391 / 1,038
卒業後
389 星暦554年 藤の月 19日 旅立ち?(31)
しおりを挟む
「藤の月だというのに、暑いな」
街を歩きながら、汗を拭う。
船上では『船だから』と思っていてあまり気にしていなかったのだが、王都を出て以来、考えてみたら段々暑くなってきてジルダスに着いたときは真夏・・・とは言わなくっても春の暑い日ぐらいの気温のようだ。
つい、『藤の月』だと思って冬服を着てきた俺としては、暑すぎる。
幸いあまり湿度は高くないので上着を脱いだら風が汗を乾かしてくれて何とかなったが、明日はもう少し薄手のシャツを着る必要がある。
・・・というか、薄手のシャツなんて持ってきてないんだけど。
お土産とは別に、シャツも見かけたら適当に何枚か買うか。
ふむ。
自分の服を買うんだったらついでにシェイラにもお土産に買うべきか?
それなりに雰囲気の違う華やか(派手?)な生地の服が目に付くので、面白いかもしれない。
とは言え、服のセンスはよく分からないからなぁ・・・。
「そりゃあ、香辛料が取れる地域の中心地なんだよ、ここ。暑いに決まってるじゃん」
服について悩んでいたら、シャルロがあっさり答えた。
「香辛料って暑いところで採れる物なのか?」
別にそんなことは学校で教わった記憶は無い。
もっとも、魔術以外の授業は落第しない程度にしか聞いていなかったから憶えていないだけかもしれないが。
「暑いところの方が虫や動物も多く、食べられるのを防ぐ為に植物も独特な味や効果がある成分を身につけたのではないかと言われている。
まあ、暑い地域の方が食欲を刺激するためとか、食糧の保存の為に香辛料の研究が進められたという歴史的背景があるからな。
実際の所、本当に香辛料が暑い地域に多く寒い地域に少ないのか、単に研究されていないから知られていないだけなのかは分からないが、現時点で売買されている香辛料の多くは暑い地域で産出されているぞ」
アレクが俺の質問に答えてくれた。
へぇ~。
香辛料って食糧の保存にも役に立つのかぁ。
知らなかった。
それはともかく。
「こんなに暑いとは思ってなかったから薄手の服を持ってきていないんだ。
適当に服を売っている店を見かけたら何着か涼しい服を買わせてくれ」
まずは暑いのを何とかしないと。
このままじゃあ脱水症状になりそうだ。
「良いよ~。
王都では見ないような柄の服が多いから、服・・・かスカーフあたりだったらお土産に良いかもね」
というシャルロの言葉に手を打つ。
「それ、良いな!
下手に服を買うよりも、ショールかスカーフの方がシェイラへのお土産に良いよな?」
アレクが頷いた。
「パディン夫人にもお土産に何枚か、お手頃な値段のを買って帰っても良いかもしれないね。
何枚かあったら夫人も家族や知り合いにお裾分けしやすいだろうし」
お裾分け?
お土産の?
貰った土産って人に分ける物なのか・・・。
まあ、そこらへんの『一般常識』はアレクに任せる。
俺達が泊まった宿は港の傍だったので、市場へ歩く途中にも服やら見たことも無い置物などを売っている店が幾つかあったかが、それらはアレクが幾つかの商品の値段を聞いたらあっさり首を振ったので出た。
どうやら宿のあった地域は船員目当てのぼったくり商店が多いみたいだ。
しっかし。まだこちらに来たばかりだと言うのに、既に街の相場が分かっているのだろうか??
アレク、凄すぎるぜ。
やっとアレクが納得した店に入った時には、市場の店舗(テントみたいなの?)が道の向こうに見えてきていた。
服なんぞ買うよりも先に市場を見てみたい気もしたが、流石に暑い。
まずは着替えが先だな。
店に入って辺りを見回す。
いつもは灰色や紺、グレーといった地味で周りに溶け込む色を着るのだが・・・そういう色が無い。
考えてみたら、街中を歩いている間にそれなりにじろじろと見られていたのって、今着ている灰色の服が周りに溶け込んでいなかったからか。
「俺、青とか緑とか黄色や赤の服ってあまり着る習慣が無いんだけど・・・。
つうか、どれが男用でどれが女用なのかも分からん」
思わず、シャルロとアレクに助けを求めた。
ぶふっ。
シャルロが吹き出した。
「東大陸でも、赤や黄色は女性が着ることが多いよ。
青か緑で良いんじゃないかな?
あと、生地の薄いのは女性用だと思って良いよ。
こちらは薄い生地のを重ねて着るのが女性のお洒落らしいからね」
そうなんだ・・・。
よく知っているな、シャルロ。
侯爵家ともなれば、東大陸からの客人とかも来るんかね?
改めて街中を歩く人の服装をよく見る。
どこに武器を隠していそうかとか、財布をどこに隠していそうかとかは無意識に考えていたが、服装そのものはあまり意識に入っていなかったな。
確かに、言われてみたら女性は薄い生地を何枚も重ねている。
若い女性の場合、チラチラと生地が重なっていない部分の下が体の動きに合わせて時々見えそうなのが中々色っぽい。
『カモ』として以外、あまりじっくり女性を眺める習慣が無かったので気が付いてなかった。
それはともかく。
「・・・ちょっと、こちらの服をそのままお土産に買って帰るのは、無しだな」
--------------------------------------------------------------
【後書き】
ちょっと南国っぽい雰囲気?
南国に行ったことが無いのでインドとかのイメージを漠然と修正した物ですが。
街を歩きながら、汗を拭う。
船上では『船だから』と思っていてあまり気にしていなかったのだが、王都を出て以来、考えてみたら段々暑くなってきてジルダスに着いたときは真夏・・・とは言わなくっても春の暑い日ぐらいの気温のようだ。
つい、『藤の月』だと思って冬服を着てきた俺としては、暑すぎる。
幸いあまり湿度は高くないので上着を脱いだら風が汗を乾かしてくれて何とかなったが、明日はもう少し薄手のシャツを着る必要がある。
・・・というか、薄手のシャツなんて持ってきてないんだけど。
お土産とは別に、シャツも見かけたら適当に何枚か買うか。
ふむ。
自分の服を買うんだったらついでにシェイラにもお土産に買うべきか?
それなりに雰囲気の違う華やか(派手?)な生地の服が目に付くので、面白いかもしれない。
とは言え、服のセンスはよく分からないからなぁ・・・。
「そりゃあ、香辛料が取れる地域の中心地なんだよ、ここ。暑いに決まってるじゃん」
服について悩んでいたら、シャルロがあっさり答えた。
「香辛料って暑いところで採れる物なのか?」
別にそんなことは学校で教わった記憶は無い。
もっとも、魔術以外の授業は落第しない程度にしか聞いていなかったから憶えていないだけかもしれないが。
「暑いところの方が虫や動物も多く、食べられるのを防ぐ為に植物も独特な味や効果がある成分を身につけたのではないかと言われている。
まあ、暑い地域の方が食欲を刺激するためとか、食糧の保存の為に香辛料の研究が進められたという歴史的背景があるからな。
実際の所、本当に香辛料が暑い地域に多く寒い地域に少ないのか、単に研究されていないから知られていないだけなのかは分からないが、現時点で売買されている香辛料の多くは暑い地域で産出されているぞ」
アレクが俺の質問に答えてくれた。
へぇ~。
香辛料って食糧の保存にも役に立つのかぁ。
知らなかった。
それはともかく。
「こんなに暑いとは思ってなかったから薄手の服を持ってきていないんだ。
適当に服を売っている店を見かけたら何着か涼しい服を買わせてくれ」
まずは暑いのを何とかしないと。
このままじゃあ脱水症状になりそうだ。
「良いよ~。
王都では見ないような柄の服が多いから、服・・・かスカーフあたりだったらお土産に良いかもね」
というシャルロの言葉に手を打つ。
「それ、良いな!
下手に服を買うよりも、ショールかスカーフの方がシェイラへのお土産に良いよな?」
アレクが頷いた。
「パディン夫人にもお土産に何枚か、お手頃な値段のを買って帰っても良いかもしれないね。
何枚かあったら夫人も家族や知り合いにお裾分けしやすいだろうし」
お裾分け?
お土産の?
貰った土産って人に分ける物なのか・・・。
まあ、そこらへんの『一般常識』はアレクに任せる。
俺達が泊まった宿は港の傍だったので、市場へ歩く途中にも服やら見たことも無い置物などを売っている店が幾つかあったかが、それらはアレクが幾つかの商品の値段を聞いたらあっさり首を振ったので出た。
どうやら宿のあった地域は船員目当てのぼったくり商店が多いみたいだ。
しっかし。まだこちらに来たばかりだと言うのに、既に街の相場が分かっているのだろうか??
アレク、凄すぎるぜ。
やっとアレクが納得した店に入った時には、市場の店舗(テントみたいなの?)が道の向こうに見えてきていた。
服なんぞ買うよりも先に市場を見てみたい気もしたが、流石に暑い。
まずは着替えが先だな。
店に入って辺りを見回す。
いつもは灰色や紺、グレーといった地味で周りに溶け込む色を着るのだが・・・そういう色が無い。
考えてみたら、街中を歩いている間にそれなりにじろじろと見られていたのって、今着ている灰色の服が周りに溶け込んでいなかったからか。
「俺、青とか緑とか黄色や赤の服ってあまり着る習慣が無いんだけど・・・。
つうか、どれが男用でどれが女用なのかも分からん」
思わず、シャルロとアレクに助けを求めた。
ぶふっ。
シャルロが吹き出した。
「東大陸でも、赤や黄色は女性が着ることが多いよ。
青か緑で良いんじゃないかな?
あと、生地の薄いのは女性用だと思って良いよ。
こちらは薄い生地のを重ねて着るのが女性のお洒落らしいからね」
そうなんだ・・・。
よく知っているな、シャルロ。
侯爵家ともなれば、東大陸からの客人とかも来るんかね?
改めて街中を歩く人の服装をよく見る。
どこに武器を隠していそうかとか、財布をどこに隠していそうかとかは無意識に考えていたが、服装そのものはあまり意識に入っていなかったな。
確かに、言われてみたら女性は薄い生地を何枚も重ねている。
若い女性の場合、チラチラと生地が重なっていない部分の下が体の動きに合わせて時々見えそうなのが中々色っぽい。
『カモ』として以外、あまりじっくり女性を眺める習慣が無かったので気が付いてなかった。
それはともかく。
「・・・ちょっと、こちらの服をそのままお土産に買って帰るのは、無しだな」
--------------------------------------------------------------
【後書き】
ちょっと南国っぽい雰囲気?
南国に行ったことが無いのでインドとかのイメージを漠然と修正した物ですが。
0
お気に入りに追加
503
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です
岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」
私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。
しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。
しかも私を年増呼ばわり。
はあ?
あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!
などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。
その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる