シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
上 下
375 / 1,038
卒業後

374 星暦554年 藤の月 04日 旅立ち?(15)

しおりを挟む
「もう明日に出発だなんて。
年末休みに王都に帰ってから、早かったわねぇ」
シェイラがエールをグラスに注ぎながら言った。

何だかんだでアレクの所の年末パーティにシェイラと一緒に参加し、歴史学会の年末の馬鹿騒ぎ(としか言い様がないだろう、あのパーティは)に引きずっていかれ、そしてアレクに言われて魔術院の年末パーティにもちらっと顔を出した。

あとは適当に王都のバザールを歩いて回ったり美味しい店をシェイラと開拓したりしていたのだが、本当にシェイラの言うとおりあっという間だった。

誰かとこういう風にぶらぶらするという経験って今まで無かったのだが、意外と飽きない。
帰ってきたらまたぶらぶらしたいが、シェイラが王都にいないだろうなぁ。

遺跡発掘の仕事始めはかなり自由で、ツァレスなんかは既に2日から現場に戻っていたらしいが、シェイラは『王都と行き来するのが面倒』とのことで明日に俺を見送った後にヴァルージャに戻ることにしている。

お陰で一緒に居る時間がたっぷりあったのだが・・・気が付いたら、既にもう出発は明日だ。

「準備はもう出来ているの?
一月も船の中で過ごすとなったら、着替えとか時間つぶしの物とか、ちょっとしたお酒やお菓子も持って行かないと辛いわよ~?」
俺にグラスを手渡しながらシェイラが尋ねる。

「別に洗濯は清早に頼めば綺麗にしてくれるからそれ程沢山着替えは要らないだろう?
酒は別に飲まないし、お菓子だって無ければないで構わないぞ?」
食べる物にはそれ程拘りが無いからな。

学院長の影響か、お茶にはちょっと煩くなった気がしないでも無いが、茶葉はそれなりに持って行くし、水を清早に出して貰えばお茶を淹れるのは簡単だ。

「長期の航海で食べる食事がどんな物か、ちゃんと確認した?
最低でも2週間は食糧を補給できない想定だから保存食ばかりなんでしょう?
海の長旅じゃあないけど、遺跡を求めて発掘の長期探索に出かけた人の話によると、食糧を補給できないような地域に行った時の保存食って本当に辛いらしいわよ?」
シェイラが聞いてきた。

・・・。
考えてみたら、そうだよな。
転移門は向こうに着くまで使えないのだ。となると、食糧の補給は無い。
途中で島があったらそこで果物とか採取できるかも知れないが数は知れているだろうし、船乗り(や俺たち魔術師)に野生の動物を狩って解体して食べるなんてスキルは無いんじゃないだろうか。

少なくとも、俺には無いぞ。
こういう長期航海に乗るような船乗りにはあるのかな?

見つけた島に住人がいて、言葉が通じて食糧を買い取れれば良いが、下手に言葉が通じない相手だった場合だったら近づいたら攻撃されかねないしなぁ。

しまったな。
食べ物や寝る場所は商業省が準備しておいてくれると言われていたから、あまり考えていなかった。

寝る場所は一応アレクに言われて(アレクはフェルダン・ダルムに聞いたらしい)高級だが薄くて強いハンモックを入手しておいたから、ベッドは合わなくても何とかなるはずだが。

「だけど、食糧を買い出しして持って行っても、それこそ2週間も持たないだろう?」
単に金の問題で食事がわびしくなると言う話だったら、魔術院の専門家もいるんだし、これからもきっと何かあったら頼み事をしたい上級精霊加護持ちのシャルロもいるんだから、それなりに商業省も配慮してくれるだろう。

配慮してもどうしようも無い部分っていうのは手の下しようがないんだと思う。

「食事はしょうが無いにしても、ちょっとした焼き菓子でも持っていくと大分気分が違うらしいわよ?
パディル夫人に頼んだらどう?」
そうだな。
ケーキはまだしも、クッキーだったら缶に入れておけばそれなりに持つか。

「よし、急いで帰って頼もう!」
この話が持ち上がってきたのが昼食時で良かった。まだ間に合うだろう。
これが夕食時だったら目も当てられない。

・・・つうか、どうせならもう少し早くこの話題を持ち出して欲しかったな、シェイラ。

でも、考えてみたらシャルロがお菓子はばっちり準備しているかな?
いや、シャルロが自分用に用意したお菓子だったらあまり分けては貰えないだろうな。
寮に入っていた時期だって、余程のことが無い限りシャルロが秘蔵していたお菓子は分けて貰えなかったし・・・。



------------------------------------------------------------------------------


【後書き】
シャルロは勿論、お菓子を大量に準備しています。
しかも、家の自分の部屋にも更に大量に缶に入れて準備してあり、いざとなったら蒼流にそれを持ってきて貰おうと考えていたりw

精霊は物を物理的に運ぶのはそれ程得意ではありませんが、蒼流レベルになればお菓子程度なら運べなくもないので。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

僕の義姉妹の本性日記

桜田紅葉
恋愛
いつものような毎日を義姉妹と送っていた主人公、橋本時也(はしもととしや)は儀姉妹、姉、橋本可憐(はしもとかれん)と、妹、橋本睦月(はしもとむつき)との日常を過ごす。 しかし、二人の意外な本性や心動きなどが見られる。 果たして時也はどうなるのか? しかし、彼に陰ながらも好意を持つ幼馴染、秋は一体どうなるのか

家事もろくにできないと見下されたうえ婚約破棄されてしまいました……

四季
恋愛
「君のような家事もろくにできない女性と生きていくことはできない。婚約破棄されてもらう」 婚約者ロック・アブローバはある日突然私にそう告げた。

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

やり直ししてますが何か?私は殺される運命を回避するため出来ることはなんでもします!邪魔しないでください!

稲垣桜
恋愛
私、クラウディア・リュカ・クロスローズは、子供の頃に倒れて、前世が柏樹深緒という日本人だったことを思い出した。そして、クラウディアとして一度生きた記憶があることも。 だけど、私、誰かに剣で胸を貫かれて死んでる?? 「このままだと、私、殺されるの!?」 このまま死んでたまるか!絶対に運命を変えてやる!と、持ち前の根性で周囲を巻き込みながら運命回避のために色々と行動を始めた。 まず剣術を習って、魔道具も作って、ポーションも作っちゃえ!そうそう、日本食も食べたいから日本食が食べられるレストランも作ろうかな? 死ぬ予定の年齢まであと何年?まだあるよね? 姿を隠して振舞っていたら、どうやらモテ期到来??だけど、私……生きられるかわかんないから、お一人様で過ごしたいかな? でも、結局私を殺したのって誰だろう。知り合い?それとも… ※ ゆる~い設定です。 ※ あれ?と思っても温かい心でスルーしてください。 ※ 前半はちょっとのんびり進みます。 ※ 誤字脱字は気を付けてますが、温かい目で…よろしくお願いします。

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

処理中です...