シーフな魔術師

極楽とんぼ

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魔術学院3年目

109 星暦551年 青の月 28日 終わってた

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「あれ?」

窓の外に見えているのは夕空だった。
サーシャの姉さんを見つけた後、事情徴収が終わるのを待ってからサーシャが匿われているシェフィート商店の支店の空き部屋へ連れて行き、感動の再会の後にやっと寮に帰ってきた。

シャルロとアレクに『見つかった』とだけ言ってベッドに倒れ込んだのだが・・・。

今日って学院祭のはずなんだけど。
初日だから俺も参加する予定で・・・夕空が見える時間まで寝ていると言うのはあり得ない。

ベッドにいても答えは降ってこないので、とりあえずアレクかシャルロを捕まえようと立ち上がった。

「あれ??」
体がふらふらする。
首をかしげながら着替えていたら、ノックとともに扉が開き、アレクとシャルロが飛び込んできた。

「起きたんだね!」
「具合はどうだ?」

「え~っと・・・。ちょっとふらふらするが、特に問題は無いと思うぞ。
今日は学院祭だっただろ?何だって起こしてくれなかったんだ?」

シャルロとアレクが顔を見合わせた。
「ウィルったら昨日は一日高熱で意識不明だったんだよ。医療師ヒーラーに視てもらったら、過労だって言うことだからそのまま寝かせておいたんだけど」

「無理をさせていたみたいで、悪かったな。俺たちも人身売買組織の検挙に付き合えば良かった」

高熱で意識不明??
しかも昨日一日?
「今日ってもしかして・・・28日?」

「「そう。」」

ショックだ・・・。

この俺様が過労で倒れるなんて。
幾ら夜遅くまで警備兵達と検挙やら、検挙で見つかった書類の確認やらをしていたからって言ってもたかが3日のことだったのに。

「・・・で、学院祭はどうなった?」

シャルロが肩をすくめた。
「スフィンクス寮が優勝。俺たち2番。
グリフォン寮は今年の1年はあまり良いのが入っていなかったからねぇ」

まあ、教師陣かOB陣もスフィンクス寮のモラルがこれ以上低下しないようにそれとなくアドバイスとかもしていたんだろうしな。
俺が初日をドタキャン、アレクとシャルロはサーシャの事件のことで気もそぞろだったのによくぞ2位になれたもんだ。アンディの指導力に感謝!と言うところだな。

「ウィルが起きたらおいでって学院長が言っていたから、具合が大丈夫なら行こう」

「人身売買組織がどうなったか、聞いたか?」

「「まだ」」

成程。
俺の復帰を待ってくれたんか。悪いことをした。

◆◆◆


「やあウィル、具合はどうだい?」
いつものごとくお茶を淹れながら学院長が俺たちを迎えてくれた。

「大丈夫です」

お茶を俺たちに渡しながら学院長が小さく笑った。
「ウィルが倒れるほど警備兵達を嫌いだったとはね。悪かったね、ストレスがかかるような仕事を頼んでしまって」

ぶっ。
思わずお茶を吹いてしまった。

「いやいや、別に警備兵が苦手だから倒れた訳じゃあないでしょう」

にやにや笑っていたが、学院長はそれ以上警備兵の話題には突っ込まずに俺たちに人身売買組織のことを話してくれた。

「今回の組織は王都でも有数の人身売買組織だったことが判明した。
首謀者は何と伯爵たるヴァルドス公。民を守り、指導すべき立場にある貴族たる者が何をやっているのかと陛下もお怒りだ」

「はぁ」

「結局、サーシャの姉、フェリナ・シズナータはヴァルドス公が特別に賄賂用に訓練するつもりで家に連れてきていたらしい。
まあ、お陰であやつにたどり着くまでウィルが協力してくれたので警備隊と税務局と魔術院にとっては幸運極まりないと言ったところだがな」

「まさか。俺の手助けなんて、微々たるものでしたよ」

あれだけ目立たないように頑張ったんだ。警備隊と税務局と魔術院に目をつけられるなんて、冗談じゃない。

「今までだって人身売買の疑いがもたれて下の人間が検挙されたことは多々あったんだ。だが、上までたどり着けなかった。
一体どのくらいの機密文書を見逃してきたんだろうかと警備隊の方は涙を流していたぞ」

まじっすか。
・・・俺が単に心眼サイトの優れた魔術師だと思ってくれているといいんだけど。

盗賊シーフギルドで働いていたなんてことがばれたら、一生そのことをネタにこき使われそうだな。

「まあ、俺じゃなくっても魔術師を何人か連れて行けば秘密金庫の場所ぐらいは心眼サイトで視えると思います。これからはますます魔術院と警備隊の協力が進みそうですね」

学院長がにやりと笑った。
「ま、そうだな。
お前さんが一番そう言うことに才能がありそうだが、過労で倒れるぐらい警備兵のことが苦手なのだとしたらお前に協力を頼むのも酷というものだよな」

ぐ。
別に、警備兵が苦手だったから倒れたんじゃない・・・と思うぞ。

でもまあ、これのお陰で警備兵からの協力要請が少なくなるならデリケートだと思われてもいいけど。

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