シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
上 下
109 / 1,038
魔術学院3年目

108 星暦551年 青の月 26日 いたよ

しおりを挟む
ダンガン家の3男は人身売買に参加するようになって比較的日が浅かった為、知っているのは実働要員ばかりだった。

だから彼が集めた資料から導き出された検挙もそういう実務要員がいる倉庫がメインだった。

だが、そう言った倉庫や隠れ家から徹底的に資料を辿って検挙に検挙を重ねてきた結果、やっとかなり上層部の方まで来た感じだ。

少なくとも、こんな立派な家に住む人間なら上層部じゃなきゃちょっとやってられんぞ。
こんな屋敷に住む人間が下っ端だなんて言うことになったら、人身売買の組織ってはっきり言って国の中枢レベルが運営してくることになりかねない。

そんなこと考えながら、目の前の豪邸を眺めていた。
警備兵と魔術院の人間が逮捕の為に同行しているお偉いさんを待ちながら雑談をしているのだが、俺はあんまり仲良くしたくなかったのでぼ~っとしていた訳だ。

「待たせたな」

「学院長?!?」
学院長だった。
特級魔術師のローブを羽織った。

そうか、特級魔術師ってこういうことにも参加しなくちゃならないのか。
お偉いさんが権力を笠にごねようとしても、特級魔術師が相手では出来ることは限られる。
最近戦争とかもないから、特級魔術師がやることも減っているだろうし。
ま、戦場とは言え人を殺しまくる仕事よりはこういう悪人の逮捕に手伝う仕事の方が気持ちもいいだろう。

学院長が先頭に立って、俺たちはヴァルドス伯爵の屋敷へ入って行った。
ちなみに、同行者は警備兵4人、魔術院の人間2人、俺、そして税務監視官2人。
隠し金庫って人身売買だけでなく、色んな不法所得の書類も仕舞われていたりも、するんだよねぇ。
最初にそれが見つかった時に、『いらね』ということで警備隊から税務監視官のところに渡したら、物凄く喜ばれた。
お陰でこの2日ほどの検挙は税務監視官付き。
ま、こちらの邪魔をする訳じゃあないんで有難いけど。
人身売買の罪に問われたら牢獄に入れられるか死罪か、それなりの罰を受ける。だけど人間を売って儲けた金はそいつのものだ。下手をしたらその金を使って脱獄とかの手配をしかねない。
脱税で捕まった場合・・・受刑年数はぐっと短くなるかもしれないが何と言っても儲けた金額の1.5倍(払うべきだった税額のではない)国に払わなければならない。
つまり脱税と人身売買両方で捕まえた方が何かと都合がいい。

さて。
まず、入ったら隠し金庫探しだ。
探している間に警備兵達が建物にいる人間全員を正面出口のところに集めてくれるからそうなったら残っている人間の解放を始める。

ここ数日で磨いた検挙補助方法である。

「この私が誰だか分かっているのか!」
ヴァルドス伯爵が顔を赤くして怒鳴っている。

「分かっていますよ。陛下も、伯爵ほどの方が誤認逮捕されたりすることが無いよう、私にじっくり調べるよういいつけております」
学院長が穏やかに宥める。

何だかんだと学院長がヴァルドス伯爵を宥めている間に建物の中を視る。
3か所ねぇ。
それだけ隠すモノが多かったのか、ヴァルドス伯爵が用心深かったのか。
とりあえず、ちゃっちゃっと金庫を開けて学院長に渡していく間にヴァルドス伯爵の顔色が赤>紫>青>白と言った感じに変わっていっている。

面白いねぇ。

3つ目の金庫を空にしたころには屋敷の中そのものも空に近い状態になっていた。
ということで人間を検索。

台所の斜め下に隠し部屋があった。

「ここだね」
警備兵に場所を示す。
周りに鍵が見当たらなかったのでついでに解錠しておいた。

「王都警備兵のダレガウンです。皆さん大丈夫ですか?」
今回の当番の警備兵が最初に中に入って行く。
いや~、閉じ込められている人たちも諦めている人ばかりではないんだよね。
ドアがあいたら直ぐに逃げようと待ちかまえている人も多くって、今まで警備兵が殴り飛ばされた回数は6回。
だから最初に入って行くのは当番制になっていた。

一学生でしかないからということで俺は免除してもらったけど。

「ありがとうございます!!!」
中に閉じ込められていた女性が半分泣きながらダレガウンの袖に触っている。
幻想ではないとでも確認しているのかな?

「すいませ~ん、こちらにサーシャ・シズナータのお姉さんの行方をご存知の方いませんか?
サーシャにお姉さんの救出を頼まれた者なのですが」

この数日で嫌になるほど繰り返してきた台詞だ。今回も同じような返事が返ってくるんだろうなぁ。
「私がフェリナ・シズナータです」

ほら、いなかった・・・・じゃない、いた?!?!

「サーシャさんのお姉さん?!」
思わずお姉さんを凝視する。
確かにサーシャの顔と共通点がある。

やった。
これで足を棒のようにして検挙現場から検挙現場へ渡り歩き、残業しまくる日々から解放される。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です

岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」  私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。  しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。  しかも私を年増呼ばわり。  はあ?  あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!  などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。  その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

処理中です...