シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

423 星暦554年 紫の月 25日 慶事の前に張り切るな

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「お前さんの表の事業のパートナーが婚約式を行ったそうだが、お前はどうなんだ?」
婚約式のお祝いも兼ねてシャルロがケレナを連れて東の大陸へ遊びに行っているので、ちょっと暇になった俺は久しぶりにスタルノの所に来て、魔剣は無理にしてもちょっとしたナイフでも作ろうと頑張っていた。

シェイラの所に行っても良かったんだが、あちらはあちらでシャルロの婚約式に呼ばれたりその前に俺の買い物に付き合ったりでご無沙汰していたので、仕事が溜まっているみたいなんだよね。

俺が手伝えるタイプの書類仕事が多いようだったので、久しぶりに気分転換にスタルノの所に来たのだが・・・帰り道に、またもや左手の薬指に穴のあいた手袋を受け取ってしまった。

一体どうやって長は俺がどこにいるか把握しているんだ???
何ヶ月ぶりに来たスタルノの所を見張っている訳は無いだろうし、俺達の家の周りにいないのも分かっている。

街中を歩いているのを見られたとしたって・・・俺の顔ってそこまで知られていないはずなのに。
何とも納得いかん。

微妙に嫌な予感を感じつつ、長のところに来たら初っぱなからからかわれた。
「結婚しようとかは考えてもいませんね。
東の大陸への新航路の開拓とか、新しい補給用の島の開発とかを手伝おうとは考えているところなので留守勝ちになるでしょうけど」
だから俺は忙しいし、近いうちに王都を離れる予定だぜ~。

残念ながら、俺の声に出していないお断りの言葉は無視されたようだった。

「お前さんに、軍部からちょっとした依頼が来ている」
『軍部』という言葉に俺が嫌そうな顔をしたのを見て肩を竦めながら長が言った。

「お断りします」
軍部の話なんて、下手に聞いたら断れなくなる。
何も聞かずに切って捨てるのが正解だ。

「まあ、そう言うな。
お前の友人が婚約式をしたことも回り回っては関係しているが・・・王太子が婚約したのは知っているだろう?
当然のことながら、婚約したら結婚をする。
来年には慶事が予定されているのだが・・・その前に問題を片付けておきたいと軍部のお偉いさんは思っているらしくてな」

そうか、王太子の結婚式は来年か。
シャルロ達の結婚式は王太子の後になると言っていたから、それまでシャルロは通い婚状態か?
まあ、ノンビリしているから新婚生活の新居の準備とかにそのくらい時間が掛るかも知れないな。
「俺には関係ない話でしょう?」

「まあそう言うな。
隣国と戦争になれば、そうも言っていられなくなるぞ?
王太子の結婚式なんて、何か嫌なことを企んでいるのだったら最高のタイミングだろうが」
ワインをグラスに注ぎながら長が答える。

俺の方にもグラスを差し出したが、首を横に振って断った。
酒を飲みながら聞くような話じゃないだろうが、これは。
「何か企てているという情報が出てきたんですか?」

長が首を微かに傾けて見せた。
「微妙な所らしいな。
だから慶事を邪魔されたくないと、本国の方で調べて裏を取りたいらしい」

はぁぁ?
本国???
ここで言っているのってガルカ王国だろう???
そんな宗教馬鹿と、気にくわないことを言う部下の首を物理的に切らせてしまうような王がいる国での調べ事を手伝う?
「冗談じゃ無い。
第一、放っておいてもあの国はそのうち崩壊するでしょう?」

名前は忘れたが、王太子の婚約祝いの祭りの時にこっちに来た魔術師が色々内情を漏らしたと聞いたぞ。

「崩壊しそうだからこそ、最後の賭けに出る可能性だってあるだろう?
この国を何らかの形で侵略できて、ファルータ公爵領だけでも占領できればそれなりに本国で金をばらまいて不満を逸らせるかも知れない」
ワインで口を軽く湿らせて、まるで冗談を言っているかの様な顔で俺を見ながら長が言った。

「軍事的に侵略してきたら、抑えるのが軍の仕事でしょう。
俺は暗殺者でも諜報員でもない。
そういう裏の人間になりたくなかったから魔術師としてやっていけるように頑張っているんです。
100歩譲って、1日や2日、王都でちょっとした手伝いをする程度のことならまあ応じないこともないですが、他国まで行ってあるかどうかすら分からない情報を探すなんて絶対にお断りです」
ふざけるな。
こんな仕事を請けたら、ずるずると軍部の裏の仕事に引きずり込まれる。

「まあ、そう言うだろうとは思ったが・・・伝えない訳にはいかないからな。
軍部の方にはお断りの返事を伝えておくよ」
肩を竦めながらあっさり長は引いた。

ふう。
もしも軍部が更に押してきたら、学院長にでも泣き付こうかな・・・。

あまり俺の正体が明らかになるのは歓迎できないが、こんな仕事に無理矢理就かされるぐらいだったら学院長の特級魔術師の立場を借りてでも、断ってやる!


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