3度目の異世界に勇者はいらない

浅野明

文字の大きさ
上 下
2 / 4

召喚されました

しおりを挟む
その部屋には制服の男女がたくさんいた。
見覚えがあるそれは、蓮が卒業した高校の制服。
中にはヒゲ面のオッサンもいたが、制服を着ているのできっと高校生なのだろう。ざっと見渡せばものすごくスタイルの良い女の子ややたら爽やかそうなイケメン。ちょっと斜めに構えたような感じの子もいる。ずいぶんバラエティ豊かなクラスのようだ。

周囲は石造りの部屋で、中央に祭壇らしきものがある以外はなにもない。

周りの高校生たちが取り乱していてうるさい。まあ、突然見知らぬところに来たら取り乱すのは仕方ない。

蓮は一通り見渡すと、自分を見た。くたびれたスーツ、メガネ、片手には某有名チェーン店の牛丼。

うむ、仕方がない。なにせ昼休みで牛丼屋にいたのだから。まさに今牛丼を食べようとしたところで床が光って、気がついたらここにいたのだ。なのに「なんだコイツ」みたいな視線をすごく感じる。蓮のせいではないのにすごくいたたまれない。・・・・納得いかない!

「皆様」

凛とした美しい声があたりに響いて、騒がしかった高校生たちが一瞬で静かになった。

「わたくしはラズィネール王国第3王女リズリットと申します」

長く波打つ美しい金の髪の、17・18歳くらいの女性は
そういうとゆったり微笑んだ。

テンプレっぽい感じで、ものすごく胡散臭いです。しかしなぜ自分はここにいるのか、と蓮は首を傾げる。見た感じ、ファンタジー小説とかでよくあるクラスごと異世界転移というやつだろう。だが、蓮は高校の教師ではない。小さな雑貨屋の店員だ。召喚された面々とはまったく接点がない。あえていうなら、蓮が卒業した高校という程度だ。

お姫様は、戸惑っている高校生や蓮を置き去りに、滔々とこの世界の現状を語っている。なんでも邪神が現れて世界がピンチなんだとか。世界を救う英雄が必要らしい。

まったく興味がありません。

周りの高校生たちははじめはかなり騒いでいたが、やがて邪神を倒せば帰れるといわれて、静かになった。

正直、王女はめちゃくちゃ胡散臭いし、信頼度はゼロだ。異世界からムリヤリ子供拉致って戦力にするとかドン引きである。

王女様の話が終わると、一人ずつ能力を測定される。水晶玉みたいなアイテムに手をかざすとゲームでよくあるステータス画面がひらくようだ。

「勇者、賢者、聖女、大魔道士・・・・」

聞こえてくる限り、ずいぶん豊作のようだ。心なしか、高校生たちも楽しそう。

「最後は・・・・なにをなさっているのかしら?」

王女が蓮を見て、唖然としている。

「お昼ゴハンを食べている」

早く食べないと牛丼が冷めて美味しくなくなるだろう。なんでそんなあたりまえのことを、と蓮も不思議そうに王女を見る。

「そ、そう?あら?わたくしが間違っているのかしら?」
「もちろん、間違ってる。私はお昼を食べるとこだったの」
「貴様!無礼な!」
王女の後ろから騎士が怒鳴るが、蓮は肩を竦めた。
「なんで?人がゴハンを食べる直前に勝手にここに連れてきたのはそっち。そういうことするほうが非常識でしょ?」
「それは、申し訳ありません。ですが今ここでそのようなものを食べるのはいかがなものかと」
「なんで?」
「その、ここは神聖な場所なので」
「それはそっちの都合でしょ?食事も出さずにいつまでも待たせるほうが悪くない?」
蓮がそういうと、王女の後ろの騎士二人が真っ赤になる。なんか周りの高校生の視線も痛い。
「・・・・わかりました。とにかく、こちらの水晶玉に触れてください」
王女はなにかを諦めたようにため息をつくと、メイドさんが持っていた水晶玉を蓮の前に出す。

「んー、これでいい?」

蓮が水晶玉に触れると、水晶玉が僅かに光る。光はすぐに消えて、半透明な板が目の前に出てきた。

名前:白峰蓮
職業:クリエイター
レベル:1

「クリエイター・・・・聞いたことのない職業ですね」
「・・・・なんの役にも立たない職業だよ」
バカみたい。小さく呟いたその声は、近くにいた王女にも届くことなく消えていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

私だけが赤の他人

有沢真尋
恋愛
 私は母の不倫により、愛人との間に生まれた不義の子だ。  この家で、私だけが赤の他人。そんな私に、家族は優しくしてくれるけれど……。 (他サイトにも公開しています)

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

処理中です...