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忠告6.その考えはハズレです

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 私の失言から大きく変わったことは食事が別々になり、自分が完全なるお飾りな伴侶となったところだろう。いや、元からこうなるとは予想していたから正常な立ち位置になったというか……。むしろはじめの対応が可笑しかったのだ、そもそも私は尻拭いで人質として結婚してるんだぞ?
 うん、そうだ。この状況が正しい。私は自室のベッド端に座り頷く。今は真上に日が輝く頃で外へのお出かけ日和だと言えるが部屋に引きこもっている。好きで引きこもっているわけではない、今の私の安全地帯がここなのだ。

「はあ……今なら嫁いだ人の気持ちが痛いほど分かる。私は本当ならもらう側だったのに人生ってよく分からないな」

 膝上で肘をつき頬杖をした私の呟きを聞く者はいない。でも部屋の外でセルビスが立っているのは知っている。最近はセルビスが監視役のように思えるのだが気のせいなのだろうか。

「私を飾ってなんの得があるのか」

 ただ余分な出費がかかるだけで損ではないかと私の脳はそう答えを出す。「はあ……」と今日で何度目か分からないため息を吐いた。「ああ、やめやめ」と私は頬杖を崩し、閉めていたカーテンを開けに立ち上がる。暗いから気分も鬱屈するのだ。

 暗かった部屋を昼の明るい日差しが照らす。眩しくて目を細めたがゆっくりと慣れ、目を開き外を眺める。手入れのされた美しい庭に仕事をこなす使用人がきびきびと動いていた。
 意味もなく彼らを目で追うのも疲れた私は久しぶりに外に出ようかと考えた。しかも庭ではなくもっと外だ、そう、街に行こうと。我ながら素晴らしい考えだと笑いがこぼれる。私はさっそく準備に取り掛かろうとセルビスを呼んだ。彼はすぐに扉から入ってきて用件を聞く。

「街に行きたいんだ。用意を頼める?」
「街……ですか?」

 どこか歯切れの悪い言い方のセルビスに私は首を傾げるも「ああ、街」と言えば、彼は「旦那様に聞いてきますね」と意味のわからないことを残し部屋から出て行こうとする。

「待って待って! セルビス止まってくれ」
「……はい、なんでしょうか?」
「いや、どうして旦那様が出てくる? 街の名所についてでも聞いてくるつもり?」

 オルウェンはここの出身だから街には詳しいと思うが聞かなくてもそこは自分で探索するつもりだから余計なお世話だ。不満の顔を見せる私にセルビスは真面目な顔で首を横に振り「いいえ」と答えた。

「シェイン様の外出許可をされるか聞くつもりです」
「はあ? そんなもの聞く必要ないよ」
「ですがもともと旦那様はシェイン様の外出は許可しないとおっしゃっていましたので……」

 セルビスは聞いていても私は初耳だったことから眉が寄り、目を見開き、口を少し開けたままの驚きと反感の混じる謎の表情になる。

「あの、旦那様の名誉のために言っておきますがシェイン様のことを思っての考えですからね」
「……分かっているよ、公爵は狙われやすい。伴侶の私も狙われる可能性がある、だろう?」

 理解してもらえて嬉しいという表情をセルビスは見せるが私は理解したからといって従うとは言っていない。
 腕を組み、視線は彼と合わせず横を向いて「だが私を狙う者なんていないんだよ。仮にあってもお飾りだったんだ、捨てればいい。伯爵の父は心配するだろうがあの伯爵の息子として私を狙っても得はない。ほら、私が一人で外に出ても平気そうだと思わない?」と最後に彼と目を合わせ言った。今なら出来ないウィンクをつけてもいいくらいだ。

「……使用人の分際で言うのは烏滸がましいですがシェイン様はもう少しご自身の魅力に気付いた方がよろしいかと」

 私の説得をかわし、より上手に嗜められた。要するに言うことを聞けという意味だ。「はあ……」と私は癖になりつつあるため息を吐き、完敗だよというように手をひらひらと振ってセルビスを部屋から追い出す。
 今の私はこの部屋がお似合いなんだとベッドに倒れ込み、この一週間やってきたお昼寝でまた一日を潰すことになった。
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