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閑古鳥が七羽
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総本家のギルドマスター改め、ティガと名乗る、このギルドの救世主によって業務が滞りなく進んだクランだったが、現在新たな問題を抱えていた。
「いったいリドは何処に行ったんだ……」
書類が山積みになる机は放置して、部屋の中を落ち着きなく歩き回るクランは唸りながら思考を回していた。
リドに酷いことをしてしまった日から三日経ったのだが、未だにギルド兼家であるここにリドは戻らない。
こんなことは起きたことがない為に心配になるがそろそろ戻って来てくれないと各ギルドのノルマであるクエスト消化が完了出来なくなってしまう問題もあった。
「このギルドには必要不可欠なんだ、帰ってきてよ」
何とも情け無い話だが、これが潰れる手前のギルドのリアルである。
ギルドマスターの仕事は信じていない神に祈ること、以上。
「書類は減らないし、他の業務は迫る……そして呼び鈴に呼ばれる」
今行きますよ、と零し、項垂れたままクランを呼びつけるギルドのカウンターへ行けば、そこには軽く装備を身につけたティガがいた。
「ティガさん、どうしたんですか」
「マスター、おはようございます。今日はクエストを受けに来ました」
見る限り束になったクエスト用紙の数々を手に持つティガは微笑浮かべて、カウンターへ置くがクランは色々と突っ込みたくなる。
「あの……まさかクエストまでやって頂けるんですか? しかもその数を?」
昨日、クエストの見回りを畏れ多くもグラベリスタのギルドマスターにやらせてしまったがクエストの消化までやってくれると言うのだろうか。
「はい。ギルドへの貢献は所属する者として当然のことですからね」
相変わらず微笑のティガだが、クランはなんと慈悲深いギルドマスター様なんだと目の前のティガを拝んだ。
「ありがとうございます! リドっ──いや、ここの主戦力が今いなくてクエスト消化が滞っていたところなので助かりました」
もとはリドに任せるつもりだったクエストたちにクランは受理の印を押していく。そんな中、ティガが思い出したかのように「リド……ああ、あの大型犬ですか」と言った。
「お、大型犬?」
クランはティガの発言に思わず手を止めて、そう言った目の前の男を見た。
「はい。忠犬さながらマスターに近づく私を警戒してましたよ。利口なことで感心しました」
腕を組むティガは瞳を伏せるもその時を振り返ったのか珍しく優美に笑った。そして、氷のような目を開けるとその瞳でクランを見る。
「でも、現実はグランデの花のように生優しくないと思いませんか? あの大型犬も忠犬だから頼もしいですが、根は野犬ですから」
最後にそっと目を細めて告げたティガにクランはどういう意味だと咄嗟に聞き返そうとしたがその時、集会所へ数少ない冒険者がやって来た。
やって来た冒険者もクエストをすぐに受けるようでティガに話を聞き返せる状況でもなくなり、その後はもやもやとした疑問を抱いたままティガと冒険者をクエストへ送り出すことになった。
「いったいリドは何処に行ったんだ……」
書類が山積みになる机は放置して、部屋の中を落ち着きなく歩き回るクランは唸りながら思考を回していた。
リドに酷いことをしてしまった日から三日経ったのだが、未だにギルド兼家であるここにリドは戻らない。
こんなことは起きたことがない為に心配になるがそろそろ戻って来てくれないと各ギルドのノルマであるクエスト消化が完了出来なくなってしまう問題もあった。
「このギルドには必要不可欠なんだ、帰ってきてよ」
何とも情け無い話だが、これが潰れる手前のギルドのリアルである。
ギルドマスターの仕事は信じていない神に祈ること、以上。
「書類は減らないし、他の業務は迫る……そして呼び鈴に呼ばれる」
今行きますよ、と零し、項垂れたままクランを呼びつけるギルドのカウンターへ行けば、そこには軽く装備を身につけたティガがいた。
「ティガさん、どうしたんですか」
「マスター、おはようございます。今日はクエストを受けに来ました」
見る限り束になったクエスト用紙の数々を手に持つティガは微笑浮かべて、カウンターへ置くがクランは色々と突っ込みたくなる。
「あの……まさかクエストまでやって頂けるんですか? しかもその数を?」
昨日、クエストの見回りを畏れ多くもグラベリスタのギルドマスターにやらせてしまったがクエストの消化までやってくれると言うのだろうか。
「はい。ギルドへの貢献は所属する者として当然のことですからね」
相変わらず微笑のティガだが、クランはなんと慈悲深いギルドマスター様なんだと目の前のティガを拝んだ。
「ありがとうございます! リドっ──いや、ここの主戦力が今いなくてクエスト消化が滞っていたところなので助かりました」
もとはリドに任せるつもりだったクエストたちにクランは受理の印を押していく。そんな中、ティガが思い出したかのように「リド……ああ、あの大型犬ですか」と言った。
「お、大型犬?」
クランはティガの発言に思わず手を止めて、そう言った目の前の男を見た。
「はい。忠犬さながらマスターに近づく私を警戒してましたよ。利口なことで感心しました」
腕を組むティガは瞳を伏せるもその時を振り返ったのか珍しく優美に笑った。そして、氷のような目を開けるとその瞳でクランを見る。
「でも、現実はグランデの花のように生優しくないと思いませんか? あの大型犬も忠犬だから頼もしいですが、根は野犬ですから」
最後にそっと目を細めて告げたティガにクランはどういう意味だと咄嗟に聞き返そうとしたがその時、集会所へ数少ない冒険者がやって来た。
やって来た冒険者もクエストをすぐに受けるようでティガに話を聞き返せる状況でもなくなり、その後はもやもやとした疑問を抱いたままティガと冒険者をクエストへ送り出すことになった。
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