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3巻
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しおりを挟む1 食材ギルドと本登録
果樹園を作って数日が過ぎた。
果樹の苗木はすべて順調に根づいている。何の問題もなく。むしろ問題がなさすぎてドキドキしているくらいだ。
このまま順調にいけば、二、三年したら収穫できるだろう。
ただ、果樹は虫がつきやすいため、害虫の駆除は欠かせない。実がなっていなくても、樹に害虫が入り込んでしまうこともあるし。
やり込んでいたVRMMOゲーム【楽しもう! セカンドライフ・オンライン】とよく似たこの異世界に、アバターのリンとしてトリップした私。
夢だった農園は着々と拡大し、私は毎日愛情をこめて、樹や野菜たちに話しかけている。
ほら、作物も毎日話しかけるとすくすく大きくなるって、何かで読んだことがあるし。
収穫期が来たらぜひ、果物パーティを開催しよう。
楽しみだなあ。果物は生もいいけど、煮ても焼いてもいけるし、お菓子にしても美味しいのだ。なかなか調理法が幅広いのである。
この日、私は害虫の駆除や草取りなど一通りの作業を終えると、食材ギルドに向かった。
ずいぶん久しぶりである。そもそも人混みが苦手なので、王都といえども、滅多に行かないのだ。王都には各種ギルドや商店が集まっているから、普通であれば頻繁に行き来する必要があるのだが、私の場合は商人のフェリクスがうちに来てくれるので、買い出しに行ったり、取引に出向いたりしないで済む。
食材ギルドにも本来は所属の継続手続きやら何やらで、年に何回か顔を出さなくてはならない決まりがある。
けれど、それも食材ギルドの受付係をしているアリスがまめに我が家に来て、各種手続きをやってくれていたので、わざわざ私が行く必要がなかったのだ。
彼女は本当にちょくちょく私の家に顔を出し、そのたびにルイセリゼの店の新商品の子供服を持ってきて、私を着せ替え人形にしていた。
ルイセリゼはフェリクスのお姉さんで、洋服店や喫茶店など、いろいろな店を経営している。彼女も子供好きというか……幼女好きなので、私用の服を次々とデザインしてくれるのだ。
これさえなければ、二人とも本当にいい友人なのだが。非常に残念である。なんかいろいろと。
それはともかくとして。
今までは未成年だったから食材ギルドへは仮登録の状態だったし、アリスに手続きを代行してもらっても何の問題もなかった。
だが、私はもうじき十五歳、つまりこの世界で成人になるわけで、そろそろ先延ばしにしていた本登録を行わなくてはならない。さすがに、こればかりは本人がギルドに赴く必要があるらしい。
面倒だが仕方がないよね。まぁ、中身はもう三十歳を超えてるから、今さら成人なんて言われてもピンとこないけど。
ちなみに、見た目はこの世界にトリップしてきた当時の十歳程度のまま変わらない。
おそらくこれは、「神人」という私の種族特性の影響だろう。確か、ゲームの説明書に「寿命が長く、老化が遅い種族」と記載されていたような記憶が。
さて、久しぶりに来た食材ギルドは、なんだかやたらと混雑していた。
今までも何度か来たことはあるが、ここまで人がいたことはなかったような?
いつも閑散としているイメージだったのだが。
「あら、リン。久しぶりね」
ちょっと引いていると、アリスが声をかけてくれたので、そそくさとそちらに近寄る。
全体的に忙しそうで、職員さんたちはみんな殺気立っているのに、なんでアリスだけ暇そう?
私は助かるが。……だから、あえて突っ込まないでおこう。
「久しぶり?」
三日前にも会ったような気がするよ、農園で。だから、思わず聞き返すように応えてしまった。
「なんでこんなに人がいるの?」
様々な種族が入り交じり、すごい熱気だ。
どうやら、素材等を売買する奥の店に行列ができているらしい。何か珍しいものでも仕入れたのだろうか?
どうでもいいけど、ちょっと怖い。人が苦手な私にとっては長居したくない空間である。
「ああ、あの行列? つい先日、新しい迷宮が発見されたのよ。し・か・も! 見たことのない植物や鉱物が何種類か見つかったの。もともと既存の迷宮でも毎年いくらかは新しい発見があったけど、今回は新たな迷宮ということもあって、みんな興味津々ね。私たち食材ギルドも迷宮ギルドからいくらか新種の植物を回してもらって、つい昨日販売を始めたところなのよ。それで今、研究熱心な学者や料理人が詰めかけてるってわけ。まだ市場に出回っている量も少ないし、早い者勝ちなところがあるから、みんな殺気立ってるのよ」
迷宮ギルドには登録者しか入れないから、虎視眈々と新食材の入手の機会を狙っていた者たちが一斉にこちらに流れてきて、昨日からこのありさまだという。
一日経つのに全く熱気が収まらない、と迷惑げに言うアリスは、なぜ暇そうなんだろう。本当に謎である。
しかし新しい迷宮とか、やっぱ異世界だなあ。
「そんなことあるんだねえ」
迷宮もそうだが、新種の植物や鉱物が一気に何種類も見つかるなんて。私の常識では考えられないことだ。と言っても、あくまでプレイしていたゲームでの話だけどさ。
「そうね、珍しいことではあるけれど、全くないことではないわ」
新しい迷宮自体、そうそう発見されることはない。だからこそ、今回のようなことがあると、国を挙げてのお祭り騒ぎになるとか。
「まあ今回迷宮が発見されたのは隣国だから、我が国ではこの程度だけれどね。おそらくこの国で迷宮が発見されたら、もっとすごい騒ぎになっているわ」
新しい迷宮は、それが見つかっただけで経済効果が半端ない。
迷宮に潜る冒険者、迷宮探索者は言うに及ばず、植物学者、迷宮学者、商人に観光客、果ては犯罪者まで。発見された国には、様々な種族、人種がやってくるそうだ。
「へえ、そうなんだ」
私の気のない返事に、アリスが意外そうに目を見張った。
「あまり興味なさそうね?」
「興味はあるよ? でも私は農園だけで満足だし、別に迷宮を探索したいわけじゃないからなあ」
冒険者じゃないしね!
新しい植物や鉱物などの素材は気になるし、時にはレシピ集などの変わったアイテムも手に入るらしいから、まあ、暇ができたら行ってみたいかなあ、程度だね!
間違っても、今のわんさか人が押しかけているときに行きたいとは思わない。
「ふふ、そう。ところで今日のご用件は何かしら?」
なぜかご機嫌なアリスに、ギルドの本登録に来たと告げると驚かれた。
「本登録? もうそんな時期だったかしら。リンは出会った頃と見た目がほとんど変わらないから、忘れていたわ。あなた、ちゃんと食べているの? それで十五歳なんて、いくらなんでも小さすぎない?」
成長期なのにほとんど見た目が変わらないとかありえない、と言われてしまったが、私自身にはどうしようもないのだから仕方がない。
言っておくが、食べることが大好きな私は、三食とも我が家にいる誰よりも多く食べている。しかもおやつまで。
あと、まだ十五歳まではもう少しありますよ。それまでには多少育ちます、胸とか。たぶん。
「ちゃんと食べてるよ。それで、本登録の手続きしてもらえるの?」
「ええ、もちろんよ」
人が多いところは苦手なので、さっさと終わらせてここから離れたい、と言うと、アリスは早速手続きをしてくれた。
「うふふ。食材ギルドを選んでくれてありがとう。歓迎するわ。それでは手続きだけれど、この書類に必要事項を記入……」
「うわっ」
アリスが説明しているところで、誰かに思いきりぶつかられてバランスを崩した私は、頭を机にぶつけてしまった。痛い。
「あっ、ごめんよ。大丈夫かい?」
いや、大丈夫なわけがないし。
頭が痛い、と呻いていると、誰かが手を差し伸べてくれた。
手を引いて起こしてくれたのは、十五歳くらいの少年だ。
金の髪に緑柱石のような色の瞳。真っ白な肌に、シミ一つない手……おや、意外とごつごつしている。
ちらっと見えた腰には、少年には不似合いな大きな剣が差されていた。
「ほんと、ごめんよ。……えっと、怒ってる、よね」
私の顔を見た後、驚いたように息を呑み、若干顔を赤くしながら尋ねてくる。
私の顔に何かついているのかな? アリスは何も言ってなかったけどなあ。
「いや、謝ってもらったし、特に怒ってはいない」
本当にそこまで怒ってはいない。不可抗力なら誰でもあることだし、二回も謝ってくれたし、手を貸してくれたし。
うん、こう考えてみると、なかなかいい奴ではないかね、少年よ。
お姉さんは海のように広い心で許してあげよう。
私の返答に、しかし少年は困った顔をして、「でも」と呟いた。なんだか煮え切らないな。
「あ、大丈夫よ。彼女はもともとこういう無表情で無愛想な子なの。本人が怒っていないというなら、本当に怒っていないのでしょう」
アリスが安心させるように少年に微笑む。
「はあ、そうなんですか」
「そうよ、だから気にしなくていいわ。ということで、その手を放しなさい」
アリスが問題ないと請け合うと、いまだ私の手を握ったままだった少年の手を引き離す。
「ラグナ、リンが可愛いから気にしてるんでしょう。いつも全然愛想がないのは、あなたのほうだものね。ぶつかったからって助け起こすところなんて、初めて見たわ。でも言っておくけど、あなたにリンはあげないわよ?」
「無愛想だなんて、そんなことありませんよ。誤解を招く発言はやめてください、アリスさん」
慌てて否定する少年。耳まで赤いのはアリスにからかわれたせいか。
性格はともかく、一応美人の部類に入るからなあ、アリスも。これで変態的な幼女愛好家でさえなければなあ。
つい遠い目になってしまう私を、一体誰が責められようか。
少年は改めて私に向き直ると、お手本のようなきれいなお辞儀をしてみせた。
「先ほどは失礼いたしました。僕はラグナ・ラウロと申します。よろしければお名前を伺っても?」
「リン」
「リンさんですね。よろしくお願いします」
いやいや、私は滅多に出歩かないし、もう会うことはないよ、たぶん。
「リン、ラグナの実家のラウロ家は研究学園の創始者の家系で、魚介類の養殖を専門にしている海のスペシャリストよ。他にも、宝石に詳しいことでも有名なの」
「へえ、養殖」
いずれ庭に大きめの池とか作って、魚や貝の類を養殖するのもいいなあ。海の幸は大好物なのだ。
だけど、この辺ではなかなか手に入らず、元日本人でお魚大好きな私にとっては密かな痛手なのである。
「家は二人のお兄さんが継いでいて、脳き……三男の彼は騎士団に見習いとして出ていたのだけれど、今年、成人を機に竜騎士団に正式に配属になったそうよ」
脳筋? 今、脳筋って言いましたか。この外見で、まじで?
この世界、本当に残念な美形が多すぎやしないかね? 私の周りだけかもしれないけど。
「……アリスさんの情報収集力には脱帽ですよ」
「馬鹿ね、隠すつもりならもっとうまくおやりなさい。これくらい、情報通を自任する者なら大抵知っているわ」
竜騎士には特殊な任務が多いため、隊員の素性は一般には伏せられているらしい。
ただし、ある程度の情報屋なら誰でも知っているとのこと。
……アリスさんや、あなた情報屋じゃないよね? 冒険者ではあるものの、普段はギルドの受付係してるよね?
意外に情報通のアリスにびっくりだよ。何気に交友関係広いしなあ。変態つながりが多いけど。
いや、むしろ王都の変態の多さにびっくりだ。この国、大丈夫か。
まあ、変態は置いておくとして。
私は今の今まで知らなかったのだが、王都には研究学園なるものが存在しているらしい。そこでは様々な研究、開発が行われていて、将来、国の中枢を担う人材を育てているのだとか。
ラウロ家は先祖代々学園を守り、何人もの優秀な学者を輩出してきたそうだ。
「竜騎士団には筆記試験とかないの?」
脳筋と聞いて、思わず尋ねてしまった。
「ないわねえ」
基本的に、竜騎士には、騎士見習の中から特に優秀なものが選ばれる。国王様の護衛や使者として他国に出向くことがあるため、見た目も重要らしい。
ある程度の頭は必要だし、一般常識も身につけていなければならないが、学力はそこまで重要視されない。むしろ、下手に賢いと敬遠されるそうだ。
わかります。いざというときには、下っ端は脳筋のほうが使いやす……げほげほ。
「えっと、それで……」
「おい! ラグナ!」
ラグナがモジモジしながら何かを言いかけたが、先輩らしき騎士に大声で怒鳴られて、しぶしぶ奥へと去っていく。未練がましく、何度もこちらを振り返っていた。
「何だったんだ、一体」
「あら、リンに一目惚れでもしたんじゃない?」
あんな自分の容姿を鼻にかける奴にはあげないけどね、と笑顔でのたまうアリス。
笑顔なのに怖いっす。
ともあれ、これでようやく本登録の手続きができそうだと、ほっとした私なのだった。
2 ルイセリゼのお店にて
登録は思ったよりも簡単に終わった。
受付から奥の部屋に移動して、簡単な説明を受け、書類二枚と分厚い冊子を渡されて終了だ。
アリスに読んでおいてね、と笑顔で手渡されたそれは、どっしりと重く、厚さを見ただけで目眩がする恐ろしい代物だった。
この冊子、読まないとダメかな?
なんで読む前から開くこと自体嫌になるような厚さになっているんだろうか、こういう説明書って。開かなかったら意味ないんだから、もうちょっと読みたい気分にさせるような作りにすればいいのに。漫画にしてみるとか。
だがまあ、それは大したことじゃない。
問題なのは、戻って来てからずっとこっちをチラ見している、ラグナ少年である。非常に鬱陶しい。
「まだ見てるよ。いい加減にしてくれないかなあ」
そもそも見られることに慣れていない私には、精神的ダメージが半端ない。
「うーん、彼がここまで他人を気にするのは本当に珍しいわね。よっぽどリンのことが気に入ったんじゃないかしら」
あんまりうれしくない。
恋愛体質であれば、美形の少年騎士に助け起こされて、恋が芽生えた……とかあるかもしれないが、私としては、顔はともかく、体育会系で暑苦しいのと脳筋はお断りである。
「あんまりリンの好みじゃなかったようね」
苦笑して言うアリスは、なぜか上機嫌である。
「うー」
「ねえ、リン。時間があるなら、ルイセリゼのお店でお茶でもどうかしら」
いい話も仕入れておいたのよ、とウインクしてくるアリスに、私はほっとしながら頷いた。
こんな微妙な気分のまま農園に帰るのも嫌だし、なんとなく心がささくれ立っているからちょうどいい。
ルイセリゼの喫茶店にはまだ行ったことがなかったから、一度行きたいと思っていたのだ。うちで作ったハーブティーやお菓子など、いろいろな商品を卸しているので、気になってはいたのだけど。
「楽しみ」
つい、にんまりしてしまう。
「リン、無駄かもしれないけど、楽しみならそれらしい顔しなさいよ? あそこのハーブティーはリンが作っているんですってね? お菓子も。どちらもいつもすぐに売り切れてしまうほどの人気商品だわ。私もよく注文するのだけど、本当に美味しいものね」
褒められて、浮かれてしまう。
やっぱり人間、褒められるって大事だよね。やる気出るわー。
今度、ハーブを栽培しようかな。自生している分だけだと、そこまで量が取れないから、いつも注文絞ってもらってるんだよね。
ちらちらと見てくるラグナは気にしないことにして、アリスの用意ができるのをギルドのホールで待つことにした。
ホールには大きな本棚があり、植物や農業に関する本がずらりと並んでいる。
私はその中でも、ハーブや食用の花の本を何冊か手に取った。
グラスの花に関する記述も少しだがある。できれば、ハーブ園と、花畑を一緒に作りたい。
見た目が綺麗なだけでなく、お菓子にしてもいい。食用の花は結構需要あると思うんだよねえ。
何より、私が食卓の彩りとして欲しいのだ。グラス、美味しかったしなあ。
だが本を何冊か読むうちに、眉が寄ってしまう。
どうやらハーブの栽培は非常に難しく、ベテラン農家さんでもなかなか育てにくいようだ。
日本ではプランターでもお手軽に栽培できたというのに、意外である。
家の裏にある森にかなりの数と種類のハーブが自生しているので、まずはそれを加工しつつ、じっくり研究していこう。焦りは禁物だ。時間は腐るほどあるのだから。
私は自分に言い聞かせると、一人頷いた。
「あ、あの、何か調べもの?」
いつの間にか目の前に来ていたラグナ少年が、またもやモジモジしながら話しかけてきた。
「花について」
黙っていても間が持たないし、少年は目の前から動きそうにないから、仕方なく視線を本に落としたまま答えてみた。
ラグナ少年は私の答えを聞いて、今私が開いているページを覗き込むと、少し首を傾げた。
「花か。グラスについて知りたいなら、マーヴェントの王立図書館に行ったほうがいいんじゃないか?」
「マーヴェントの王立図書館? 地下図書館じゃなくて?」
思わぬ言葉に顔を上げて聞き返した。
どうでもいいけど、まだ少年の顔が赤い。熱でもあるのかな?
「ああ。地下図書館は危険すぎるだろう。グラスは確か、マーヴェントの都花だったはず。だから王立図書館にはそれなりに詳しい本がそろっていると思うよ。大規模な栽培地も近くにあるから、グラスについて知りたいなら一度行ってみると……って、待って待って待って」
突然、ラグナ少年が前につんのめった。
彼の背後を見れば、荷物をたくさん持って大変そうにしながら、少年を射殺しそうな目で見ている同僚っぽいおっちゃんがいる。
うん、連れて帰って、今すぐに。
「まったくお前は! 女にうつつを抜かしとる場合か。すまんな、嬢ちゃん。こいつは引き取るから」
最後まで言い終わることなく、同僚らしきおっちゃんに引きずられていくラグナ少年。
有益な情報をありがとう、少年よ。無事を祈る!
少年が連れ去られてすぐにアリスがやってきたので、私は本を返してアリスとともにルイセリゼの店へと向かった。
どうやらアリスは、ルイセリゼに連絡を入れてくれたらしい。
「今、ちょうどルイセリゼも近くにいるんですって。リンに話があるって言ってたから、喫茶店で落ち合うことにしたわ」
「話?」
何だろう。ルイセリゼの話は、商売のことか子供服ブランドのモデルのことか、はたまた……
「何かいいものを手に入れたって言っていたわ。ものすごく上機嫌だったわよ」
ルイセリゼの機嫌がいいってことは、本当にいい話なのだろう。
彼女のいい話には外れがないから、楽しみだ。
◆ ◆ ◆
食材ギルドから少し歩いて、大通りを一本外れたところにその喫茶店はあった。
外観はメルヘンチックで可愛らしく、男性が入るには勇気がいるが、女の子は一人でも多人数でも気兼ねなく入れる雰囲気。路地裏にあるので、少々隠れ家的な感じもある。
客席が常に八割から九割埋まるくらい人気らしい。近くに王立学院や研究学園があるのも大いに関係しているのだろう。実際、お客さんの大半はそこの生徒たちらしいので。
アリスの所属するパーティー「吹き抜ける風」の面々の憩いの場でもあるとのことだが、なぜか彼女たちが店にやって来るや否や、生徒たちは潮が引くようにいなくなるとか。
アリスは「なぜかしら」と首を傾げていたけど、理由は明白だよね!
冒険者としてだけでなく、変な方向でも自分たちの名前が轟いていることをもっと自覚して欲しい。そして直してくれ、幼女愛好家どもよ。
喫茶店に入ると、すでにルイセリゼは席についていた。
あとなぜか、ルイセリゼの旦那であるクリフの姿もある。
……違和感がすさまじい。メルヘンチックな喫茶店に熊男が鎮座している。
周りからの視線が痛い。ビシビシこっちに突き刺さっているのに、平然としているルイセリゼはすごい。
ちなみに熊……もとい、クリフは非常に気まずそうだ。
さもありなん。はっきり言って、このまま回れ右して出ていきたい。
が、こっそり帰ろうとしたところで、ルイセリゼに見つかってしまった。
「リン、アリス、こちらです。お待ちしておりましたわ」
手招きされたので渋々近寄ると、テーブルの上に巨大なパフェが。
ルイセリゼってそんなに甘いもの好きだったっけ? 嫌いではないけど、大好物というほどでもなかったと思う。
私が首を捻っていると、パフェにスプーンを差し込んだのは、なんとクリフだった。
「甘いもの好きだったんだ」
意外なことにこの男、大の甘いもの好きらしい。巨大なパフェを、私の目の前でどんどん平らげていくその様は非常にシュールである。
席について呆気にとられている私の前で、二つ目を注文しているクリフ。
……まだ食べるんかい! 見ているだけで胸やけがしてきた。
始終落ち着かないといった状態のくせに、パフェの誘惑には勝てず、たびたび訪れているのだとか。どんだけ好きなんだよ!
まあ、幼女愛好家集団のように、堂々と居座るよりはマシか。甘いものが好きなだけだし。うん。
「……まあいいや。あえてコメントは差し控えるよ。それよりルイセリゼ、なんか話があるって聞いたけど」
「ええ、そうですの。あ、お二人とも季節のケーキとお任せハーブティーセットでよろしいかしら?」
私とアリスがそろって頷くと、ルイセリゼがホール担当の女性に注文してくれた。何が来るか楽しみだなあ。ケーキはこの店の自家製なんだって。
応援ありがとうございます!
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