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卒業後
390 星暦554年 藤の月 19日 旅立ち?(32)
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「この帽子なんてどう?似合うと思うよ~。
暑いんだったら日差しを遮るべきだし」
シャルロが鮮やかな青と緑の円筒形の帽子?らしき物を手に、俺の方を振り返った。
いやいやいや。
やっと地味な蒼いシャツとズボンに落ち着いたところなのに、何だってそんなに派手な帽子を買わなきゃいけないんだ。
第一、そんな帽子を被っているやつはそれ程多くないぞ?
それに帽子は視界が狭くなるから、顔を隠す必要がある時以外は被りたくない。
「お前が被ったらどうだ?
色彩的にも、お前の方が似合いそうだぞ」
どうやらシャルロとしては真面目に俺に勧めているつもりだったのか、俺の言葉を聞いて手に持っていた帽子を真剣に観察してから、自分の頭に乗せて鏡を覗き込んだ。
マジ?
そんな派手な色の、被る気??
まあ、確かにシャルロには似合ってなくも無いけど。
「その形の帽子はそれなりの地位にある人間が被る物だから、シャルロだったらまあ良いんじゃないか?
もっとも魔術師の社会的地位を考えたら、ウィルが被っても問題無いと思うけどね」
俺とシャルロのやり取りに笑いながら、アレクが口を挟む。
へぇ~。
社会的地位と帽子の形が関係するんだ?
東の大陸でも普通に共通語が通じると聞いて、それ程真剣にこちらの慣習とかに関して調べてこなかったのだが、アレクと一緒で正解だったな。
服飾の形で社会的地位が示されているなんて思ってもいなかった。
まあ、アファル王国だって暗黙の了解みたいのはあるが。
どれだけ良い生地を使っていても、商人は貴族が着るような形式の服は着ないし、古くてボロい生地を使っていても貴族の服装の形は平民のとは違う。
まあ、シャルロみたいに若者で貴族として暮すつもりの無い奴は自分が気に入った服を着ているけどね。
それでも、大前提となる彼らの馴染みのある服装というのが貴族のものだからね。やはり俺とは服のスタイルが違うことが多い。
考えてみたら、社会的地位ってアファル王国でだって服飾に現れているか。
もっとも、スリにとっては社会的地位よりも経済的地位の方が重要だから、裏社会の人間は服の形よりも生地の品質を見るが。
貴族なんかの場合は、貧乏貴族でも思いがけなく権力者と仲が良かったりする場合もあり、ちょっとした小遣い稼ぎ程度の盗みのつもりが警備兵が総出するような大騒ぎになることも偶にあるので、それなりに貴族を狙うときはそいつの人脈も下調べするのが賢いけどね。
東大陸で(というかアファル王国ででもだが)盗みなんぞするつもりは無かったから社会的地位とか慣習にあまり興味を持っていなかったのだが、自分に釣り合わない服を着ていたら変なのに目を付けられたりしかねない。
後でアレクに必要最低限の事は聞いておく方が良いかも。
「アレク。
この格好やこちらの服で、平均的な魔術師としておかしくないか?」
適当に選んだ服と今試着している服を指しながら、アレクに聞く。
アレクが少し眉をひそめて考え込みながら、俺の服を確認する。
「まあ、問題はないが・・・どうせなら、こちらの方が良くないか?」
にやりと笑いながらアレクが手に取って見せたのはド派手な赤いシャツだった。
・・・2度とこいつらと服を買いには行かんぞ!!!
「赤はあまり好きじゃ無いんだ・・・」
ため息をつきながら、店員を手招く。
「これらの服を買う。
この服を着て出て行くから、さっきまで着ていた服もこれらと一緒に袋に入れて、『アグリッパの星』宿まで届けてくれ」
「ウィル、これなんてシェイラにどう?」
シャルロの声に振り返ると、何やら薄い水色の生地を見せられた。
持っているシャルロの手が透けて見えるぐらい薄いが、銀糸と黒糸で細かい刺繍が施されていて、中々美しい。
「随分と淡い水色だな。
シェイラが好きそうだが・・・洗ったら色落ちするんじゃないか?」
さっきのド派手に鮮やかな青い帽子の色の方が、洗っても色が残って長く使えるだろう。
雨が降ったら服に色が付きそうだが。
それともちゃんとした高級品だったら濡れても色は落ちないかな?
アレクがため息をついた。
「絹のショールは細心の注意を払って使う物なんだよ。
そうそう洗ったりしないし、それだけの刺繍を施す生地だったらそれなりにしっかりと染色されているだろう」
「・・・細心の注意を払わなきゃ使えないような物よりも、日常的に使える物を贈りたいんだが。
気をつけすぎて、箪笥の奥に仕舞われたままじゃあ意味ないだろ」
大切に仕舞いすぎてカビが生えたり、有ることを忘れている間に使用人に盗まれたりなんて言うのがよくあるパターンだ。
「絹だって使わなきゃ持っている意味ないでしょ?
ちゃんとシェイラだってそこら辺は分かってるって」
シャルロが暢気に笑いながら口を挟む。
お前さんの経済観念と俺やシェイラの経済観念は違うかも知れないからなぁ。
『細心の注意』を払って使うべき絹のショールをシェイラがどの位活用してくれるかは微妙な所だな。
まあ、そうは言っても。
一つぐらい、良い物を渡すというのもありか。
何か特別な時に使って貰えたらお互い楽しみが増える。
もっと日常用の物もお土産に買っていけば良いんだし。
「・・・今回はボーナスも出るんだし、ちょっと奮発するか」
「そ~そ~。折角ウィルが学院長以外にお土産を買いたい相手が出来たんだ。
色々買おうね~」
「そうだな。
買い物の苦手なウィルの為に、我々が一肌脱ぐよ」
思わず二人を睨み付ける。
「買い物が苦手なんじゃ無い。単に興味が無いだけだ」
「興味が無いからよく分からないし、苦痛でしょ?
それって『苦手』って世間一般では言うんだよ?」
うぐぅ。
シャルロに言い込められる日が来るなんて。
ショックだ。
-----------------------------------------------------
【後書き】
実はシャルロもアレクもそれなりにお洒落。
ウィルだけがかなり無関心です。
二人のどちらかに、『その服大分くたびれてきてるよ?』と言われたら買い足してます。
それが分かっているので、服に関しては遠慮無くずけずけウィルに突っ込む二人w
暑いんだったら日差しを遮るべきだし」
シャルロが鮮やかな青と緑の円筒形の帽子?らしき物を手に、俺の方を振り返った。
いやいやいや。
やっと地味な蒼いシャツとズボンに落ち着いたところなのに、何だってそんなに派手な帽子を買わなきゃいけないんだ。
第一、そんな帽子を被っているやつはそれ程多くないぞ?
それに帽子は視界が狭くなるから、顔を隠す必要がある時以外は被りたくない。
「お前が被ったらどうだ?
色彩的にも、お前の方が似合いそうだぞ」
どうやらシャルロとしては真面目に俺に勧めているつもりだったのか、俺の言葉を聞いて手に持っていた帽子を真剣に観察してから、自分の頭に乗せて鏡を覗き込んだ。
マジ?
そんな派手な色の、被る気??
まあ、確かにシャルロには似合ってなくも無いけど。
「その形の帽子はそれなりの地位にある人間が被る物だから、シャルロだったらまあ良いんじゃないか?
もっとも魔術師の社会的地位を考えたら、ウィルが被っても問題無いと思うけどね」
俺とシャルロのやり取りに笑いながら、アレクが口を挟む。
へぇ~。
社会的地位と帽子の形が関係するんだ?
東の大陸でも普通に共通語が通じると聞いて、それ程真剣にこちらの慣習とかに関して調べてこなかったのだが、アレクと一緒で正解だったな。
服飾の形で社会的地位が示されているなんて思ってもいなかった。
まあ、アファル王国だって暗黙の了解みたいのはあるが。
どれだけ良い生地を使っていても、商人は貴族が着るような形式の服は着ないし、古くてボロい生地を使っていても貴族の服装の形は平民のとは違う。
まあ、シャルロみたいに若者で貴族として暮すつもりの無い奴は自分が気に入った服を着ているけどね。
それでも、大前提となる彼らの馴染みのある服装というのが貴族のものだからね。やはり俺とは服のスタイルが違うことが多い。
考えてみたら、社会的地位ってアファル王国でだって服飾に現れているか。
もっとも、スリにとっては社会的地位よりも経済的地位の方が重要だから、裏社会の人間は服の形よりも生地の品質を見るが。
貴族なんかの場合は、貧乏貴族でも思いがけなく権力者と仲が良かったりする場合もあり、ちょっとした小遣い稼ぎ程度の盗みのつもりが警備兵が総出するような大騒ぎになることも偶にあるので、それなりに貴族を狙うときはそいつの人脈も下調べするのが賢いけどね。
東大陸で(というかアファル王国ででもだが)盗みなんぞするつもりは無かったから社会的地位とか慣習にあまり興味を持っていなかったのだが、自分に釣り合わない服を着ていたら変なのに目を付けられたりしかねない。
後でアレクに必要最低限の事は聞いておく方が良いかも。
「アレク。
この格好やこちらの服で、平均的な魔術師としておかしくないか?」
適当に選んだ服と今試着している服を指しながら、アレクに聞く。
アレクが少し眉をひそめて考え込みながら、俺の服を確認する。
「まあ、問題はないが・・・どうせなら、こちらの方が良くないか?」
にやりと笑いながらアレクが手に取って見せたのはド派手な赤いシャツだった。
・・・2度とこいつらと服を買いには行かんぞ!!!
「赤はあまり好きじゃ無いんだ・・・」
ため息をつきながら、店員を手招く。
「これらの服を買う。
この服を着て出て行くから、さっきまで着ていた服もこれらと一緒に袋に入れて、『アグリッパの星』宿まで届けてくれ」
「ウィル、これなんてシェイラにどう?」
シャルロの声に振り返ると、何やら薄い水色の生地を見せられた。
持っているシャルロの手が透けて見えるぐらい薄いが、銀糸と黒糸で細かい刺繍が施されていて、中々美しい。
「随分と淡い水色だな。
シェイラが好きそうだが・・・洗ったら色落ちするんじゃないか?」
さっきのド派手に鮮やかな青い帽子の色の方が、洗っても色が残って長く使えるだろう。
雨が降ったら服に色が付きそうだが。
それともちゃんとした高級品だったら濡れても色は落ちないかな?
アレクがため息をついた。
「絹のショールは細心の注意を払って使う物なんだよ。
そうそう洗ったりしないし、それだけの刺繍を施す生地だったらそれなりにしっかりと染色されているだろう」
「・・・細心の注意を払わなきゃ使えないような物よりも、日常的に使える物を贈りたいんだが。
気をつけすぎて、箪笥の奥に仕舞われたままじゃあ意味ないだろ」
大切に仕舞いすぎてカビが生えたり、有ることを忘れている間に使用人に盗まれたりなんて言うのがよくあるパターンだ。
「絹だって使わなきゃ持っている意味ないでしょ?
ちゃんとシェイラだってそこら辺は分かってるって」
シャルロが暢気に笑いながら口を挟む。
お前さんの経済観念と俺やシェイラの経済観念は違うかも知れないからなぁ。
『細心の注意』を払って使うべき絹のショールをシェイラがどの位活用してくれるかは微妙な所だな。
まあ、そうは言っても。
一つぐらい、良い物を渡すというのもありか。
何か特別な時に使って貰えたらお互い楽しみが増える。
もっと日常用の物もお土産に買っていけば良いんだし。
「・・・今回はボーナスも出るんだし、ちょっと奮発するか」
「そ~そ~。折角ウィルが学院長以外にお土産を買いたい相手が出来たんだ。
色々買おうね~」
「そうだな。
買い物の苦手なウィルの為に、我々が一肌脱ぐよ」
思わず二人を睨み付ける。
「買い物が苦手なんじゃ無い。単に興味が無いだけだ」
「興味が無いからよく分からないし、苦痛でしょ?
それって『苦手』って世間一般では言うんだよ?」
うぐぅ。
シャルロに言い込められる日が来るなんて。
ショックだ。
-----------------------------------------------------
【後書き】
実はシャルロもアレクもそれなりにお洒落。
ウィルだけがかなり無関心です。
二人のどちらかに、『その服大分くたびれてきてるよ?』と言われたら買い足してます。
それが分かっているので、服に関しては遠慮無くずけずけウィルに突っ込む二人w
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