366 / 1,038
卒業後
365 星暦553年 桃の月 8日 旅立ち?(6)
しおりを挟む
学院長の視点です。
----------------------------------------------------------------------
>>>サイド アイシャルヌ・ハートネット
「おはようございます、学院長。
今度東の大陸に行くんですが、何かお土産でご希望あります?
前回の俺のセレクションが微妙だったようなので」
昼過ぎに姿を現した若い魔術師がにこやかに聞いてきた。
東の大陸に行く??
随分と唐突だな。
この男はそれ程旅行好きという訳ではないと思っていたが。
恋人が出来たとも聞いたし、態々長期の航海に出るなんて・・・シェフィート商会の新しい事業に関してシャルロと一緒に頼み込まれたのか?
「そうだな・・・。
あそこだったらそれこそ現地で飲んでいる飲み物や珍しい茶葉が欲しいな」
大陸が違うのだ。
全然違う飲み物が一般的に飲まれている可能性は高いから、それを試してみるのも面白いだろう。
「俺がこないだお土産で持ってきたときは大分ご不満だったようなのに・・・」
ちょっと不満げにウィルがつぶやいた。
そりゃあねぇ。
伝説の幻想界の土産だぞ?
1月か2月で消えてしまうにしても、もっと研究に使える物とか、幻想的な美しい細工物とかを期待するのが当然だろうが!
だが、東の大陸は単に異なる国の人間が住んでいるだけの場所だ。
特に魔術や芸術が突出しているという話も聞かないし、それだったら茶葉やその代替品を希望するのはおかしくなかろう?
「シェフィート商会の新規事業にでも協力するのか?」
折角2人も水精霊の加護持ちと縁があるんだ。
シャルロが結婚して長期の遠出を嫌がるようになる前に、最大限に利用するというのも手だろうな。
・・・アレクがそれを嫌がらなかったのは意外だったが。
あいつは冷徹な事業家でありながら、個人としての伝手を使うことを嫌がる傾向がある。
「政府の方ですよ。
商業省が、南を経由しない新しい航路を開拓するのに魔術院の協力を求めたらしくって。
向こうで転移門を設定するのにハルツァ・ウォルバが同行するんですが、航海の助けにシャルロが指名を受けた感じですね。
俺とアレクはオマケの空滑機乗り要員みたいなもの?
実際の作業は楽そうですが、1月の拘束ということで金貨30枚の報酬と、一発で成功した場合は追加で金貨30枚だそうです。
ただ、長期的に留守にしますからね。
シェイラに詳細を伝えていいのか確認しようと思ったら、商業省の人に連絡が取れなくって。
学院長、お土産買ってきますから特級魔術師の名前を貸してくれません?」
お茶を受け取りながら、ウィルが答えた。
金貨30枚??
「ちょっと待て。
お前たち二人はまだしも、シャルロは若手魔術師としてではなく、上位水精霊の加護を持つ人間として雇われるのだろう?
金貨30枚なんてありえないぞ」
紅茶を飲もうとしていたウィルの手が止まった。
「ありゃ。
今まで精霊の加護持ちとしての契約ってしたことが無かったんですが・・・幾らぐらいが相場なんです?」
「こう言っては何だが、お前の中位の水精霊でも海の航海には非常に役に立つ。
1月も拘束するのだったら金貨50枚は要求してもおかしくはないだろう。
シャルロのような上位精霊の話になったら、ある意味他に代替できる者はいないに等しいからな。
状況によるが金貨100枚でも200枚でもおかしくはないぞ?
まあ、今回は単に新規航路の開発だからな。上位精霊が絶対に必要という訳ではないから、精霊の加護持ちとしての報酬が金貨50枚といったところかな」
自分のように炎精霊の加護の場合、攻撃魔術で効果は代替できるので、特別に精霊の加護持ちということで報酬が出ることは少ない。
せいぜい大規模な山火事に対応する場合とか、活火山を抑える場合に協力を頼まれる可能性がある程度か。
だが、海の航海に関しては水精霊の力は魔術では代替できない、遙かに大きな効果がある。
中位でない、普通の小さな低位水精霊の加護持ちですら、引く手あまたな程なのだ。
シャルロほどの精霊の加護持ちを若手魔術師の値段で雇うなんて、おかしいだろう。
商業省はアレクが不慣れなことを承知でこの値段を取り決めたのか?
第一、間に魔術院が入ったのだったら魔術院だって精霊の加護持ちの報酬のことなど分かっているだろうに。
・・・一体、何が起きているんだ?
---------------------------------------------------------------------------------
【後書き】
誰かの悪巧みか、単なるうっかりか。
どちらでしょうね?
----------------------------------------------------------------------
>>>サイド アイシャルヌ・ハートネット
「おはようございます、学院長。
今度東の大陸に行くんですが、何かお土産でご希望あります?
前回の俺のセレクションが微妙だったようなので」
昼過ぎに姿を現した若い魔術師がにこやかに聞いてきた。
東の大陸に行く??
随分と唐突だな。
この男はそれ程旅行好きという訳ではないと思っていたが。
恋人が出来たとも聞いたし、態々長期の航海に出るなんて・・・シェフィート商会の新しい事業に関してシャルロと一緒に頼み込まれたのか?
「そうだな・・・。
あそこだったらそれこそ現地で飲んでいる飲み物や珍しい茶葉が欲しいな」
大陸が違うのだ。
全然違う飲み物が一般的に飲まれている可能性は高いから、それを試してみるのも面白いだろう。
「俺がこないだお土産で持ってきたときは大分ご不満だったようなのに・・・」
ちょっと不満げにウィルがつぶやいた。
そりゃあねぇ。
伝説の幻想界の土産だぞ?
1月か2月で消えてしまうにしても、もっと研究に使える物とか、幻想的な美しい細工物とかを期待するのが当然だろうが!
だが、東の大陸は単に異なる国の人間が住んでいるだけの場所だ。
特に魔術や芸術が突出しているという話も聞かないし、それだったら茶葉やその代替品を希望するのはおかしくなかろう?
「シェフィート商会の新規事業にでも協力するのか?」
折角2人も水精霊の加護持ちと縁があるんだ。
シャルロが結婚して長期の遠出を嫌がるようになる前に、最大限に利用するというのも手だろうな。
・・・アレクがそれを嫌がらなかったのは意外だったが。
あいつは冷徹な事業家でありながら、個人としての伝手を使うことを嫌がる傾向がある。
「政府の方ですよ。
商業省が、南を経由しない新しい航路を開拓するのに魔術院の協力を求めたらしくって。
向こうで転移門を設定するのにハルツァ・ウォルバが同行するんですが、航海の助けにシャルロが指名を受けた感じですね。
俺とアレクはオマケの空滑機乗り要員みたいなもの?
実際の作業は楽そうですが、1月の拘束ということで金貨30枚の報酬と、一発で成功した場合は追加で金貨30枚だそうです。
ただ、長期的に留守にしますからね。
シェイラに詳細を伝えていいのか確認しようと思ったら、商業省の人に連絡が取れなくって。
学院長、お土産買ってきますから特級魔術師の名前を貸してくれません?」
お茶を受け取りながら、ウィルが答えた。
金貨30枚??
「ちょっと待て。
お前たち二人はまだしも、シャルロは若手魔術師としてではなく、上位水精霊の加護を持つ人間として雇われるのだろう?
金貨30枚なんてありえないぞ」
紅茶を飲もうとしていたウィルの手が止まった。
「ありゃ。
今まで精霊の加護持ちとしての契約ってしたことが無かったんですが・・・幾らぐらいが相場なんです?」
「こう言っては何だが、お前の中位の水精霊でも海の航海には非常に役に立つ。
1月も拘束するのだったら金貨50枚は要求してもおかしくはないだろう。
シャルロのような上位精霊の話になったら、ある意味他に代替できる者はいないに等しいからな。
状況によるが金貨100枚でも200枚でもおかしくはないぞ?
まあ、今回は単に新規航路の開発だからな。上位精霊が絶対に必要という訳ではないから、精霊の加護持ちとしての報酬が金貨50枚といったところかな」
自分のように炎精霊の加護の場合、攻撃魔術で効果は代替できるので、特別に精霊の加護持ちということで報酬が出ることは少ない。
せいぜい大規模な山火事に対応する場合とか、活火山を抑える場合に協力を頼まれる可能性がある程度か。
だが、海の航海に関しては水精霊の力は魔術では代替できない、遙かに大きな効果がある。
中位でない、普通の小さな低位水精霊の加護持ちですら、引く手あまたな程なのだ。
シャルロほどの精霊の加護持ちを若手魔術師の値段で雇うなんて、おかしいだろう。
商業省はアレクが不慣れなことを承知でこの値段を取り決めたのか?
第一、間に魔術院が入ったのだったら魔術院だって精霊の加護持ちの報酬のことなど分かっているだろうに。
・・・一体、何が起きているんだ?
---------------------------------------------------------------------------------
【後書き】
誰かの悪巧みか、単なるうっかりか。
どちらでしょうね?
0
お気に入りに追加
503
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です
岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」
私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。
しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。
しかも私を年増呼ばわり。
はあ?
あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!
などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。
その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる