シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
上 下
409 / 1,038
卒業後

408 星暦554年 赤の月 10日 旅立ち?(49)

しおりを挟む
ちょっと時間を飛ばして帰国しました。
今回はシェイラの視点です。


--------------------------------------------------------------------------------

>>>サイド シェイラ・オスレイダ

「あら、綺麗ね?
ありがとう」
2日前の晩に『帰宅した』と連絡があったウィルが、会いに来てくれた。

あまりお土産というものを渡す習慣に慣れていないのか、会った早々さっさと渡してしまいたいと言わんばかりに渡されたのが、ちょっと珍しい柄のスカーフと、細かい綺麗な彫刻が施された木箱だった。
時の経過で木が亜麻色になっていて、美しい。
なかなかの骨董品のようだ。
まさか土産にこんな素敵な物を見つけてきてくれるとは思っていなかったので、嬉しい驚きだ。

ふふふ。
お土産なんて、別に良いのに。
まあ、東大陸の遺跡の発掘物を貰えたらそれはそれで嬉しかったけど。

一番の土産は、ウィルが無事に帰ってきたことだ。
水精霊の加護があるウィルに船旅で何かが起きるとは思わなかったが、向こうの街で何か事件に巻き込まれても不思議はないし、海賊船との遭遇だってあり得た。

やはり1月も会わないと色々と悪いことも想像してしまうものだ。
途中で1度連絡を貰えたのは良かったが、その後は『帰国した』の連絡まで音沙汰無しだったし。

「今回行った街の北部に幾つか遺跡があるらしいんだ。
だから遺跡からの発掘物っていうのがあの街の名産物らしくて、もの凄く広い蚤市があったんだが・・・広すぎてとても1日では回りきれる規模じゃなかった。
いつか、シェイラと一緒に行ってみると面白いかもしれないぜ」
仄かに赤くなりながらウィルが答える。

「面白そうね。
だけど流石に往復の船旅だけで1月近く掛るのは難しいかなぁ・・・」
東大陸の遺跡ねぇ。
興味は湧くが・・・ちょっと時間が掛りすぎるかな?
まあ、数年後に今の遺跡での作業が一段落ついたら、次の遺跡の担当になれるまでの間にちょっと船旅に行くのもありかもだけど。

肩を竦めながらウィルが付け加えた。
「あっちの領事館に転移門を設置したんで、シャルロがそのうちケレナを連れていくって言っていたんだよね。
どのくらい魔力を消費するのか聞いて、俺でも何とかなりそうだったら連れて行くぜ?
ただまあ、転移門を使うにしてもあの蚤市をしっかり見て回ろうと思ったらそれなりの日数の休みを取れる時期に行く方が良いとは思うが」

「良いの?!」
ここから王都への転移門だって一般人が使うとそれなりの費用になるのだ。
別の大陸へなんてことになったら、それこそもの凄い金額になるのは想像出来る。

「別に、普段は俺の魔力を特に何かに使っている訳じゃ無いからな。
シェイラとの時間を楽しむために使ったって構わないさ。
ただまあ、俺の魔力だけで跳べないとなると色々高く付くんで老後の楽しみにでも取っておいて貰う必要があるが」
ワインをお互いのグラスに注ぎながらウィルが答えた。

ウィルって時々思いがけず嬉しいことを言ってくれる。
唐変木だからこそ、計算していないこういう言葉って嬉しい。

しっかし。
魔術師なのに、魔力ってあまり使って無いんだ?
まあ、魔道具の開発が主な仕事だものね。
却って私達の発掘現場で手伝っている時の方が普段よりよっぽど魔力を使うって言っていたっけ?

「それで、今回の旅はどうだった?」
ワクワクしながら尋ねる。

ワインを一口飲んで、ウィルがちょっと考えるように首をかしげた。
「船旅は・・・長かった。
最初の数日が過ぎたら退屈だったな。空滑機《グライダー》で飛んで回ったって同じ景色が続くだけだし。
食事も保存食になってからははっきり言って食えた物じゃなかったし。
お陰で俺達は島探しよりも魚釣りの方に熱心だったぐらいさ。
島を見つけた時は中々面白かったが」

「見つけたの!!!???」
凄い。
国が本腰を入れて開発予定の新規交易路で補給に使える島を見つけたとなったら、利権だけでも凄いことになる。

「おう。2つほどね。
一つは補給用に小規模な農業でも出来そうな感じの島だったな。
もう一つは水の補給と海賊対策用の基地になるんじゃないかって話だが」
ちょっと居心地悪げに身じろぎしてから、ウィルが咳払いをした。

「そう言えば、最初の方の島の開拓を手伝うためにまたちょっと王都を離れるかも知れない。
まあ、こういう開拓の準備にどの位時間が掛るか知らないから、出発がいつになるか全く見当も付かないけど」

おやま。
帰って来たばかりなのに、もう次の出発の話ですか。
でもまあ、新しい補給島の開拓となれば、話は大きい。
しかもウィル達が一部とは言え利権を持っているのだ。
是非参加するべきだし、政府にしても『利権があるのだから』という理由で無料で使える魔術師が来てくれたら大歓迎だろう。

ただまあ、こういうのって段取りにもの凄く時間が掛るはずだけどね。
「あら、折角帰って来たばかりなのに残念ね。
出発までは、時間がある間は出来るだけこちらで過ごしてくれると思っていい?」



【後書き】
恋人と時間を過ごしながらついでに遺跡での作業を手伝って貰おうと企んでいるシェイラ嬢w
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です

岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」  私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。  しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。  しかも私を年増呼ばわり。  はあ?  あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!  などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。  その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

処理中です...