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きみを添えて2日目
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あの彼を探して早一時間が経った。僕はヘトヘトだった……心が。
「僕が悪いけどあの男に同調したわけじゃない。事故だ、彼だって分かってる。きっと」
僕は街の一角にあった積まれる木箱に腰掛けて汗で張り付く前髪をかきあげる。彼に謝罪をするためあの後、すぐに追いかけたが姿はどこにもなく、僕のこの罪悪感を拭うための謝罪の場はいっこうに用意されなかった。探す間、心だけが蝕まれて一時間、僕は謝罪同等の行いと罰を受けたと言ってもいい。
木箱から腰をあげ、僕は歩きだす。もう彼のことは次見かけた時でいいと気持ちの整理をつけた。非情か? そう思うなら石を投げるといい。僕は僕なりの誠意を見せた、これで思うところがあればそれはきみの考えで僕が従う義理もない。
「この考えを残したところが僕の先祖の唯一誇れるところさ、他は褒められたものじゃないけどね」
道の転がる小石を蹴って、僕は困ったように笑う。「はは、もう僕はただの平民リチャードだった。関係のない先祖がどうあろうとなんだっていい」と靴先に転がる小石をまた蹴りつけた。小石は溝に落ち、僕は本来ならずっと前に向かっていたはずの馬車乗り場に向かった。
僕の身なりは冒険者にしては身軽だ。強大な武器、嵩張る武器もなし、片手に荷物すらない。薄手の防具に紺の長いマントを羽織り、武器は細い剣のみの僕は冒険者ではなく荷物を忘れた旅人のようだと思う。だからなのか本当に冒険者か確認されることがばかり。
「ギルドカードの提示をお願いしたい」
毎度のことだから僕は用意周到に番人の前にギルドカードを出せば、じろじろとカードと顔を交互に見られた。僕は微笑んで待つ、品定めに似た視線は昔から慣れっこさ。
「この先に進むことを認めます」
番人はカードをこちらに返し、僕は「ありがとうございます」と言ってカードを手から消す。その様を番人は少し驚いた表情で見たがすぐに僕を先に通すため横に退いた。
「少し前に二名の冒険者が向かいました。生存確認お願いします」
軽く頭を下げて番人からよくある次の冒険者に戻らない冒険者の死体確認を任され「分かりました」と頷いた。僕は討伐対象ディアドナがいる森の奥に向かいながらついでに死体も探す。
「ディアドナは人も食べるから残っていないか?」
血痕や暴れ回った後はあるが人らしいものは見当たらない。僕はこれは食われたのだろうなと見切りをつけ、代わりに見つけたディアドナに向かって魔法を放つ。
「さあ、クソッタレな人生を楽しもうよ」
ディアドナの咆哮が轟音となる。僕は指を鳴らし、周りへ保護魔法を展開すると続けて魔力でつくられた剣をディアドナに追撃させた。小さな傷をディアドナが負ったことを確認して突進を僕は転移でかわす。
「グオオオッ!!」
ドラゴンに分類されるディアドナは馬鹿ではない。僕がふき飛ぶ感覚がないことに気付いたようで、くるりと木々を倒しながらこちらを向いた。
「環境破壊もほどほどにね」
聞いてるとは思っていないが僕は魔法によって自然が破壊されるのを防ぐために保護魔法を張っている。ディアドナも見習ってほしいものだが気にせず火のブレスを撃つらしい。口から火の粉が溢れ、パチパチと光っているのが見える。その刹那、僕の眼前に炎が迫り、辺りは火の海と化す。
僕はすぐにディアドナの背後に転移し、今いた場所に突進していくディアドナのお尻を見つめた。そして僕は詠唱を行う。
「汝、天に還るは神のみぞ知る」
詠唱と共に光り輝く細かな装飾が美しいナイフが目の前に浮かび、僕は片腕をナイフを投げるように振う。すると光り輝くナイフは先程ディアドナに負わせた傷に向けて飛び、突き刺さった。痛みからかディアドナが「グオオッ!!」と咆哮するがその瞬間、ナイフが刺さった場所から黒の文字列がディアドナの茶色い身体に浮かび蝕むように文字列が広がる。そのスピードは恐ろしいほど速く、黒の文字がディアドナをあっという間に覆い込み、未だに炎が揺らぐ焼け焦げた森の中に真っ黒のディアドナがいた。
「来世に期待するといい。僕もそうするつもりなんだ」
僕の声の終わりと共にディアドナの巨体が崩れ、地が揺れる。あのディアドナを蝕んだ文字列は薄くなり、最後には跡形もなく消えた。ディアドナの身体に残るのは刺し傷ひとつだけ。
「ふう、終わった終わった」
汗ひとつない額を大袈裟に拭い、僕は倒れたディアドナに向けて何度か魔法を撃ちつける。それから剣を抜き、掠った雰囲気をだす切り傷をディアドナにつけると最後の仕上げたというようにまた高火力の魔法をぶつけた。
そうして出来上がったのはボコボコにされて僕に討伐されたディアドナだった。
「死体蹴りとは言うまい。これは僕に必要な細工なんだ」
刺し傷ひとつだった身体が死後、ボロボロにされるのは可哀想とも思わなくはないが危険度の高いディアドナを綺麗な姿でギルドに報告すれば僕は怪しまれる。いったい何の力をもって倒したのかと。
「僕はね、これ以上傷つきたくないんだよ。クソッタレな人生でそれくらい望んでも罰は当たらないだろう?」
もう聞こえもしていないであろうディアドナを見つめるも僕は一度瞼を閉じてから視線を空に向ける。そして指を鳴らし保護魔法を解除すると辺りの火を消すために雨を降らす。
ずぶ濡れになりながらも僕は報告への仕上げに自身に傷を数個つくり、まるで死闘を繰り広げて討伐しました感をだした。その姿で門番の元へ僕は戻るのだった。
「僕が悪いけどあの男に同調したわけじゃない。事故だ、彼だって分かってる。きっと」
僕は街の一角にあった積まれる木箱に腰掛けて汗で張り付く前髪をかきあげる。彼に謝罪をするためあの後、すぐに追いかけたが姿はどこにもなく、僕のこの罪悪感を拭うための謝罪の場はいっこうに用意されなかった。探す間、心だけが蝕まれて一時間、僕は謝罪同等の行いと罰を受けたと言ってもいい。
木箱から腰をあげ、僕は歩きだす。もう彼のことは次見かけた時でいいと気持ちの整理をつけた。非情か? そう思うなら石を投げるといい。僕は僕なりの誠意を見せた、これで思うところがあればそれはきみの考えで僕が従う義理もない。
「この考えを残したところが僕の先祖の唯一誇れるところさ、他は褒められたものじゃないけどね」
道の転がる小石を蹴って、僕は困ったように笑う。「はは、もう僕はただの平民リチャードだった。関係のない先祖がどうあろうとなんだっていい」と靴先に転がる小石をまた蹴りつけた。小石は溝に落ち、僕は本来ならずっと前に向かっていたはずの馬車乗り場に向かった。
僕の身なりは冒険者にしては身軽だ。強大な武器、嵩張る武器もなし、片手に荷物すらない。薄手の防具に紺の長いマントを羽織り、武器は細い剣のみの僕は冒険者ではなく荷物を忘れた旅人のようだと思う。だからなのか本当に冒険者か確認されることがばかり。
「ギルドカードの提示をお願いしたい」
毎度のことだから僕は用意周到に番人の前にギルドカードを出せば、じろじろとカードと顔を交互に見られた。僕は微笑んで待つ、品定めに似た視線は昔から慣れっこさ。
「この先に進むことを認めます」
番人はカードをこちらに返し、僕は「ありがとうございます」と言ってカードを手から消す。その様を番人は少し驚いた表情で見たがすぐに僕を先に通すため横に退いた。
「少し前に二名の冒険者が向かいました。生存確認お願いします」
軽く頭を下げて番人からよくある次の冒険者に戻らない冒険者の死体確認を任され「分かりました」と頷いた。僕は討伐対象ディアドナがいる森の奥に向かいながらついでに死体も探す。
「ディアドナは人も食べるから残っていないか?」
血痕や暴れ回った後はあるが人らしいものは見当たらない。僕はこれは食われたのだろうなと見切りをつけ、代わりに見つけたディアドナに向かって魔法を放つ。
「さあ、クソッタレな人生を楽しもうよ」
ディアドナの咆哮が轟音となる。僕は指を鳴らし、周りへ保護魔法を展開すると続けて魔力でつくられた剣をディアドナに追撃させた。小さな傷をディアドナが負ったことを確認して突進を僕は転移でかわす。
「グオオオッ!!」
ドラゴンに分類されるディアドナは馬鹿ではない。僕がふき飛ぶ感覚がないことに気付いたようで、くるりと木々を倒しながらこちらを向いた。
「環境破壊もほどほどにね」
聞いてるとは思っていないが僕は魔法によって自然が破壊されるのを防ぐために保護魔法を張っている。ディアドナも見習ってほしいものだが気にせず火のブレスを撃つらしい。口から火の粉が溢れ、パチパチと光っているのが見える。その刹那、僕の眼前に炎が迫り、辺りは火の海と化す。
僕はすぐにディアドナの背後に転移し、今いた場所に突進していくディアドナのお尻を見つめた。そして僕は詠唱を行う。
「汝、天に還るは神のみぞ知る」
詠唱と共に光り輝く細かな装飾が美しいナイフが目の前に浮かび、僕は片腕をナイフを投げるように振う。すると光り輝くナイフは先程ディアドナに負わせた傷に向けて飛び、突き刺さった。痛みからかディアドナが「グオオッ!!」と咆哮するがその瞬間、ナイフが刺さった場所から黒の文字列がディアドナの茶色い身体に浮かび蝕むように文字列が広がる。そのスピードは恐ろしいほど速く、黒の文字がディアドナをあっという間に覆い込み、未だに炎が揺らぐ焼け焦げた森の中に真っ黒のディアドナがいた。
「来世に期待するといい。僕もそうするつもりなんだ」
僕の声の終わりと共にディアドナの巨体が崩れ、地が揺れる。あのディアドナを蝕んだ文字列は薄くなり、最後には跡形もなく消えた。ディアドナの身体に残るのは刺し傷ひとつだけ。
「ふう、終わった終わった」
汗ひとつない額を大袈裟に拭い、僕は倒れたディアドナに向けて何度か魔法を撃ちつける。それから剣を抜き、掠った雰囲気をだす切り傷をディアドナにつけると最後の仕上げたというようにまた高火力の魔法をぶつけた。
そうして出来上がったのはボコボコにされて僕に討伐されたディアドナだった。
「死体蹴りとは言うまい。これは僕に必要な細工なんだ」
刺し傷ひとつだった身体が死後、ボロボロにされるのは可哀想とも思わなくはないが危険度の高いディアドナを綺麗な姿でギルドに報告すれば僕は怪しまれる。いったい何の力をもって倒したのかと。
「僕はね、これ以上傷つきたくないんだよ。クソッタレな人生でそれくらい望んでも罰は当たらないだろう?」
もう聞こえもしていないであろうディアドナを見つめるも僕は一度瞼を閉じてから視線を空に向ける。そして指を鳴らし保護魔法を解除すると辺りの火を消すために雨を降らす。
ずぶ濡れになりながらも僕は報告への仕上げに自身に傷を数個つくり、まるで死闘を繰り広げて討伐しました感をだした。その姿で門番の元へ僕は戻るのだった。
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