シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
上 下
431 / 1,061
卒業後

430 星暦554年 紺の月 18日 新しいことだらけの開拓事業(2)

しおりを挟む
俺達は前回の航海で見つけたものの、船が寄らなかった島に来ていた。
相変わらず、海鳥が大量に崖の周りを飛び交っている。

ちなみに、今回の船はデブっちいせいか少し動きが遅く、島にたどり着くのに掛る日数が前回より多かった気がする。
前の船も俺の目から見たらデブに見えたが、長距離航海用の船としてはあれはスマートな方らしい。
まあそうだよな。
補給島を発見した時の小屋の材料と、新規航路として新しい街にたどり着いた時に交易品の見本を持って帰れるだけの貨物スペースはあったものの、交易船としては荷物を置く場所がかなり少なかった。

「折角新しいタイプの真水抽出魔道具が出来ましたからな。
あれを幾つかここに設置することで水だけでも補給できるようにするのは現実的か、試そうという話になっているんですよ」
小舟が島に向かうのを甲板から見ながら、ジャレットが俺達に説明してくれた。

ふうん。
まあ、アファル王国の王都からパストン島までほぼ直行して、前回のそこそこ早いらしき船で10日掛ったからな。

パストン島からアレグ島までが3日。
その後は東の大陸に属する島があって、比較的直ぐに大陸に着く。
確かにパストン島からアファル王国の間で水が補給できたら、航海する船にとっては水に取られる貨物スペースをかなり節約できるだろう。

とは言っても、こんな小さな島だ。
ちゃんと交易船がたどり着けるのかね?
航海士の腕が悪くってきっちりこの島を見つけられなかった場合、却って悲惨なことにならないか?

「また小屋を建てて、今度はひたすら真水を溜めておく人員をここに配置する訳ですか。
かなり退屈で辛い毎日になりませんかね?」
アレクがちょっと首をかしげながら言った。

「海鳥の観察とかが好きな人だったら構わないんじゃない?
あの魔道具を動かすのは別にずっと傍に居なきゃいけない訳じゃないし。
だけど、自炊が必須だね」
シャルロが肩を竦めながら感想を言った。

・・・というか、海鳥の観察が好きな人間に任せたら、観察に夢中になって船が来ても真水がまだ溜まっていなかったなんてことにならないか?

第一、水は腐る。船が来る日程が確実に前もって分かっているので無い限り、真水を大量に前もって作り置きしておく訳にもいかないだろう。
まあ、固定式の強力な通信機をここに設置して、港を出る時に何日でここに来る予定かを知らせておけば数日の誤差はあるにせよ、ある程度は水の需要を計画できるかも知れないが。

だが。
そんな通信機だってそれなりの魔石が必要になる。
しかも真水抽出の魔道具だってそれ自体に価値があるだろうし、そちらも魔石が必要だ。
「海賊とか悪徳商人に狙われないか?
あの真水抽出の魔道具は船にとってはかなり便利な物だろうし、供給が需要に追いついていない現時点では金を出せば買えるという訳でも無い。
他の街から孤立しているこの島に、数人の人間だけがそこそこの数の魔道具と一緒に残っているって知られたら目撃者を殺して入手してしまえと考える人間が出てくるだろうな」

かといって、防衛できるだけの大量な人間を配置するとなると食料の問題が出てくるし、なんと言っても非経済的だ。

「取り敢えず、小屋を建てて食糧と魔道具と一緒に3人ほど人を配置して、どんな感じかを様子を見ます。
それなりに現実的に稼働できそうとなったら、魔道具がもう少し行き渡ってここが全ての悪徳商人や海賊に狙われるような状況ではなくなるまでは防衛用に軍艦でも配置することになるでしょうな」
ジャレットが肩を竦めながら答えた。

なるほどねぇ。
魔道具がもっと大量生産されて行き渡ればここを狙う人間は減るか。
「だが、船に1個あの魔道具が行き渡るようになったら、ここに水の補給所を作る意味は無くなるのでは?
行き渡る前は水の補給所は重要だが狙われやすく、行き渡ったら狙われない代わりに必要も無くなる気がする」

俺の指摘にジャレットは肩を竦めた。
「まあ、そこら辺はお偉いさんの考えることですから。
魔道具に、特殊な刻印を施した魔石を定期的に嵌めないと使えないようにするといったような加工をしていると言う話をちらりと聞きましたから、盗んだもの勝ちな状況にはしないでしょう」

へぇぇ。
そんな加工が可能なのか。
後日ここの魔道具を見せて貰って、その技法を参考に出来ないか確認してみよう。
魔術院に登録してあったかな、そんなの?

軍部の機密技術だったら見せて貰えないだろうし、盗み見ても勝手に使ったら後からヤバいことになりそうだが。

しっかし。
こんな島で水抽出担当になったりしたら、マジで海鳥の観察が好きとでも言うんじゃ無い限り、1月ぐらいで退屈で頭がおかしくなっちまうんじゃないか?

まあ、最初は防衛用の軍艦が傍に居るなら気分転換になるだろうが、それも要らなくなったりしたらちょっと悲惨な気がするのは、俺だけかね?



【後書き】
現実の話として、小さな補給基地とかって狙われないんですかね?

しおりを挟む
感想 48

あなたにおすすめの小説

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

婚約破棄されて勝利宣言する令嬢の話

Ryo-k
ファンタジー
「セレスティーナ・ルーベンブルク! 貴様との婚約を破棄する!!」 「よっしゃー!! ありがとうございます!!」 婚約破棄されたセレスティーナは国王との賭けに勝利した。 果たして国王との賭けの内容とは――

婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました

ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。 王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。 しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました

饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。 わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。 しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。 末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。 そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。 それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は―― n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。 全15話。 ※カクヨムでも公開しています

婚約破棄されたけど、逆に断罪してやった。

ゆーぞー
ファンタジー
気がついたら乙女ゲームやラノベによくある断罪シーンだった。これはきっと夢ね。それなら好きにやらせてもらおう。

番だからと攫っておいて、番だと認めないと言われても。

七辻ゆゆ
ファンタジー
特に同情できないので、ルナは手段を選ばず帰国をめざすことにした。

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。

下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。 豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...