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思い出の地

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 つい懐かしく、ぐるりと街を周ってしまい三つ目の目的地へ着いた頃には夕焼けが美しい時間だった。ここは街が一望出来、かつあまり人の来ない静かで落ち着いた場所であり、俺と親友シアがよく来ていた思い出の地だ。
 この場所まで一緒には来ないがなぜかここでよくシアと会った。お互いにこの場所は教えていなかったのに初めて会った時は運命のようだと俺は驚いたがそれはシアの方も同じだった。しかし、今思い出してもあの時のシアの驚きようは笑えるものだ。
 それから俺達はよく会うことが分かるとシアが飲み物を買い持ってくるようになり、飲み物片手に他愛無い話をした。しかしよくシアが持ってくる飲み物はコーヒーが多く、俺がブラックを飲めないと知った彼は嫌がらせの如く俺にブラックを渡したのだ。きっとシアは面白がっていたと分かるが結局俺は全て飲めず、残りは彼が飲んでおり今思えば、彼だけが飲んでいるようなものだった。
 だが稀にカフェオレを買ってくるという気が利く時もあった。そう、今のように。

「気が利く日だね、ありがとう」
「ああ、俺も大人になったからな」

 俺は丸太の柵を机がわりにしてシアが置いたカフェオレを手に取るが彼の言葉に笑ってしまう。

「はは、子供のような言い方だ」
「なら、ブラックでよかったか?」

 シアはそう言ってコーヒーを飲みながら俺を見たがすぐに驚きその拍子に今飲んだコーヒーが気管に入ったのかむせた。彼は「ゴホッゴホッ」と苦しそうに咳き込み、俺は慌てて背中を摩ってあげようと手を伸ばした。

「大丈夫か、シア! えっ、シア? いっいつの間にいた?」

 当たり前に会話していたが俺はふと我にかえり今度は自分が驚いた。
 大きな二人が同時に慌てめちゃくちゃな再会だなと俺は思ったがとりあえず、コーヒーでむせるシアの背中を摩った。少しして静かになったシアに落ち着いたのかと思い、顔を覗けば泣いていた。彼は俺と目が合うと俺を抱きしめ、俺の肩に顔を埋める。

「フィー……本物なのか……?」

 シアの心細そうに訊く声に俺は罪悪感で心苦しくなった。俺はこの二週間で今のシアがあの頃の俺が知るシアとはかけ離れた人物像で語られ、その原因が自分だと知ったからだ。だからすぐにシアを俺も抱きしめ、彼に言った。

「うん、そうだよ。置いていってごめんね」

 俺の言葉にシアは何も言わなかったが抱きしめる力は強くなった。それに俺は困ったように笑うもだんだんと目の前が涙でぼやけた。泣くつもりはないのに涙は溢れ自分の頬を濡らす。そして無意識にシアの服をぎゅっと握り、俺は彼にもう一度謝った。
 やはりシアは何も言わないが泣く俺の背中を撫でてくれる。

 俺だって死ぬのは嫌だった、本気でシアを支える副団長になるつもりだった。でもあの時はあれが俺の最善でシアを守れたのは心の底から後悔はないが彼との別れは寂しく悲しかった。だからこそ、こうして再会出来た幸せに俺の涙はなかなかとまらなかった。
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