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卒業後
475 星暦554年 黄の月 11日 転移箱(8)
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ザルガ共和国の情報部みたいな所の資材(船を含む)管理部のお偉いさんの視点です。
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>>>サイド ???
ノックの音が部屋に響いた。
「どうぞ」
高級そうなシルクの服を着た中年の男が部屋に入ってきた。
外に自分と相手の男が立っているのを他人が見たら、服の品質から相手の方が上司だと判断されるだろう。
が。
自分の部屋に呼びつけられた男は顔色が悪い。
今までにも何度も自分を呼びつけて偉そうに『依頼』をしてきた男だが、今回の事件で立場が逆転した。
「ようこそ、デルヌ殿。
どうぞお座り下さい。
お互い忙しい身ですので、早速用件に入らせてもらいますが・・・サネージュ号がアファル王国に国家機密窃盗の罪で押収されました。
外部交渉委員会の依頼で情報管理委員会から貸し出されていた船に一体何が起きたのか、説明して頂けますかな?」
戦争が起きて不本意ながらもガルカ王国を接収することになり、新しく隣国となったアファル王国の情報収集を行うために向かわせていた船に至急でどうしても乗せて欲しい人間がいると外部交渉委員会に頼まれて都合を付けたのだが・・・突然何やら『誘拐騒動』が起きて船があちらの王都に足止めを食らい、更には『国家機密窃盗』の罪に問われて船が押収された。
上層部の頭がおかしかったガルカ王国ならばまだしも、アファル王国が船の押収などという思い切った手に出るとは一体どれ程不味いことをしたのだろうか?
デルヌが額の汗を拭きながら目の前の椅子に座った。
もっとも、態と座り心地の悪い椅子を用意してあったので、立っていた方がまだマシだった可能性は高いが。
「実は・・・アファル王国で、情報のやり取りに非常に効率的な魔道具が発明されたという話が耳に入りましてな。
それを入手するために人をやったのだが・・・思ったよりもアファル王国が事件を重視したらしく、王都の港を封鎖されたために抜け出せなくなったと聞いている。
魔道具を分解して、まず間違いなく見つからない隠し場所に魔術回路だけ隠しておいたはずなのだが船の捜索をされた際に見つかってしまった・・・らしい」
情報のやり取りに効率的な魔道具ね。
サネージュ号の利用の要請に合意した後に何が目的なのかこちらも調べさせたが、目的の物は転移門の派生的な魔道具だという話だ。
たかがそんな物の為にサネージュ号を押収される程のリスクを取ったというのだろうか?
「・・・サネージュ号は最新式の船であり、魔道具も色々と設置していたために転移門が2つか3つ設置できるほどの資金が掛けられていたのですが・・・。
この新しい魔道具とやらはそれだけの価値があったのですかな?」
ひっきりなしにハンカチで拭いているにも関わらず、デルヌの顔は冷や汗でテカテカしてきていた。
というか、もうハンカチが濡れていて汗を拭く役割を果たしていないのでは無いか?
「転移門というのは高くつくし記録が残る上に、外部交渉委員会にも体質的に合わない人間がいるのだよ。
その点、この新しい魔道具は遠方の相手との書類のやり取りを部屋から行うことが出来るので、機密が保ちやすい上に個人の体質に関係しない。
今回の交渉にも是非とも欲しいと我々委員会の方では考えたのだ」
転移門の利用が体質に合わないのなら、転移門の利用が不可避な外部交渉委員会で働かなければ良いのだ。
そして、外交的な交渉の間は魔術院の転移門を頻繁に使うのは当然のことなのだ。
記録が残ったところで特に問題は無い。
つまり、そこまでこの新しい魔道具が必要不可欠な訳では無い。
が。
ザルガ共和国が建国した時代ならまだしも、今となっては各委員会の有力なポストは幾つかの家系に独占されている。
そうなると『体質が合わないから』という理由で建国時代からの有力な商家の人間が一族で独占している外部交渉委員会に入らないという選択肢はないのだろうな。
確か、デルヌの息子も転移門の利用が体質に合わない人間の1人だったはず。
転移門を使うと1日は寝込んでしまうため、時間を争う遠方での交渉は任すことが出来ず、外部交渉委員会での昇進も遅れ気味だと耳にしたことがある。
その転移箱とやらがあれば息子の活躍の場が広がると考えて焦ったのだろうが・・・それでアファル王国に最新式の船を押収された上に敵対的行為まで明らかになってしまったのだ。
デルヌとその息子がその失点から復活するのは難しいだろうな。
思わずため息が漏れた。
東の大陸への新規航路の補給島を襲わせたのも上手くいかなかったという話だし、すっかりアファル王国には『敵対国』として認識されているだろう。
「魔道具なんぞ、魔術回路図があれば作成出来るのです。
何故もう少し完成して周囲が落ち着くのを待って、回路図だけ密かに写させなかったのですか?
少なくともサネージュ号を使う必要など、無かったでしょうに」
魔術院の特許部門の書類を盗むのなんて比較的簡単だ。
物事が落ち着いてからそれを密かに写させて秘密裏に魔道具を国元で作らせて限られた人員にだけそれを使わすようにすれば、ばれることも無かったのに。
デルヌが再び汗を拭った。
いい加減、1度そのハンカチを絞ってから使った方が良いんじゃないのか?
「今回のアファル王国との交渉にも役に立つと思ってね。
どうやら開発者が試作品を色々と改造していて中々魔術回路の記録を取らないから、試作品を盗むしか無いと言うことになったらしい」
「それで結局。魔術回路なんていう言い抜けのしようが無い物をサネージュ号で見つけられて船が押収される羽目になった訳ですけどね」
サネージュ号という船を押収された事だけなら、共和国にデルヌ個人の資産から賠償すれば何とかなる。が、アファル王国に『敵対行為を取っている国』とザルガ共和国を認識させてしまったのは何ともしがたい失敗だ。
外部交渉委員会の一員としては、最も避けなければならない行為を自らしたようなものだ。
こいつはもう終わりだな。
さて。
先日売りに出された真水の抽出魔道具もだが、アファル王国では色々と使い道のある新しい魔道具が開発されているようだ。
誰か、魔術院の人間で買収できそうな人間がいないか調べさせよう。
【後書き】
ちなみに転移箱の開発がばれたのは、実はアファル王国の外務省の今回の交渉の担当者も転移門を使うと頭が痛くなる体質の人だったから。
試作品を受け取ってそれを使ってやり取りしていたお陰で転移門を使わなくて済んだので体調が良くってご機嫌だった為、怪しまれて調べられてばれましたw
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>>>サイド ???
ノックの音が部屋に響いた。
「どうぞ」
高級そうなシルクの服を着た中年の男が部屋に入ってきた。
外に自分と相手の男が立っているのを他人が見たら、服の品質から相手の方が上司だと判断されるだろう。
が。
自分の部屋に呼びつけられた男は顔色が悪い。
今までにも何度も自分を呼びつけて偉そうに『依頼』をしてきた男だが、今回の事件で立場が逆転した。
「ようこそ、デルヌ殿。
どうぞお座り下さい。
お互い忙しい身ですので、早速用件に入らせてもらいますが・・・サネージュ号がアファル王国に国家機密窃盗の罪で押収されました。
外部交渉委員会の依頼で情報管理委員会から貸し出されていた船に一体何が起きたのか、説明して頂けますかな?」
戦争が起きて不本意ながらもガルカ王国を接収することになり、新しく隣国となったアファル王国の情報収集を行うために向かわせていた船に至急でどうしても乗せて欲しい人間がいると外部交渉委員会に頼まれて都合を付けたのだが・・・突然何やら『誘拐騒動』が起きて船があちらの王都に足止めを食らい、更には『国家機密窃盗』の罪に問われて船が押収された。
上層部の頭がおかしかったガルカ王国ならばまだしも、アファル王国が船の押収などという思い切った手に出るとは一体どれ程不味いことをしたのだろうか?
デルヌが額の汗を拭きながら目の前の椅子に座った。
もっとも、態と座り心地の悪い椅子を用意してあったので、立っていた方がまだマシだった可能性は高いが。
「実は・・・アファル王国で、情報のやり取りに非常に効率的な魔道具が発明されたという話が耳に入りましてな。
それを入手するために人をやったのだが・・・思ったよりもアファル王国が事件を重視したらしく、王都の港を封鎖されたために抜け出せなくなったと聞いている。
魔道具を分解して、まず間違いなく見つからない隠し場所に魔術回路だけ隠しておいたはずなのだが船の捜索をされた際に見つかってしまった・・・らしい」
情報のやり取りに効率的な魔道具ね。
サネージュ号の利用の要請に合意した後に何が目的なのかこちらも調べさせたが、目的の物は転移門の派生的な魔道具だという話だ。
たかがそんな物の為にサネージュ号を押収される程のリスクを取ったというのだろうか?
「・・・サネージュ号は最新式の船であり、魔道具も色々と設置していたために転移門が2つか3つ設置できるほどの資金が掛けられていたのですが・・・。
この新しい魔道具とやらはそれだけの価値があったのですかな?」
ひっきりなしにハンカチで拭いているにも関わらず、デルヌの顔は冷や汗でテカテカしてきていた。
というか、もうハンカチが濡れていて汗を拭く役割を果たしていないのでは無いか?
「転移門というのは高くつくし記録が残る上に、外部交渉委員会にも体質的に合わない人間がいるのだよ。
その点、この新しい魔道具は遠方の相手との書類のやり取りを部屋から行うことが出来るので、機密が保ちやすい上に個人の体質に関係しない。
今回の交渉にも是非とも欲しいと我々委員会の方では考えたのだ」
転移門の利用が体質に合わないのなら、転移門の利用が不可避な外部交渉委員会で働かなければ良いのだ。
そして、外交的な交渉の間は魔術院の転移門を頻繁に使うのは当然のことなのだ。
記録が残ったところで特に問題は無い。
つまり、そこまでこの新しい魔道具が必要不可欠な訳では無い。
が。
ザルガ共和国が建国した時代ならまだしも、今となっては各委員会の有力なポストは幾つかの家系に独占されている。
そうなると『体質が合わないから』という理由で建国時代からの有力な商家の人間が一族で独占している外部交渉委員会に入らないという選択肢はないのだろうな。
確か、デルヌの息子も転移門の利用が体質に合わない人間の1人だったはず。
転移門を使うと1日は寝込んでしまうため、時間を争う遠方での交渉は任すことが出来ず、外部交渉委員会での昇進も遅れ気味だと耳にしたことがある。
その転移箱とやらがあれば息子の活躍の場が広がると考えて焦ったのだろうが・・・それでアファル王国に最新式の船を押収された上に敵対的行為まで明らかになってしまったのだ。
デルヌとその息子がその失点から復活するのは難しいだろうな。
思わずため息が漏れた。
東の大陸への新規航路の補給島を襲わせたのも上手くいかなかったという話だし、すっかりアファル王国には『敵対国』として認識されているだろう。
「魔道具なんぞ、魔術回路図があれば作成出来るのです。
何故もう少し完成して周囲が落ち着くのを待って、回路図だけ密かに写させなかったのですか?
少なくともサネージュ号を使う必要など、無かったでしょうに」
魔術院の特許部門の書類を盗むのなんて比較的簡単だ。
物事が落ち着いてからそれを密かに写させて秘密裏に魔道具を国元で作らせて限られた人員にだけそれを使わすようにすれば、ばれることも無かったのに。
デルヌが再び汗を拭った。
いい加減、1度そのハンカチを絞ってから使った方が良いんじゃないのか?
「今回のアファル王国との交渉にも役に立つと思ってね。
どうやら開発者が試作品を色々と改造していて中々魔術回路の記録を取らないから、試作品を盗むしか無いと言うことになったらしい」
「それで結局。魔術回路なんていう言い抜けのしようが無い物をサネージュ号で見つけられて船が押収される羽目になった訳ですけどね」
サネージュ号という船を押収された事だけなら、共和国にデルヌ個人の資産から賠償すれば何とかなる。が、アファル王国に『敵対行為を取っている国』とザルガ共和国を認識させてしまったのは何ともしがたい失敗だ。
外部交渉委員会の一員としては、最も避けなければならない行為を自らしたようなものだ。
こいつはもう終わりだな。
さて。
先日売りに出された真水の抽出魔道具もだが、アファル王国では色々と使い道のある新しい魔道具が開発されているようだ。
誰か、魔術院の人間で買収できそうな人間がいないか調べさせよう。
【後書き】
ちなみに転移箱の開発がばれたのは、実はアファル王国の外務省の今回の交渉の担当者も転移門を使うと頭が痛くなる体質の人だったから。
試作品を受け取ってそれを使ってやり取りしていたお陰で転移門を使わなくて済んだので体調が良くってご機嫌だった為、怪しまれて調べられてばれましたw
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