シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
上 下
89 / 1,061
魔術学院3年目

088 星暦551年 赤の月 9日 本家

しおりを挟む
・・・俺も老後の趣味に関してそれなりに考えておこっと。
生きるのが嫌になって緩慢な自殺を選ぶのはちょっと哀しいぞ。

◆◆◆


ガイフォード本家の邸宅は大きかった。
バカみたいに。
庭は訓練用なスペースが殆どで庭園はお情け程度にしかないし、中も居住用が殆どらしくあまり華美な装飾はしていなかったが・・・。

何だってこんなに大きい訳?
「・・・大きいですね」
思わず、感想がこぼれ出た。

「軍人生活は移動や移転が多いからな。一々個人の屋敷を構えても住めなくなることが多い。だからここに住む一族の人間が多いんだ」
軍人が多いから集団生活も気にならないんかね?

とりあえず、邪魔をされないようにと言うことでダレンの部屋に肖像画を持ち込み、その弱った従兄弟に来てもらうことにした。
「ちょっと生命力を吸われると思うんですが、暫く我慢してもらえると思いますか?命にかかわりそうでしたら直ぐに出て行ってもらいますが、出来れば術を起動させておきたいので」

その従兄弟の部屋にダレンと行って説明した。
つうか、怪我・病人の部屋に赤の他人を連れていくか?
ちょっと無神経な気がするぞ。

「分かった。死ぬのは困るが少し弱る程度であの絵の問題が分かるなら我慢しよう」
従兄弟どのが承諾した。
流石、軍属一族。のりが違うね~。

先にまずダレンに肖像画の傍に立ってもらった。
心眼サイトで見ていると、微かに絵から魔力が漏れてくる。

・・・保護プロテの術?

蜘蛛の糸のように薄く細い術ながらダレンに保護プロテの術が掛けられていく。
生命力を吸い取ると言うのはまだしも、保護プロテの術をかける呪なんて初めて視たぞ。

「すいません、従兄弟さんを呼ぶ前に、誰か一族では無い人間を呼んでいただけます?
普通の健康状態なのと風邪をひいている人とがいたら一番良いんですけど」

少し難しい顔をしたものの、ダレンが執事と相談し、メイドを一人と、住み込みの下男で風邪で休んでいた男を一人連れてきた。

流石、巨大邸宅。風邪をひいた人間なんて言う条件で探してもちゃんと当てはまる人がいるんだねぇ。

メイドと下男はダレンの部屋に呼び出され、肖像画に触るように言われて不思議そうな顔をしていたが何も言わずに大人しく触れてくれた。
何も起きない。

ふむ。
2人を帰してから集中して術を読んでみた。
・・・やっぱり、かな?

「従兄弟どのに生贄実験をしてもらわないと確実には言えませんが、この肖像画には特殊な術がかかっているようですね。
弱った一族の生命力を吸い取って、健康な一族の人間へ保護プロテの術をかけているようです。だから怪我や年で一線を引いた一族の人間が早く亡くなるんだと思います。その代わり、現役の人間は戦場で死ににくくなるんでしょうね。
・・・解除しちゃっていいんですか?」

ある意味、ガイフォード家の人間にとっては理想的な術と言えなくもない。
体が自由に動かなくなったら人生の楽しみなんて無いと思う武芸バカが多いらしいし。

ダレンは一瞬、あっけにとられたように俺を見てから、肖像画を凝視した。
「一族の弱った人間を糧にして現役の人間を守っていたのか、これは??」

「だと思います。一族以外の人間を糧にしようとしないだけ良心的だと思いますし、もしかしたら最初は一族全員の人間が合意していたのかも知れませんよ?老いて自由にならない体を引きずりながら長生きなんてしたくないという希望をした人間だけが本家に老後も住むというような決まりになっているのかもしれませんし」

勝手に若いダレンが解除するのもどうかという気がしてきた。
ま、俺の依頼主は彼だから解けって言うなら解除するけどさ。
つうか、一族の中でもリタイヤしたら教わる秘密だったりして。

「どのくらいの保護プロテなんだ?普通に俺やお前が誰かにかけるよりも強いものなのか?」

「まさか。極々弱いモノですよ。自分や家族に掛けられているのにあなたが気付かない程度なんですから。
だから、ある意味保護プロテの術そのものは大したことは無いんです。ちょっとお金を払えば簡単に同様以上の保護プロテの術を魔術師に掛けてもらえるでしょう」

貴族になったガイフォードの初代がそんな魔術師に払う金をケチって肖像画にこれほど複雑な術をかけさせたとは考えにくい。
となると、この肖像画の本当の目的は一族の保護よりも老後を短くする選択肢という気がしてきた。

魔術師や学者ならかなり充実した老後が送れるだろうが、自分の武勇が自慢なタイプの軍人には体がだんだん自由が効かなくなってくる老いと言うのは耐え難いものがあるのかもしれない。

難しい顔をして考え込んでいたダレンが立ち上がった。
「悪いが、今日は帰ってくれないか?父と祖父に、このことを知っていたのか確認してこれをどうするのか相談したい」

「明日の休養日を過ぎたら、次の休養日かその前日まで待ってもらうことになりますよ?」

「構わん」
ま、確かにね。今まで何百年も飾ってあった絵なんだ。急がなくてもいいだろう。
健康なダレンの部屋に置いておく分には誰も生命力を吸われないだろうし。

しおりを挟む
感想 48

あなたにおすすめの小説

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

婚約破棄されて勝利宣言する令嬢の話

Ryo-k
ファンタジー
「セレスティーナ・ルーベンブルク! 貴様との婚約を破棄する!!」 「よっしゃー!! ありがとうございます!!」 婚約破棄されたセレスティーナは国王との賭けに勝利した。 果たして国王との賭けの内容とは――

婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました

ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。 王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。 しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました

饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。 わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。 しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。 末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。 そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。 それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は―― n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。 全15話。 ※カクヨムでも公開しています

婚約破棄されたけど、逆に断罪してやった。

ゆーぞー
ファンタジー
気がついたら乙女ゲームやラノベによくある断罪シーンだった。これはきっと夢ね。それなら好きにやらせてもらおう。

番だからと攫っておいて、番だと認めないと言われても。

七辻ゆゆ
ファンタジー
特に同情できないので、ルナは手段を選ばず帰国をめざすことにした。

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。

下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。 豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...