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閑古鳥が二羽
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ぶちぶちと草を抜きながらもどこか心あらずなのはクランの隣でぶつくさ文句を垂れる人物、リンカが居ることからだ。
「もう! 何でへっぽこ野郎が出てくるのよ!」
リドさん呼んできなさいよ、とちぎった草を投げてくるリンカに苦笑の相槌を打つくらいしか出来ないクランは内心、震えて泣いていた。
早くこの場から逃げたくとも暑い日差しを受けて強靭に育った草はいっこうに減りそうにない。
魔法を使って一掃出来ればという考えが浮かぶもこのギルドの親切心が完全に仇となっており、魔力行使不可の結界がギルドの敷地内には張られ、地道な除草が必要だった。
「僕の先祖は余計なことをしてくれるよ……」
ぽつりと小声で愚痴を零すが、リンカから投げられた草が頰に当たる。
「ちょっと何か言った? 喋ってないで早く終わらせなさいよ、リドさんに私が褒められないでしょ」
花壇のレンガ端に腕と脚を組んで座るリンカは口を尖らせて、クランを見下ろす。
本当にもともとは草むしりを手伝う気だったのが窺える服装にいつもの豪奢な格好をするリンカを知るクランは若干の違和感を覚え、じっと見てしまう。
しかし、「何?」と鋭く睨まれ、蛇に睨まれた蛙のように身を縮ませた。
「い、いえ! リンカさんが全部やったとリドには言っておきますからお帰り頂いても……その、大丈夫ですけど」
クランからすれば精一杯の気遣いで飛び出た言葉だったが、氷点下のような「何よそれ!」と憤怒した声が返ってきた。
ヒイィッ、と小さな悲鳴が飛び出るクランはリンカの取り扱い及び女の子の扱いが魔力操作並みに苦手だと再確認してしまう中、立ち上がったリンカの影がクランを覆う。
「どうせ、貴方がやったことにするんでしょ!」
「しっしませんよ」
鬼の形相で見下ろすリンカへクランは涙目になりながらも首を横に振る。けれども怒りが鎮火しない様子のリンカは軽蔑の目を向け、続けた。
「貴方は卑しいわ、自分の利益の為にリドさんの可能性を潰しているんですもの。リドさんはこんなギルドに相応しくないのに縛り付けているのだから」
まるでリドの未来を慮るリンカの言葉がクランにはやけにしっかりと耳に届いた。それはクラン自身が気にしていた事でもあった所為もあるが動揺から無意識に俯く。
「こんなギルド、あってもなくても同じでしょう? 貴方のご先祖様が残した名誉に縋り付くしかないなんて惨めね……」
表情は見えずとも嘲りが感じ取れる声でリンカは話し、クランをじっと見下ろすも俯いたまま無言の様子に横を通り過ぎていく。
全くもって時間の無駄だったわね、と零し、乗ってきたであろう豪華な馬車で去っていくリンカへ何ひとつ返せずに俯くことしか出来なかったクランは馬車の音がとうに聞こえなくなった頃、息を吐き、顔を上げた。
「惨めなことくらい知ってるよ……嫌なくらい」
真っ青な空とは似つかない自分の沈んだ心を誤魔化すように一度だけ頭を振ると、未だ片付かない草むしりへ無理やり意識を移した。
それが心の安寧を保つ最善策だった。
「もう! 何でへっぽこ野郎が出てくるのよ!」
リドさん呼んできなさいよ、とちぎった草を投げてくるリンカに苦笑の相槌を打つくらいしか出来ないクランは内心、震えて泣いていた。
早くこの場から逃げたくとも暑い日差しを受けて強靭に育った草はいっこうに減りそうにない。
魔法を使って一掃出来ればという考えが浮かぶもこのギルドの親切心が完全に仇となっており、魔力行使不可の結界がギルドの敷地内には張られ、地道な除草が必要だった。
「僕の先祖は余計なことをしてくれるよ……」
ぽつりと小声で愚痴を零すが、リンカから投げられた草が頰に当たる。
「ちょっと何か言った? 喋ってないで早く終わらせなさいよ、リドさんに私が褒められないでしょ」
花壇のレンガ端に腕と脚を組んで座るリンカは口を尖らせて、クランを見下ろす。
本当にもともとは草むしりを手伝う気だったのが窺える服装にいつもの豪奢な格好をするリンカを知るクランは若干の違和感を覚え、じっと見てしまう。
しかし、「何?」と鋭く睨まれ、蛇に睨まれた蛙のように身を縮ませた。
「い、いえ! リンカさんが全部やったとリドには言っておきますからお帰り頂いても……その、大丈夫ですけど」
クランからすれば精一杯の気遣いで飛び出た言葉だったが、氷点下のような「何よそれ!」と憤怒した声が返ってきた。
ヒイィッ、と小さな悲鳴が飛び出るクランはリンカの取り扱い及び女の子の扱いが魔力操作並みに苦手だと再確認してしまう中、立ち上がったリンカの影がクランを覆う。
「どうせ、貴方がやったことにするんでしょ!」
「しっしませんよ」
鬼の形相で見下ろすリンカへクランは涙目になりながらも首を横に振る。けれども怒りが鎮火しない様子のリンカは軽蔑の目を向け、続けた。
「貴方は卑しいわ、自分の利益の為にリドさんの可能性を潰しているんですもの。リドさんはこんなギルドに相応しくないのに縛り付けているのだから」
まるでリドの未来を慮るリンカの言葉がクランにはやけにしっかりと耳に届いた。それはクラン自身が気にしていた事でもあった所為もあるが動揺から無意識に俯く。
「こんなギルド、あってもなくても同じでしょう? 貴方のご先祖様が残した名誉に縋り付くしかないなんて惨めね……」
表情は見えずとも嘲りが感じ取れる声でリンカは話し、クランをじっと見下ろすも俯いたまま無言の様子に横を通り過ぎていく。
全くもって時間の無駄だったわね、と零し、乗ってきたであろう豪華な馬車で去っていくリンカへ何ひとつ返せずに俯くことしか出来なかったクランは馬車の音がとうに聞こえなくなった頃、息を吐き、顔を上げた。
「惨めなことくらい知ってるよ……嫌なくらい」
真っ青な空とは似つかない自分の沈んだ心を誤魔化すように一度だけ頭を振ると、未だ片付かない草むしりへ無理やり意識を移した。
それが心の安寧を保つ最善策だった。
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