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卒業後
159 星暦552年 青の月 25日 飛ぶ?(8)
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「安全ベルトを作らない?」
シャルロが朝食の時、突然提案してきた。
繰り返しに繰り返した試行錯誤の結果、何とか安定的に空をある程度の時間は滑空できる空滑機が形になってきた。
ちなみに、一番横風の影響を受けないのは台を浮力の術回路で埋め尽くし、魔術の力だけで飛ぶ方法と言うことが判明した。
ただし、これだと物凄い魔力を消費する。
魔石を使うのでは結局台一面を魔石で埋め尽くす必要がある感じになり、一度飛ぶだけでかなりの金持ちでも破産しかねないレベルの費用が必要になる。
魔術師ならば自分の魔力で何とかなるが・・・。シャルロ並みのレベルで無いと途中で魔力が尽きることになる。
ちなみに、俺は空に上がって寒さを感じる暇も無いうちに尽きた。アレクは寒くなるまでいられたようだが、それでも猛烈な勢いで魔力が消費される感覚はかなり居心地が悪く、とても空を楽しめない。
ということで、結局俺たちの身長の1.5倍ぐらいの長さの翼の空滑機で風に乗り、浮力の術回路で安定性と滞空時間を少し増やすことになったのだ。
で。
もうそろそろケレナ嬢に試乗してもらって普通の人間が使った場合の問題点を指摘してもらうかと話していたのだが。
シャルロとしてはちょっと不安があったらしい。
「安全ベルト?」
アレクがパンを手に取りながら尋ねる。
「浮力と質量軽減の術回路がついたベルトに、魔石をつけておくの。もしものことがあって空滑機が分解しちゃったり、台から落ちちゃったりしても地面に無事に下りて来られるようにしないと」
ふむ。
悪くないかもしれない。
「どうせなら、安全装置として空滑機にデフォルトでつけて売ろう。空に憧れる人間は多いだろうが、やはり『落ちたら死ぬ』って言うのは怖いからな。故障したら製造者として俺たちが責任を持って修理するって言っても、乗っていた人間が死んだら責任の取りようが無い。
必ず命が助かるようにして、故障した空滑機を必要に応じて修理すると言う形にした方が信用も得られるだろ?」
「確かにな。一回分だけの魔石にしておけば、他のことに代用されたりしないだろうし」
アレクも頷いた。
代用、ね。
ふと、空から下りることのできるベルトの利用方法が思いついた。
「だが・・・考えてみたら、これって不味いかもしれないな。王宮とかへの不法侵入の手段に使われたら俺たちにも責任を問われるかもしれない」
シャルロが首を傾げた。
「どういうこと?」
「つまり、例えばこの空滑機《グライダー》を売りに出すとする。これを買った誰かが、態と安全装置を使って王宮の上で台から下りたら、王宮に上空から侵入できることになる。
王宮の警備は基本的に普通の人間を相手に設計されているだろ?だから上空から降りてくる人間というのは警備の盲点を突くことになるかもしれない」
「だが、それを言うなら魔術師だったら今だって上空から侵入出来るだろうが」
アレクが反論する。
「だけど、魔術師は基本的に戦うのに慣れていないだろ?だから侵入したところで、警備兵に見つからずに動くのは難しいだろうし、見つかった時に対魔術装備の近衛とかには対応しきれないだろう。
だが、プロの暗殺者が上空から侵入出来てしまったら・・・危険だ」
「だけど、魔術師だってウィルやダレン先輩みたいな人だっているじゃない。王宮だって例外的な魔術師を無視してはいないと思うけどなぁ」
シャルロが思いがけず鋭い指摘をしてきた。
確かに。
それこそ、孤児院の子供を片っぱしから魔術の才能が無いか確かめていけばいつの日かは魔術師でもある暗殺者を手に入れることが出来る。
「確かにそうだが・・・」
「とりあえず、学院長にでも尋ねてみたらどうだ?」
アレクが提案してきた。
「一度作ってしまったら、後で後悔しても他の人間が真似するのは目に見えているからな。始める前に確認を取っておいて損は無い」
「だな」
学院長のところに相談に行くのは良いのだが、絶対に空滑機に試乗したいってついてきそうだが・・・。
ま、俺たち以外の視点が入るのも良いことだろう。
高所恐怖症なダビー氏はどうも『空を飛ぶ器具』であるあれを見ると思考が固まってしまうようで、ちょっと困っていたし。
シャルロが朝食の時、突然提案してきた。
繰り返しに繰り返した試行錯誤の結果、何とか安定的に空をある程度の時間は滑空できる空滑機が形になってきた。
ちなみに、一番横風の影響を受けないのは台を浮力の術回路で埋め尽くし、魔術の力だけで飛ぶ方法と言うことが判明した。
ただし、これだと物凄い魔力を消費する。
魔石を使うのでは結局台一面を魔石で埋め尽くす必要がある感じになり、一度飛ぶだけでかなりの金持ちでも破産しかねないレベルの費用が必要になる。
魔術師ならば自分の魔力で何とかなるが・・・。シャルロ並みのレベルで無いと途中で魔力が尽きることになる。
ちなみに、俺は空に上がって寒さを感じる暇も無いうちに尽きた。アレクは寒くなるまでいられたようだが、それでも猛烈な勢いで魔力が消費される感覚はかなり居心地が悪く、とても空を楽しめない。
ということで、結局俺たちの身長の1.5倍ぐらいの長さの翼の空滑機で風に乗り、浮力の術回路で安定性と滞空時間を少し増やすことになったのだ。
で。
もうそろそろケレナ嬢に試乗してもらって普通の人間が使った場合の問題点を指摘してもらうかと話していたのだが。
シャルロとしてはちょっと不安があったらしい。
「安全ベルト?」
アレクがパンを手に取りながら尋ねる。
「浮力と質量軽減の術回路がついたベルトに、魔石をつけておくの。もしものことがあって空滑機が分解しちゃったり、台から落ちちゃったりしても地面に無事に下りて来られるようにしないと」
ふむ。
悪くないかもしれない。
「どうせなら、安全装置として空滑機にデフォルトでつけて売ろう。空に憧れる人間は多いだろうが、やはり『落ちたら死ぬ』って言うのは怖いからな。故障したら製造者として俺たちが責任を持って修理するって言っても、乗っていた人間が死んだら責任の取りようが無い。
必ず命が助かるようにして、故障した空滑機を必要に応じて修理すると言う形にした方が信用も得られるだろ?」
「確かにな。一回分だけの魔石にしておけば、他のことに代用されたりしないだろうし」
アレクも頷いた。
代用、ね。
ふと、空から下りることのできるベルトの利用方法が思いついた。
「だが・・・考えてみたら、これって不味いかもしれないな。王宮とかへの不法侵入の手段に使われたら俺たちにも責任を問われるかもしれない」
シャルロが首を傾げた。
「どういうこと?」
「つまり、例えばこの空滑機《グライダー》を売りに出すとする。これを買った誰かが、態と安全装置を使って王宮の上で台から下りたら、王宮に上空から侵入できることになる。
王宮の警備は基本的に普通の人間を相手に設計されているだろ?だから上空から降りてくる人間というのは警備の盲点を突くことになるかもしれない」
「だが、それを言うなら魔術師だったら今だって上空から侵入出来るだろうが」
アレクが反論する。
「だけど、魔術師は基本的に戦うのに慣れていないだろ?だから侵入したところで、警備兵に見つからずに動くのは難しいだろうし、見つかった時に対魔術装備の近衛とかには対応しきれないだろう。
だが、プロの暗殺者が上空から侵入出来てしまったら・・・危険だ」
「だけど、魔術師だってウィルやダレン先輩みたいな人だっているじゃない。王宮だって例外的な魔術師を無視してはいないと思うけどなぁ」
シャルロが思いがけず鋭い指摘をしてきた。
確かに。
それこそ、孤児院の子供を片っぱしから魔術の才能が無いか確かめていけばいつの日かは魔術師でもある暗殺者を手に入れることが出来る。
「確かにそうだが・・・」
「とりあえず、学院長にでも尋ねてみたらどうだ?」
アレクが提案してきた。
「一度作ってしまったら、後で後悔しても他の人間が真似するのは目に見えているからな。始める前に確認を取っておいて損は無い」
「だな」
学院長のところに相談に行くのは良いのだが、絶対に空滑機に試乗したいってついてきそうだが・・・。
ま、俺たち以外の視点が入るのも良いことだろう。
高所恐怖症なダビー氏はどうも『空を飛ぶ器具』であるあれを見ると思考が固まってしまうようで、ちょっと困っていたし。
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