死なばもろとも

犬腹

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死なばもろとも

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『大変物騒なニュースが増えてきていますね。是非皆様、戸締り等できることから…』カップラーメンを啜りながら中古で買ったテレビから流れる声を聞く。安っぽく軽い、雑音混じりの声でニュースキャスターが神妙な面持ちで知らない土地の知らない人に起きた事件を読み上げていく。
 午前1時。ふと部屋を見渡すと今自分がカップラーメンを啜ってる机の上には全く同じパッケージの中身が空になったもの達と安い酒の空き缶が無造作に散乱している。床にはコンビニ弁当のゴミで膨らんだビニール袋が幾つかある。次のゴミの日はいつだっけか、最後にゴミを外に出した日を思い出す。このアパートは外見もボロく、動く度に至る所で軋む音がするが、入居者が少ないため、多少ゴミを溜め込んだりしたところで誰にも文句を言われないので、俺みたいな生きるために最低限の動きしかしたくないようなやつにはピッタリだと我ながら思ってる。わざわざ訪ねてくるようなやつもいない。どうやら世間では物騒な事件が増えてきているらしいが俺には到底無縁な話だろう。
 そんなことをダラダラ考えながら次々流れていくニュースをぼぅっと見ていると、ドンドンドン!と、深夜だというのに配慮やモラルの欠片もないノック音(はたしてこれがノックだと言うのかは今は考えないでおこう)がした。こんな時間にこんな形で訪ねてくる奴なんて限られてる。いや、1人しか居ない。俺は舌打ちをして誰スカ、と返事をしてドアを開ける。何日も外に出ていないうえに人と話すのすら久しぶりなので酷い顔と声をしていただろう。まあそんなことはどうでもいい。顔を上げるとそこには俺の住所を唯一知ってる人間と言っても過言ではない、高校の時からの縁の清水が立っていた。
 清水は俺が高2ぐらいの時、いつもの様に屋上で紙パックのりんごジュースを飲んで授業をすっぽかしていると、コンビニのパンを持ってふらりと現れ、暇つぶしにと話していたら同じ学年で、クラスのヤツらと気が合わず、勉強もする気がないのでよく屋上でこうしてサボっているという最悪であろう共通点から意気投合し、お互いが高校を中退して数年経った今でもたまに連絡を取り合う仲だ。だが今はそんな事はどうだっていい。しばらく会ってなかった清水がこんな深夜にわざわざ俺の家まで来て何をしようというのだ。しかも右手には馬鹿にでかいスコップを持っている。よく見ると着ている黒いパーカーとジャージは濡れているようで、液体が飛んできたようなまだ乾いてない染みが俺の部屋の明かりにてらてらと照らされている。いよいよ意味がわからない。
「何しに来たんだよこんな時間にこんな格好で、畑仕事でもするつもりか?あとあんなに扉をバンバン叩くな、ただえさえボロいんだから。」
 文句を言うと少しの沈黙があってから清水が、あー…と口を開く。
「あーのさ、殺しちゃって、人、今からそこら辺の山に埋めに行こうと思って、だからさ、手伝ってよ。」
 困ったように眉を下げて笑いながら右手に持っていたスコップを俺に押し付けてくる。
 ……は?意味がわからない。だが俺の頭に浮かんだのが警察へ、とか誰を、とかなんで、とかでは
 無くてめんどくさい、だったのが自分でも驚いた。
「いや~あいつだよあいつ、話したことあったろ、元カノだよ。復縁しろ復縁しろうるさくて最近は家まで着いてくるようになってさ、口論になってあいつ、手出してきたから俺もカッとなって灰皿で殴ったら死んじゃった。」
 聞いてもないのにべらべらとまるで映画や小説のネタバレをするようなテンションでわざとらしく囁いてくる。
「しらねえよ、お前がやった事だろ自分で何とかしろよなめんどくせえ。」
「はは、警察行こうとか言わないワケ?まあ言わないとは思ってたけどさ、いいじゃん暇してただろ、どうせ。女ひとりでも案外重いんだぜ?車に乗せるのも苦労したよ。」
 と、親指で後方を指さす。雑に停められた黒の軽自動車が見えた。
「お前車なんて持ってたっけ、そもそも免許とったんか。」
「バカお前、僕が免許なんて取るわけないだろ、あとあれ親父の車。当分は女の家にいて帰ってこないだろうし、鍵置いてってくれて助かったわ。」
 もう俺は疑問とか恐怖とかは感じず、呆れていた。元々頭のネジが緩い奴だとは思っていたけどここまでとは。絡む相手を間違えたな、と数年越しの後悔をする。
「なあいいだろ~?どうせ暇だろ、人助けだと思って、な?今度飯でも奢るしさ。」
 死体を埋めることが飯奢る事ぐらいでチャラになると本気で思ってるのか?こいつは。いよいよ本気で俺は呆れたが清水の言うことも当たっている。毎日毎日同じようなもの食べて同じような生活をして、生きてても無駄に金がかかるだけだよな、と考えていたところだ。失う家族とか、友達とか、世間体とやらもないし、昔からのよしみということで手を貸してやるか。と思う俺も傍から見ればネジが緩んでるというやつなのか、と失笑する。
「わーかったよ、今回だけだかんな、早く済ませようぜ。」
「ひゅ~そういうと思ったぜ、今回だけって、流石に2回も人殺さねえよ。」
 まあまあな犯罪をしているというのに清水は悠長にケラケラと笑う。
「ほら、さっさと行くぞ。明るくなる前に終わらせようや。」
 自分が何故こんなにも冷静なのか分からなかった。どこが現実離れした状況に少し浮かれていたのかもしれない。もうこの際犯罪でもなんでもいい。
 清水が乗ってきた車の助手席に乗るとどこか血腥く、本当に死体が乗っているんだと実感した。まあ今更後戻りする気もないが。後部座席にはでかいスコップが2つと軍手が二人分、無造作に置いてあった。清水曰く、女の死体はトランクに乗せているという。トランクの取っ手あたりには清水の服と同様に液体、まあ今となっては血だと分かったが、街頭に照らされて不自然に目立っていた。
 どうやら彼は遠くの山へ、とかではなく本当に1番近くの人がほとんど入らない山へ向かうようだった。
「お前これ親父の車だろ?こんな血塗れにして、バレたらどうすんだよ。」
「んー、あいつ最近ほとんど車乗ってなかったし、もしバレたとしても僕がちょっとボコられるだけじゃねーの?お、ここ左か。」
 さらっとそう言った清水の少し袖を捲って露わになっている白い腕には黄色くなった痣が内側から居心地が悪そうに咲いていた。
 清水が車を止めたそこは、うちから30分もかからない場所にある手入れのされていない雑木林だった。
「よしっやるかぁ!」
 と、呑気に気合を入れて車を降りる清水を横目に、ため息をついて後部座席の軍手とスコップを取る。清水がトランクを開けると、だらしなく四肢を投げ出して横たわる女がいる。頭を殴ったと言っていたので一見すると眠っているだけに見えるが血の気がなく、ピクリとも動かない。分かってはいたが本当に死んでいるんだと妙に納得する。そんな俺を気にも留めずによいしょ、と早速女を降ろそうとしている。
「お前足の方持ってくれよ。」
 女の両脇に手を入れた清水に言われるがまま両足を抱える。確かに2人でも案外重いものだ。全くの明かりがない訳では無いとは言え、夜、しかも手入れのされていない荒れ放題の雑木林を人間を抱えて進んでいくのは普段外に出ない俺にはなかなかしんどい事だった。
 しばらく進んで
「もういいだろ、ここら辺で。」
 と、俺が音を上げても
「もうちょい奥まで行くぞー。」
 と言ってずんずん進んでいく。ついて行くのにやっとだ。めんどくせえなあと思いながらこめかみを伝う汗を感じながら歩いていると
「よしっここら辺でいいか。」
 やっと清水の足が止まる。雑草が生い茂る地面にドサッと女を雑に投げる。休憩する暇もなく
「ふぅ、穴掘るぞ、穴。なかなかでかく掘らないといけないからキツイな。お前連れてきてよかったわ。」
 なにやらブツブツいいながらスコップを手に取り、比較的平らな場所を掘り始める。
 木に寄りかかり休んでる俺をちらっと見ると
「ほら、お前も早くやれよ。」
 と言いながらもうひとつのスコップを顎で指す。誰が何を人に命令してるんだ。多少イラついたがそういうやつだ、しょうがないと自分に言い聞かせて一息付き、俺もそれに習って掘り始めた。思ったよりも土は掘りやすかったが、ひと1人入る分掘るとなると気が遠くなるような作業だ。明日は筋肉痛だろうな、などとどうでもいいことを考えながら休み休み掘り進めていく。俺が休んでいる間も清水は汗を垂らしながらひたすら掘っていた。流石のあいつでも少しはやばいという危機感があるのだろうか。まあ無かったらわざわざここまで来て埋めようとは思わないか。と思い再度スコップを手に取った。そこからは2人ともほとんど喋らずにひたすら、掘り進めていった。
 女が小柄だった事もあり、思ったよりも早くその地獄の作業は終わった。
「ふぅ。こんくらいでいっか、ちょっと休憩しようぜ。」
 これまでほとんど休まずに穴を掘っていた清水が倒れていた木に腰をかけた。一旦軍手を外して俺
 も隣に座ることにした。今になって俺はこいつに聞きたいことが山ほどでてきたが、煙草を取り出す清水の横顔を見て、飲み込むことにした。
「俺にも1本くれよ。」
 今度はライターを取り出す清水に頼むと
「お前煙草吸ってたっけ、別にいいけど。」
 と、案外素直に1本の白い煙草を俺に差し出した。
 確かに俺は普段煙草は吸わない。無駄に金がかかるし何がいいのか正直よくわからん。だがこんな状況でも慣れた手つきで煙草を取り出す清水を見て何故か吸ってみたくなったのだ。いや、こんな状況で、この場所で、同じことをして、彼と何かを共有したかったのかもしれない。
 そういえば1度、高校を中退した直後ぐらいに清水が俺の家に来て2人で駄弁っていた時に清水が吸いだしたので単純な好奇心から一口だけ吸わせてもらったのだが酷く苦く、苦しく、肺が、身体が拒否しているのが吸った瞬間にわかり、むせてむせて清水に笑われたのを思い出した。最低な初煙草の思い出だ。その時から絶対に吸わないと決めていたはずなのに、俺の手の中にある白いそれに無性に吸い寄せられる。清水は薄い唇から深く煙を吐いた後、不意に口を開く。
「なあ僕らさ、地獄行きかなやっぱり、こんなことして。」
 少し口角を上げてくゆる煙を目で追いながら言う清水に
「お前まず捕まるかどうか考えないの?まあどうせお前は捕まるだろうしいいや。」
 ハハ、と笑いながら清水を茶化すといつもはタレ目で何考えてるか分からないアイツが目を細めて不愉快そうな冷たい目でこちらを一瞥するので慌てて話を戻すことにした。
「でもまあこんなことしといて地獄に行くかなんて火を見るより明らかだろ。」
 俺はまだ火のついていない煙草を手で弄りながら死体をちらりと見て言う。
「んー、火を見るより明らかなんてそんなのさ、火をつけてみないとわかんないじゃん?」
 ライターの火を着けながら清水は言う。火に照らされてぼぅっと浮かび上がった清水の顔はいつも通りのタレ目で、ニヤリと片方の口角を上げていた。そのライターの火で俺の煙草に火を促してくる。覚悟を決めて煙草を咥え、火をつけてもらおうとするが風向きが不安定でライターの火がすぐに消えてしまう。
「あークソ、しょーがねーな。」
 舌打ちしながら清水は自分の咥えていた煙草を手に持ち替えて俺の咥える煙草の先に煙の出ている自分の煙草を軽く押し当てる。吸えよ、とジェスチャーで示してくる彼に従って今度こそ、と意気込んだがやはり少し怖かったのでゆっくりと吸ってみる。が、一気に煙草特有の紙の香りと苦味が一気に口内に広がり、メンソールの刺激が鼻の奥を刺激する。そのまま肺に入れると明らかな拒否反応で物凄い勢いでゲホゲホとむせてしまった。最悪だ。肺と気道にはまだ煙たい苦さ残っている。しかも何よりまたこいつに馬鹿にされる。止まらない咳をしながら苦しむ僕をケラケラと笑いながら
「変わんねえのな、お前、急に吸いたいとか言い出したから吸えるようになったんかと思ったわ。なんだよ。」
 口から煙を出しながら俺の腕を小突いてごにょごにょと聞き取れないことを言いながら心底楽しそうにまだ笑っている。なんで吸いたいだとか思ってしまったんだ、こうなることは予想着いていただろ、と数分前の自分を酷く憎むことになってしまった。水を持ってこなかったことを後悔しながら、こんな事になるのは想定外だった、と思ったがそもそも死体を埋める手伝いを誘われる時点で全てが想定外だ。今になって夢なんじゃないか?と疑うが気道にこびり付いている様な煙の後味が残念ながら現実だよと嘲笑する。
 そんな俺の鬱屈とした気持ちを知ってか知らずか清水は風で揺れる雑草を眺めながら深く煙草を吸っている。よく煙草の煙を紫煙と言ったりするが彼の吸う煙草から出る煙は暗闇の中、月に照らされて青白く揺れていた。ながくしがみついていた灰がぼと、っと地面に落ちた時、女が死んだ瞬間が見えた気がした。吸殻を地面に捨てて必要以上にボロボロのスニーカーの踵でグリグリと潰した後、
「さあ、埋めるか!」
 爽やかな笑顔でそう言った。
 立ち上がった清水は軍手を再び付けて地面に横たわる女の両足を抱え、頭側を持てと指示してくる。できることなら俺は女の顔は見たくなかったのだが仕方ない、俺も軍手を付けて極力顔を見ないようにして死体の両脇に手を入れる。せーの、と声をかけて持ち上げた瞬間、がくんと揺れた女の顔と目が合った。心臓がびくんと跳ねたが、血の気がなくて瞳孔が開き、既に魂がないそれはただの人の形をしたモノに過ぎなかった。俺の心臓も何事も無かったように動き始め、清水と掘った穴の元まで女を運んだ。またもせーのっと声をかけて女を穴の中に放り込む。もう俺から見た女はただの棄てるべきモノでしか無かった。さっさと土をかぶせて帰ろうとしたが良心の呵責か自分への慰めか、近くに咲いていたどこにでもある様な小さな白い花をぶち、と抜いて穴に放り込んだ。この女よりもついさっき俺に抜かれるまで生きていたこの花の方がよっぽど生き生きと己を主張をしているな、などと思いながらしゃがんで穴を覗き込んでいると清水がおもむろに隣に来てしゃがみこみ、女の左手を持ち上げて覗き込む俺の頬目掛けて伸ばしてきた。
 熱く、鋭い痛みが右の頬に走った。思わず痛みの元に手を当てるとぬるっとしたものがあった。女の赤く、長い爪が俺の頬を軽く裂いたのだ。軽くパニックになった俺は清水を問いつめた。
「は?なにやってんのお前、マジで、なあ、ついに気が狂ったか?とうとうお前、くるとこまで来ちまったのか?どういうつもりだよてめぇ。」
「そんなデケェ声で怒んなって、どうせ俺は捕まる。それはわかる、わかってる。でもお前だけ捕まらないなんて癪だろ?これでこの女の爪の中にはお前の皮膚がしっかりと付いたんだよ、わかるか?共犯ってことだよ、俺が捕まる時はお前も一緒。長年の縁だろ?な?」
「な?ってお前、お前、なに、」
 訳が分からない、何も理解できない、最初からこいつは俺をこんな形で道ずれにしようとしたのか?それで俺をわざわざ誘って、こんなでかい穴を掘らせて、死体と目を合わせる羽目にしたのか?挙句の果てには死体に頬を引っ掻かれた。息が浅くなる。捕まるという恐怖ではない、こいつの行動が理解できない恐ろしさに、だ。最初うちに来た時は運ぶのが大変だから、と言うような軽い理由だったから手伝う気になったのだ。とはいえ殺人、死体遺棄。清水が捕まり、警察が調べれば俺も加担したのが簡単にバレるだろう。そんなことはわかっていた。だが清水がわざわざこんな事をしてまで確固たる証拠、俺が確実に犯罪に加担した証拠を作り出そうとしたのはなんでだ?ヘラヘラしているくせに1人で捕まるのが怖かったのか?アイツが?頭の中を様々な考えが音を立ててぐるぐると回る。顔を上げると立ち上がり、俺と死体を上から見下ろす清水が、月を背後に真っ黒になって立っていた。逆光で暗くなった彼の表情はわからないが、少しだけ顔を上げると唯一、少しだけ歯が白く浮かび上がっていて笑っていることが分かった。耳鳴りで辺りの音が消えている中で俺は、あぁ、初めて見た。これが悪魔というものなのだ、とじぐじぐと痛む右の頬を感じながらしばらく陶酔してしまった。
「そんなに見つめんなよ、照れるじゃん。怒った顔したり困った顔したり忙しいやつだと思ったらそんな顔もすんのかよ。」
 清水の声がして、もう一度彼を見上げるともう悪魔はもういなくなっていて眉尻を下げて困ったように笑ういつものアイツがいた。
「なあいい加減埋めて帰ろうぜ?その傷はごめん。」
 サラッと謝り、木に立てかけておいたスコップをまたもや手に取り、今度は積み上がった土を穴に戻していく。ぼぅっとしていた意識が現実に引き戻されたので立ち上がり、俺も清水にならって女の顔に土を被せていく。無言で続いたその作業が終わった頃には何かを埋めましたよ、とアピールするような大きな土の膨らみが出来ていた。さすがになあ、と呟いた清水はおもむろにその上に乗り、めちゃくちゃに飛び跳ねながら踏み固めていった。その様子が余りにも楽しそうなので俺も一緒に上に乗って飛び跳ねる事にした。幼児がトランポリンで遊ぶように2人で笑い合いながら飛んで踏み固め、ふかふかとした土が段々と硬くなっていき、埋めた場所はあまり目立たなくなった。仕上げにそこら辺の草を適当に被せてカモフラージュ完成、という事にした。
 雑木林を下る頃には空が白んで夜を溶かしている途中だった。廃車が捨てられている様に停めてある清水の、性格には清水の親父の車が無機質に存在していた。まだ少し血腥い車の後部座席にスコップと軍手を放り投げ、助手席に座る。続いて清水も運転席に座りバタンとドアを閉めてエンジンをかける。俺の家に帰る途中、運転しながら清水が
「ぼく、お前の顔結構すきなんだけどなあ、死体にこんな傷付けられてんのウケるな、可哀想に。」
 ハハハと乾いた声で笑いながら言う。が、俺にはもう怒る気力もなく、
「そのすきなお顔に傷をつけたのは何処の誰だよ。」
 鼻で笑って答える。
「傷は男の勲章だけどな、まあごめんって、許せよ」
 いつもの様に目を細め、いたずらっぽい笑顔でまだヒリヒリと痛む俺の頬をサラリと撫でる。鋭い刺激が走ったが、清水の冷たい手は熱を持った頬にはどこか心地が良かった。
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