417 / 1,038
卒業後
415 星暦554年 赤の月 23日 次の旅立ち?(7)
しおりを挟む
「大きく分けて、混ざっている不純物を抜くのと、水を創るのと二種類あるっぽいね」
シャルロが俺達が魔術院から写してきた魔術回路の資料を取りまとめながらコメントした。
意外にも、真水を作る為の魔道具とその魔術回路は思っていた以上に多数あった。
昔から水への需要というのは大きいから、国や貴族が資金を出して色々と開発させてきたらしい。
が。
どれもこれも、添付されていた魔道具に関する覚書きを見る限り・・・必要魔力が馬鹿でかいようだ。
これだったら短期的には他に選択肢が無ければ使うにしても、長期的には井戸を掘るなり用水路を作るなりして水を得る方が経済的になるのだろう。
そんな様々な経済的には『失敗作』な魔術回路を集めまくった俺達は、それを工房で見直していた。
「海水を真水と塩に分けられたら、人間に必要不可欠な2つの要素を両方入手できるから便利ではありそうだな」
アレクが呟いた。
「確かに。開拓地だって塩が必要だろうから、自分で海水を煮詰めて塩を抽出するよりは魔道具で両方得られたら便利だろうな。
だが、泥とかも混じるだろうから泥混じりの塩って言うのはちょっと微妙な気がするが・・・」
まあ、泥は暫く汲んだ海水を置いておいたら下に沈殿するか?
上の綺麗な海水だけを使う形にすれば真水と塩になるかも知れない。
下町の井戸水が汚くて困った場合の濾過装置としてだったら分別された不純物はそのまま捨てれば良いし。
「こんなの、蒼流とまで言わなくても、そこら辺で遊んでいる精霊に頼めば一発で直ぐに分けられるんだけどねぇ」
ため息をつきながらシャルロが頭をかいた。
本当に。
俺が頼んだって、気楽にやってくれるだろう。
だが、精霊への頼み事をする魔術回路というのは未だに発見されていないし、精霊へ何かを強制しうるような魔術回路だったらそんな物は開発しない方が良いだろう。
「取り敢えず。
海水なり泥水なりを汲んだ後、半刻程度それを静置しておいて大きな不純物を沈殿させ、上半分に魔道具を使うしよう。
そんでもって魔術回路ごとにどの程度の魔力を使ってどの程度の量の真水を作れるか、チェックしていこうぜ」
俺の提案に、ため息をつきながらアレクとシャルロが合意する。
ため息をつきたくもなる。
10種類以上も水抽出用の魔術回路が見つかったのだ。
これを全部作るのにどれ程時間が掛るか。
だが、作ってみないとどれが効率か、どのように魔術回路が機能するかは分からない。
下手したら、シャルロの婚約式までに既存の魔道具の試作で終わっちまうかもな・・・?
◆◆◆◆
取り敢えず、魔術回路が簡単そうなのから試作してみた。
最初の一つが完成したので、適当に蒼流に海水を出して貰って試運転してみた俺達は、思わず唖然としてしまった。
「何だこれは」
魔道具から猛烈な勢いで吹き出る蒸気にアレクの声が漏れた。
「これって加湿器として使った方が良くない?」
シャルロも思わずと言った感じで呟いている。
「こんなに大きな加湿器なんて要らないし、この勢いで蒸気を出されたら幾ら乾季でも家中カビだらけになるよ」
俺の突っ込みに二人とも反応しなかった。
大して大きくない魔道具から、猛烈な勢いで蒸気が出てきているのだ。
ちょっと呆気にとられて、どう反応して良いのか分からないという感じだ。
「・・・取り敢えず、これが稼働している間にお茶でも淹れて一休みしようか」
ため息をつきながらアレクが提案した。
「そうだな。
だが、窓を開けておくぜ。
これじゃあ工房中が湿気ちまう」
合意して立ち上がり、窓を開けに動く。
シャルロ達も同じ感想を持ったのか、3人で工房中の窓を開け始めた。
次の試作機は外に持って行って稼働した方が良いな。
しっかし。
あれだけ蒸気を逃がしていたら、かなり効率が悪そうだ。
第一、何だって水の抽出に蒸気が必要なんだ?
酒の二次蒸留みたいに水を蒸気にして抽出しているにしても、肝心の蒸気が逃げていたら意味が無いだろうに。
・・・もしかして、俺達の作り方が悪かった?
いや、添付されていた魔道具のデザイン通りに作ってある。
要は、元々の魔道具の設計に問題があるという訳なのかもな。
としたら、魔術回路だけで無く魔道具の設計そのものも考慮する必要があるのか。
この分じゃあ、パストン島の開拓が始まる前に魔道具が完成しないんじゃないか・・・?
【後書き】
前途多難ですw
シャルロが俺達が魔術院から写してきた魔術回路の資料を取りまとめながらコメントした。
意外にも、真水を作る為の魔道具とその魔術回路は思っていた以上に多数あった。
昔から水への需要というのは大きいから、国や貴族が資金を出して色々と開発させてきたらしい。
が。
どれもこれも、添付されていた魔道具に関する覚書きを見る限り・・・必要魔力が馬鹿でかいようだ。
これだったら短期的には他に選択肢が無ければ使うにしても、長期的には井戸を掘るなり用水路を作るなりして水を得る方が経済的になるのだろう。
そんな様々な経済的には『失敗作』な魔術回路を集めまくった俺達は、それを工房で見直していた。
「海水を真水と塩に分けられたら、人間に必要不可欠な2つの要素を両方入手できるから便利ではありそうだな」
アレクが呟いた。
「確かに。開拓地だって塩が必要だろうから、自分で海水を煮詰めて塩を抽出するよりは魔道具で両方得られたら便利だろうな。
だが、泥とかも混じるだろうから泥混じりの塩って言うのはちょっと微妙な気がするが・・・」
まあ、泥は暫く汲んだ海水を置いておいたら下に沈殿するか?
上の綺麗な海水だけを使う形にすれば真水と塩になるかも知れない。
下町の井戸水が汚くて困った場合の濾過装置としてだったら分別された不純物はそのまま捨てれば良いし。
「こんなの、蒼流とまで言わなくても、そこら辺で遊んでいる精霊に頼めば一発で直ぐに分けられるんだけどねぇ」
ため息をつきながらシャルロが頭をかいた。
本当に。
俺が頼んだって、気楽にやってくれるだろう。
だが、精霊への頼み事をする魔術回路というのは未だに発見されていないし、精霊へ何かを強制しうるような魔術回路だったらそんな物は開発しない方が良いだろう。
「取り敢えず。
海水なり泥水なりを汲んだ後、半刻程度それを静置しておいて大きな不純物を沈殿させ、上半分に魔道具を使うしよう。
そんでもって魔術回路ごとにどの程度の魔力を使ってどの程度の量の真水を作れるか、チェックしていこうぜ」
俺の提案に、ため息をつきながらアレクとシャルロが合意する。
ため息をつきたくもなる。
10種類以上も水抽出用の魔術回路が見つかったのだ。
これを全部作るのにどれ程時間が掛るか。
だが、作ってみないとどれが効率か、どのように魔術回路が機能するかは分からない。
下手したら、シャルロの婚約式までに既存の魔道具の試作で終わっちまうかもな・・・?
◆◆◆◆
取り敢えず、魔術回路が簡単そうなのから試作してみた。
最初の一つが完成したので、適当に蒼流に海水を出して貰って試運転してみた俺達は、思わず唖然としてしまった。
「何だこれは」
魔道具から猛烈な勢いで吹き出る蒸気にアレクの声が漏れた。
「これって加湿器として使った方が良くない?」
シャルロも思わずと言った感じで呟いている。
「こんなに大きな加湿器なんて要らないし、この勢いで蒸気を出されたら幾ら乾季でも家中カビだらけになるよ」
俺の突っ込みに二人とも反応しなかった。
大して大きくない魔道具から、猛烈な勢いで蒸気が出てきているのだ。
ちょっと呆気にとられて、どう反応して良いのか分からないという感じだ。
「・・・取り敢えず、これが稼働している間にお茶でも淹れて一休みしようか」
ため息をつきながらアレクが提案した。
「そうだな。
だが、窓を開けておくぜ。
これじゃあ工房中が湿気ちまう」
合意して立ち上がり、窓を開けに動く。
シャルロ達も同じ感想を持ったのか、3人で工房中の窓を開け始めた。
次の試作機は外に持って行って稼働した方が良いな。
しっかし。
あれだけ蒸気を逃がしていたら、かなり効率が悪そうだ。
第一、何だって水の抽出に蒸気が必要なんだ?
酒の二次蒸留みたいに水を蒸気にして抽出しているにしても、肝心の蒸気が逃げていたら意味が無いだろうに。
・・・もしかして、俺達の作り方が悪かった?
いや、添付されていた魔道具のデザイン通りに作ってある。
要は、元々の魔道具の設計に問題があるという訳なのかもな。
としたら、魔術回路だけで無く魔道具の設計そのものも考慮する必要があるのか。
この分じゃあ、パストン島の開拓が始まる前に魔道具が完成しないんじゃないか・・・?
【後書き】
前途多難ですw
0
お気に入りに追加
503
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です
岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」
私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。
しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。
しかも私を年増呼ばわり。
はあ?
あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!
などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。
その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる