむ。
確かに煙が心眼《サイト》で視ると妙に黒ずんでいるな」
納得いただけて良かったよ・・・。
だけど、一体どうやったら商業地域一帯の燃料を独占できたんだ??
あちこちの仕入先や取引との付き合いとかがあって、どう考えても一つの商会が独占的に扱えるような物では無いだろうに・・・。
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ウィルは先にどこから仕入れた燃料に問題があるのかを特定するつもりだったのですが、まずは商業ギルドに根回しが必要とアンディに説得されて長老に先に会っていました。
夕方になって寒くなってきたからあちこちで暖房を付けたらどこもかしこも汚染されている煙が出てきていて、びっくりしてます。
少なくとも汚染源の燃料を特定するのは簡単そう。
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