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卒業後
405 星暦554年 藤の月 24日 旅立ち?(46)
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「いらっしゃいませ。
何をお探しですか?」
店員がシャルロを一目見て手を揉むような雰囲気で素早く寄ってきた。
他のぼったくり店でも思ったが・・・こいつらの客を見極める目は中々凄い。
俺だって、スリや盗みで働いていた時の経験から貴族や金持ち商人っていうのを見分ける目に自信はある。
だけど、他国で似たような品質の服を着たアレクが一緒に居ても、一目でシャルロをターゲットにするんだよねぇ、こいつら。
俺は最初から目にも入らないような感じだ。
気品というのはどの大陸でも共通だという事なのかね?
だけど今回は俺が買いに来たんだから、俺をこうも露骨に無視したのは失敗だったな。
どう考えても俺がシャルロの従者という訳では無い。
先に店に入ってきたし、扉をあいつのために押さえておくとかそういうこともしていないのだから。
そう考えたら俺が客の可能性もある。つまり、もう少し俺にも愛想良くするべきだったな。
「僕は特に何も要らない。
友達が興味あるっていうからついてきただけだからね~」
朗らかに答えたシャルロに顔を引きつらせ、店員が俺の方に向いた。
「これはこれは。
発掘物をお求めになって当店にいらしたのですか?
流石、お目が高い!
どのようなものをご希望ですか?
ディアグザール遺跡のガラス細工から、グダヴィア王朝の花瓶まで、何でも揃っております」
ディアグザール遺跡もグダヴィア王朝も知らんよ・・・。
シェイラならこちらの大陸の遺跡や考古学に関する知識があるだろうが、俺は素人なんだって。
取り敢えず。
こいつに着いてこられるのは面倒だな。
「自由に見て回るから、商品の解説を出来る若いのを一人付けてくれればそれでいい」
お前は来るな。
俺の無言の言葉が聞こえたのか、店員はあっさり引き下がって若い小僧を俺に付けた。
シャルロが購入希望者じゃないと分かった時点で明らかにさっきの店員のやる気が下がっていたからな。
俺では高額品を買うように見えないらしい。
俺も、それ程大金を掛けるつもりはないし。
しっかし。
失敗したな。
こんな大がかりな店では無く、玉石混交な蚤市にでも案内させるべきだった。
ここでは本物も偽物もぼったくり価格だから、真剣な買い物には向いていない。
買う気はほぼ無くなったが、蚤市で本物が見つからなかったらここにまた戻ってこなければならないかも知れない。
一応、本物がどの位の値段で売り出されているかだけ、確認しておこう。
発掘品とか骨董品というのは古さが価値を作り出すものだから、新しい物を古く見せる技術というのはどの詐欺師も見事な腕前になるまでその腕を磨く。
この店で偽装をしている人間も、なかなかの腕のようだ。
所々、明らかに偽物だと分かるようなピカピカの新品みたいのもあるが。
「・・・あれってどう見ても遺跡からの発掘品ではないよな?」
笑ってしまうぐらい新しい見た目の花瓶を指さして、店の人間に尋ねる。
ちょっとこれを発掘品として売るのはないだろう。
「これは模造品です。
グダヴィア王朝の花瓶の柄は見事な物が多いですからね。
古くなくてもその柄を再現した花瓶をお求めになる方も多いのです」
俺が指差している商品を手に取り、下部をひっくり返して何かを確認してから小僧がにこやかに笑って答えた。
おい。
下部を確認しないとそれが模造品だと分かってないのかよ??
しっかし。
その値札は周りの本物と殆ど変わらないぜ?
模造品だと気付かずに買う客もいるんじゃないかという気がする。
「模造品なのに発掘品と殆ど変わらない値段だね?」
シャルロが周りを見回しながら尋ねる。
「あれも、模造品でしょう?
お値段的には隣の本物と殆ど変わらないけど」
若い店員の額が汗でテカテカし始めた。
へぇ~。
汗を掻くような質問をしたんだ?
つまり、模造品にこの値段を付けるのが妥当では無いのだろうな。
さては聞かれない限り模造品だと言わずに客に売りつけてるな?
旅人が主な客層だとしたら、騙されたと後で相手が気が付いても態々苦情を言うためにこの街まで戻ってくる可能性は低いからな。
取り敢えず。
この店は、ないな。
本物も偽物も、高すぎて買うのは馬鹿馬鹿しすぎる。
第一、この店で買ったなんて知られたら例え本物を見つけて買ったとしても『偽物だろう』と思われるのがオチだ。
「ええっとぉ・・・」
必死に若い店員が言い訳を考えているのに手を振ってみせる。
「ああ、もう構わん。
時間が無いので帰るよ。
見送りは不要だ」
盗みに入る価値も無いような、二流品ばかりだった。
これだったら9割方偽物というよりも、9割9分が偽物、時々間違って本物が混じることがあるというところだな。
話の種にはなりそうだが・・・酷い店だな。
蚤市で土産に出来るような物が見つかることを期待しよう。
【後書き】
書かれていませんが、それなりに商品を見て説明を聞かされて既にウィル君は疲れ果ててますw
何をお探しですか?」
店員がシャルロを一目見て手を揉むような雰囲気で素早く寄ってきた。
他のぼったくり店でも思ったが・・・こいつらの客を見極める目は中々凄い。
俺だって、スリや盗みで働いていた時の経験から貴族や金持ち商人っていうのを見分ける目に自信はある。
だけど、他国で似たような品質の服を着たアレクが一緒に居ても、一目でシャルロをターゲットにするんだよねぇ、こいつら。
俺は最初から目にも入らないような感じだ。
気品というのはどの大陸でも共通だという事なのかね?
だけど今回は俺が買いに来たんだから、俺をこうも露骨に無視したのは失敗だったな。
どう考えても俺がシャルロの従者という訳では無い。
先に店に入ってきたし、扉をあいつのために押さえておくとかそういうこともしていないのだから。
そう考えたら俺が客の可能性もある。つまり、もう少し俺にも愛想良くするべきだったな。
「僕は特に何も要らない。
友達が興味あるっていうからついてきただけだからね~」
朗らかに答えたシャルロに顔を引きつらせ、店員が俺の方に向いた。
「これはこれは。
発掘物をお求めになって当店にいらしたのですか?
流石、お目が高い!
どのようなものをご希望ですか?
ディアグザール遺跡のガラス細工から、グダヴィア王朝の花瓶まで、何でも揃っております」
ディアグザール遺跡もグダヴィア王朝も知らんよ・・・。
シェイラならこちらの大陸の遺跡や考古学に関する知識があるだろうが、俺は素人なんだって。
取り敢えず。
こいつに着いてこられるのは面倒だな。
「自由に見て回るから、商品の解説を出来る若いのを一人付けてくれればそれでいい」
お前は来るな。
俺の無言の言葉が聞こえたのか、店員はあっさり引き下がって若い小僧を俺に付けた。
シャルロが購入希望者じゃないと分かった時点で明らかにさっきの店員のやる気が下がっていたからな。
俺では高額品を買うように見えないらしい。
俺も、それ程大金を掛けるつもりはないし。
しっかし。
失敗したな。
こんな大がかりな店では無く、玉石混交な蚤市にでも案内させるべきだった。
ここでは本物も偽物もぼったくり価格だから、真剣な買い物には向いていない。
買う気はほぼ無くなったが、蚤市で本物が見つからなかったらここにまた戻ってこなければならないかも知れない。
一応、本物がどの位の値段で売り出されているかだけ、確認しておこう。
発掘品とか骨董品というのは古さが価値を作り出すものだから、新しい物を古く見せる技術というのはどの詐欺師も見事な腕前になるまでその腕を磨く。
この店で偽装をしている人間も、なかなかの腕のようだ。
所々、明らかに偽物だと分かるようなピカピカの新品みたいのもあるが。
「・・・あれってどう見ても遺跡からの発掘品ではないよな?」
笑ってしまうぐらい新しい見た目の花瓶を指さして、店の人間に尋ねる。
ちょっとこれを発掘品として売るのはないだろう。
「これは模造品です。
グダヴィア王朝の花瓶の柄は見事な物が多いですからね。
古くなくてもその柄を再現した花瓶をお求めになる方も多いのです」
俺が指差している商品を手に取り、下部をひっくり返して何かを確認してから小僧がにこやかに笑って答えた。
おい。
下部を確認しないとそれが模造品だと分かってないのかよ??
しっかし。
その値札は周りの本物と殆ど変わらないぜ?
模造品だと気付かずに買う客もいるんじゃないかという気がする。
「模造品なのに発掘品と殆ど変わらない値段だね?」
シャルロが周りを見回しながら尋ねる。
「あれも、模造品でしょう?
お値段的には隣の本物と殆ど変わらないけど」
若い店員の額が汗でテカテカし始めた。
へぇ~。
汗を掻くような質問をしたんだ?
つまり、模造品にこの値段を付けるのが妥当では無いのだろうな。
さては聞かれない限り模造品だと言わずに客に売りつけてるな?
旅人が主な客層だとしたら、騙されたと後で相手が気が付いても態々苦情を言うためにこの街まで戻ってくる可能性は低いからな。
取り敢えず。
この店は、ないな。
本物も偽物も、高すぎて買うのは馬鹿馬鹿しすぎる。
第一、この店で買ったなんて知られたら例え本物を見つけて買ったとしても『偽物だろう』と思われるのがオチだ。
「ええっとぉ・・・」
必死に若い店員が言い訳を考えているのに手を振ってみせる。
「ああ、もう構わん。
時間が無いので帰るよ。
見送りは不要だ」
盗みに入る価値も無いような、二流品ばかりだった。
これだったら9割方偽物というよりも、9割9分が偽物、時々間違って本物が混じることがあるというところだな。
話の種にはなりそうだが・・・酷い店だな。
蚤市で土産に出来るような物が見つかることを期待しよう。
【後書き】
書かれていませんが、それなりに商品を見て説明を聞かされて既にウィル君は疲れ果ててますw
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