10 / 17
懐かしい顔
しおりを挟む
「えっ……」
俺は目を見開いて驚きの声をあげてしまった。その理由は騎士団長の執務室の扉がとつぜん爆発し、木っ端微塵になったからだ。近くで扉が爆発して俺に怪我がないのはおそらくシアが魔法で壁でも張り防いでくれたおかげだと思うが俺は驚きすぎて心臓が痛い。シアが仕事をする横で俺はのんびりと朝食をとっていた時で心構えも何もなかったのだ。痛む心臓に俺は胸を手で撫で落ち着かせようとするも追撃の怒り声が執務室に響いた。
「スタシア! あれほど城に戻れと言っただろうが!」
声とともに現れたのは懐かしい顔であるエインだった。エインは俺に気づいた様子はなくシアに詰め寄っているがシアの方は鬱陶しそうな顔で彼を迎えた。
「戻っただろう」
「遅いんだよ!」
「そんなに怒るな、ほら、お前の分のコーヒーだ」
「はあ? 病んだお前が俺にコーヒー買うなんて何事だ?」
シアから差し出されたコーヒーを見ながら言うエインに俺は思わず傍観を忘れ笑ってしまった。しかしその事でエインがこちらを見た。エインは驚きの表情でシアと俺を交互に何度か見てから口を開いた。
「とうとうお前が鬱陶しすぎて化けてでも出られたか?」
「違う」
シアの素早い否定の声に俺は笑いながら椅子から立ち上がりエインの前に行った。
「久しぶりだね、エイン」
俺を上から下へと見たエインは片手で顔を覆うと辛そうに言った。
「俺はついに過労から幻覚が見える。これも全部スタシアの所為だ」
「違う」
「本当だろうが!」
仲が良いなと俺は思うも口には出さず、微笑んで二人を見た。するとエインがまた俺の方を向いてからシアに真面目な声で問う。
「それで説明はあるのか、スタシア」
「これから私の補佐をする、異世界からきたフィーロだ」
ちらりと俺を見るシアだったがすぐにエインへ向き直った。しかしエインの方はといえば、眉を寄せ怒りを露わにする。
「はあ? お前、本当いい加減にしろよ」
「いや、本当にシアの言ってる事はあってるよ。俺、召喚されたから。あの時に対応を任せた騎士に訊いてみなよ」
簡潔に答えたシアだったが前世の俺を知るエインには冗談に聞こえる説明で困ったものだと俺は思った。だが俺が真面目な顔で足した言葉にエインは納得したようだ。
「……分かった、少し抜ける」
出て行く際に扉も直していくエインを見送った俺は疲れたように先程座っていた椅子に戻った。そして残りの朝食を食べ終わった頃にエインは召喚された時に対応した騎士と一緒に戻ってきた。
「合ってるか?」
「え、全く別人ですよ。短い黒髪に黒目でしたから」
「待って待って。俺、あの時は髪染めてたし目の色も変えてたんだって」
怪しげな目で二人に見られる俺は慌ててシアの方を向き、助けを求めた。
「この姿だろう?」
シアの言葉とともに自分の頭が軽くなる。
「そうです! この姿でした」
騎士がびっくりしながらも肯定するので俺の姿が変わっているのだろう。俺は見えないので分からないが。
エインの方はまだ怪しそうにしていたが新たに扉をノックする音があり、シアではなくエインが入室の許可を出した。
「失礼します」
入ってきたのは宿舎の案内などをしてくれて新米騎士の育成担当かつ俺の髪の色を戻してくれたりなどいろいろと面倒を見てくれた人だった。
「とつぜんで悪いがこれは召喚されたフィーロで間違いないか?」
エインの問いにその人は俺を見るもまた髪を戻したのかという不思議そうな顔しながら答えた。
「はい。ですがまた黒髪黒目に戻したのですか? 本来の彼は金髪碧眼です」
「そうだ。そして私が昨夜、髪を伸ばした」
部屋に集まった者が俺を見るなか、俺は頭が重くなったことで元に戻ったと分かった。
「それで召喚されたフィーロで合っているということでいいか?」
シアの最後の確認にエインに呼ばれた騎士二人は頷く。それを見たシアは二人を仕事場に戻し、この場は三人になった。
「エイン、納得したか?」
「とりあえずはな。ただいろいろとあり得ないだろう、本当に俺たちの知るフィーロか?」
探るようなエインの目に俺は彼が疑うのも無理はないと思った。
「エイン達が知る俺だと思うけど、あの俺そのままとはいえないね。なにしろ、俺は生まれ変わってる」
「前世の記憶があるのか?」
エインのその問いに俺は肩をすくめ言う。
「あるんだよね、これがまた」
「何か話してみろよ」
とつぜんの無茶振りに困るが信じてもらえそうな話を思い出す。
「ええ、何かって言われてもな……。あ、新米の頃、煙草をエインから貰って一緒に吸った」
これはぴったりな話だなと俺は思い、エインを見るとまた片手で顔を覆い、頷く。
「……本当にフィーロだわ」
「ちょっと待て、私はそんな話聞いたことがない」
「お前に言うはずないだろう、鬱陶しい。それに誰にも言ったことない話だ」
「はは、禁則事項だもんね」
そう、新米騎士の時、煙草は禁止だったが内緒でエインと二人で吸った。まあ、俺は巻き込まれたに近いが。
俺は目を見開いて驚きの声をあげてしまった。その理由は騎士団長の執務室の扉がとつぜん爆発し、木っ端微塵になったからだ。近くで扉が爆発して俺に怪我がないのはおそらくシアが魔法で壁でも張り防いでくれたおかげだと思うが俺は驚きすぎて心臓が痛い。シアが仕事をする横で俺はのんびりと朝食をとっていた時で心構えも何もなかったのだ。痛む心臓に俺は胸を手で撫で落ち着かせようとするも追撃の怒り声が執務室に響いた。
「スタシア! あれほど城に戻れと言っただろうが!」
声とともに現れたのは懐かしい顔であるエインだった。エインは俺に気づいた様子はなくシアに詰め寄っているがシアの方は鬱陶しそうな顔で彼を迎えた。
「戻っただろう」
「遅いんだよ!」
「そんなに怒るな、ほら、お前の分のコーヒーだ」
「はあ? 病んだお前が俺にコーヒー買うなんて何事だ?」
シアから差し出されたコーヒーを見ながら言うエインに俺は思わず傍観を忘れ笑ってしまった。しかしその事でエインがこちらを見た。エインは驚きの表情でシアと俺を交互に何度か見てから口を開いた。
「とうとうお前が鬱陶しすぎて化けてでも出られたか?」
「違う」
シアの素早い否定の声に俺は笑いながら椅子から立ち上がりエインの前に行った。
「久しぶりだね、エイン」
俺を上から下へと見たエインは片手で顔を覆うと辛そうに言った。
「俺はついに過労から幻覚が見える。これも全部スタシアの所為だ」
「違う」
「本当だろうが!」
仲が良いなと俺は思うも口には出さず、微笑んで二人を見た。するとエインがまた俺の方を向いてからシアに真面目な声で問う。
「それで説明はあるのか、スタシア」
「これから私の補佐をする、異世界からきたフィーロだ」
ちらりと俺を見るシアだったがすぐにエインへ向き直った。しかしエインの方はといえば、眉を寄せ怒りを露わにする。
「はあ? お前、本当いい加減にしろよ」
「いや、本当にシアの言ってる事はあってるよ。俺、召喚されたから。あの時に対応を任せた騎士に訊いてみなよ」
簡潔に答えたシアだったが前世の俺を知るエインには冗談に聞こえる説明で困ったものだと俺は思った。だが俺が真面目な顔で足した言葉にエインは納得したようだ。
「……分かった、少し抜ける」
出て行く際に扉も直していくエインを見送った俺は疲れたように先程座っていた椅子に戻った。そして残りの朝食を食べ終わった頃にエインは召喚された時に対応した騎士と一緒に戻ってきた。
「合ってるか?」
「え、全く別人ですよ。短い黒髪に黒目でしたから」
「待って待って。俺、あの時は髪染めてたし目の色も変えてたんだって」
怪しげな目で二人に見られる俺は慌ててシアの方を向き、助けを求めた。
「この姿だろう?」
シアの言葉とともに自分の頭が軽くなる。
「そうです! この姿でした」
騎士がびっくりしながらも肯定するので俺の姿が変わっているのだろう。俺は見えないので分からないが。
エインの方はまだ怪しそうにしていたが新たに扉をノックする音があり、シアではなくエインが入室の許可を出した。
「失礼します」
入ってきたのは宿舎の案内などをしてくれて新米騎士の育成担当かつ俺の髪の色を戻してくれたりなどいろいろと面倒を見てくれた人だった。
「とつぜんで悪いがこれは召喚されたフィーロで間違いないか?」
エインの問いにその人は俺を見るもまた髪を戻したのかという不思議そうな顔しながら答えた。
「はい。ですがまた黒髪黒目に戻したのですか? 本来の彼は金髪碧眼です」
「そうだ。そして私が昨夜、髪を伸ばした」
部屋に集まった者が俺を見るなか、俺は頭が重くなったことで元に戻ったと分かった。
「それで召喚されたフィーロで合っているということでいいか?」
シアの最後の確認にエインに呼ばれた騎士二人は頷く。それを見たシアは二人を仕事場に戻し、この場は三人になった。
「エイン、納得したか?」
「とりあえずはな。ただいろいろとあり得ないだろう、本当に俺たちの知るフィーロか?」
探るようなエインの目に俺は彼が疑うのも無理はないと思った。
「エイン達が知る俺だと思うけど、あの俺そのままとはいえないね。なにしろ、俺は生まれ変わってる」
「前世の記憶があるのか?」
エインのその問いに俺は肩をすくめ言う。
「あるんだよね、これがまた」
「何か話してみろよ」
とつぜんの無茶振りに困るが信じてもらえそうな話を思い出す。
「ええ、何かって言われてもな……。あ、新米の頃、煙草をエインから貰って一緒に吸った」
これはぴったりな話だなと俺は思い、エインを見るとまた片手で顔を覆い、頷く。
「……本当にフィーロだわ」
「ちょっと待て、私はそんな話聞いたことがない」
「お前に言うはずないだろう、鬱陶しい。それに誰にも言ったことない話だ」
「はは、禁則事項だもんね」
そう、新米騎士の時、煙草は禁止だったが内緒でエインと二人で吸った。まあ、俺は巻き込まれたに近いが。
138
お気に入りに追加
298
あなたにおすすめの小説
生まれ変わりは嫌われ者
青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。
「ケイラ…っ!!」
王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。
「グレン……。愛してる。」
「あぁ。俺も愛してるケイラ。」
壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。
━━━━━━━━━━━━━━━
あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。
なのにー、
運命というのは時に残酷なものだ。
俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。
一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。
★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

なんで俺の周りはイケメン高身長が多いんだ!!!!
柑橘
BL
王道詰め合わせ。
ジャンルをお確かめの上お進み下さい。
7/7以降、サブストーリー(土谷虹の隣は決まってる!!!!)を公開しました!!読んでいただけると嬉しいです!
※目線が度々変わります。
※登場人物の紹介が途中から増えるかもです。
※火曜日20:00
金曜日19:00
日曜日17:00更新

【第2部開始】悪役令息ですが、家族のため精一杯生きているので邪魔しないでください~僕の執事は僕にだけイケすぎたオジイです~
ちくわぱん
BL
【第2部開始 更新は少々ゆっくりです】ハルトライアは前世を思い出した。自分が物語の当て馬兼悪役で、王子と婚約するがのちに魔王になって結局王子と物語の主役に殺される未来を。死にたくないから婚約を回避しようと王子から逃げようとするが、なぜか好かれてしまう。とにかく悪役にならぬように魔法も武術も頑張って、自分のそばにいてくれる執事とメイドを守るんだ!と奮闘する日々。そんな毎日の中、困難は色々振ってくる。やはり当て馬として死ぬしかないのかと苦しみながらも少しずつ味方を増やし成長していくハルトライア。そして執事のカシルもまた、ハルトライアを守ろうと陰ながら行動する。そんな二人の努力と愛の記録。両片思い。じれじれ展開ですが、ハピエン。

僕はただの妖精だから執着しないで
ふわりんしず。
BL
BLゲームの世界に迷い込んだ桜
役割は…ストーリーにもあまり出てこないただの妖精。主人公、攻略対象者の恋をこっそり応援するはずが…気付いたら皆に執着されてました。
お願いそっとしてて下さい。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
多分短編予定

なんでも諦めてきた俺だけどヤンデレな彼が貴族の男娼になるなんて黙っていられない
迷路を跳ぶ狐
BL
自己中な無表情と言われて、恋人と別れたクレッジは冒険者としてぼんやりした毎日を送っていた。
恋愛なんて辛いこと、もうしたくなかった。大体のことはなんでも諦めてのんびりした毎日を送っていたのに、また好きな人ができてしまう。
しかし、告白しようと思っていた大事な日に、知り合いの貴族から、その人が男娼になることを聞いたクレッジは、そんなの黙って見ていられないと止めに急ぐが、好きな人はなんだか様子がおかしくて……。

燃え尽きた貴族が10年後療養してたら元婚約者に娶られてしまいまして
おげんや豆腐
BL
月の獅子に愛されし国アスランにおいて、建国から仕える公爵家には必ず二人の男子が生まれた。
兄弟はそれぞれ違った成長をする。
兄には替えの効かない無二の力を、弟は治癒とそれに通ずる才覚に恵まれると伝えられている
そしてアスランにおいて王族が二度と癒えぬ病魔に侵された際には、公爵家の長男はその力を行使し必ず王族を護ることを、初代国王と契約を結んだ。
治療魔術の名門に生まれ、学園卒業間近の平凡な長男ニッキー
優秀な弟であるリアンからは来損ないと蔑まれて、時にぞんざいな扱いをされながらもそんな弟が可愛いなと思いながらのんびり過ごし、騎士になった逞しい婚約者とたまに会いながらマイペースに学園生活をおくっていたのだが、突如至急帰って来てほしいと父からの手紙が届いた事により緩やかな生活は終わりを迎える
終わりへと向かい、終わりからはじまる、主人公が幸せへとのんびりと一歩一歩進むお話
ハッピーエンドです

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(3/14)ストック更新終わりました!幕間を挟みます。また本筋練り終わりましたら再開します。待っててくださいね♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる