異世界とチートな農園主

浅野明

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1巻

1-2

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 さて、これからどうするか。
 特に帰る必要性は感じないので、この世界で生きて行くということで構わないのだが、せっかくの異世界だ。ゲームで習得した能力をすべて使えるのだから、やりたいことをすべきだろう。
 やりたいことはある。というよりは、やりたいことがあるからこそ【楽しもう! セカンドライフ・オンライン】を始めたといえる。
 しかし、一人で生きて行くには、今度はこの子供の外見が問題かもしれない。宿屋は泊まりにくいし、旅をするにも難しい。酒場にも入れないし、ギルドに登録することができるかどうかも分からない。
 それに、身分証も何とか手に入れる必要がある。いや、その前に住むところを見つけないと……
 ということで、フェリクスに協力をあおぐことにした。
 せっかくお近づきになった親切な人なのだ。ここはしっかり厚意に甘えるべきだろう。使えるものは使うのが基本である。
 私は早速フェリクスの部屋をたずね、話してみた。

「土地が欲しい?」
「そう」

 住まいを構え、やりたいことをやるためには土地が必要。だから土地が欲しいと言ったのだが、フェリクスは目を丸くした。

「王都内に?」
「ううん、王都の近くに。街中は人がたくさんだからイヤ。でも街から遠すぎると、それはそれで不便そうだからイヤ」
「あ、そう……」

 フェリクスは何とも微妙な顔で苦笑する。それでもきちんと考えてくれる。

「でも街の外は魔物に襲われる可能性があるから、やめたほうがいいと思うよ。いくら王都の近くでそこまで強力な魔物が出ないっていっても……」
「魔物を防げる結界石を置く」

 どうしても王都の外、それもできるだけ広い土地がいいと強硬に言い張ると、彼は仕方がないと肩をすくめた。

「だったら、ホリスタの森の近くにいい土地があるけど……う~ん……」

 フェリクスは少し首を傾げて悩む。

「何か問題が?」

 聞くと、売りに出されている土地が広すぎるとのこと。その分値段もはり、六〇〇万クロムという大金が必要らしい。しかも森の近くだから、魔物対策として結界石を置くために、さらにプラスで一〇〇万クロムはいる。
 その土地に家を建てるのにもお金が必要だ。
 ちなみに土地の広さはざっと二千坪ほどあるらしい。

「その広さのわりに安くない? それが相場なの?」
「王都内にあるんだったら勿論格安だよ。そもそもそんな広大な土地は滅多に売りに出ない。でもその広さが問題なんだ。それに立地もね」

 広すぎる上、外壁がない分、常に魔物の脅威にさらされる。しかも王都まで歩いて半日はかかる。
 この街をぐるりと囲む壁には、きちんと理由があるということだ。
 それでも一昔前ならまだよかった、とフェリクスは重々しく頷く。

「ここ七、八年ほどかな? 魔物が活発化してね。数も増えてるし、能力も一昔前に比べたら段違いに強くなってる。だから街から離れると危険なんだ」

 亜人の中で最強の龍人族でさえも、集落の外で一人で暮らすのは難しいと言われているらしい。それほどに危険だということだ。
 同じ金額を出すなら、中古で小さくてもいいから王都内に家を買う。そもそもそんな広大な土地、使い道もない。ほとんどの人がそう考えるということだろう。

「そっか。でも売り主は何でそんな所に土地を持ってるの?」

 ファンタジーの世界で街以外の土地は誰のものでもない、というイメージがあったので意外だ。

「今回はちょっと事情があってね。その土地は、実を言うと僕の持ち物なんだけど」

 特殊な条件下でしか生えない薬草が必要で、その土地に生えると分かって手に入れたが、薬草を採取した今はもう不要だという。
 フェリクスでさえ、街の外に広大な土地を購入するときには、事情を知らない者たちから散々、気がふれただの金持ちの道楽だのと言われたらしい。
 そりゃあ、私が「土地買います、そこに住みます」なんて言ったら、現実を知らない子供の妄想話と思われても仕方がないことなのかも。

「そんなわけで、普通は街以外の土地は、国かその地方の領主の所有物だよ。魔物がいるから、街の外に住もうなんて無謀な人間はそうはいない。それでもどうしても外に住むっていう人は怪しい経歴の持ち主が多いから、警備上の問題もあって、大抵購入手続きが面倒で一年以上かかることもざらなんだ。地方によっても違うけどね」

 だから街の外に住みたいなら、こういった個人所有の土地を買うのが一番簡単なのだという。
 土地の名義さえ変えれば、基本的に領主に許可をとる必要がない。
 もし何か問題があったら売り主の責任も問われるため、売り主が購入希望者をきっちり調査するのだ。だから、わざわざ時間と手間を掛けて領主が確認する必要がない。

「じゃあ、そこを買う」

 アッサリ言い切った私に、フェリクスはわがままな子供を見るような生暖かい目を向ける。

「買うなら、まずお金を稼がないと。それに、そもそもそんな広大な土地を何に使うんだい? お城でも建てる気かい?」
「お金はある。小さい家を建てて、あとは農園にする」
「……え? お金はあるって……それに農園?」

 そう、今の私の目標は農園主になること。ゲームの中でも、農業をしていたのだ。
 混乱しているフェリクスに、さてどこまで話すべきかと悩む。
 とりあえず、お金は両親に持たされていたものがある、ということで、強引に納得してもらった。



 4 今後の予定


 フェリクスには、アイテムボックスの中には一〇〇〇万クロムはあると、かなり低く申告したにもかかわらず、彼の驚きようは凄かった。どこの金持ちの令嬢か、ということらしい。
 まあ、そりゃそうだよね。こんな子供がもの凄い大金持ってたら私でも驚くわ。
 ちなみに私が持っているアイテムボックスはかなりのレアものらしい。
 この世界のアイテムボックスは、アイテム二十種類、一種類につき十五個までしか入らない最も安いものでも金貨一枚、つまり一〇万クロムはするというから驚きだ。
 私が持っているアイテムボックスがどれ程の性能なのかは言わなかったが、本型というのは一般には出回っていないらしく、それだけでも目をつけられるには十分だという。
 なにせ、このシステムブックだけで一財産ですと。かつに人前で出せなくなってしまった。
 普通であれば、私が何者なのか気にするのは当然と言えよう。
 それでもフェリクスがほとんど突っ込んだことを聞かなかったのは、どうやら彼の持っているスキルのせいらしい。

「もしかしたら、君と出会えたのは【幸運】のおかげかもしれないからね。僕の【直感】によると君に協力するといいみたいだから、できることはしよう。それに【直感】が君に詳しいことは聞かないほうがいいと告げてるしね」

 軽く言うが、スキル【直感】と【幸運】は、ゲームでもかなりのレアスキルだった。
 その両方を持っているとなれば、私が思わずフェリクスを尊敬の眼差まなざしで見てしまうのも仕方のないことだろう。
 私も欲しくて何回かスキル習得イベントにチャレンジしてみたのだが、結局手に入れることはできなかったのだから。
 二つとも、これといった効果が決まっているわけではなく、ゲーム中ではレアアイテムの入手率が大幅に上昇したり、上げにくいことで有名なNPCの好感度がガンガン上がって特殊クエストを受注できたり、と話題には事欠かなかったスキルである。
 フェリクスの持っているスキルは、【直感】【幸運】【剣技】【回復(小)】【回避】【目利き】【発見】【値切り】【商人の心得】だそうで、商人として大成しそうなスキル構成である。
 各地に蔓延はびこる魔物に対抗できるスキル、様々なステータス補正を受けられる職業や称号は神々からの贈り物であり、まとめて「ギフト」と呼ばれるらしい。
 と言っても魔物もスキルを持ってるけどね。その辺はどうなんでしょうね?
 ともかく、誰もが生まれつきいくつかのスキルを持っているが、一定の条件を満たして、各地にある神殿で祈りをささげると、追加スキルを授かることができるようだ。
 けれど、条件が不明のスキルがほとんどなので、人々は定期的に神殿で祈りをささげることにしているのだとか。
 授かった「ギフト」は各ギルドが発行するカードに刻印されるが、自分が許可しない限り他人が見ることはできないという。個人情報保護はばっちりだね。

「【直感】と【幸運】か。いいスキルを持っている。手を貸してくれるのは助かるです。正直うらやましい。ていうか、凄くねたましい」

 あ、思わず本音が。

「ともあれ、これからよろしく」
「ありがとう」

 こんなに浮かれて、自分としては満面の笑みのつもりなのに、フェリクスから見るとやはりというか、無表情かつ抑揚のない口調らしい。そんな自分が非常に残念ですよ。

「あと、ギルドに登録したい」
「そうだね、市民権を得るよりそのほうがいいけど、どのギルドにするかが問題だ」
「農業関係のギルドはある?」
「農業ねえ……食材ギルドがあるけど」

 食材ギルドはその名の通り、食材に関するすべてを扱うギルド。珍しい種やモンスター肉の販売、野菜の品種改良、農業のノウハウや様々な料理のレシピの伝授など、扱うものは多岐にわたる。
 迷宮ギルドや調薬ギルド、料理ギルドとも密接に関係しているらしい。ギルドは互助組織であるためか、わりと似たような内容のものも結構あるのだとか。
 食材ギルドは登録継続条件として、一年に一回以上新種の食材を納品するか、品種改良しているならその研究成果を提出しなければならない。あるいは、食材ギルドが仲介している依頼を年一回以上こなすことでも、継続は認められる。
 しかし、登録から三年以内にある程度の成果をあげられなければ、抹消されてしまう。
 農業従事者や村単位の登録であれば、一年のうち一定以上の期間農業に携わっているという証明書を村長なり領主なりが発行してくれるので、それをギルドに提出すれば問題ないらしいが。
 各種ギルドには誰でも登録できるが継続は難しい。ギルドごとの規定があり、貢献する者にだけ恩恵が与えられるのである。
 その中でも食材ギルドは農業従事者には継続しやすく、また様々な恩恵が受けられることから人気らしい。

「それいい、そこにしよう。年齢制限とかあるかな」

 すると、フェリクスはまた丁寧に説明してくれた。
 ギルドのほとんどは十五歳以上でないと登録が出来ないそうだ。
 理由は、自分の行動の責任を自分でとれるのが十五歳以上とされているから。つまり、十五歳から成人と見なされる。
 十五歳で成人とか、日本で育った私からすれば早すぎるような気もするが、貧しい家庭では十歳から家計を助けて働く子も少なくないこの世界では、妥当なところなのだろう。
 しかし、中には年齢制限のないギルドも存在する。食材ギルドもその一つだ。
 もっとも、迷宮への通行許可や買える食材、オークションへの出入りなどについては、十五歳以下の登録者の場合、かなりの制限が課せられる。
 そのぶん、十五歳になるまでは年間に一定量の食材を納めさえすれば除名になることはない。
 これは家を持てない難民や両親を亡くした幼い子供、流れ者など、身分証が必要だが市民権を得るのが難しい人々に対する救済措置なのだそうだ。
 大手ギルドのいくつかが、こういった対応を行っているとか。

「食材ギルドに年齢制限はないけど、大丈夫かな?」

 一度どこかで登録抹消されると他のギルドにも情報が回り、再登録が難しくなる。だから、フェリクスは心配してくれたようだ。
 とはいえ、私はまだ成人前で継続条件がゆるいので、よっぽどでない限り登録抹消はないそうだ。
 その上、成人になるときにもう一度ギルドを選択し直せるという話なので、年齢制限のないギルドならどのギルドでもいいのだが。
 ちなみに一番簡単に登録・継続ができるのは冒険者ギルドとのことだった。ただし命の危険も伴う。当然、断固拒否である。
 私がそう答えようとしたとき、ノックの音が部屋に響いた。
 ドアが開いて現れたのは、護衛の女騎士ローズである。

「若様、荷物はすべて所定の位置に運び終わりました」

 フェリクスは頷き、私との話を切り上げた。

「リン、あとは明日にしよう。夕飯が出来たら呼びに行かせるから、今日はもう部屋で休みなさい」

 疲れただろうと優しく気遣ってくれる。私は素直に頷いた。

「分かった、ありがとう。明日フェリクスは時間とれる?」
「ああ、明日は一日休みをもらっているからね。リンに付き合ってあげるよ」

 笑って言うフェリクス。
 休日に予定がないのか、わざわざ私のためにキャンセルしてくれるのか。彼のためにも後者であると思っておこう。あえて聞くようなすいなまねは致しません。大人だからね!
 その後、夕食時にフェリクスの父親ラステル・ライセリュートの強い視線が少々気になったが、おおむね和やかな雰囲気に包まれていて、ライセリュート家の面々とはいい関係を築けるのではないかと思った。



 5 食材ギルド


 私は、食には並々ならぬこだわりがある。
 実家は都内で庭などなかったが、通っていた高校も大学も農業関係だった。
 将来は田舎に土地を買って、農業をするのだと決めていた。
 残念ながら様々な事情があり、引きこもり生活に入ってしまったが、引きこもると同時に【楽しもう! セカンドライフ・オンライン】が発売され、夢の農業ライフをひたすらプレイしまくった。
 何気にトッププレイヤーだった私は、珍しい種のためなら「神々の迷宮」と呼ばれる最上級難易度のダンジョンにソロで挑む、戦う農家なのだった。
「神々の迷宮」には、トッププレイヤーでさえ、装備やアイテムをがっつり整え、かつ最大人数のパーティーを組んで挑むのだが。
 ぶっちゃけ、私にはパーティーを組んでくれる友達がいなかった。
 リアルぼっちは、オンラインでもぼっちだっただけである。
 あ、なんか泣けてきた。
 でも、異世界に来た途端あっさりぼっち卒業。グッジョブ、自分!
 そんな私にとって、食材ギルドはまさにうってつけのギルドといえる。
 ゲームでもギルドの仕組み自体はあったのだが、ぼっちを貫いていた私は所属していなかった。だからギルドの種類やシステムなどが分からず、単に商店と同じくモノを売り買いできるところ、という程度の認識しかなかったのである。
 昨夜約束した通りにフェリクスの部屋をたずねると、彼は笑顔で迎えてくれた。

「じゃあ、今日はまず食材ギルドに行こうか」
「ぜひ!」

 即答し、勢いよく頷く。


   ◆ ◆ ◆


「おおおお~」

 活気あふれるライセリュート商会の店内を物珍しく見ながらフェリクスについて街へ出ると、思わず感嘆の声が漏れた。
 昨日は馬車の中でフェリクスと話していたからほとんど街中を見なかったが、こうしてじっくり見ると人間と亜人の行き交う中世ヨーロッパのような世界だった。
 ゲームには、この王都のような街もあれば、昭和の日本のような街、中華風の街など様々な街があった。それにプレイヤーが樹立した国は、国王となったプレイヤーの趣味が反映されるので、和洋せっちゅうなんてざらだったし。
 しかしながら、私がかつて遊んでいた世界は所詮しょせんゲーム。街の人もNPC。
 目の前で現実となった活気あふれる街並みは、やはり迫力が違う。
 ファンタジー世界きた! と思わず興奮した私は、まるで田舎から出てきたお上りさんのごとくあっちこっちにふらふらし、街に出て五分でフェリクスと手をつなぐはめになった。
 迷子になっちゃうからね、とフェリクスに言われたが、私の中身はいい大人である。
 なに、この羞恥プレイ。周囲の人に見られてる気がする。
 引きこもり歴六年の私に耐えられるはずもなく、フェリクスの陰に隠れるようにして足早にギルドへ向かうのだった。


   ◆ ◆ ◆


「新規登録って、ここでいい?」
「あ、はい」

 受付カウンターで声をかけると、受付のお姉さんが私を凝視してきた。
 しばらく見つめられて耐えられなくなり、フェリクスの後ろに隠れると、お姉さんの視線がフェリクスへと移る。

「あなた、ライセリュート家の?」

 不審げにつぶやくお姉さん。

「商人ギルド所属のフェリクス・ライセリュートです。私が彼女の身元保証人になりますので、登録願います」

 フェリクスと私の顔を見比べているお姉さんに、フェリクスがまばゆいばかりの笑顔でそう告げた。

「保証人が必要だった?」

 私はフェリクスを見上げて言った。

「ああ、未成年の場合は保証人がいると登録しやすいんだ。いない場合は登録に時間がかかる」
「どれくらい?」
「ギルドによっても違うけど、だいたい十日くらいかな」
「そう」

 それは確かに面倒くさいので、フェリクスが保証人になってくれるというなら非常に助かる。
 そう思いながらお姉さんを見ると、なぜか、またもやジッと見つめられてしまった。

「……かわいい」
「は?」

「無表情なとこがまた」とか、「話し方萌える」とか、何やら不穏な言葉が聞こえるような。
 気のせいだろうか。
 とりあえず、怪しい空気をかもし出しながらぶつぶつ呟くのはやめて欲しい。

「……あの?」
「はっ、失礼しました。登録ですね。では、こちらの用紙にご記入ください」

 私のかけた声に、ようやく我に返ったらしいお姉さんが一枚の紙を差し出してきた。

「字はかける?」
「大丈夫」

 フェリクスの問いに短く答え、用紙に記入していく。
【言語学】スキルは読み書きも可能にするようだ。私のスキルレベルが高いせいもあるだろう。

「出来た」
「はい、ありがとうございます。リンさんですね。わたくし、アリス・オーウェルが承ります。カードができるまでに少々時間がかかりますので、その間ギルドの規約をご説明させていただきます」

 食材ギルドで扱う食材は多岐にわたる。普通の野菜や肉はもちろん、モンスター肉、迷宮でとれる珍しい食材、果ては古代の野菜の栽培まで。
 ギルドで販売しているものもあれば、商店に卸すものもある。食材に関する依頼の仲介、料理ギルドとは違った観点で料理の研究もしているという。
 年に二回、ギルド主催でオークションが開かれ、珍しい食材や種、農業や料理に関する貴重な魔道具などが出品される。オークションには一般からの参加も可能だそうだ。
 その他、継続条件や登録抹消などについて詳しく説明してくれたが、おおむね事前にフェリクスに聞いていた内容である。

「ギルドで登録抹消になった場合、王国での市民証の発行すら出来なくなる可能性が高いのでお気をつけください。ただし、今回は十歳の未成年ということで仮登録となりますので、五年間ご自分の適性を見られて、成人後もう一度きちんとギルドを選び直してください」

 今回は未成年の仮登録なので、五年間は特に継続手続きは必要ない。
 が、ギルドで受けられる恩恵の半分以上は使用不可だそうだ。

「食材ギルド登録特典としては、通常は食料、種、農具等の売買優待、農地のあっせん、リストにある各種商店での割引、迷宮通行許可証の発行、冒険者ギルドで冒険者を雇う際の割引、各種情報の閲覧などです。でも、貴女あなたの場合は冒険者の割引と農地のあっせん、各種情報の閲覧だけですね。それにギルドで販売している商品の中には、未成年ではお金があってもご購入いただけないものもありますので、ご了承ください」
「分かった」

 特別がっかりすることもなく、素直に頷く。

「それとギルド員にはランクがあります。最初はHランクからスタートし、規定量の依頼をこなすか、ギルドへの貢献度によりランクアップが可能です。ランクはHから始まってSSまであり、食材ギルドのS、SSランクともなれば、各国の王族方さえ敬意を払うほどです。先程お伝えした特典は最初から全員が受けられるわけではなく、ランクに応じて受けられる特典が増え、商品購入時の割引率も上がります。ランクが高ければ最高半額になりますよ」
「ほほう」

 思わず顔がほころぶ。
 フェリクスには「感心しても表情変わらないね」と言われてしまったが、喜んでいるのだ、これでも。
 ただ、お姉さんは未成年はEランク以上にはなれないとつけ加えた。残念だが、仕方ない。

「それと、依頼を受けられる時にはあちらの壁に依頼票がありますので、受けたいものがあれば壁からはがして依頼受付カウンターまでお持ちください。壁の右側はギルドからの依頼、左側は一般の方からの依頼です。ランクの目安はありますが、基本的に受けられないものはありません。ただし、もし依頼に失敗すれば報酬の十倍の違約金が発生しますのでご注意ください。他に何かご質問はありますか?」

 私は少し考えて首を横に振る。

「ない」
「では、こちらがギルドカードになります」
「ありがとうです」



 6 初めての依頼


 食材ギルドの登録は問題なく終わった。
 ギルド受付のお姉さん、なぜだかときどき怖い顔で私を凝視していたのが少々気にかかる。
 特に害意がある、というわけではなさそうだった。対応はおおむね親切丁寧だったし。
 ただ、何となくかんがしたので、あえて凝視の理由は聞かなかった。
 ギルドカードも、お姉さんの説明が終わる頃にはできて助かった。
 カードは、私が受け取った時に一瞬淡くオレンジ色に光ったが、どうやらそれで個人認証したらしい。これでこのカードは、赤の他人にとってはただの金属板に過ぎない。
 お姉さんいわく、万一カードを落としても、半日経てば自動的に手元に戻ってくるとのこと。
 驚きのハイテクさだ。どういう原理なのか、非常に気になるところではある。
 カードには名前とギルドマークとランクしか表示されていない。しかし、これを持って強く念じると、スキルや称号が持ち主の頭の中に浮かんでくるのだ。
 通常はこういうギルドカードか市民証で、自分が持っているスキルや称号なんかを確認するらしい。
 私の場合はシステムブックで確認できるとはいえ、その価値を聞いてしまったからにはあまり人前で本を出したくない。このカードですぐに確認できるなら助かる。
 カードにはギルドで受けた依頼の達成、未達成なども記録され、専用の魔道具に通せば記録が見られるらしい。
 魔法ってやりたい放題だな、と私の目が点になったのも仕方のないことだろう。
 無事、食材ギルドにて登録が済み、私はギルド内を見回す。
 すると、見覚えのある食材が!

「おおおおお」

 思わず歓喜の声をあげた私を見て、「本当に感動しているの?」とかいうフェリクスの呟きが聞こえたが、気にしない。
 鉄壁の無表情と、抑揚の全くない口調は、日本にいた頃でもこの世界に来てからもどうにもならないと、すでに諦めている。
 これでも、昔は治らないか努力してみたのだけれどね!
 そんなことよりも、この店!

「フィフィ草がある! ってこれだけで一万クロム? 高っ! あっ、これってオリオの卵! 五〇〇クロム……う~ん、基準が分からないなあ」

 まさか、現実にこのラインナップを見ることができようとは。
 ゲーム内でお世話になった食材ばかりで、感動もひとしおである。思わずかぶりついて見てしまう私を誰が責められよう。

「お~い、帰ってこいよ~」

 雑音を無視して、私はじっくり一つ一つ見ながらぶつぶつと呟く。

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