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最終話

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「遠藤が帰るとこ、見てみたかったな~。」

 二人掛けのソファーで、足をバタバタさせているのは、修道女の格好をしたリズだ。


 あの後、城に戻ったレティとアルベルトは、礼拝堂でリリアを見送った。涙が止まらないリリアを抱き締めて、「リズによろしくね。」と言って別れたのはまだ昨日のことだ。

「ねえ、エンディングを迎えたんじゃないの?」とレティが呆れたように言う。

「あれよ、クリア後のやりこみ要素的な?」
「ああ、戻って来れるやつ?」
「せっかくだから、報告したいじゃない?」

 ヤイヤイと相変わらず賑やかな二人を横目に、ウィルフレッドは笑っていた。


 ウィルフレッドとエドワードは、昨晩ゆっくりと話すことができたようだった。彼が元々ウィルフレッドに対して燻らせていた気持ち、イザベラへの思い。皇太子としての覚悟。
 ウィルフレッドはそれを、優しい兄の目でアルベルトに話してくれた。「何かあれば、支えるから。」と、その背中を押したことも。

 そして、雪のちらつく朝早く、御一行はギュッターベルグを後にした。


「リリアちゃんがセーブして帰って来てすぐよ、すぐ!遠藤嫁から目が覚めたって連絡が来てね。リリアちゃん、泣いちゃって。」
「遠藤はやっぱり馬鹿だったね。」
「遠藤だからね。」

 二人が楽しそうに笑っている。

「今後のことは大丈夫なんでしょうね?」
「大丈夫、大丈夫。落ちる場面は日にちと時間まで結構細かく描写されてるから、あんなシナリオはすぐにでもブッチよ。」

 リズの男らしい台詞に、アルベルトとウィルフレッドは目が合い、笑う。

「しかし、リズがこっちにまた来るようになってから、まさかまだ一週間ちょっとしか経ってないなんてね。こっちはもう一ヶ月は経つって言うのに。」
「前世の時間経過、半端無いわね。」
「毎日のようにログインしてんじゃ無いわよ。」
「良いじゃん、息抜きよ。息抜き。」

 初雪の時に突如として現れたリズ。こちらは気が付けばそれに振り回されるように、転移魔法陣を作らされたり、あっち行ったりこっち行ったりとさせられていたわけだが、リズが来た回数だけを考えれば、なんともはやである。

「それよりさ、あんた達の結婚式まだなんでしょう?」と、リズが前のめりで聞いてくる。

「王都に帰ったときにとは思っているんだけど、なかなかね。」
「転移魔法で家族呼んじゃって、こっちでやれば良いじゃん。そしたらウィルだって参列できるし。」
「お前、ほんとに自由だな。」

 アルベルトが困ったように突っ込むと、「確かに、俺も参列したいな。」とウィルフレッドが話に乗っかってきた。

「次、私が来るときは二人の結婚式だな。」

「まだこっちに来る気なの?」と呆れたようにレティが言うと、「良いじゃん。大事な友とはこまめに繋がっていたいタイプなのよ、私は。」とリズがニヤリと笑った。

「あんたに、幸せにしてもらったからね。今度はレティの幸せを見届けたい!」

 リズは、何故か妙に得意気にそう言った。

「私は…」

 レティがアルベルトを見る。

「幸せよ。」そう言って笑った顔が可愛すぎて、アルベルトは横に座っていたレティを徐にギューッと抱き締めた。

「ちょっ、アルベルト!どうしたの!」

「アルベルトは昔っからそんな感じよ。」とリズが呆れたように言う。
「嫁のことになると、妙に饒舌なんだよな。」とウィルフレッドが笑う。

「え?え?」とレティが慌てているのが可愛くて、「結婚式、早くしたい。」と呟いた。

「我が国の英雄様の結婚式だからな、転移魔法陣の使用許可は当然だが、国を挙げての祝いにしなければならん。」とウィルフレッドが楽しそうに言う。

「ええっ??」とレティは相変わらず慌てたままだ。

「新婚旅行も早く行きたい。」
「王族の別荘を使えるように手配しよう。」
「あら、ウィル、気が利くじゃない!じゃあ、私も行きたい!」

 勝手に盛り上がる三人に、レティがふっと困ったような、呆れたような、そんな顔で笑った。

 外ではこれまでとは違う粒の大きな雪が、フワフワと降りてくる。ギュッターベルグは、これから暫く雪に包まれたままになるだろう。

「またね。」と言って、リズが帰って行く。
「またね。」と言って、レティが笑う。

 光の粒が、瞬く。

 そして、

 キラキラと光って、消えた。





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