368 / 1,038
卒業後
367 星暦553年 桃の月 9日 旅立ち?(8)
しおりを挟む
ウィルの視点に戻ってます。
---------------------------------------------------------------------
「いい知らせがあるぞ」
との通信で学院長に呼び出された。
「シャルロの技能報酬としての金貨50枚は『うっかり』伝え忘れていただけらしい」
お茶を淹れながら学院長が言った。
「『うっかり』ですかぁ。
商業省ですか、それとも魔術院の方ですか?」
金貨50枚を『うっかり』忘れるかよ。
「あの転移門の担当者だ。
それなりに有能らしくてな、妻がやっと妊娠できて浮ついていたのだろうとのことだ」
お茶の入ったカップを俺に差し出しながら学院長が肩を竦めた。
ふうん。
あのハルツァがねぇ。
そういうことに手を出すタイプには見えていなかったから、出来心ってやつかね?
しっかし、最終的には契約書を交わして報酬額もそこに書き込まれることになるんだから、ばれると思うんだけどな。
それとも年末のゴタゴタでどさくさ紛れに誤魔化して契約書を交わさないつもりだったのか?
だが、契約書を交わさなければ報酬そのものを払うのが難しいと思うが。
「まあ、シャルロには伝達不足だった技能報酬があったよ~と伝えておきますよ。
ちなみに、商業省の方への連絡は出来そうですか?」
カップを口へ運ぼうとしていた学院長の手が止った。
「商業省か。
・・・ナヴァール・ザルガだったか?」
おやぁ?
忘れてたな。
「ええ。
知り合いの家族にそれとなく南部航路にあまり金を入れ込みすぎないように警告するのは大丈夫か、知りたいので」
シャルロの技能報酬なんて俺には直接関係ないんだよね。
シェイラの方が今回の問題としては重要。
同じ精霊の加護持ちとして、学院長としてはシャルロが騙されそうになったことの方が重要だったみたいだけど。
まあ、俺も一応精霊の加護持ちとして役に立つ知識を身につけることが出来たけどさ。
ため息をつきながら学院長が引き出しを開けて、通信機を取り出した。
何やら操作して、通信機に向かって使い始める。
「ああ、ゲレットか?
久しぶりだな、奥さんはいかがしている?
実は、ちょっと頼み事があるんだが。
今度そちらが企画している新航路開拓の事業に、私の教え子達も参加することになってね。
機密要項に関して確認したいことが出来たから担当者のナヴァール・ザルガとか言う人間と話したいと商業省に行ったらしいのだが、忙しいから2週間後まで会う約束すら出来ないと秘書に門前払いされたらしいんだよ。
そう、それで泣きつかれてね。
ちょっとナヴァール・ザルガに私か、ウィル・ダントールの方へ連絡するよう伝えてくれないかな?」
何やら通信機から向こうから声が漏れ聞こえるが、相手の言っている内容は分からない。どうやら学院長の通信機はプライバシー結界付きのようだ。
「ああ、ジーナにもよろしく。
年末のパーティで会うのを楽しみにしているよ」
何やら親しげな別れの挨拶と共に学院長が通信を切った。
「これで直ぐに連絡が来るだろう。
ゲレットはさっさと頼まれ事は済ますタイプだからな」
お茶を一口飲んで、学院長が肩を竦めた。
「ちなみに、このゲレット氏って誰です?」
学院長が親しげな人っていうことはそれなりに上の人間のような気がするが。
「ああ、商業省の大臣だ。
あまり小さな案件だと大臣に話を持って行っても中々通じないが、流石に東大陸への新規航路開拓となれば大丈夫だろう。
ゲレットも直ぐに担当者のことが分かったようだし」
うひゃぁぁ。
ナヴァール氏、可哀想に。
休暇中なのか単に忙しいのか知らんが、突然大臣からの呼び出しかよ。
・・・まあ、それなりに重要な案件の担当者なんだ。
きっと大臣とも顔見知りでそれなりに報告とかしているに違いない。
大臣からの通信も、それ程ショックでは無い・・・と期待しておいてあげたいところだな。
「どうもありがとうございました。
お礼に、美味しそうなお茶と酒を探しておきますね」
「期待しているよ」
既に手元の書類を読み始めた学院長に軽く手を振って、部屋から出る。
アレクにでも、向こうの大陸のことを知っている人間がいないか聞いてみようかな。
前もってリサーチをしておく方が向こうに着いてから効率よく探せそうだ。
--------------------------------------------------------------------
【後書き】
大元のウィルのリクエストを忘れていた学院長でしたw
---------------------------------------------------------------------
「いい知らせがあるぞ」
との通信で学院長に呼び出された。
「シャルロの技能報酬としての金貨50枚は『うっかり』伝え忘れていただけらしい」
お茶を淹れながら学院長が言った。
「『うっかり』ですかぁ。
商業省ですか、それとも魔術院の方ですか?」
金貨50枚を『うっかり』忘れるかよ。
「あの転移門の担当者だ。
それなりに有能らしくてな、妻がやっと妊娠できて浮ついていたのだろうとのことだ」
お茶の入ったカップを俺に差し出しながら学院長が肩を竦めた。
ふうん。
あのハルツァがねぇ。
そういうことに手を出すタイプには見えていなかったから、出来心ってやつかね?
しっかし、最終的には契約書を交わして報酬額もそこに書き込まれることになるんだから、ばれると思うんだけどな。
それとも年末のゴタゴタでどさくさ紛れに誤魔化して契約書を交わさないつもりだったのか?
だが、契約書を交わさなければ報酬そのものを払うのが難しいと思うが。
「まあ、シャルロには伝達不足だった技能報酬があったよ~と伝えておきますよ。
ちなみに、商業省の方への連絡は出来そうですか?」
カップを口へ運ぼうとしていた学院長の手が止った。
「商業省か。
・・・ナヴァール・ザルガだったか?」
おやぁ?
忘れてたな。
「ええ。
知り合いの家族にそれとなく南部航路にあまり金を入れ込みすぎないように警告するのは大丈夫か、知りたいので」
シャルロの技能報酬なんて俺には直接関係ないんだよね。
シェイラの方が今回の問題としては重要。
同じ精霊の加護持ちとして、学院長としてはシャルロが騙されそうになったことの方が重要だったみたいだけど。
まあ、俺も一応精霊の加護持ちとして役に立つ知識を身につけることが出来たけどさ。
ため息をつきながら学院長が引き出しを開けて、通信機を取り出した。
何やら操作して、通信機に向かって使い始める。
「ああ、ゲレットか?
久しぶりだな、奥さんはいかがしている?
実は、ちょっと頼み事があるんだが。
今度そちらが企画している新航路開拓の事業に、私の教え子達も参加することになってね。
機密要項に関して確認したいことが出来たから担当者のナヴァール・ザルガとか言う人間と話したいと商業省に行ったらしいのだが、忙しいから2週間後まで会う約束すら出来ないと秘書に門前払いされたらしいんだよ。
そう、それで泣きつかれてね。
ちょっとナヴァール・ザルガに私か、ウィル・ダントールの方へ連絡するよう伝えてくれないかな?」
何やら通信機から向こうから声が漏れ聞こえるが、相手の言っている内容は分からない。どうやら学院長の通信機はプライバシー結界付きのようだ。
「ああ、ジーナにもよろしく。
年末のパーティで会うのを楽しみにしているよ」
何やら親しげな別れの挨拶と共に学院長が通信を切った。
「これで直ぐに連絡が来るだろう。
ゲレットはさっさと頼まれ事は済ますタイプだからな」
お茶を一口飲んで、学院長が肩を竦めた。
「ちなみに、このゲレット氏って誰です?」
学院長が親しげな人っていうことはそれなりに上の人間のような気がするが。
「ああ、商業省の大臣だ。
あまり小さな案件だと大臣に話を持って行っても中々通じないが、流石に東大陸への新規航路開拓となれば大丈夫だろう。
ゲレットも直ぐに担当者のことが分かったようだし」
うひゃぁぁ。
ナヴァール氏、可哀想に。
休暇中なのか単に忙しいのか知らんが、突然大臣からの呼び出しかよ。
・・・まあ、それなりに重要な案件の担当者なんだ。
きっと大臣とも顔見知りでそれなりに報告とかしているに違いない。
大臣からの通信も、それ程ショックでは無い・・・と期待しておいてあげたいところだな。
「どうもありがとうございました。
お礼に、美味しそうなお茶と酒を探しておきますね」
「期待しているよ」
既に手元の書類を読み始めた学院長に軽く手を振って、部屋から出る。
アレクにでも、向こうの大陸のことを知っている人間がいないか聞いてみようかな。
前もってリサーチをしておく方が向こうに着いてから効率よく探せそうだ。
--------------------------------------------------------------------
【後書き】
大元のウィルのリクエストを忘れていた学院長でしたw
0
お気に入りに追加
503
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です
岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」
私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。
しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。
しかも私を年増呼ばわり。
はあ?
あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!
などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。
その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる